いつもの世界を守るために   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
この決着まではできるだけ早めの更新を目指したいと思います。
では、どうぞ。


争う力と意志

 拳に感じる、確かな感触。

 いつ以来だろう?

「仲間を殴るってのは、やっぱ辛い……なんて、言ってられないか」

 この先、弱音なんて吐いていられない。

 それでは負ける。次なんてないのだから、悠長にはしていられない。

 相手は舞姫……作戦通りに事は進まないだろう。理想なんて簡単にぶっ壊されるかもしれない。でも、最後の結果だけは変えさせない!

 でもなぁ……。

「やっぱ、開幕蹴り飛ばすのはよくなかったな」

 いや、作戦上の問題はなにもないのだが。むしろかなりいい部類ではある。

 よくないってのは、

「こいつ、さっきの<アンノウン>か!」

 舞姫から発せられる俺に対しての殺意だ。

 正直、いまだかつてここまでの殺意を彼女から向けられた覚えはない。怒りならわかる。だが、明確な殺意となると……。

「やばいな、作戦大成功じゃねえか」

 つい軽口でも言ってないと、やってられん。

 作戦もこれからだしな。なにが成功か。

「どうせ<世界>を使おうと歪められて映るんだろうし、そのまま俺の<世界>を認識させることはできない。ってことは、舞姫は俺だとわからず攻撃してくるよな」

 なら、あたかも俺の動きを真似る<アンノウン>が存在することになる。少なくとも、天羽自由という男を知っている相手からは、そう判断されても不思議じゃない。

 ついでに、目の前にいるのは天河舞姫――もっとも優しく、そして強くあろうとする少女。仲間思いで、なんでも一人でやり遂げようとして、こんなバカのために泣いてくれた、うちのお姫さま。

「おまえがまた、みゆちんと重なるっていうなら!」

 着地と同時に駆け出す、か……そうだよな。

 いまやその顔は、怒りで歪んでいる。これから振るわれるであろう拳は、蹴りは、俺を容易く破壊するだろう。

 詰まるところ、虎の尾を踏んだということだ。

「やれやれ……どうしてこう、自分を賭けた作戦しか浮かばなかったんだか」

 特大の死が迫る。

 遊びなんかじゃない。喧嘩なんかじゃない。彼女にとってみれば、これは戦だ。俺の考えと、彼女の考えは違うのだから、一歩間違えれば待つのは当然死だ。

「おまえたちが! おまえたちさえいなければ、みゆちんだって側に居てくれたはずなのに!」

 そんな中でも、彼女の声だけは耳によく届く。

「おおりゃあ――ッ!」

 咆哮と共に放たれる拳が、避けた先にいた無人機を粉々に粉砕する。

 命気を全身に纏った舞姫は、最早その体自体が兵器だ。

 俺を狙う拳が、脚が、回避する度に近くを飛行する無人機や人型を模した自律兵器を破壊していく。

「おまえたちが居たせいで!」

 わかってはいたつもりだ。

 彼女は目の前で仲間を失った。

 自分の知らないところで、友を失っていたことを後になって知ったはずだ。

 カナリア、コウスケ、多くの東京の生徒たち。

 彼ら、彼女らの無念、恐怖、絶望を、いまも小さな体ひとつで受け止めているのだろう。

 その無念を思えば、彼女が膝をつくどころか、衰えすら見せないのだと。

「やっぱり、この辺りにあったんだ」

 小さな声で呟くと同時、建物の屋上から、なにかを引き抜く。

「あれは――舞姫の大剣?」

 なぜ、とは訊かない。言葉を発したところで無駄だ。

「さっきの大型を足止めするのに投げちゃったんだよね。でも、あって良かったよ。おかげで、おまえをぶっ叩ける!」

 なるほど、あいつらしい。

 けれど以前ピンチなのは変わりなし、か。むしろ獲物を回収されたおかげでやりづらくなったぞ、これは。

「おいで。もうここには私一人しかいないけど、人間の力、見せてあげる」

 大層な自信で。

 だが、迂闊に飛び込めるかっての。こっちはまともに遣り合おうとすれば、本当に小細工なしで特攻かます他ない。こんな構えられてるところに一方的に仕掛けるのはなしだ。理想的なのは、膠着状態に持ち込める隙、もしくは一撃であるとき。

「来ないの? なら、こっちから行くよ!」

 舞姫は大剣を大きく振りかぶり、槍投げの要領で投擲してきた!?

「剣じゃねえのかそれは!」

 ええい、アホかこいつ!

 などと悪態をつく暇もない。

 流星と見紛う速度で飛来した大剣をかろうじて避けたものの、軌道周辺に発せられる衝撃で遠くへと吹き飛ばされる。

「ガッ……くそっ!」

 背中を強く打った気がするが、気にしてはいられない。

 すぐさま飛び起きると、剣を持ち上げた舞姫が再びこちらを捉える。

「チッ、反撃するどころか、避けるので精一杯かよ!」

 わかってはいたが、こうも手がつけられないとは……元より力の差はあるが、打ち合えない程とは思っていなかった。

「――っと!?」

 片手で振るわれる大剣が頭上を掠めるのを確認しつつ、急いでその場から逃れる。

 直後。

「ああああああああああっっ!!」

 迸る命気を拳に集中させ、激情のままに大地に叩きつけられる。

 荒ぶる命気は円を成すように地面を砕き、周囲に群がる自律兵器ごと、地形を変えた……。

「はあ、はあ……」

 肩を上下させつつも、こちら向ける視線を外さない舞姫。

 その瞳の中には、いまも俺が浮かんでいる。逃す気はない。許す気もない。その表れだろう。

「でもな、俺だって逃すつもりはないし、負けるつもりもないぞ」

 幸いにも、避けることに専念していればなんとかなるだろう。しかし、追い詰めるには決定的なまでに攻撃威力が足りないときた。

 やはり<世界>云々よりも命気か。

 光を手に宿し、<世界>を拡張していく。長く、そして馴染むようにゆっくりと。

 やがて出来上がったのは、いつものように長大に拡張した光ではなく、打ち合うのに適した長さの光。

「出力兵装相手にはこれくらいでいいだろ」

 目には目を。大剣には光剣を、ってね。いままでは長距離でしか使ってこなかったが、こんな細かい変化までできるようになってたとは。

「っし、行くか!」

 舞姫と競うため、全身に命気を張り巡らせる。

 あいつに大した戦闘技術はない。あるのは何者も正面から倒しきる、絶対的な力のみだ。

 攻略するには、いい目標じゃねえか。

「おまえたちは、この世界を壊すだけだ。だから、倒す!」

「通じてないだろうけど、俺も負けられない!」

 互いに地面を踏み抜き、真っ向から迎え撃つ形で駆け出す。

「この一撃で!」

「俺はおまえを超えなきゃいけない!」

 初撃。

 互いの全力を乗せた一撃が揮われる。

 それはごく自然で。

 <世界>と、命気で全力を持って受け止めた大剣は、俺と舞姫との間で止まった――かのように見えた。

 だが、数瞬のうちに、思い知らされることになった。

「はあぁっ!』

 大剣を受け止めていたはずの光剣から、不快な音が漏れ出す。

 本来なら有りえない、嫌な音……なにが起きているかなんて、わかりきったことだ。

「ウソだろ……命気と命気で削りあいとか、笑えないんだよ!」

 緩みかけた意識を再度集中させ、対抗しようとしたが、間に合わない!?

「おまえが、おまえたちが人類の敵であると言うのなら、私は何度だって、おまえたちの前に立ちはだかる! そして、みんなを守ってみせる!!」

 確固たる意志を舞姫が示した直後。

 これまで以上の命気を乗せた大剣が、光剣を打ち砕いた……。

 拮抗しているだなんて、とんでもない。

 自らの<世界>と共に創り上げてきた力は、目の前の更なる力の前に屈した……。

 大剣を振り切り、再度構えを取り直す舞姫。その直線上にいる俺にはわかってしまう。次の一撃は、いかなる防御も無意味であると。

 言わば、決意。

 この一撃には、舞姫の想いが込められているのだと、本能が察している。

 故に必滅。

 ああ、そうだった。前に誰かが、舞姫を例えて、呼んでいたな。

 曰く、力の1号と。

「もっともな呼び名だ。まさに力の権化……今回も打ち勝つには及びませんでしたよっと」

 間も無く振るわれるだろう。

 どうあれ、この身を砕くには十分過ぎる。防ぐ手立ても、まあ、ない。

 でもいいさ。

「なんだかんだで時間は稼いだからな。後、頼むぞ」

 聞こえているかなんて知ったことではない。

 そもそも、どこにいるのすら定かではないのだ。でも、それは問題にならない。なぜなら、<世界>が告げているのだから。

 あいつらの居場所を、意志を!

「さあ、託すぜ」

「この世界に、おまえたちの居場所はない!」

 舞姫が剣を振りかざした瞬間。

 背後にそびえるビルから、赤い光弾が放たれた――。


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