いつもの世界を守るために   作:alnas

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最近、友人に布教するためにクオリディア・コードを見直しました。
多分なヒメニウムを摂取しまして、ええ。姫さんかわいいの一言に尽きますね。
クオリディア・コードの曲は聞いているとこの話を書きたくなるんですよね。時間がかかってもまだまだ進みます。
どんどん消えていくハーメルンのクオリディア・コード作品。
消えるヒメニウム……ならば補給路を作り続けなれば!
ということで、短めですが久々の本編です。


分の悪い賭けは嫌いじゃない

 一瞬のことだった。

 住んでいる速度域の差からだろうか?

 切られると、確信を持っていた俺とコウスケへの斬撃は、余すことなく月夜によって弾かれていた。

「お、おお……」

「な、なんだったんですか、いまの!?」

 関心している俺を余所に、コウスケが悲鳴じみた声を上げる。

 確かな殺気、確実な間合い。殺されていないのが不思議な一撃だっただけに、それを咎めることはできない。

 俺とコウスケへの、幾重にもよる範囲攻撃。それも斬撃とくれば――。

「こんな芸当ができるのは、ほたるしかいないわな」

「ですね。見えているだけで厄介です。どこか建物内――に入るのは、そのまま建物ごと斬り伏せられる可能性が高いですか」

 とは言え、一箇所に留まり続けることの方が危険だ。

「コウスケ、出力兵装さっさと拾え! 逃げるぞ!」

「は、はいぃ!!」

 舞姫がほたると出会うまで逃げ切れれば上等!

 頭はまだ回る。足はきついが、そこはコウスケがカバーしてくれる。

「月夜、おまえはどうすんだ? おまえが俺たちを守ったのはほたるも見ている。場合によってはおまえも……」

「問題ありません」

「いや、んな悠長なこと――」

 言葉の途中で、カラン、と鈴の音が鳴る。

 直後、風を切ったような、そんな、俺には見切れないわずかな空間の揺れ。

「悠長なのは自由さんの方です。私がいなければ、もう2回死んでいます」

 また、守られたのだろう。

 ほたるの斬撃は早い遅いの問題ではなく、ゼロ距離から繰り出される攻撃をどのように対処するかにかかっている。無論、いまのボロボロの俺にそれを止める術はなく。

 そして既に、そんなことで凹んでいる余裕なんてない。

「クソッ、とりあえずは建物の陰に潜むなりして逃げるぞ! ほたるの大凡の位置は掴めた! あとは舞姫と合流するか、あのバカがほたると接触するまでの我慢だ!」

 言うが早いか、月夜の小さな体を抱きかかえ、コウスケの出力兵装に乗る。

「ちょ、自由さん!?」

「飛ばせ!」

「もちろんっすよ!」

 コウスケも理解しているのだろう。

 屋上からすぐにビルの背面に回り、そこに留まることはなく、すぐに他の建物の陰へと移動していく。

 背後では建物が崩れ落ちる轟音が響くが、残っていれば間違いなく潰されていただろう。

「うひゃぁ……思い切ったことしますね、神奈川の次席って」

「いや、いつも通りのほたるだ」

「ですね……」

「マジっすかぁ……そりゃないっすわぁ」

 他の都市に比べて、過激な次席だというのはわかりきっている。だが、理解がないわけでもない。だからこそ、こういうときのほたるの思い切りの良さは恐ろしい。

「月夜も連れて来ちまったし、取り返しに来るのかねぇ」

「一緒に抹殺かもしれませんね」

「どうだかなぁ」

 ほたる――いや、神奈川に来たばかりの頃の彼女であれば、間違いなく仇名すものとして斬られていただろうが、いまのあいつはほたるだ。

 舞姫が信頼する凛堂ほたるなのだ。

「――ないだろ」

 その独り言は風の中に溶けていき、拾うものは誰もいない。

 せめて、舞姫がほたるに会ってさえくれれば、そうすれば、俺にもあとひとつだけ打てる手がある。

「俺の<世界>は、繋げるもの。それは力や、意思だけじゃない。だったらきっと」

 舞姫との戦闘でやっと理解できたんだ。

 あのときは彼女の<世界>を。今度は、俺たちを――なら、そう難しいことじゃないはずだ。少なくとも、他人のものを他人に見せるよりも、ずっと簡単なはず。

 <世界>は俺の主観が見せる、各々が信じる世界そのものを実現させる意志の力だと、俺はそう推測してきた。だからこそ!

「コウスケ。無理を承知で言うぞ」

「なんですか? 無理なら今までもずっとしてきてるじゃないですか」

「ほたるの、神奈川次席の元まで、送ってくれないか?」

「はい!?」

「もちろん、すぐにとは言わない。タイミングは重要だしな。けど、その時が来たら、頼んでいいか?」

 俺の問いに、コウスケは悩む表情を覗かせる。

 当たり前だな。一歩間違えば、即座に死が待っているようなものだ。

 コウスケからの返答は後にし、抱える月夜へと、正確には、彼女の持つ出力兵装へと目を向ける。

「月夜、ほたるの刀、あと何回受け止められる?」

「……3回です」

 だよなぁ。

 ほたるの持つ出力兵装は舞姫自身が作ったものであり、そして最強の名を冠する刀。当然、物としても恐れるべき出力兵装だ。

 対して、月夜の持つ刀は出力兵装といっても模造刀であり、脆く壊れやすい。

 本来の出力兵装はあの部屋に置きっ放しというわけか。

「やっぱり、起点は舞姫しかいないか。で、コウスケ。どうだ?」

「――……わかりましたよ。俺も、いいところは見せておきたいですし?」

 大きなため息を吐きつつ、サムズアップしてみせるコウスケ。

 こいつも随分男らしくなったもんだ。

「助かるよ。後輩の成長は嬉しい限りだ」

 あとはほたるの攻撃が止まった辺りで接近するだけだな。

 舞姫と会って、過保護に守るか動きが止まるかは賭けでしかないが、そう悪い賭けじゃない。神奈川にいた頃の方が、日頃危険は多かったしな。

「っと、止まったな」

 コウスケに指示を出しながら建物の合間を縫うように飛んでもらっていたが、それもここまででいいかもしれない。

「建物を斬ってくるのを止めたんですかね?」

「止めたみたいですよ。というか、舞姫さんと出会ったみたいです」

 月夜の耳が、彼女たちの言葉を拾う。

「自由さんたちの説明をしているみたいですが、うまくいっていませんね。ただ、困惑はしているようです」

「そうか……なら、行くか」

「ここしかなさそですしね……はあ、早く戻って安全なところにいたいっすわ」

 声は嫌々だが、行動はしっかりしている。

 しっかし、ほたるの奴が舞姫から離れていたのも気になるが、戻って来たのだとしたら、援軍とか居ないだろうな? それは御免だぞ。

 月夜に言われるままに移動していく中、そんな不安が頭を過るが、まだ遠くとはいえ先に見える人影が舞姫とほたるのものだけであるとわかり一安心だ。

「うひゃぁ……これ、辿り着けますかね」

「舞姫が少しは抑えてくれるだろ。こっちにも盾は3回分ある。<閃塵>か<千重>を撃たれない限りはなんとかなる……たぶん」

「そこは自信を持って言ってほしいんですけど!」

 神奈川四天王相手に絶対とか言えない、言えない。特に、舞姫が絡んでいるときにはな。あいつらの行動は読めないし、思考は理解できない。

 柘榴と銀呼はその筆頭であり、大人しそうな青生だって例外じゃない。あんな性格なのに舞姫の制服に盗聴器をしかけていたような相手だ。四天王の変態性に大差はない。

 けれど、だからこそ舞姫のためなら、あいつらはなんだってやる。

 ほたるとて、危機が迫れば容赦なくこちらを斬るだろう。たとえ、舞姫に説明がされていたとしても、あいつならやる。

「ほんっと、分の悪い賭けっすよね」

「だとしても……俺の<世界>は束ねて繋ぐもの。だから、疑うものかよ」

 さあ、やってやろうじゃないか。

 あいつらの笑顔のために、必要な瞬間を作り上げるために!

 


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