深夜に投稿して申し訳ない。遅寝さんと早起きさんはこれからでも読んでくださいな。
とりあえず、今回で自由対舞姫には決着をつけたいと思いながら書きました。
では、どうぞ。
歴史は繰り返す。
そんな言葉があるが、なるほど。
目の前の少女は、正に戦闘の申し子だ。そう思える程に、一瞬の間に起きた出来事は濃かった。
俺に駆けてくる舞姫。片手に握られた出力兵装は、人類の希望とも言える出力の命気を放ち、最強の戦士たる少女の力を一身に引き受ける。
正直に言おう。
いまの俺がすべてを注ぎ込んでも、どう抗っても勝てないと。仮に、カナリアの補助があったとしても、到底及ばない。10人かそこら集めた戦力では、束ねてもムダなのだ。
始めて、負けを認めよう。勝負としては、俺の敗北だ。
「でも、救うのは俺たちだ!」
向かってくる暴力に、一切の恐怖はない。なんて言えばウソになるだろうが、それでも、落ち着いている自分がいる。
この先起きることをある程度予測しているからだろうか? いや、ありえない。
これからやることは、一度のミスで命取り。まして、重要な役目を握っているのは俺ではないと来た。
「怖くありませんとか、精神に異常があるな」
眼前に迫る、最強の剣。
だいじょうぶ……ここに至るまで、何度も何度も見てきた。シミュレーションしてきた動きのはずだ。
であるのなら。
「ここが命の張りどころ……ってね」
真っ正面から突っ込んでくる舞姫相手に、抑えられる時間は何秒あるだろうか? 一秒? 二秒? わからない……けど、無茶を通さないと、救いたいものは救えない!
いまだ構えを取ることもなく、駆けてくる舞姫をただ見据える。
本来なら全力で命気を撃ち込むか逃走経路を探りたいところだが、んな時間もない。そも、逃げていては勝てないのだ。
「ちゃんと自分とも向き合わないと、ダメだよな」
<世界>に意識を向け、夢を思い出す。
多くの人たちが勝手な夢を見続けている、傍観の世界。俺一人、夢の中には入らずに周りを眺めていた光景を。
「他人の世界を背負ってはいられない」
それは傲慢だ。
誰もが、深く考えずにできると言うのだ。
あいつならできると、やってくれると。勝手な思いを押し付けて、持ち上げて、あとは頼むと勝手な願いを口にする。それを全部、黙って受け入れるバカがいることをわかっているのに。
誰もいないところで泣いている姿を何度見たか……何度、声をかけようとしてやめたことか。
だって、それは俺の仕事ではなかったから。そう思い込んで、舞姫と深く関わるのを避けてきたから。
あいつの背負っているモノを考えると、吐きそうになる。
自分の<世界>が抱えている本当の姿を嫌でも思い出す。
束ねて繋ぐ本来の在り方を見せつけられる。
「思い込んでいたのは、俺の方だった……誰かの世界を背負うってのも、いまなら悪くないって言える。言ってみせる!」
今度はあいつ一人にはやらせない。
「おまえはもう、一人で世界を救わなくていい。一人、最強の戦士として立たなくていい。ただの、普通の女の子として、ちょっとはその在り方を知ってくれ」
言葉を紡ぐ間も、<世界>の光が体から溢れていく。
光はいつものように体を覆うこともなければ、剣の形を取ることもない。ただ、周りへと流れていく。
その光景を、俺以外の誰も認識していないだろう。
なぜなら、これは攻撃でもなければ、防御の術でもない。俺の感情の揺らぎでしかないのだから。<世界>が揺らぎに応えるとか、どうなっているのやら。
「どうでもいいか。これが<世界>だというのなら受け入れるだけ」
これまでの、漠然とした在り方ではなく、夢の光景も全部ひっくるめて受け入れる! 俺の<世界>は、束ねて繋ぎ、そして背負うための<世界>だ!
「俺は俺に託してくれた奴らのためにも、俺の願いのためにも、他人の想いを背負うことから、もう逃げはしない! 誰かのための犠牲なんてとか考えてたけど、もう自分とも、人からも逃げやしない!」
やっと、やっとらしくなってきたじゃないか。
そんな声が、奥底から聞こえた気がした。誰の声でもない、よく知っているあの声は――。
「ハッ、ようやくだ」
――おはよう、俺。
「消えて!」
頭上から、舞姫の出力兵装が振り下ろされる。
が、<世界>がひとりでに回り出したいまなら、きっと。
「いつまでも重い荷物背負ってんなよバカ娘!」
流れ出ていた光が右手に収束し、普段とは比べものにならない命気が拳を包む。
これなら!
「受け止めるくらいは、いけるだろッ!?」
タイミングを見計らい、剣の腹に拳を撃ち込む。
「ぐっ……ああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」
右手に尋常ではない負荷がかかるが、ここで押し負ければそれこそ無意味だ! ここで――いまここで、舞姫を救う!
三人。
たった三人ぶんの、小さな力。それでも、束ねた力を形だけ纏うのではなく、受け止めて背負うのなら!
一度くらいの奇跡、起こしてみせろ!!
「最強の一撃の一回や二回、逸らしてみせろクソ野郎がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
拳が悲鳴をあげながらも、舞姫の握る剣と拮抗する。
あと僅か。それだけ保てば――。
『ナイスよぉ、自由くん』
『これだからチート共は……でも、よくやったと思うわよ』
短くも、労いの声が聞こえる。
直後、先ほどとは違うビルから、再び赤い閃光が走る。
「来た!」
狙いは寸分違わず、舞姫の首へと流れていき――。
「甘いって、わからないかな?」
「なにを――がはっ!?」
冷えた声が耳に届いたと思ったときには、土手っ腹を蹴られ、後方へと吹き飛ばされていた。
「ってぇ……ちょっとでも威力が弱かったら剣で真っ二つだったぞ、クソが!」
悪態をつきつつも、再度舞姫に向け駆け出す。
腹やら右腕に激痛が走るが、知ったことではない。ここまできて失敗されては困る!
「こんな奴らに、人間は負けないよ」
抑揚のない声と共に振られた剣が、光弾を弾く。
何度試そうと、結果は変わらないと見せつけるかのように、悠然と。何発も撃ってみるものの、ことごとくが潰される。
けれど!
「ここまでぜんぶ、想定内なんだよ!」
わかっていた。信じていた。
おまえなら、必ずかわしてくると。だから俺は、こうして行動できるんだ。
右腕はまだ痛む。
次、酷使すれば当分はまともな攻撃をできないだろう。でもいいさ。なんてったて、
「次はないからな!」
斬々のときと同じではなく、今回は勝ち目が見えているからこその特攻。だいじょうぶ。
「おまえは俺が、救ってやるからな」
「どうしておまえは、私にそこまでこだわるの! おまえは、おまえが一番嫌い!」
俺は俺のこと、嫌いって程じゃないんだけどな。
「舞姫、おまえの抱え込んで離さない性格、嫌いだよ。でもそれ以上に」
振り返りざまに構え直す瞬間を狙って、最も脆い一瞬を突く。
「あっ……」
脆いと言っても相手は最強だ。
その最強の武器を弾き飛ばすとなれば、代償も大きかったな……。
舞姫の出力兵装を彼女の手から奪おうと弾いた際、右腕からビキリ、と嫌な音が響く。痛みはすぐに腕を駆け巡り、右腕に力が入らなくなった。
「右腕一本でおまえの間合いに入れるなら、存外安いのかもしれないけどな」
武器を取り除いた舞姫に、その動揺した瞳が決意を固めたそれに代わる前に、俺は彼女に肉薄する。
この身はもうボロボロで、限界で。
ほんと、よくここまで付き合ってくれた。
「舞姫……偽りの世界は終わりだ」
傷つけたくない。
傷つけさせたくない。そんな矛盾を成立させて救うには、これが最適解だった。
「おまえとの約束……かなえ、ない……とな」
彼女を包むように抱き込み、首筋に触れる。
「こ、のぉっ!」
腕の中で暴れだすが、もう知ったことか。腹に響くような痛みが繰り出されようと、額に遠慮のない拳が打ち込まれようと、やっと届いたこの手を離すくらいなら、死んだ方がマシだ。
「こんな状態になってまで、まだ踏ん張る気かよ! おまえが、おまえ一人だけが傷ついて、頑張って、そうすることだけが、救うってことじゃないだろ!」
口でなにを言っても、聞こえないのはわかっている。むしろ、痛い時間が続くだけだと、本能で悟っている。
でも!
「いい加減にしろ!」
頭を振りかぶり、彼女の額目掛けて振り下ろす!
「いっだぁ……!? このバカ娘が!」
「なんなのこいつ! 普通の<アンノウン>となにか違う!」
涙目になりながらこちらを睨んでくるが、表情に諦めはない。この拘束を解き、俺を倒そうとする意志が溢れ出ている。
そんなんだから……。
「本当は誰かがいなくなるのも、傷つくのも怖いくせに、隠してどうするんだよ! 素直になれよ! ただ一言、助けてって言えばいいだろ!? 他人に助けを求めるのが、そんなにもおかしいことか!?」
違う、違う。違う違う違う!
「人は弱いんだよ、舞姫。どうしようもなく、人は脆く弱い。ひとつの言葉に傷つけられるし、一度の攻撃で吹き飛ぶ」
思えば、こいつには何度ぶっ潰されたか。
ほたるや他の四天王連中には、なんど言葉という刃を向けられたか。でも、助けを求めれば必ず協力してくれた。
「いまのおまえの周りにいるのは仲間じゃない。おまえが独善的に守りたいだけの人形だ!」
残酷だな、とは思う。
守りたいと常日頃から言っていた少女に向ける言葉じゃないとは自覚している。けど、こいつの歪みに付き合うなら、この程度の言葉は言わないと気が済まない。
「おまえの在り方は、酷く歪んでいる。でも、決して愚かでもないし、むしろ美しいと、そう感じた」
ウソじゃない。
こいつの笑顔も、仕草も、意志も、尊くて、綺麗だった。
「だから、もういいだろう? 一人で背負うのは、これっきりにしてくれ。これからは、俺がおまえの隣に立つから。背負ってるもんは、俺たち神奈川の生徒にも、壱弥やカナリナ、嫌がるだろうけど、千種と明日葉にもわけてくれ……おまえの世界も、救わせてくれよ」
答えなんて、求めていない。
いまはまだ、必要ない。
「だから、これも言わないでおく」
おまえに向ける、もうひとつの感情。
天河舞姫という少女にのみ向けることのできる、たったひとつの感情。これを言うのも、答えを得るのも、先の未来でいいだろう。
「舞姫。いまはまだ、仲間として、おまえの世界を守ってみせるよ」
後ろ首にあるコードを指先で確認し、それを摘み、破壊する。
パキン、と小さな破砕音が響き、暴れる舞姫の様子に変化が訪れ出す。
「なに、これ……?」
しばらく自分の目を交互に塞いだりしながら、辺りを見渡す舞姫。
その、久々に見る純粋な瞳が、俺の前で留まる。
不思議そうに、理解できなそうに。けれど、目尻に涙を浮かべながら。
「みゆ、ちん……?」
戸惑いながらも、彼女は俺の名前を口にする。
この光景を、何度思い描いて来たことか。再び名前を呼ばれるこのときを、どれだけ待っていたか。
「おはよう、舞姫。さっそくだが、おまえに話したいことが、いくつもある」
これで、俺と舞姫の歯車は再び噛み合ったのだろう――彼女との約束は、ここからが本番だ。
なにせ、この小さな女の子の世界を、守っていかなければならないのだから。
この先、たとえ俺が、どんな結末に至るとしても――。
とりあえず最初に言っておこう。
すまない。もっと盛り上げようかと思ったけど、後半で盛り上げる場面がいくつかあるので中盤ではこれで許してください。
次はあれかな? 保護者がどう出るかなんだが……うん、自由くんの運命はいかに?
では、また次回。