更新期間を空けてしまって申し訳ありません。メールや感想に励まされ無事復活しました。
今回から本編に戻ります。
そして、近々この話の過去編。自由と姫さんの出会った頃の話にも触れていこうかと思います。
では、どうぞ。
周囲で残っている生徒は姫さんただ一人。
どうやら、他の生徒は確保したか、逃げられたらしい。
「姫さんが逃がしたのかな?」
ちょっと目を離すと一人でぜんぶやろうとして……いや、目を離した俺が悪いな。どういうわけかほたるもいねえし。
保護者が誰一人としていないとか、どうなってんだよ。
まあ、いいか。
いたらいたで警戒しないといけないわけだし? 四天王がいないのは非常に都合がいい。
「個人としては、あいつの傍には誰かがいるべきだとは思うけど、なっ!」
降りてからずっと立ち止まっていたせいか、とうとう姫さんが仕掛けてきた。
「そりゃ、止まってればいい的だよな」
「このっ!」
ああ、怖い怖い……彼女と真正面からやりあうとかいつぶりだって話なのに、最初っから容赦なしとか、泣ける。
「でも、救う約束だしな」
もう遠い日に交わした――いや、交わしたとも言えない程度の約束だとしても。
「俺にとっては、おまえだけがすべてだからな」
だから逃げない。
ここで救う。
たとえどのような結果を招こうとも、姫さんだけはこの作戦で帰してみせる!
「こいつ、いつものと違う?」
何度目かになる姫さんから繰り出される拳を避けると、そんな声が聞こえた。
俺からは、いまの姿がどのように映ってるかわからないからなんとも言えないが、フォルムからして違うのは明白。であれば、気づかれるのも時間の問題か。
こちらに照準を定め迫ってくる姫さんの猛攻をかいくぐりつつ応戦するも、こっちの攻撃はまるで当たりそうにない。
一発一発が必殺だからなぁ……当たらなければどうってことないが、かすりでもすれば動きが鈍るだろう。いまはまだ、彼女の一撃を貰うわけにはいかない。
まだ、早すぎる。
体を囮にしてっつー作戦はもう懲りたし、どうにか普通に戦えるまでの条件を整えたいところなんだが。
「いかんせん、ここにいるのって俺と姫さんと無人機だけってのもついてない。ああ、いや。誰かいても都市に残ってる奴らじゃ俺は認識されないか……無意味な……」
「ちょこまかと!」
「っと、蹴りは危ないって。霞なら頭割られてんぞ、いまの」
言ったところで眼前に迫る少女は止まらない。当然だ、世界を脅かす敵が、すぐそこにいるのだから。守るべき人がいる限り姫さんが止まるはずない!
「無人機なら、盾にしても問題ないかな」
むしろ足場にして、一度姫さんと距離を取らないと。
けれど、そうバカ正直に打ち合うわけにもいかないわけで。
「よっと。悪いな、ケガすんなよ!」
手近な無人機を掴み、姫さんへと投擲する。
無論、この程度でどうにかなる相手ではないので、投げつけてすぐ、無人機の影に隠れるように走り出す。
その際、他の無人機も姫さんに向け蹴り込むのを忘れない。
「仲間を投げてきた!?」
姫さんからそんな声が聞こえるが、向こうから見たらそう映るのは道理か。
「つくづく、無駄な誤解を与える世界だな」
さっさとこんな世界からは連れ出して、本物を見せてやらないと!
そのためにも、
「俺はおまえには負けられないんだよ」
初めての勝ちをとるしかないってのが最低勝利条件なんでな。
突っ込ませた無人機は、眼前で当然のごとく破壊された。けど――。
「もらった!」
――大振りの隙は見逃さねえ!
<世界>も十分に使えるいまなら、姫さんにすら届く!
「遅いよ」
拳を放った矢先、視線を鋭くした姫さんは、獰猛な笑みをこちらに向ける。直後、眼前にはなかったはずの彼女の脚が迫り――俺はその脚を、半ば直感的に察していた。
「あのときとは違う。勝ちたいだけじゃない。おまえを救って、勝つんだ!」
過去の贖罪。
消えない過ち。
無駄な反抗心。
そんなものは関係なく、俺は俺の手で、この世界を救う。俺の約束した、世界を!
「おまえが必要だ、姫さん。その世界には、おまえが!」
上体を倒しこむようにして、脚の下を通り抜ける。
拳はすでに放ってしまったので、追撃はせず、そのまま彼女の後方へと滑り、背後をとる。
「はあっ!」
命気で強化した状態での撃ち込み。
完全に視覚外からの一撃。
だが、
「っと!? この動き……っ、この!」
関係なく避けてしまうのが姫さんなんだ。
「危ない、危ない。<アンノウン>にも動ける個体がいるなんて……早く倒しちゃわないと」
一息つき、構え直す姫さん。
どうやら、狙いを俺に絞ったと見える。予定通りって言えればいいんだが。
「こっからが正念場ってな」
残念ながら、<世界>の出力があまりに弱い。
この戦場には意志の繋がる相手が誰もいないのだがら。姫さんを止めるような出力は出ないどころか、普段戦ってるとき程出るかも怪しい。
……戦う前から詰みに近いってのも斬新だ。
「まあ、引き受けたのは俺個人の意志だから、仕方ないけどさ」
こうなることは予期していた。
姫さんから殺意を向けられることも、わかっていた。
「それでも押し通したい意地があるなら、曲げれねえよなぁ……あーあ、約束なんて簡単にするもんじゃないわ」
でも、単純に。
もう一度戦える機会があるってことだけは、幸運なのかもな。なんて、思ってしまう。
勝ち目なんて見えないのに。
いままでと違って、完璧に殺しに来てるのに。
それでも、なぜか笑ってしまう自分がいる。
「これまでの<アンノウン>と違う個体……こいつ、強い」
強いと思われたのなら結構。
本当は雑魚のうちの一体と思われているうちに片付けたかったけど、そりゃ望みすぎか。
姫さんが駆け出し、俺へと迫る。
「さって、あんときの決着、つけようか!」
頭を切り替えろ。
救うのは変わらない。けど、飢えろ。渇望しろ! 思い出せ!
目の前にいるのが誰なのかを。
右に回り、一歩下がり。ぎりぎりの間合いで彼女の猛攻をかわし続ける。目を離せば見失う。だから、この限界まで近づいた間合いの中で!
「そうだ」
思想は幼いこどものそれだった。
気に食わなかった。そんな思いもある。
「うおっ……」
拳が頬の真横を通っていく。
突きが制服を貫き、脇腹をかする。
浅い傷が徐々に増えていく。けれど、構いはしない。
「ただ純粋に、勝ちたかった」
あの頃抱えていた、握りつぶした、純粋な想い。
「俺はただ、一度でいいから、おまえの横に、並びたかった」
撃ち込んでくる拳を、踵で蹴り落とす。
「つうっ……!?」
「いつもいつも、一人でなんでもしようとするおまえを見ているのは嫌だった!」
瞬転し、回し蹴りを放つ。
体重を乗せた一撃だったが、腕をクロスさせ防ぐ姫さん。ただ、さすがに彼女の体がぐらつく。
「いまだ!」
この好機を逃してはいけない。
少しでも勝ち筋を増やすには、一瞬の隙すら見逃せない!
「うん、強いね……でも、私、ちょっと怒ってるから」
着地と同時に走り出した俺の耳に、つぶやく程度の声が届く。
いや、待てよ。どうして、つぶやきが聞こえる!?
「私だって悲しいのに……泣くのだって、我慢してるのに……どうして、どうしておまえが、みゆちんを思い出させるの!!」
泣き叫ぶ声が、すぐ目の前で響く。
視線をすぐ下にやれば、詰め寄って姫さんの顔があった。
目尻から涙をこぼす、顔が。
「あ――」
集中が切れたのが、自分でもわかった。
「あああああああああああああああああああああああっっ!!!」
引き絞った拳が、怒りと悲しみに染まる表情が、よく見える。彼女の泣き顔を見たのは、あのとき以来か……。
ったく、ずるいよなぁ。
「そんな顔されたら、戦意削がれるっつーの」
必滅の一撃が、俺へと届くまでが、すべてスローモーションに映る。
かわせないし、防げない。とうに逃げる気もない。
「泣いてる相手に、俺のために泣いてくれる奴に、これ以上無理させられるかよ」
ああ、いいんだ。
このまま、受け入れてやるさ。
最後まで、ぶれぶれの覚悟だったな……情けないしかっこ悪い。
「やっぱ、俺に世界は救えないか」
直後、体は抗えない力に弾き飛ばされ、状況を確認する時間も与えられず、怒号のような破砕音が後に耳に届いた。
「がっ……はあ、はあ…………」
どこを殴られたのだろう? どこに飛ばされたんだろう?
辺りを確認しようと体を起こそうとするが、激痛が全身を駆け巡る……こりゃ、参ったな。
「いっつ……背中切ったかな……ああ、でも意識はしっかりしてるわ」
命気操作の賜物だな。
反射的に防御へ意識が向いたか。防げないまでも、威力を殺したらしい。
生き延びた、ってことか……まぬけな話だ。
意志は折られ、動けもしない。
「せめて誰か繋がりがあればなぁ」
自分の<世界>のことはあらかた理解している。せめて、せめて数人でも人がいれば、この状況からでも動けるってのに。
「いや、やめよう。あの顔を見せられて、どうしろってんだよ」
結局、あいつを泣かせてるのは俺じゃないか。
このまま、眠ってしまえば。
ぜんぶ投げ打っちまえば、楽になれるんだから――。
うん、やってしまった。
どこからか「第3部、完!」とか聞こえてきそうだ。
ここから次に繋げるには……はい、頑張ります。久々に更新したかと思ったらこれかよ! とか言わないで! 一対一で戦ったら諦めなくてもこうなりますから!
久々でしたが、更新は続けます。次はすぐにできるといいなぁ。
ということで、また次回。