いつもの世界を守るために   作:alnas

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どうも私です。
うん、長い。このシーン長いよ比率考えろって話ですね。
間にちょくちょく短編なり学園なりを挟んでいるので姫さんとの話で何ヶ月使っていることやら。とは言え、そろそろいいよね。
では、どうぞ。


Promise code

 否定するのは当然だ。

 誰しもが、すべてを肯定するなんてありえない。

 たとえ……たとえそれが、自分にとって大切な存在であろうとも、

「おまえに無茶させ続けるくらいなら、いまここで真正面から否定してやるよ。これ以上、おまえを人から遠ざけるわけにはいかない。おまえには、仲間と一緒に笑顔でいるのが似合ってるからな」

 守るためなら、何度だって立ちはだかろう。

 この身の限界を、迎えたとしても、何度でも。

「なんで……わからないよ」

 光を失った瞳が、俺を捉える。

 戦意は感じない。けれど、どこか不安定なはずなのに、彼女の視線が外れると、外させられると思えない……。

 異常だ。

「無理しすぎなんだよ。一人でぜんぶ背負い込んで、助けられた俺たちがどんな気持ちかも知らない。いや、俺がそれを知らせなかったのが罪なんだろうが、理解できない奴に世界を救わせることはできない」

 だが、踏み込んでしまった手前、引っ込めることもできない。

 と来れば、後はとことんやるしかないよな。

「どうして、どうして……キミは私と、いつだって……」

「ああ、いつだって、世界を救おうと言ってきた」

「なら――ッ!」

 いつだって、なんだって彼女の隣で口にしてきた。呪いのように、何度も、何度でも!

『今日も世界を救おっか』

 何年も前から、あいつが一人だったときから聞いてきた。

 次第に実力を認められ、神奈川のトップになってからも、絶えず聞こえていた。

 舞姫が大切にしている友人を取り戻してからも、変わらなかった。

 三都市での攻防で、他のトップ陣と出会ってからも、変えれなかった。

「俺は何度、おまえに見て欲しいと願ったか」

 ああ、言葉にするまでもなく、わかってしまう。言葉にする必要がないくらい、理解できてしまう。

 苛立ちとも取れる、小さな綻びができていることに。

「舞姫、何度だって言おう。おまえの見る世界におまえの笑顔があると言うのなら、一人で戦おうなんてするな。もし、それすらも諦めているのなら、一生寝てろ」

「…………もう、いいよ」

「いいや、よくない」

「……黙ってて」

 彼女の声にも、声量が戻ってきている。でも、

「黙らない。おまえが間違いを認めるまで、口は閉ざさない」

「ッ、ならそこを退いて! こうしている間にも、多くの人たちが戦っているんだよ!? 私が、私が頑張らなきゃ、みんながいなくなっちゃう!」

 そうなのだろう。舞姫の中でその思いがあるのは知っていた。

 心のどこかで、俺たちが彼女に守られなければならない存在なのだと思われているのも、わかっていた。それほどまでに、彼女との力の差は激しかったのだから。

 なら、ここを退けばいいのだろうか? 否。断じて否だ。

 もう二度と、こいつを一人で矢面に立たせはしない。立たせるくらいなら、倒してでも止めてやる!

「悪いが、ここを退くこともできない」

 致命的なのは理解している。

 真面目な状況だってことも、重々承知の上だ。

 それでもここは譲れない。あいつが間違い続ける限り、俺が間違いを正す機会を持つ限り、倒れてやるものか。

「意味、わからないよ……なんで! 戦わないなら道を譲って! 動けるなら早く逃げて! なにもできないなら、私の前に立たないで!!」

 悲鳴にも似た怒号が、辺りに響く。

 本心から、俺に邪魔だと告げている。

「立つさ。おまえが変わらずある限り、俺はおまえを守る権利がある。おまえが道を外れそうなら、正す義務がある。なにより、俺には忘れちゃいけない約束がある。破れないなら、叶えるしかないだろ?」

「ふざけないで! なんで、なんでわかってくれないの!? みゆちんなら、私のことをもっとわかってよ!」

「――――わかってほしけりゃ、わからせてみろよ。俺の中にいるおまえと、いま目の前に立つおまえ。違う存在だって言うなら、わからせてみろ大バカ野郎!」

 どこまでいっても、おまえは天河舞姫だ。俺のよく知る、バカでアホな、笑顔が似合う天河舞姫なんだよ!

「誰もおまえに、一人で解決する強さなんて、求めてなかったんだよ!」

 今更な言葉だ。

 拳を握りながらも、この今更感に反吐が出る。自身のおこないに、吐き気がする。でも、これ以上は止まれない。あいつとの約束を、いまこそ果たすときだ。

 折れそうな心の声だとしても、構わない。

 倒れかけの体でも、躊躇はしない。

「だからあと少しだけ、どうか俺を動かしてくれ」

 <世界>は利便性の高い代物じゃないけれど。それでも、俺の力だと言える唯一残った希望。

「さあ、来いよ舞姫。気に入らないと、気に食わないと言うのなら、おまえが見ている俺を倒してみせろ!」

 神奈川の生徒は舞姫の願いを実行するほどには彼女に惚れ込んでいる。だから、今回も聞いてやらないとな。あいつの、お願いを。

 もうとっくに、願いの内容は聞いてある。

 そのために、ここまで来たんだ。

「誰がなにを言おうと関係ない。舞姫、おまえの世界は俺が救う」

「みゆちん……本当に、みゆちんなのに、私を認めてはくれないんだね。うん、ごめんなさい。あとでいっぱい謝るから、いまはゆっくり寝ていてね」

 命気が俺の、舞姫の体を包んでいく。

 限界だってのに、やっぱりこうなるんだから困ったもんだ。

「でもいっか。再戦の機会なんてそうそうないしな。ここで勝っておけば、いままでの黒星も返済できるってもんだ」

 こうしてなんか言ってないと、すぐに意識が飛びそうになる。

 ちょっとでも休めれば話は別なんだが……まあ、仕方ねえ。

「みゆちんじゃ、私には勝てないよ」

「はあ? だからなんだよ。ここに立ってる俺を退かせないおまえが、俺に勝てるなんて決め付けるな」

「そっか……じゃあ、行くよ!」

 その一言を皮切りに、舞姫の姿がかき消える。

「チッ」

 即座に右に跳び、大きく距離をとった直後。

 数瞬前まで居た地点に、拳を突き出した舞姫の姿があった。

「避けていいの? 私を倒したいなら、攻撃しないと勝てないよ?」

「こっちの事情だ、気にすんな。おまえこそ、避けられてていいのか? そんなんじゃ、退かせ――」

 言葉は最後まで紡げなかった。

 だって、そうだろ? 数メートル先にいた舞姫が、すぐ目の前にいるのだから。

「はあっ!」

「――こりゃダメだ」

 どうかわしても、追撃で狙われれば避けられない。なら、かわした先で下手に貰うよりかはここで!

 瞬間的に命気を左手に集中させ、舞姫の拳を捉える。が、

「っのやろう!?」

 抑えきれるはずもなく、一瞬の硬直はかえって、舞姫に絶好の機会を渡してしまった。

 ガラ空きになった体に、舞姫の小さな拳が振りかざされる。

「ぐっ!?」

「ああああああああああっっ!!」

 裂帛の気合いと共に振り抜かれた拳に貫かれ、感知するよりも早く、近くのビルへと吹き飛ばされた。

 あとから、割れたガラスの破砕音や、崩れた壁の轟音が耳に届く。

「がはっ……くっそ…………思いっきり殴りやがって……」

 限界に限界重ねた体に、これは致命傷だ。

 息が荒い……。

 視界が霞む……。

 もう痛みすら、ロクに感じない。

 ああ……ああ、でも。

「――……約束、守らないとな」

 救うではなく、救ってなんだ。

 誰も、彼女の願いを悟りはしない。あのとき漏らした小さな、ほんの小さな本音。

『みゆちんは、本当に私たちの世界を守ってくれる?』

 あの言葉がある限り、何度でも――。

『疑り深いな……ちょっとは信用してくれよ』

『んー……してるよ。みゆちんのことはいつだって信じてる』

 俺の信じる彼女が、俺を信じていてくれるなら。

『だから、みゆちんも世界を救ってね』

 天河舞姫が、救えと言うのなら!

「俺はただ、約束を果たすまでのことだ」

 すでに体力は尽きた。

 <世界>の全力には人が足りない。

 戦略も、とうに通用しないと知れている。

 万策尽きた、か……。

「なに、問題ない」

 まだ立てる。

 まだ話せる。

 であるのなら、思考しろ。思案しろ。考えることをやめるな。

 ここを通せば、もう後戻りはできなくなる。舞姫を連れ戻すには、一線を越えさせないためには、もうここしかないんだ!

「舞姫ェェェェェェェェェェェェッッ!!」

 ああ、なんて都合のいいことか。

 体の痛みが、僅かだが引いていくように感じる。

 少しだけ、元気を分け与えられたような気がする。

 ビルから降りると、こちらに視線を向けたままの舞姫が、表情を歪めた。

「みゆちん……」

「まだ終われないみたいでね。万策尽きたなら、一万とひとつ目の策を探るまで」

 我ながら、現金なものだ。

 先ほどと俺の状況はなにも変わっていない。でも、俺以外の状況は着々と変わりつつある。

 さあ、あの声が聞こえるか? 俺に希望を繋いでくれる金糸雀がごとき美しい声が!

「おまえの世界、守らせてもらうぜ」

 今度こそ、おまえの心ごと、救ってみせる。

 <世界>をもってして、繋げてみせよう。この先にある、天河舞姫の優しい世界のために。




すまない……本当にすまないがまだ終わらないんだ。
けどもう終わりは見えてるから。本編終了は全然見えてないがな!
というわけで姫さん編があと数話で終わったとしても本編は終わらないのであった。
では、また次回。

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