いつもの世界を守るために   作:alnas

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そろそろ完結に向けてペースを上げていきたいalnasです。
しかし上げたところでまだ物語は半分程度の進み具合……のはず。
あれ? これ終わるのだろうか? などと思いつつ書き続けております。
それはそうと、やっとこさ50回目の投稿です。
まだまだ続いていきますが、ここまで付き合ってくれている読者の皆様、ありがとうございます。
今後も完結までよろしくお願いします。
では、どうぞ。


抵抗するのは一人じゃない

 ギリギリのところで復活したはいいが、さて、どう戦おう?

 勝利条件こそ見えたものの、どう足掻いても死ぬ。それほどまでに、普段の俺と舞姫には力量差というものがある。

 こうして移動している最中も、舞姫へ近づいているのかと思うと恐怖に呑まれそうになるってのに……。

「前なら喜んで戦えたんだが、人は変わるものだな」

 いいことだったはずだが、今になってあの頃を欲しがるとか、バカげてる。捨てた過去だ。置いてきた罪だ。この後に及んであの俺を頼るだと? そんなこと、舞姫相手のためだとしても口にできるわけがない。

 舞姫を助けるために、舞姫を殺したかった俺を模倣する?

 ありえない。

「隠谷、おまえ殺傷力のない射撃兵装持ってたりしない?」

「元気ねぇ、自由くんも……呆れるわ」

 俺の質問などお構いなしに自分の感想を優先する隠谷。先ほどまで立てなかった人間が並走していれば疑問にも思うか。して、答えはどうなんですかね? と視線で促すと。

「残念、持ってないわ。でも、あの子なら持ってるかも」

 あの子――もう一人いると言う協力者か。友達らしいが、こいつの言葉から連想できる奴を、俺は一人だけ知っている。同時に、忌々しい記憶が蘇ってくるが仕方ない。

 そのときはそのときと割り切ろう。

 いずれにせよ、協力していくれるぶんにはありがたいのだ。

 たとえ、過去になにがあったとしても。

「真っ正面から打ち合うには、神奈川全生徒ぶんほどの繋がりが必要なんだが、さすがにそんなバカげた人数は集まんないよな?」

「自由くん、バカなの? 敵地のど真中でそれだけの仲間を集めろって? あのねぇ、ここに二人いるだけ奇跡と思ってくれないと困るのよ」

「すまん……確かにその通りだ」

 期待はしていないが、この計算高い女が力を貸してくれるとあっては、なにか用意されているものかと期待するのも仕方のないことでだな。

 あの頃はどうやって正面切って殴ろうとしていたのやら。

 違うな。殴れないから負けてたのか。

「あと少しで着くわよ。平気かしらぁ?」

「たぶんな。次、あいつの前に出たら舞姫の反応こそ気になるが、生きてたのかおまえ! って感じで怒ってくれれば、当たらないはずのもんも当たるだろ。さっきの言葉通りなら、俺を見ていると苛つくみたいだしな」

 そうだ。俺との――正確には、<アンノウン>に見えているはずの俺との戦闘では、やけに感情が前に出ていた。

 怒りは視界を狭くする。

 選択をなくす。

 動きを単調にさせる。

『私だって悲しいのに……泣くのだって、我慢してるのに……どうして、どうしておまえが、みゆちんを思い出させるの!!』

 あの泣き叫ぶ声。

 怒りと悲しみに染まった表情。

 残酷なことに、あの顔をもう一度見なければならない。そうでもしないと、隙なんて作れない。

 天河舞姫とは、それほどまでに強大で強力なのだ。

 対する俺だって、怪我が治ったわけじゃない。動けているのだって、隠谷との繋がりがあってこそだ。ここにもう一人分上乗せしたところで、結果はわかりきっている。

「あと賭けれるモノがあるとすれば、俺の<世界>くらいか……」

 束ねて繋ぐ。

 事実として、それだけの<世界>だ。けれど、繋ぐってのは果たして、戦闘面だけでいいのだろうか? 俺の<世界>の本当の在り方ってのは、そうなのだろうか?

 試したことはないが、前にも一度、応用を効かせることはできた。

 でも、あのときは形を、出力の流れを変えたに過ぎない。今回変えるのは、<世界>そのものを歪ませかねない。だとしても――。

「決めたことを投げ出すわけにはいかないよな」

 前方で破砕音が鳴り響く。

 小さな影が、空中でいいように動き回り、無人機を破壊していく。

「見つけたわぁ。相変わらずかわいいわね、姫ちゃん」

「おまえにはやらんぞ」

「ふふっ、そうねぇ。自由くんと一緒にいる方が姫ちゃんも楽しいだろうし、遠慮しておくわ。前みたいに乙女の美顔を殴られたくはないし」

 お互いに昔のこととはいえ、争った記憶は抜けないらしい。つい当たりがキツくなってしまう。

「ったく……今回は気をつけろよ」

「はぁい」

 あてにならない返事を聞き流し、戦場の真っ只中を目指す。

 その間も隠谷は端末をいじっているが、なにをしているのだろうか。

「なあ、隱谷――」

「ちょっと待って。うんうん、よし、上々。自由くん、朗報よ」

 そう言い、端末をこちらに見せてくる。

「射撃兵装、持ってきてるみたい」

 画面に表示されているのは、一件のメール。

 兵装の有無と射撃ポイントについての内容が細かく記されていた。

「ひとまず、このポイントまで向かいましょうかぁ」

「……了解」

 歩調を合わせ、隠谷に続く。

 この先に待ち受けているだろう人物。想像していた奴であろうことが、段々と明確になってきた。あのアドレス……随分と前だが、一度だけ目にしたことがある。

 かつて、紫ノ宮晶と呼ばれる生徒が神奈川にはいた。彼――彼女の端末に登録されていた、一人の少女のアドレス。

 もっとも、この辺りの関係性はややこしく、紫ノ宮晶という名前の人物は神奈川にはいないし、最初、俺たちの前に姿を現したときはまったく別の名前を名乗っていた二人組。その片割れの偽っていた名は、よく知る人物のモノだったりもした。

 ああ、頭が痛い。

「やっぱりかよ。あのクソ女」

 自然と出る悪態を、どうにも止められそうにない。

 ビルの屋上から戦況を眺める少女。

 背にかかるくらいの髪をひとつに纏めた、優しそうな風貌の少女だ。双眼鏡を片手に、フェンスに肘をついている。

「お待たせぇ」

「おっそいわよ! こっちはよりにもよってあいつを救う手助けをするとか言うあんたの要望を聞かなきゃいけないし、危険地帯に来なきゃいけないし! 

「まあまあ、いいじゃない。ここで姫ちゃんを助けておけば、ほたるちゃんとも仲直りできるかもしれないわよぉ」

 出会って早々に迫る少女に悪魔のような笑みを浮かべながら提案する元四天王。

 詳しく知っているわけではないが、ああ。その言葉は彼女によく効くのだろうな。なんてったって、ほたる大好き人間だし。歪みさえ治してくれれば、独占欲さえなければ、なんて思うのは欲張りだな。

「やるわよ。やればいいんでしょう? ほたるちゃんとはまたお話したいし……」

 うまく丸め込まれている気がする。

 隱谷も俺に向けてウインクしてくるし。

「でも、なんであんたのフォローなんてしなくちゃいけないわけ?」

「そう言いながらも繋がりは感じているぞ、依藤真里香」

「なっ!? そ、そそそそんなわけないでしょ!」

 依藤真里香。

 ある事件を引き起こし、舞姫を殺そうとした女。神奈川の大多数にそんな認識をされているのだが、実は幼い日の舞姫とほたるの友人らしい。だが、知っての通りあの二人の仲の良さだ。あの空間に割って入るには、それはもう歪むしかないだろう。むしろ、どちらか片方をいない者とした方が早い。

 なんて考えが浮かんでも不思議ではない。

「嫉妬失恋女がまさかパーティーに参加してくるとは。隱谷が協力してくれた時点で、おまえが居るだろうことも予想できてはいたが、当たっちまうのかぁ」

「すっごく嫌そうな顔しないでもらえる? 繋がり、いますぐにぶち切るわよ?」

「人の<世界>見くびりすぎだ。そう簡単に断てるわけねえだろ。舞姫と決着つけるまではつきあってもらうぞ」

 一度は捕えたはずの二人。

 気づけば脱走されていたが、当時の舞姫とほたるは笑ってたな。

 生きていればまた会える。仲直りもできる。

 舞姫はそう思うに違いない。

「あいつらの手前、潰すわけにも、舞姫自身に殺させるわけにもいかないな。やっぱ、何人増えようと適任は俺か」

 都合のいい話だ。

「隱谷、依藤。時間がないから作戦だけ話すぞ。おまえらがいまは敵じゃないってのも俺にはわかる。だから、悪いが勝手に信じさせてもらうから、そのつもりで。いいか、まず――」

 結局、最後の最後に嫌われるのは俺ではないか。

 無人機を倒し続ける舞姫の姿を横目に、早口で作戦を伝えていく。

「――と、これで決着だ。おまえの技術なら外さないだろうし、隠谷の<世界>があれば察知されない」

「あとは、あんたがどれだけうまく戦えるかよ。元神奈川次席さん?」

「懐かしいな、その席次で呼ばれるの。とっくに誰かさんに譲っちまったし、今更だ」

 いまその席次を名乗れるとしたら、頑丈さくらいだろう。

「さって、始めますか」

「やれやれ。前に一度企てたとは言え、人生二度も無謀な作戦を遂行しないといけないなんて……」

「本当ねぇ。姫ちゃんを攫うのも殺すのも、まして救うのも……難易度高すぎるわぁ」

 愚痴を言いつつも、立ち上がる女子二人。

 俺が動き出せば、すぐに作戦を開始してくれるだろう。なんせ、俺の<世界>の保証つきだ。

「じゃあね、自由くん。成功しようと失敗しようと、またしばらく会わないだろうから言っておくわ。姫ちゃんによろしくね」

「あと、ほたるちゃんにもね! ちゃんとこっちの活躍も伝えなさいよ! 絶対、絶対だから!」

「……はいよ」

 そうだな。こいつらとは、ここでお別れだ。

 舞姫を救おうと、過去にいざこざのある二人をすぐに会わせることはできない。だから、時間が必要なのだ。

「おまえらのことは、舞姫にも、ほたるにも伝えるさ。だから、次まで生きてろよ」

 本来なら、伝える必要も、気にすることすらしなくていいのだろう。

 だが、舞姫のことを思うなら――。

「きっと、全員笑って受け入れるんだろうな」

 互いに視線を合わせることもなく、俺たちは別々の方向へ向かって走りだす。

 もう言いたいことは伝えた。

 ここからは、ただ戦うのみだと、わかっているから。

 放っておけば、東京にも増援が来るだろう。そうでなくとも、このままでは舞姫一人に制圧されかねないのだ。

「正真正銘、これがラストチャンス」

 次の襲撃時まで舞姫を残せば、勝機は薄れる。

 いや、違うな。

 そんなに長く、俺が待てるはずがない!

「だから戦おうぜ、舞姫」

 彼女が空中に飛び出した瞬間を狙い、俺もビルの屋上から空中に身を投げる。

 目の前の無人機の撃破をしようとしている彼女は、俺なんて意識していなかっただろう。

「なっ……!?」

 必然、完全に虚を突いた不意打ち。

 あの頃でさえなかった、初めての成功例。

「おまえは救うさ。だからとりあえず、喧嘩しようぜ」

 引き絞った拳が、真っ直ぐに放たれる。

 舞姫は防御しようと咄嗟の反応を見せるが、さすがに遅い!

 回避も許さない一撃が舞姫をまともに捉え、盛大な音を立てながら小さな体が舞っていく。

「これで一発……軽いが仕方ねえ。入っただけ僥倖だ」

 自由落下していく中、吹き飛ばされながらもこちらに視線を向けたままの舞姫と目が合う。浮かぶ感情は、驚きと、怒り。

 こりゃ、着地と同時に突っ込んで来るな……。

 頼むぞ、今度こそ、あいつを救わせてくれよな。

 拳を握りながら、俺は自分の<世界>に願うしかなかった。

 




さて、おまえら誰だよ! って方もいるでしょう。
そんな方々には原作を読んでもらうか、そのうち投稿されるだろうこの作品の過去を描いた番外編でも待っていてください。
過去編では姫さんと自由の関係や今回出てきた二人との事件も書こうかなと思ってるので。
それと、姫さんと呼び方が変わりましたね自由くん。だが殴ったのは許さん。キミは姫さんのおもちゃでしょ? と思った人も多そうですね。
では、また次回。

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