いつもの世界を守るために   作:alnas

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みなさん、お久しぶりです、alnasです。
他の作品を書いてたら結構日にちが経ってしまいました。ですが、こうしてまた更新できました!
そろそろ姫さんたちとの平和な日々を書きたい……どこかで番外編挟もうかしら? なんて思ったりもしています。
では、どうぞ!


その再開は開幕

 よくないことが起きた。

 さっきから、無人機の破壊されるスピードが落ちてきてる。

 間違いようもない。

 この場の最大戦力が、殲滅を止めてでもするべきことを見つけたのだ。

「コウスケ、こっからは忙しなくなる。覚悟しとけよ」

「わかってますよ!」

 だが、俺もコウスケも、重々承知している。

 最早、誰が相手だろうと止まることは許されない。ここでの戦闘が長引けば、本格的に厳しい。

「お兄、見つけた!」

 などと思っていれば、海上を一人の少女が駆けてくる。

 過ごした時間は多くないが、それでも、見間違えるわけがない。

「コウスケ、最大速で駆け抜けろ」

「りょうか――っと!?」

 動き出した途端、急停止するように動きが止まる。

「逃がすわけないっしょ」

「……だよな」

 こちらに銃口を向けた明日葉が、笑みを浮かべながら発砲してきたのだ。コウスケが止めてなければ、落ちてたかもな。

 やっぱ、飛び道具相手はやりづらい。おまけに、今回の相手は正真正銘、人間だ。本気でやるわけにはいかない。

 だからこそ、強引に行かせてもらう!

「ど、どうします?」

「そう慌てんなよ。代表一人ならなんとかなる。動き回って撹乱させてやろうぜ」

「できますかね?」

「さぁねぇ……空は俺の管轄外なんで、なんとも言えん」

 ぶっちゃけ、コウスケ頼みだ。

 こいつの判断に託すし、頼る他ない。俺にも空を駆けるような力があればいいんだが、生憎と、夢から持って起きたのは他者を束ね繋げる<世界>のみ。『デュアル』にはなれなかったわけだ。

「たまに、羨ましく思うよ」

「はい?」

「いや、なんでもない。空中戦は任せる」

「うっす! 東京上位の力、見せてやりますよ!」

 聞こえていたのか、いないのか。力強く頷くコウスケを尻目に、明日葉を確認する。銃口は依然、こちらに向いたまま。周りの無人機にはまるで興味がなさげだ。その目には、強い意志が窺える。

「みゆちんも、カナちゃんもいなくなって……あんたたち、絶対に許さないから」

 普段からは考えもよらない言葉が彼女の口から漏れた。

 他者を思いやる気持ち。

 独断行動が多いため、そうした想いは人より薄いのかと思っていたんだが、いやはや。まさか、誰かのために戦場に立ってこようとは……手強いな。

 それに、撃ってこない千種の動向も気になる。どうにかして一発撃たせて、居場所を割らないと。

「さて、どっちからがいいかな」

 明日葉か、千種か。

 いや――明日葉の相手をしてればいずれ千種が入ってくるか。

 決まりだ。

「コウスケ、行くぞ!」

「了解!」

 今度は邪魔させねぇ!

 明日葉の、周りにいる生徒から放たれるすべての弾丸に向け、腕を振る。

 <世界>には<世界>を。

 宿る光が、円形に広がりすべての弾を呑み込む。

「すっげ……」

「何事も応用さ。自分の<世界>だって、観察してればわかることがある」

 うちの次席の言葉は偉大だねぇ。っと、んなことしてる場合じゃねえや。弾丸潰したところで、生徒は健在なんだから。

 けど、いい隙にはなった!

 光ってのは目くらましにもなるからな。

「ん? 光が、効いてる?」

 ――<世界>は歪んで見えてないってことか? 俺たちは<アンノウン>に見えてるってのに?

 引っかかるな。

「最高っすわ!」

 考えごとをしていると、前から大きな声が聞こえて来る。

 いつの間にかサングラスをつけていたコウスケは、テンションが上がってますと言わんばかりに速度を上げて空を駆けていく。

 うん、おまえも大概アホだな。間違いない。

「お兄、そっち行った! 絶対逃がさないで!」

 だが、緊張感が一気に戻ってきた。

 明日葉の奴、厄介な指示をしてくれたな!

 だが、おかげで位置が特定できるってものだ。けど弾けないと意味ないんだよな。あいつの弾なんて目視で見切れるかしら。

 ここでコウスケに避けろと言ったところで、千種は確実に当ててくる。

 できるのは、撃ってきた弾を捌く程度。

「やっと狙撃手を相手取る恐怖がわかってきたな」

 こりゃ明日葉も心強いわけだ。

「コウスケ、前だけ見てろ。そんで、全力で進め。あとは――俺がどうにかしてやる」

「マジっすか……?」

 振り向き、後ろにいる俺を見てくるコウスケ。

「マジだ。ほれ、前向いてろ」

 じゃないと事故る。

「ったく、自由さんの無茶には付き合いきれないっすよ」

「そう言うなよ。まだまだ付き合ってもらうから」

「……了解!」

 俺のチームに欲しくなる程の常識人だな、コウスケは。あと、話がわかる。はあ、うちのチームにもこいつみたいのがいればなぁ……。

 ため息をついた直後、視界の端でなにかが光った。

「――っ!?」

 半ば反射的に動いた手は、<世界>を顕現させ、俺の眼前まで迫っていた弾丸をかろうじて消し去った。

「なっ……」

 声が出なかった。いや、出せなかった。

 いまのは、一歩間違えば詰んでた……寒気が止まらない……まだ、心臓が早鐘のように鳴り止まない。

「自由さん!?」

「……ああ、だいじょうぶ…………傷ひとつ負ってないよ」

 これを平然と弾いてた斬々の神経はどうなってんだって話だ。確か、掴み取ってたよな、あいつ。化け物はこれだから。

「心底驚いたけど、おかげで大体の居場所は掴めた」

 できれば、ここで追ってこれない程度にはしておきたいところだが……。

 迷っていると、せっかくの機会を見失う。後ろには、いまも明日葉が俺たちを追って来ている。前には、冷静にこちらを狙う千種。

 これでも傷つけないように頑張ったつもりだったが。

「許せ、おまえら」

 ひときわ大きな輝きを放つ手を海ほたるに向ける。あそこには、まだ多くの生徒が、千種が、壱弥いる。当然だ、まだ無人機は残っているんだから。だからこそ、ひとつに固まってくれている。

 少しでいい。決定的な隙が作れるのなら!

 行動に移す瞬間、遠くにいるはずの千種と、目が合った気がした。まさかな。

 右手を引き絞り、海ほたるへと一気に伸ばす。投擲するように、鋭く早く、撃ち込む!

 イメージ通り、光は俺の手から離れ、一発の弾となって飛んでいく。

「重ねてすまん。弾丸ってより、飛ぶ斬撃になったわ」

 直後、海ほたるを真横に一線、光が通り抜けた。同時に、俺の顔の真横を、一筋の光が通り抜けていく。いや、光なんかじゃない。あれ、弾丸か!

 鋭い痛みを感じたと思うと、頬から血が流れ出した。

「千種……おまえ、やっぱり凄いよ」

 途端、海ほたるの半分が景観からズレる。そのまま、轟音を立てながら崩れていく。

「自由さん!?」

「安心しろ、コウスケ。人を狙った攻撃じゃない。千種も壱弥も、あの瓦礫に埋もれたりはしないさ。ちょとした時間稼ぎで済む……はずだ」

「いまの間はなんですか!」

「うるさい、知るか! 俺だって心配には心配なんだよ! 助けたかったらとっとと進め!」

 これじゃ完全に<アンノウン>だぜ、俺ら。

 防衛拠点潰しに来たように映ったろうな……とりあえずの足止めになればいいが。

「お兄!」

 後方から、叫び声が聞こえる。

 明日葉……。

「こいつらァッ!」

 怒気と殺気の込もった眼。だが、何事かを話しているところを見ると、やはり千種は無事らしい。なによりだ。それさえわかれば、もうこの場所に用はない。

 そう、用はなかった。

「これ以上邪魔、しないでくれ」

 背後に向け、思い切り腕を振り抜く。

「チッ!」

 明日葉が、仕掛けてさえこなければ、このまま逃げるように東京に向かうはずだった。

 跳んできた彼女は、寸前で俺の攻撃を避けると、綺麗に海に着地した。

 殺気は1ミリも緩んでないものの、顔には安堵の表情を浮かべている。あとは、俺たちを倒すだけって感じか。

「しゃーなしか」

 ちょいと心苦しいが、目的のために手段は選べない。

「コウスケ――」

 どうせ、明日葉たちには聞こえない。

 この先の作戦を伝えると、

「マジっすか!?」

「おまえ、マジっすかしか言わねえな。なんなの、それで会話成立すると思ってるの?」

「成立しないんすか?」

 そこで驚くなよ成立しないよおまえだけだよ成立してると思ってるの。と、内心では多くの言葉が浮かぶが、そのすべてを飲み込む。

「おまえ……まあ、いいけどさ。作戦は伝えたからな?」

「お好きにどうぞ」

 なら、行きますか。一度っきりだが、付き合ってやろうじゃないの。

「明日葉、こっからは本気でおまえの相手をしてやるよ!」

 聞こえないかもしれないが、こういうのは雰囲気も大事だ。いまから戦ってやろうっていう姿を見せないとな。

「よっと」

 コウスケの乗る出力兵装から飛び降り、直下にいる明日葉へと向かっていく。

 タイミング、タイミング。ミスれば死ぬぞ、俺。

「はっ、一騎打ちとか、上等じゃん」

 舌なめずりをしつつ、明日葉はしっかりと俺に照準を合わせてくる。

 俺も、負けてはいられない!

 極光を伴い、彼女との距離が詰まるのを待つ。

「お兄の仇!」

「まだ死んでないよね!?」

 こんなときだってのに、お兄ちゃんの扱い雑すぎだろ!

 放たれる弾丸を、的確に弾いていく。

 そして――。

「お遊びもここまでだ、明日葉!」

 弾幕を掻い潜り、海面まで僅かとなったとき。

 <世界>のよる光を、力任せに海へと叩きつける!

「……っ、この――へ!?」

 自分に直撃するものと思い、防御しようとしたのだろう。間抜けな声を出した明日葉は、しかし。次の瞬間に海が荒れたのを察し、すぐさま後退の姿勢を見せた。

 正解だ。

 大きく水しぶきが上がり、俺と明日葉を水の壁が阻む。

「自由さん!」

「ナイスタイミング!」

 あわや、海に体を沈めそうになったところ、低空飛行してきたコウスケが俺をキャッチ。すぐさま出力兵装の後方へと回る。

「このまま一気にいくぞ!」

「任せてくださいよ!」

 チラリと後方を確認すると、ポカーンとしていた顔を一転。激怒したように顔を赤くした明日葉が何事かを叫びながら地団駄を踏んでいた。

 バカ正直に相手してられるか。おまえはさっさと千種の方に行け。

 元より、俺たちの作戦に各都市の代表と本気でやりあう気はないのだ。要するに、明日葉とは一騎打ちをする気になった、と思わせれば良かった。俺に集中することにより、他の動きを視界に捉えさせるのも制限できるからな。

「あーあ、こりゃ救い出してからが大変だな。なあ、コウスケ」

「にしては、嬉しそうっすけど?」

「そうか? まあ、そうかもな。だって、あいつらとバカやれる日が待ってるんだぜ?」

「それは、最高ですね!」

 時間は食ったが、間に合うだろ。このまま東京まで、最高速で行ってくれるはずだ。千種も、壱弥も、明日葉だって。誰一人、大怪我は負わせてないはず。こっちもそれは同じだ。

 最低限――海ほたるは半壊したが――の被害で切り抜けれた。

「向こうはどうなってるかな?」

「そう簡単にはいかないと思いますけど」

「だよな。コウスケ、おまえは東京に着いたらすぐさまカナリアのフォローに回れ」

「いいんすか?」

 いいもなにもない。第一、これは俺の希望だ。

「おまえ、入ってこれるの? それに、やり合いたいって思えるか?」

 訊くと、首を左右に振られた。全力で。

 うん、全うな判断だな。

「だろ? だから、カナリアの方に行け。こっちは俺が止めとく」

「わかりました、お願いしますよ?」

「ああ。今回は初めて勝ちにいこうかな、とか思ってるんでね」

 千種や明日葉との戦闘で怪我しなくてよかった。下手打ってやられてたらこれからがきついところだったからな。

 さて、東京だ。

 すでに空は赤く染まり、大小多くの無人機が飛んでいる。もっとも数が多いのは、カナリアを捕縛したときの小型機。

 地面には、何十機もの小型機が突き刺さっていた。

「始まってたか。コウスケ、ありがとな」

「はい?」

「ここまででいいよ。おまえは小型機に混じってカナリアのところまで行け」

「でも――」

「いいよ。危ない中、来てくれて助かった。こっからは余波とかもあるし、どうなるか想像つかねえからさ、行ってくれ」

 相手取るのは実に2年ぶり。俺自体、どうなってるかわからん。

 そこにコウスケまで連れてけないし、なにかの拍子に運び途中にやられるかもしれない。

「行け、コウスケ」

「……わかりました。あと、頼んますよ!」

「おう、任せときな!」

 適当なビルの上に下ろしてもらい、コウスケと別れる。

 眼下を見下ろすと、まだ何人もの生徒が無人機と戦っていた。その中の一人。

 制服の上に外套を纏った少女。二つに括られた色素の薄い髪をなびかせながら、無人機を次々と破壊していく。

 神奈川第一位、都市首席、関東圏の個人ランキング一位。

「久々に会えたな、姫さん」

 何日ぶりだろうか? やっと会えた姫さんの姿を視界に収めながら、それでもなお、気合を入れ直す。

 今日、最大最強の敵に会ったからだ。

 そして、俺は屋上から一歩を踏み出し、空中を落下していく。

 命気操作できなかったら、これだけで致命傷だな。なんて考えながら、轟音を響かせながら着地を果たした。

 その、目の前には。

 狙ってか偶然か、銀色の少女が立っていた。

 降り立つと、少女は敵意を剥き出しにして構える。

 ああ、やっぱり敵だよな、俺は。でも、いいんだ。前のように笑ってはいられない。終われない夢の中にいたところで、掴めるものはひとつもない。

 楽しくて、平和を保っていた偽物の世界に浸るくらいなら。

「俺は今日も世界を救うよ、姫さん。そのために、あんたは俺が倒す――天河舞姫!」

 決意するように、構えた少女に向け言葉にする。

 ずっと隣にあった、少女の笑顔を取り戻すために。




やっと出てきたよ姫さん。
はてさて、次からどうなるやら……代表たちとの直接対決しっかり書けよって思った方、申し訳ない。流す形になってしまいましたわ。
まあ、これからですからね!
では、また次回。

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