ハイスクールD×D 黄金騎士を受け継ぐもの   作:相感

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おかしいな? 使い魔を探す話だったのになんか偉いことになった。


番外編 使い魔探しと黒い猫

「痛ひ……」

「小猫がぶん殴ってなかったら俺がやったぞ、ほら湿布」

 

 ライザーとの激闘が終わり、俺の体調が完全に回復してはや三週間。

 あの時のかっこよさはどこにいったのか、イチ兄はボコボコにされた顔で正座していた。

 なんでかって? 女子の着替えを覗いたからだよ。

 最近やらないから油断してたが性欲魔神であるイチ兄は覗きなんてしょっちゅうやる。

 普段は俺が止めるのだが、あいにく最近は早朝練習やアーシアなどの付き合いで少し監視が緩んでいた。

 全く、リアス先輩がいるってのに。

 そうしてイチ兄を治療しているとリアス先輩が手をうち、俺たちに話しかける。

 

「そうだわ、あなた達もそろそろ使い魔を使役しましょうか」

「使い魔?」

 

 確か悪魔の手足になって働く存在だっけ? 悪魔の仕事には基本的にノータッチなもんでよくわからん。

 てか、ザルバが俺の使い魔みたいなもんじゃ?

 

『バカを言うな。俺とお前は相棒みたいなもんだ』

「悪かったって、で突然どうしたんですか?」

「ライザーとの戦いにも勝って、イッセーもアーシアもそろそろ悪魔として次の段階に行かせようと思ってね」

 

 ふーん、と思っているとリアス先輩の手元に赤いコウモリが現れた。

 朱乃先輩たちも続々と使い魔を呼び出す。

 

「私はこの子です、可愛いでしょ?」

「て、手乗り鬼?」

 

 手乗りサイズの鬼をニコニコしながら見せてくるが……なーんかイメージと違うな。

 朱乃先輩だったらもうちょい凄そうな奴使役してそうだけど。

 

「僕はこの子だよ」

「うわー、鳥さんです!」

 

 アーシアが歓声をあげる。師匠は小鳥を使役してるが……こいつちっこいから動体視力鍛えるよーとかいって師匠の命令で猛スピードで俺に突っ込んでくるんだよな。

 アーシアが撫でると気持ちよさそうしてるの見ると普通の小鳥なんだがなぁ。

 

「シロです」

「……ん?」

 

 小猫がおずおずと白猫を俺に手渡してきた。

 おー、懐かしいなぁ、あの時の白猫を思い出すわ。

 

「そういえば昔、猫拾ってきたよなぁ双葉って」

「そうそう、一応クロはたまーに会うぞ?」

「ッ!? 本当ですか!?」

 

 うぉっ!? なんか小猫が俺に詰め寄ってきた!?

 えっ、何!? なんなの!?

 

「黒い猫を見たんですか!?」

「時々会うんだよ、なんだ? 小猫の猫だったのか?」

「いえ、その……そうじゃなくて……」

 

 小猫は落ち着いたのか、俺から離れて俯いてしまう。

 なんか、クロと並々ならぬ因縁があるみたいだな。なんか凄い落ち込んでるなぁ。

 ため息をついて、小猫の頭に手を置いて、ゆっくりと撫でる。

 

「あ、あの……?」

「何があったか知らないけど話しとけよ? 出来る限り力になるからな」

 

 

 

****

 

 

 

 転移した場所は薄暗い森の中だった。

 危ないので視力を魔力で強化しておく、便利だわ魔力って。

 

「ここは使い魔の森。今日はここでイッセーとアーシアの使い魔を手に入れてもらうわ。双葉もやってみる?」

「見学してますよ」

 

 リアス先輩がそういうが、ここは悪魔の使い魔を探す場所なんだろ?

 というか人間の俺がここに入るのって結構危ないんじゃ……。

 

「ゲットだぜぃ!」

「なっ!」

「ファッ!?」

 

 なんか帽子を深く被ったオッサンがそこにいた。

 いや、ゲットだぜぃとか……よくよく見ると某ゲームが原作のアニメの主人公っぽい恰好してるな、このオッサン。

 

「俺の名前はマダラタウンのザトゥージ!」

「……イチ兄、これ訴えられないかな」

「大丈夫だろ、他人の空似だ」

 

 だよな、と頷き合う。

 さすがに黄金騎士と赤龍帝でも勝てない敵はいる。

 

「イッセー、アーシア、この人は使い魔のプロフェッショナルよ。今日は彼のアドバイスを参考にして、使い魔を手に入れなさい」

「お安いご用だぜ! 何がいい? 強いのか? 早いのか? 毒殺とかどうだ?」

「いきなりエグいところ行くなぁオイ」

 

 そんな俺のつぶやきを無視してザトゥージさんはカタログらしきものを出し、イチ兄とアーシアに見せる。

 さて、俺は散歩でもするかね。

 リアス先輩たちに一言言って、俺は散歩に向かう。まぁ、奥地に入らなければ大丈夫だと言ってたし、ここの使い魔たちを見るのもいいな。

 

 

 

*****

 

 

 

『小僧、一つ聞きたい』

「なんだ?」

『奥地には行くなと言われたよな?』

「あぁ、そうだ」

『ここは?』

 

 奥地です(小声)という暇もなく、襲いかかってきた巨大な猫を蹴り飛ばす。

 散歩のつもりだったはずだったが、フラフラと歩いていたら一層薄暗い森の中にいて、突然襲われたんだ。

 そして戦っている内にさらに奥地へ行くという悪循環。

 戦闘音が響くからリアス先輩たちも気づいてくれてると思うが……うーん、ここどこだ。

 

『お前さん、もしかして方向音痴か?』

「言うなよ、よっと」

 

 犬の攻撃を受け流し、鼻に一撃加える。

 あー、師匠との訓練してなかったら俺ここで死んでたわ、間違いない。

 おっと、余裕かましてる暇ねえや。次か次へと猫と犬がわんこそば状態、あとなんかドラゴン……ドラゴンンンンンンンンン!?

 

「アカン、アカンって!?」

『修行の一環だと思えばいい。いざとなれば牙狼で離脱だ』

 

 お前分かってんのか!? ドラゴンっぽいやつが火吹きながらどっすんどっすん音を立てながらこっちにむかってきてるんですけど!?

 死ぬ! あんなのと戦ったら俺死んじゃう!! さすがにライザーより強いってことはないだろけど、それでもドラゴンは強者だろ!?

 

『ありゃワイバーンだ。ドラゴンじゃない、黄金騎士ならあのくらい倒してみせろ』

「くそったれがああああああああああああ!!」

 

 泣きながら牙狼剣を取り出してワイバーンの頭に振りかぶるが……硬っ!?

 鋼じゃねえのと思うくらいに硬い。

 刃が弾かれて火花も出ている。

 

『未熟だな。熟練の魔戒騎士なら切り裂いてるぞ』

「熟練もくそも……あっぶなっ!」

 

 ワイバーンの口が大きく開いたのを見るや、俺は障壁を展開する。

するとワイバーンは口から炎を吐き出しきた。

 覚えといてよかったぁ、防御魔法。障壁で炎を受け止めながら冷や汗を垂らす。

ただし攻撃魔法が全く覚えられないんだよなぁ、俺。

 教えてくれる朱乃先輩が頭ひねるくらいに、強化と防御しか覚えられない。

 アーシアすら攻撃系覚えてるのな! 出来るの魔力弾くらいなもんだ! こればっかは才能らしいが、俺もカッコよく魔力を出したいぜ。

 

『よく頑張ってるじゃないか、修行の成果か?』

「必死なんだよこんちくしょう!!!!」

 

 炎が効かないと分かったのか、ワイバーンは口から炎を出すのを止め、前足で俺を押しつぶそうとしてきた。

 

「ふっ!!」

 

 牙狼剣に魔力をためてつつ、相手の攻撃を受け流す。

 ライザーとの戦闘のおかげで力技でねじ伏せられる経験したからな。徹底的にイチ兄と戦って、俺より圧倒的な力に慣れた。

 師匠も力というよりも技、速さで翻弄するタイプだったからアドバイスとか聞けたしな。

 それにあまり知性がないやつだった助かったし、犬と猫たちもワイバーンに恐れをなして逃げてくれたのもでかい。

 さすがにワンニャンたちの相手しながらこいつの相手は無理。

 何度かワイバーンの攻撃を受け流し、足に魔力をため一気に距離を離す。

 受け流してるとはいえ、こいつの攻撃を何度も受けるのはキツイ。持ってる腕がじんじんしてきた。

 

「図体がデカイだけだな」

『まぁ、余裕を出すなよ? お前さんは人間だからな、一撃でも喰らえば終わる』

 

 そりゃそうだ、この前のライザー戦で文字通り痛いほど痛感したし、リアス先輩に頼んであの時の戦いの映像を見せてもらったが、イチ兄の馬鹿げた耐久度には笑うしか無かった。

 もっと体鍛えないとなぁ。

 

「ッ!? 空に!」

『どうする、一方的に殴られるぞ』

 

 羽を広げて飛び立とうとするワイバーン。

 くそっ、飛ばれたらさすがに打つ手がない!! しかたねえな、もう!!

 手首にスナップをかけて、牙狼剣をワイバーンの翼めがけて投げる。

 クルクルと剣先が回転しながら飛んで行き、円を描きながら翼に突き刺さる。

最近コツがわかってきて、魔戒剣を手から離れてもある程度はコントロールすることが出来るようになった。

 

「おおおおおおっ!!」

 

 絶叫して落ちてくるワイバーンめがけて、俺は跳躍する。

 すると描いていた円が砕け、牙狼の鎧がワイバーンの体を焼きながらこっちへ飛んでくる。

 瞬きする間に装着された牙狼の鎧は以前より黄金が増えていた。まぁ、増えてるつっても足先とか手とかの部分なんだがザルバにとっちゃ凄いことだったらしい。

 

「ッ!!」

「GYAAAAAAAAAAA!?」

 

 そんなことを考えながら背中に着地し、翼に突き刺さった牙狼剣を引き抜く。

 相当痛かったのか、背中を大きく仰け反らせた。背中から落ちそうになる俺は、牙狼剣を逆手に持ち思い切りワイバーンの背中に突き刺した。

 

「こんのぉおおおおおおおっ!!」

 

 突き刺し、そのまま走る。

 牙狼剣の切れ味は絶好調なようで、さっきまで鋼みたいに硬かったワイバーンの体がチーズのように容易く切れる。

 そして尻尾まで切り裂いた俺は、一度牙狼剣を引き抜き刀身に魔力を溜める。

 金色の魔力が剣に溜まったのを確認すると勢い良く開放する。

 おおよそ二十メートルほどの魔力の刀身が牙狼剣を覆う。

 

「お前に恨みはないが、ちょっと実験台になってもらうぞ」

 

 にやりと鎧の下で笑うとまるでやめろと叫ぶようにワイバーンの弱々しい悲鳴が聞こえる。

 悪いが辞めたら食われるのは俺でな!! 恨むなよ!!

 巨大な大剣と化した牙狼剣を両腕で力いっぱい振る!

 事前に切り裂いていた部分に直撃し、じゅうううううううっ!! という肉の焼ける音を立てながらワイバーンの体を一刀両断した。

 悲鳴を上げるまもなく両断されたワイバーンの死体とともに自由落下し、俺は着地と同時に鎧を外す。

 

「……ふぃー」

『ほう、やるじゃないか。結局のところ、倒したな』

 

 牙狼剣を鞘に収め、栞に投げ込む。

 キツかった……というか通常状態の牙狼剣の切れ味がイマイチなんだよなぁ。魔戒剣は使用者の精神によって切れ味と重さが自由に変えられるらしいが、牙狼を纏わないと切れないっていうある種の自己暗示みたいなのがあんのかもなぁ。

 実際、牙狼を装着すると切れ味が馬鹿みたいに上がるんだよなぁ、俺。

 そこら辺の課題は置いとくとして。

 

「これだけ騒げばリアス先輩たちも来るだろ」

『多分な』

 

 ワイバーンの死体から少し離れた樹の根元に腰掛ける。

 はぁ、なんか俺って知らない場所歩くととんでもないトラブルに巻き込まれるジンクスでも持ってんのかな。

 ……ん?

 

「誰だ?」

 

 拳を構えながら周囲を警戒する。

 一瞬だけだが、誰かが居たような感触がしたからだ。

 

「……ちょっと油断したにゃー、素人だと思ってると痛い目見るのはこっちね」

 

 音も立てず俺の前に現れたのは、黒い和服を着たネコミミの女性だった。

 ……うん、シリアス返して? 場違いなコスプレ痴女は呼んでないんだわ。

 和服といってもかなり着崩していて、肩と微妙に豊満な北半球が見えているしな。どこぞの水商売のお姉さんと言ったほうがしっくりと来る。

 

『油断するなよ、小僧』

「わかってるよ」

 

 隙が全く無い。

 余裕そうにこっちを見つめているが、むやみに切りかかればやれるのはこっちだってのはわかる。

 間合いを図りながら、離れようとするとネコミミが目を細める。

 

「酷い、いつもみたいに抱きかかえてくれたっていいのに」

「は?」

 

 抱きかかえる? 誰をだ、誰を。

 

「いつもは全身を撫で回して、私の首筋をツゥーってやってくれるのに、イケず」

「待て待て待て!? 俺はあんたと会ったこともないし、そんな美味しい思いをしたことはねえぞ!?」

 

 さすがにそんなイチ兄が血涙流すようなことしてたらさすがの俺も覚えてる!! けど本当に記憶が無い!! アレか! 夢遊病みたいな感じでフラフラと夜中で歩いてそんな美味しい思いを!?

 頭を抱える俺がおかしかったのか、ネコミミは口元に手を当てながら妖艶に笑う。

 

「いつもいつも、こう言ってくれるにゃ……クロって」

「……えっ?」

「信じられないなら証拠を見せてあげる」

 

 驚く俺に見せつけるように、ミコミミは小さく何かをつぶやくと煙を立てて『クロ』になった。

 

「にゃあお」

「…………」

「反応してくれなきゃ困るにゃ」

 

 ついでに喋った……あの、頭がついていけない。

 どういうことなんだよ!?

 

『妖怪の一種だ。この間魔戒剣を振りすぎて倒れた時があっただろ? その時、この猫がお前さんのことを介抱してたんだよ、危険性は無いと思ってたがまさか猫又とはな』

「ご明察、さすが魔戒騎士のパートナーでもある魔導輪ってところかしら」

 

 ポンと再び煙を立てて、和服姿に戻るクロ。

 えっ? じゃあ何? 俺妖怪を保護してたの? 

 ぽかーんと口をあけている俺に、クロは笑いながら話しかける。

 

「あの時は助かったわ。妹と一緒に死ぬところだったから」

「妹って……あの白猫のことか」

「そう、あと私は転生悪魔にしてはぐれ悪魔の黒歌、よろしくにゃ、双葉」

 

 はぐれ悪魔、確か以前リアス先輩たちが言ってたな。

 なんらかの理由で主から離れた、もしくは殺害したためにお尋ね者になった悪魔。

 契約をすることなく、時には人間も襲いかねない危険な存在。

 そんな危ない奴と戦ってたのか、俺は!

 

「そう警戒しないで……殺す気ならとっくの昔に殺してるわ」

「そいつはどーも」

 

 余裕そうにいう黒歌の体から黒いオーラのようなものが黒歌……言いずらい! クロでいいや。クロの体を覆うように黒いオーラがあふれる。

 見るからにヤバイもんだとわかるし、魔力とは違うみたいだな。力を感じるが魔力の波みたいなものが感じられない。

 

「今日はそう、挨拶しに来たの。双葉がこちら側に来てそれなりに名前が通るようになったから。フェニックスを倒した人間の黄金騎士ってね」

「ありがたいね、全く」

 

 ありがたくないです、はい。やっぱ黄金騎士って名前は厄介事しか持ちこないらしい。

 おかしいな、リアス先輩の話だと早々大きな戦いは起きないとか言ってるのに続々と厄介事が向こうからこんにちはしてきやがる。

 ヤバイな、牙狼なんて使わずに普通に逃げればよかった。いや、逃げたら逃げたでこいつに横槍を入れられたら死ねる。

 

「伝説の鎧を纏った人間程度、っていうのがフェニックス戦までの双葉の評価で。今では将来有望な魔戒騎士の卵。色々な組織が双葉をねらってるにゃ……もちろん私も」

 

 もうやだああああああああ!! と叫び出したい、そして引きこもりたい。

 なんでや!! ただ火の粉(物理)を払っただけなのにどうしてこうなるんだよ。

 

『モテるな、双葉』

「ふざけんな、ザルバ。出来ることなら普通の女の子がいいよ」

 

 うん、付き合うなら悪魔とか関係ない人間の女の子が一番。

 そう言うとクロの体から殺気が溢れだす。

 

「ッ!?」

「なんで? いつも双葉は私を撫でてくれた、愛してくれた。ずっとずっと妹と孤独に暮らしてきた私に暖かさを教えてくれたのにどうして他の女のことを? ふざけるなっ!!」

 

 一瞬で距離を詰められ、首を絞められる。

 

「グッ!?」

「挨拶だけのつもりだったのに、傷つけないつもりだったのに……もういいや。我慢する必要なんて無い、だって私は悪い悪魔、それにあいつらだって双葉の力を欲しがっている。でも魔戒剣を献上すれば双葉ずっと、ずぅうううううっと私のもの」

 

 狂ったように目から光を消したクロはゆっくりと俺の口を自分の口に近づけ、そのままキスをした。

 いや、キスというよりも蹂躙といったほうがいいだろう。親の口から食べ物を食べる雛のように、俺の口の中に舌を入れ強引に絡ませてくる。

 あぁ、ディープキスってこういう感じなのな、苦しくて辛くて死にそうだよ。

 なんとか口を離そうとするが、首を締めていた手を離して頭を掴んでくる。

 ……アカン、俺死んだかもしれん、キスされて死ぬ黄金騎士とか末代まで恥だろ。いや童貞だし、継ぐものも何もないか……。

 

「んっ、柔らかい、美味しい……ずっと、ずっとこうしたかった!」

「……ごほっ、ごほっ」

 

 やっと離れてくれたから、咳をしながら陸に打ち上げられた魚のように口を開けて息をする。

 まともなファーストキスがこれとか泣きそう。てか泣いていいですかね。

 

『小僧、魔力を――――』

「邪魔はさせない」

 

 クロがザルバを掴むと、糸のような物でザルバを縛り上げる。

 開放されそうだった魔力がフット消えるのを感じた。

 ……あれ? これって俺の命と貞操のピンチ? いや多分、貞操のピンチである。なんかガチャガチャとベルトを壊そうとしてる。

 

「ステイ、クロ話しあおう」

「大丈夫、大丈夫にゃ。怖くない、むしろ気持ちいいはず」

「ステイステイ!! 待て待て!! 俺は外でやる気はないし、お前には悪いけどたまに会う猫くらいにしか感情は持ってない!」

「そんなもの後から育めばいいにゃ……大丈夫、嫌な経験だったけど私は経験豊富だから」

 

 ヤバイ、ズボンを剥ぎ取られて、後はパンツだけ……目の前には発情した猫。

 さよならグッバイ童貞、あと命もサヨナラの可能性もあるけど。

 目を閉じ、身を委ねるか、そう思った時だった。

 

「何をしてるんです?」

 

 落雷と今まで聞いたこともないような冷たい声をした朱乃先輩がそこにいた。

 

「……あぁ、双葉に付きまとってはウザがられてる売女じゃない。さっさとどっかへ行って」

「ふざけたことを言うんじゃありませんわ。双葉くん大丈夫?」

 

 大丈夫だけど怖いです、朱乃先輩。

 周囲の木々に落雷が当たってるし、体から電機がバッチンバッチン行ってる。

 魔力だっていつもの三倍は出てるし、何より威圧感が半端ない。笑顔が消えて、睨みつけていた。

 

「双葉……黒歌ッ!? なんであなたがここに」

「双葉!! お前なんてうらやまけしからんことを!!」

 

 イチ兄は平常運転だなくそったれ!! 

 魔力を貯めてクロの拘束からなんとか離れて、転がりながらリアス先輩たちの元に行く。

 パンツ一丁で恥ずかしいがそうも言ってられない。

 

「双葉さん、大丈夫ですか!?」

「ガー」

 

 心配そうに駆け寄ってきてくれるアーシアと、そのとなりを飛んでいる青いウロコの小さなドラゴンがこちらを睨みつけていた。

 えっ? 誰こいつ? そう困惑してるが、ふと震えながらクロを見ている小猫の姿が目に入った。

 

「黒歌姉さま」

 

 震える声で小猫がそう呟いた。

 クロと小猫を交互に見てみると微妙に似ている。

 

「姉さま、一体双葉に何を……」

「ナニをするつもりだったんだけど、そこの混じりのせいで邪魔されちゃったけど」

 

 こちらを舐め回すような視線に思わず、身を引いてしまう。

 その様子を見たのか、イチ兄と師匠が間に立ってくれる。

 

「姉さまだったんだ、やっぱり」

「そう、ずっと前から暇さえあれば双葉に会いに来てたにゃ。でも白音もそうすればよかったのに」

 

 白音? 小猫のことか?

 ん? いや待てよ? クロを保護した時にもう一匹、白い子猫がいた。そしてさっき、クロが妹と一緒に保護してくれたと言ってきた。

 まさかと思い、小猫の方を向く。

 

「ち、違います! わ、私は」

「そう。双葉の考えてる通り、あの時の子猫はその子よ、そして私の妹」

「違うわっ! この子は私の眷属、塔城小猫! 力に溺れ、この子を捨てたあなたに姉を名乗る資格はないわ!!」

 

 それを聞いて、クロはやれやれと言うふうに首を振ると、着物を直しながら立ち上がる。

 

「興が冷めたにゃ」

「逃げられるとお思いになりまして?」

 

 朱乃先輩が武器をや魔力を構えるが、クロは余裕そうに指を鳴らす。

 すると薄い霧のようなものが辺りを包み込む。幸いにして前方が見えないとかそういうことレベルじゃないが油断はできない。

 

「むしろ勝てるとでも? 未熟な主は実力差も測れないのかな?」

「何を――――あぐっ」

「リアス先輩!? みんな!!」

 

 突然、リアス先輩が膝をつくと皆も苦しそうな表情で膝をついていた。

 無事なのは俺とイチ兄に小ドラゴンのみ。

 

「ガー!!」

「部長! 何したんだ!?」

「クロ!!」

「毒霧を発生させたの。特に悪魔と妖怪に効くのをね? そこの赤龍帝とちびドラゴンには効かなかったみたいだけど。本当は密閉空間で使うのが一番だけれども殺す気はないからにゃ」

 

 いつの間にか高い木の枝に座っていたクロはそう言う。

 なるほどな、逃げるだけならこれほど初見殺しの技もねえわな! 悔しいが今の俺じゃどうすることも出来ない。

 

「双葉、いつかきっとちゃんと迎えに来るわ。その時は白音も一緒にね? その時まで死なないでね? 双葉」

 

 そう言って、クロは木の枝から飛び森の奥へと消えていった。

 

『ぷはっ……やられたな、小僧』

「……あぁ、皆大丈夫か?」

「な、なんとか」

 

 苦しそうに師匠が返事をするが朱乃先輩は未だにクロが消えた方を睨みつけている。

 ……完敗と言っていいだろう。

 そもそも俺が散歩なんてアホなことして無ければよかった。いや、そもそもな話、クロと出会わなければ。

 

「くそっ!!」

 

 拳を地面に叩きつけると俺は悔しさと無力感に襲われた。

 アレだけ修行しても上には上がいる。

 もっと力がほしい、もっともっと!!

 

 結局、この後回復したリアス先輩たちはすぐさま魔法陣で帰ることになった。

 小猫は震えながらリアス先輩に抱きついていた。

 何かしようとしたが小猫は俺に一言も口を聞いてくれなかった。

 無力だな、俺は。

 

 




この小説の黒歌さんはヤンデレです。
そして双葉の鼻を折る相手になってもらいました。魔戒騎士だしボロボロに負けるのも多少はね? あと心滅フラグ立てないと。

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