2年書いてますけど、今回は初の水着回なんじゃないかな? まあ、2話構成で考えていたのでしっかり書くのは次回になりそうですけど。
にしても、もう70話かぁ……番外多すぎて本編進んでないな。うん、頑張ろう。
「夏だ! プールだ! 清掃だー!」
騒がしい、暑い、だるい。
姫さんの掛け声と共に始まった、生徒会長命令という名のプール清掃。もっとも、企てた――失礼、楽しそう、やってみたい! と言い出したのは姫さんだが、こうして巻き込まれたのは副会長たるほたるの陰謀――ごめんなさい、手腕といったところだろう。
まあ、俺一人が巻き込まれるのは癪なので他何人かを巻き込んでやった。
どうして巻き込まれたかって? ほたるが姫さんといちゃついている間に清掃させるためだ。許されない。
なので当然、俺に恨みの込もった視線が向けられるのも納得できる。
「っていうか、なんで俺たちなんだよ」
その代表としてか、千種がやる気のない声を上げた。
「もちろん、呼んだら来てくれるからだよ」
「いやいや、その自信どこから来るのよ。若干きもいよ?」
「なんとでも言え。っと、これじゃ壱弥みたいだな。まあいいか、証拠なら、おまえがプールサイドにいる。これでいいだろ?」
「……」
「なんだよ」
「…………なんでもない。おまえがそういうこと気にしないで言葉にするのは今更だもんなーお兄さん嫌になっちゃう」
なんかよくわからないが、呆れられたのはわかった。
しかし、お兄さんは俺だろ、年齢的にも、学年的にも。とは言え、今日集まったメンバーに年功序列って考えはないし、その面では全員平等だ。
「それで? 俺が来てやったんだ。当然、指揮権は俺にあるんだろうな?」
会話に入ってきたのは壱弥。
言葉からしてわかるように、プール清掃のために呼び出した内の一人だ。
「指揮権? 清掃に指揮とかいんのかよ」
千種の言葉に対してピクリと壱弥が反応する。あーあ、壱弥の保護者は着替え中だろうし、千種のストッパーも同じくか。よし、放っておこう。どの道姫さんが来れば収まる言い合いだ。
問題はプール清掃だよなぁ……50mプールの清掃って、7人でできるのかしら?
冬場は水泳部も使わないことから、見事に一年間放置されたプール。水泳部もまだ使用していないらしく、完全に手付かずである。
なんでもっと人集めなかったのかな、俺は。
いや、違うんだ。集めには行ったのです。中等部に在籍してる月夜に、後輩の眼目、姉の斬々にその他数名にも話はしたのです。
「まあ、誰も来るとは思っちゃいませんがね……なんだろう、言ってて悲しくなる」
なんて、しばらくプールサイドでどうしようもないことを考えていると、女性陣の声が聞こえてきた。
「おっ待たせー! ごめんね、待った?」
「ふむ……ヒメに待たせてもらえたんだ。きっとバカどもも喜んでいるだろう。ああ、あまりヒメに視線を向けるなよ」
「ごめんねぇ、ちょっと着替えに戸惑っちゃって。あ、いっちゃん、なにか飲む? 暑いから水分補給しないとダメだよ? ってあれ? あれれ〜? 持ってきた飲み物どこに入れたっけ?」
「はあ、格差……裏切り者ぉ……もうだるい、帰ってシャワー浴びていい?」
うーん、まとまり。
意気揚々とする姫さんに、俺たちに警告してくるなぜか刀を持ったほたる。それとカバンの中を漁りながら困惑してるカナリアに、沈んだ表情をして愚痴る明日葉。
なにこれ、清掃できますのん?
「あ、みゆちーん! 今日はみんなを集めてくれてありがとね! 清掃が終わったらプールで自由に泳いでいいって求得先生から許可をもらってるからいっぱい遊ぼうね!」
「おーおー、好きに遊んでくれ。清掃終わったら帰るからな、俺」
「えー! だーめー! ダメだよみゆちん! 清掃が終わったら最初にプールで遊べるのは清掃した者の特権だよ? 遊ばないなんてもったいないよ!」
ええい、目の前で跳ねるな! 視界を自分で埋めようとするな! 目の毒だっつーの!!
ぴょんぴょんと跳ねる姫さんは、どうあっても人の目を見て話さなければ気が済まないらしく、嫌でも視界に入ってくる。
ボーダー柄のビキニはトップスのリボンが可愛らしくもあるが、その体型をより引き立てる。
ああ、やめてほたるさん。その手に持つ用途不明の刀を俺に向けないで!
そんな過激派のほたるも、今日は水着を身につけている。遠慮して体操服でも着てくるかと思っていたが、姫さんに似合うとでも言われたのだろう。紺のタンキニは彼女の健康的な肉付きとしなやかな手足の長さを主張してくる。こいつは可愛いよりはかっこいいがよく似合う。
「みゆちん、遊ぶよね?」
俺の手を両手で握り、顔には遊びたい、遊びたいと書かれている。
「……ああ、遊びますよ。遊ばせていただきます」
「やったー!! よし、じゃあ頑張ろう!」
「――ッ!? お、おー!」
そうして、喜びを表現しながら更に距離を詰めて抱きついてくる姫さん。うん、もうね、この生徒会長になにを言っても無駄かなぁ。
姫さんや。その格好で俺の側をうろついたり触れてくるのはアウトなんだ……冷静でいられる限界ってあるのよ? あと、ほたるが怖い。マジで怖い。
彼女からの視線を避けるために他に目をやると、壱弥とカナリアが視界に映る。
「あれ〜?」
「貸してみろ。飲み物はこっちに入れたはずだ」
「あ、本当だ。さすがいっちゃん!」
「はあ……ほら、おまえもしっかり水分を取れ。今日は動くことになるからね。ついでに帽子と、あと、これも羽織れ」
「え? でも羽織ったら余計暑いんじゃ……熱もこもるかもしれないし」
「――……それでもだ」
はー、おまえらなぁ。いや、なにも言うまい。あの距離感が心地いいのかもしれないしな。うん、なにも言うまい。
「ねえ、お兄」
「なぁに、明日葉ちゃん」
「暑いしやる気なくしたから、二人ぶん頑張ってくれない?」
「……明日葉ちゃん、俺もやりたくないのよ? それなのに俺が二人ぶんの働きとかすると思う?」
「お願い、お兄ちゃん」
「……まあね、お兄ちゃんだからね。妹の頼みは聞いてあげなきゃだし? 仕方ないよね」
笑顔を浮かべる明日葉と、まんざらでもなさそうな千種。
あの兄妹も変わらないな。
まあいい。しっかりプール清掃して、あと遊んで。ちょっと早すぎる夏を満喫するとしますかね。