いつもの世界を守るために   作:alnas

37 / 72
戦いに向けて

 さて、たらふく肉と野菜を詰め込んだし、あとは帰って朝になる頃には三都市一斉に進撃、と。

「みゆちん、そろそろ帰ろっか」

「ああ。でも少し待って」

 姫さんとほたるに待っていてもらい、千種のもとへといく。

「おまえらも帰るところか?」

 バイクにまたがる明日葉を見て、確認をとる。

「そうだけど。なに、おまえも千葉来る? 千葉はいいぞ、千葉は」

「千葉愛すごいな、おまえ」

 俺は神奈川にそこまで思い入れないから、余計に千種のことがわからん。暮らす場所に拘る人たちがいるのは知っている。でも、わからない。

「で、みゆちんはなんの用?」

 明日葉がはやくしてよねーと目で訴えてくるので、あまり時間をかけるわけにはいかなそうだ。

「おまえたちに頼みたいことがある」

「頼みたいこと?」

「面倒事なら聞かないし、厄介事も聞かないぞ」

 ほとんど聞く気ないって言ってますよね、うん。

「おまえらを巻き込むつもりはないよ。ただ、そうだな。いまの作戦だと、ちょっと俺が動きづらいんだよね」

「はい?」

 明日、作戦が始まれば俺は海の中。決めに入るまでは身を隠しておかなければならない。それではダメなのだ。もしもがあってはいけない。

「だからさ、明日の作戦、俺をおまえらの方に置いてくれない?」

「意味わかんないんだけど」

 まあ、だよな。

 それでも、納得してもらうしかない。

「悪い、理由は言えない」

「……前回の襲撃者。あれ、片方はおまえの姉だったよな?」

 千種が何事でもないかのように言葉にする。

「天羽、気になってるのはそれか?」

「一度見てるし、話してもいれば、そりゃ気づかれるか」

 まいったな。作戦前にいらん心配をさせたくもなかったんだが。

 あくまで俺の問題……対人戦で戦力になる奴らはほとんど不在。

「今回も出てくるってわけか。なら仕方ないな」

「ちょ、お兄?」

「天羽、いいぞ。俺たちは一切関わらないけど、おまえがそうしたいなら、そうすれば?」

 千種と明日葉が言い合いを始めるが、どうにも、そっちにも人員を割かないとって話に変わってきている。

 そうじゃないんだよなぁ。

「千葉も東京も神奈川も、倒すべき敵が他にいるだろ。不確定な奴らに振り回されるなよ」

「はあ? みゆちんだってそっち相手にしようとしてるじゃん! あたしらも出ないとみゆちん負けるだけだよ!」

「知ってるさ。でもな、ここでおまえらまで出張ったりなんかしたら、<アンノウン>を倒せなくなる。だから、斬々が出て来れば、俺のチームで事に当たる。だからどうか、頼む」

 こんな風に人に頼むのは久しぶりだ。

「お兄……」

「はあ……お兄ちゃん他人の面倒事に首突っ込むの嫌いだからさ。乗り込むのは好きにしろ。俺は話がいまいち見えてないけど、前回のが出てきたら任せる」

 迷惑かけますよ、本当に。

 でも、被害は与えないから、協力してくれ。千種なら、知っていても大丈夫だろうから。

「明日葉、少し外してくれないか?」

「なんで?」

「千葉で指揮をとってるのは千種だろ? 話しておきたい事がある」

 理由はこじつけだけれど、話しておかないといけないのは確かなんだ。

 千種に目で合図を送ると察したようで。

「ってことらしい。すぐに済むから待ってろ」

 あ、こっちが移動するんですねわかります。

「天羽」

「はいよ」

 二人して人気のない方へと歩いていく。

「それで?」

 周りに話しを聞いている人がいないかを千種が確認し終えたので、口を開く。

「俺の姉、斬々は極めて異常だ」

「だろうな。あんな強いのを見たのは初めてだ」

「そうじゃない。強さじゃなく、<世界>の異質さ、とでも言えばいいんだろうか」

 あいつにしかできない、夢にも見なかっただろう世界。

「……天羽斬々は、<アンノウン>と同調できる。そして、どういうわけか、昔から<アンノウン>側につきたがっていたんだ。あいつの<世界>は、まるでこの世界を敵に回すようだった」

「敵と同調するための<世界>なんてあるのか?」

「あるんだろうな」

「それ、管理局は知ってたのかよ」

 管理局の人にも問い合わせたことがある。

 もう二年くらい前だろうか。あいつの情報を得るために、管理局に天羽斬々の情報を渡せと。だが――。

「管理局のデータベースに、あいつの情報は存在しない」

「は? いや、そのはずはないだろ」

 俺たちの情報は、コールドスリープを経験している者であれば管理局が持っていないはずがない。

 そもそも、管理局の連中が斬々を知っているかすら怪しい。

「実際に聞いた俺が言ってるんだ。いまの管理局に、向こうの<世界>を知ってる者はいない。だから余計に、あいつとはしっかり話す必要がある気がするんだ」

「俺に教えたのは、なんのためだ?」

「知っていた方がいいだろうと思ってさ。千種なら、なんか抱え込ませてもいい感じに答えを探してくれそうだからさ」

「まるで、死にに行くような言葉だな」

「失礼な。そんなつもりはねえよ。ただ家族で話し合うだけさ」

 その結果がどうなるかなんてわからないが、いいじゃないか。あいつとは一度、きっちりと話さないといけないのだから。

 これで出てこなかったらどうしようなぁ……。

 というか、斬々以外が出てきても微妙な空気になりそうだ。でも、そんなことにはなってくれないんだろう。

「なあ、天羽」

「なんだ?」

「おまえがそこまでするのって、やっぱり天河のため?」

 いきなりのことに、俺はすぐさま答えが浮かばなかった。いや、質問の意味がわからなかった、というのが正しいのかもしれない。

「……誰のためかなんて、考えたこともなかったな」

「本気で言ってんの、それ」

 ウソだろ、みたいな反応するのやめろよ。

「普段の俺って、おまえらからどう思われてんだか……」

「天河親衛隊、もしくは保護者」

「変態どもと同じと見なされてるとは心外だ。千種、いまここでおまえの記憶を消してやろうか」

「やめろって。おまえじゃ俺が勝てない」

 おちょくってるのか、こいつは!

 掴みかかりたい衝動を押さえ込み、なんとか手を伸ばすのはやめておいた。

 いい、いつかまたフレンドリーファイアの機会を待つさ。

「で、真面目なところ、やっぱり天河のためなわけ?」

「俺は姫さんを抑え込むための存在なんだよ、管理局側からしたらな。俺からすれば……そうだな。妹みたいなものなのかねぇ。なんだろう、よくわからん」

 俺が姫さんに抱いている感情。

 出会ったころは嫌悪。では、いまはいったいなんなのだろう。

 姫さんにはもうほたるがいる。俺が支えるまでもなく、支えはあるんだ。ならば、あとは彼女の余波を抑え込むだけが俺の役目。

「ああ、そういうことか」

「なに、もしかして答え出ちゃったの?」

「ランキングなんて気にしなくてよくなったんだ。守りたいものだけ守る。そのためだけに俺はいる」

「守りたいものを守るためだけに、か」

 壱弥に聞かれてたら、無責任だって怒られてたかもな。

 幸い、ここには俺たちしかいないわけだが。

「守りたいものを守るのが間違いだなんて言わせない。守れないくらいなら、それだけを守ってた方がまだマシだろう?」

「って言いつつ、おまえは全部守ろうって言うタイプじゃないの」

「――さあね。もういいだろう、明日は頼むよ」

 千種のことだ。

 もしかしたら、話しを聞かせておけば、いずれ本当になにかを掴むかもしれない。

「斬々、おまえの見ている世界は、俺と違うとでも言うのか?」

 弱々しく吐かれた言葉は、夜の空へと消えていった。

 しばらく歩くと、姫さんとほたるが待ってくれていた。そういや、少しって言ってから結構話しこんじまったな。

「悪い、遅くなった」

「なんのお話してきたの?」

 姫さんが聞いてくるが、事後承諾でオッケーくれるかしら?

「明日の作戦、千葉の方に入れてもらうことになった。もしものことを想定してね。ほら、地上にもある程度戦えて、かつ足止めできる人員も必要だと思うのよ」

「そっか。かすみんが納得してるなら、私は任せるよ。じゃあ、帰ろっか」

 いなくても、たいじょうぶ。

 姫さんなら、確実に倒してくれるよな。だから俺は――。

 

 

 

 日が昇る少し前。

 作戦開始まで僅かとなった頃、俺はチームメイトである二人を連れて千葉へと来ていた。

「あ〜ほんとに寝てる〜」

 大きな目で俺がおぶっている奴を見続ける眼目。

 人の背中で寝息を立てている月夜。

 なんとかこいつらだけは連れてこれた俺を褒めて欲しい。この問題児メンバーばかりのチーム、はやく変えてくれないかな。うん、無理だろうな。

「それで〜千葉から出発するんだよね?」

「ああ。出てこないならいいが、出てきたら頼むぞ。徹底的にボコっていい。話せる程度に倒しとけ」

「りょうか〜い」

 どうせ<アンノウン>を潰してくのはみんながやってくれるし、こっちが相手にするのは思考し続ける怖い相手。

「あ、来たね。って、そっちの二人は?」

 明日葉が二人の少女を確認し、疑問を浮かべた。

「俺チームメイトだ。飛び入りで悪いが、こいつらも載せてくれ」

「まあ、いいけど。背負ってる子、だいじょうぶなの?」

「平気だ。うちに弱い奴とかいないんで。いるのは問題児と問題児と問題児と……あと問題児が何名かだけだから」

「それ、問題児しかいないんじゃ……ううん、やめとく。絶対聞きたくない」

 聞かせてやろうか? 実際にあった死にかけた話を百ほど。

「さって、んじゃ行くぞ」

 千葉勢は全員乗り込んでいるのか、千種が声をかけてくる。

「頼むな」

「はいよ。さっさと乗れ。明日葉ちゃんも準備して」

「はーい」

 明日葉が乗り込んでいくので、俺たちも続く。

 通されたのは、千種と明日葉がいる部屋。

「このまま海ほたるまで行くぞ。ついたら、俺たちは別行動。いいな」

 眼目が頷くので、あとは待つだけだ。さて、始まるぞ。

『今度の敵は強い。俺の油断と傲慢のせいで、カナリアやコウスケたち、大切な仲間が命を失うところだった。後日、しかるべき責任をとる。だが、今一度……あと一度だけ、俺に力を貸してほしい』

「誰だ、これは」

「あはは、ウケる〜」

『朱雀くん、ちょっと変わった?』

『カナリアの通訳がないと、よくわからんな』

 千種、明日葉、姫さんにほたる。全員が好き勝手な感想をこぼす。

「まあ、いままでの壱弥とは大違いだよな。周りを頼って、しかも力を貸してほしい、なんて言われちゃ、東京の奴らはやる気満々ってところかね」

 いい傾向だ。どうかこのまま、壱弥をいい方向へと導いてやってくれ。

 そのためにも、カナリアの復活が望ましい。

『神奈川、天河』

『オッケー!』

 壱弥の声に、姫さんの元気な声が響く。

『千葉』

「はいよ」

 目の前では、やる気のなさそうにしている千種が、これまた面倒そうに答えた。

『目標は、防衛拠点、海ほたるを占拠している超大型<アンノウン>! 東京の――いや。三都市の意地を見せてやる! 総員、突撃!』

 ふう……さて、じゃあ俺たちの戦いを始めようか。

 俺は俺の、守りたいモノのために。そのためであるなら、俺は今日、あいつを消してでも、答えを得る。

『みゆちん、今日も世界を救おっか』

 神奈川を出る前に、姫さんに言われた言葉を思い出す。そう、世界。

 いままで見てきた世界を、俺の暮らす日常のために。

「姫さん、どうか頼んだよ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。