いつもの世界を守るために   作:alnas

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どうもみなさん、こんばんは。alnasです。
そろそろ暑さに溶かされそうな日々を乗り切って生きています。
ということで、少し遅れましたが七夕関係の番外編です。最近番外編オオイナー。
例のごとく一話完結はしないけど許してね!
では、どうぞ。


昼寝してたら七夕祭の準備をしている件について

 7月7日。

 特に変わったこともなく、朝から<アンノウン>の襲撃や定例会議があるわけでもない。ここ最近では珍しい穏やかな日々であり、天気も良好。

 絶好の昼寝日和である。

「はあ、これはもう俺にどうぞ寝てくださいと言っているようなもんだな」

 適当に寝転がってみるが、うん、やはりいい。

 あとは枕に変わるものがあれば最高なんだが……次は枕を持ってくるか? いや、外用の枕を新たに買うのも手か。

「使えるのはこの屋上くらいのもんだが、それでも固い床よりは幾分もマシだな」

 ああ、このまま寝れたらどれだけ気持ち良いもんかねぇ。

 そう思いながら、ついつい空へと視線を向けてしまった。そう、向けてしまったのだ。

 空高くから聴こえてくる、俺の名を呼ぶ声。

 幻聴であって欲しい。あって欲しかった声音。

「こんな日くらい、ゆっくり寝かせてくれよ……」

 タイトル、いつものように寝ていたら襲撃を受けた件について。

 と眼目にメールを送り終えてすぐ。

「みーゆーちーん!」

 猛スピードで降ってくる落下物が一人。

 うん、もう本当にいつものことだな。ビルの屋上で寝ていると襲撃を受ける確率がそろそろ5割を超えるぞ!

 あとな……。

「おまえのスピードで突っ込んできたら建物も俺ももたないだろうがぁぁぁぁぁぁっっ!!」

「み〜ゆち〜ん! 七夕だよ、七夕! 今日はこれから、七夕祭を開催するよ!!」

「まずは止まれアホ娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええっっ!!!」

 咄嗟に<世界>の力を使い、手に光をまとう。

 目標は一人。

 ただし、<世界>に繋がっているのも俺一人のみ……。

 空中でぶつかり合う小さな少女と光の壁。

 一瞬たりとも拮抗を保つことはなく、無残にも、光の壁は宙に溶けるように消えていった。

 大声でなにごとかを叫びながら迫ってくる姫さん――天河舞姫は楽しそうな笑みを浮かべながらこちらに降ってきて、やがて屋上を突き破る大穴を空けることとなった。

 かくして、俺の昼寝は終了を告げることになったとさ。

 ちなみに、この衝撃の余波で吹き飛ばされた俺は、その後姫さんに背負われて生徒会へと連れて行かれたらしい。

 

 

 

 

 で、どうしてこうなった?

 気づけばいつぞやの日と同じように祭の準備をしている自分がいるではないか。

「いやー、ごめんねみゆちん。まさかあそこまで酷いことになるなんて……」

「反省してるなら今後空からの登場も海中や土中からの登場は禁止な。主に空中。これで何度目だと思ってやがる」

 隣で作業を進める姫さんは落ち込んではいるものの、たぶん次もお空から降ってくるのだろう。

 なんせ、こいつの降ってきているときの嬉しそうな顔ときたら。

「で、七夕祭って言ってたけど、具体的にはなにをするんだ?」

 登場の仕方についてはこれ以上言及せず、開催の決まってしまったことについての話を進める。

「ん〜……騒ぐ! 遊ぶ! 食べる!」

「おう、ノープランな。わかった」

 きっとほたるが翻訳し、青生が具体案を詰めているはずだ。

 なんせこの祭、今日の午前中に準備を終え、夕方には開催するというではないか。しかも恒例になりつつある、三都市合同イベント……ようするに、神奈川主体でイベントやるから、東京、千葉の来たい人たちは自由に来てね! というわけだ。

「七夕ねぇ……」

 覚えている限り、そうしたイベントが小さい頃にあったのは知っている。家の問題もあってか、一度として行ったことはなかったが。

 ただ騒ぐための口実にしか思えないのは、気のせいじゃないといいんだが。

「ところで姫さん、七夕はわかるんだが、なんで生徒会は着物着用が義務付けられているんだ?」

「七夕の雰囲気を味わうため、かな?」

「疑問に疑問系で返すなよ。あと、俺は生徒会じゃないと思うの」

「え?」

「はい?」

 なぜか姫さんたちと揃えられた浴衣を着せられている俺。

 ちなみに生徒会というほどの権限もなければむしろ酷い扱いを受けているまである。

「まあまあ、カナちゃんたちも浴衣で来るって言ってたし、いいじゃん!」

「別にダメとは言わんがな」

 こう、まだ他の生徒が制服でうろついてるのに俺たちだけ浴衣ってもの異色すぎるだろ。大抵は「姫さまかわいい……」で終わるからいいけどさ。

「ねえねえ、みゆちんは今日のビックイベント、やるなら彦星がいい? それとも織姫がいい?」

「待て、なぜ二択用意した? そこから話し合おうか姫さん」

 ビックイベントがなにかは知らないが、七夕の選択肢でその二択が男に用意されているのはおかしい。不吉な予感しかしないじゃないか。普通、俺に聞かれるのは彦星でいい? であるべきで、織姫があっていいはずがない。

「でも、みんな言ってたよ。織姫でもみゆちんならこなせるんじゃないかって!」

「断る」

「だが断る!」

「――こんのアホ娘は本当に……」

「さあさあみゆちん、セレモニーの練習だよ! んー……私が彦星やるから、みゆちん織姫さまやろっか!」

 思い立ったが吉日。というか、すでにやることは最初から決めていたらしい。

 珍しく端末を持ち歩いていた姫さんに連絡が届き、準備ができたという青生の声が聞こえて来る。

「よし、あおちゃんが衣装の手配をしてくれたから、いこっか」

 こちらに伸ばされる小さな手。

 過去にはねのけてきた少女の手。

 その手を向けられては、俺はもう跳ね除けることはできない。

「はいはい、わかりましたよお姫様」

 力で彼女にかなうはずがない。

 引きづられるようにして、出てきたばかりの生徒会へと戻されていく。

「セレモニーって、劇でもやんのかよ……」

「うん、やるよ!」

 うへぇ……もう姫さんが織姫、ほたるが彦星でいいのでは?

 きっといいに違いない。

「ほたるちゃん、前は男装してたし。みゆちんの女装はどんな感じかな〜」

「やらんぞ、女装……」

「だいじょうぶ、きっとかわいいよ」

 かわいくなくていいんだけどなー……。

 でもなんか最早衣装が用意されてるし、銀呼や柘榴が笑みを浮かべているんですけど?

「よし、着替えようかみゆちん!」

「はあ……わかりましたよ。着ればいいんだろ、着れば」

 個室に入ると、ご丁寧にウィッグや化粧道具まであるではないか。

 これは付けろってことなんだろう。

 いかに姫さんが楽しみにしているのかがよくわかる。

 適当に着物だけ着ると、青生が個室の扉を叩く。

「自由さん、もうだいじょうぶですか?」

「ああ、平気だ。残りを頼みたい」

「わかりました――似合いますね、とても」

 個室に入ってきた瞬間、まだ化粧もしてないのだが、青生の顔が惚けてしまった。

「おいおい、勘弁してくれよ。冗談にしては性質が悪いぞ」

「あ、すいません……でも自由さん、女性でも違和感ないですよ?」

「えぇ……いいよ、お世辞は」

 話はそこそこに、残った手直しや着付けを青生にやってもらい、姫さんと合流する。

 しかしこのアホ娘、自分は先ほどの浴衣のままではないか。

「おおー! いいね、いいよみゆちん! かわいいよ!」

 いきなり手を取られ、姫さんに連れられるままにされる。

「ちょ、姫殿!?」

「姫さんなにをする気ですか困ります!」

 うお、久々の殺気! ここにほたるがいなくてよかったー……。

 っていうか、織姫をモチーフに作られた衣装のせいか、わりと装飾も多く動きづらい限りだ。

「ねえ、みゆちん」

「…………なんだ?」

「実はね、もうほとんどの準備が終わっちゃってて、開催時間まで時間余っちゃったんだよね」

「そうか、そりゃよかったな」

 だったらもうこれ脱いで部屋でゆっくりしてていかしら?

「ということでね、はい!」

 なぜかビルの屋上に連れてこられ、そこに座った姫さんは自分の膝を叩いた。

「どういうことだ?」

「だから、みゆちんのお昼寝の邪魔しちゃったし、開催時間の前まで寝かせてあげようかなって。だからはい、おいでみゆちん」

 優しい声音で俺の名前を呼ぶ姫さん。

 心なしか、その顔は嬉しそうに笑みが浮かんでいて。

「ほんと、ほたるが見てなくて助かった……」

 そういうことなら、仕方ない。

 ああ、つい先ほども、硬い床じゃなく枕に代わるものがあればって思ってたっけ。

「ほらほらみゆちん。あ、それとも今日はみゆちゃんって呼んであげようか?」

 純粋な笑顔。

 あの日から一切曇らない、俺に向けられた優しさ。

「好きに呼べよ。今日くらいはな」

「うん、ありがとね、みゆちゃん!。じゃあほら、おいで?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 少々装飾品が邪魔だが、まあいい。

 寝転ぶとすぐ、額に手を置かれた。その手はゆっくりと、ゆっくりと頭を撫でてくる。

 そうしてしばらくして、まぶたが下がってきた頃。

「おやすみ、みゆちゃん。今日は七夕だけど、私はずっと、キミのそばにいるよ。離れないように、ずっと隣にいるから。だからみゆちん、今日は私と一緒にいてね。この先も、ずっと……」

 よくは聞き取れなかったが、彼女がなにかをつぶやいた気がした。

 その言葉を俺が知ることはなかったけれど、きっと、そう悪い言葉ではないのだろう。


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