いつもの世界を守るために   作:alnas

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中々話に進展がなく、ぽんぽん進んでいけ!って方には申し訳ないです。
ゆっくり進んで行く作品ですが、そのぶんキャラ同士の絡みなどは濃くしていきたいと思っているので! 成分を補給できる話にしていきたいですね。
あとはオリ展開の部分もありますし。
では、どうぞ!


もうすぐ決戦です

 いよいよ、明日の朝には決戦か。

 代表同士の会議では壱弥の案を採用し、俺たちはみな、各都市に戻っての準備ということになった。

 ほたるが事前に青生に連絡をしているので、いまごろ神奈川では多くの生徒が準備を始めてくれているだろう。

「しっかし、三都市でまともな連携とるなんて初なんじゃないか?」

「だろうな。私がまだ裏で活動していた頃も、そんな話は聞かなかった」

 神奈川までの帰り道。

 作戦の大まかな動きを再確認しながら、ほたるに話しかける。結構面倒な過去を持つほたるだが、それゆえに、各都市の過去の事情にも割と詳しい。その彼女がないと言ったのだから、やはり初なのだ。

「いいことだと思うよ! みんなで協力しあえるのって、悪いことじゃないでしょ?」

「そうだな、ヒメはいつも正しい」

 即座に同意するほたる。

 なるほど、これが友人の姿か。俺の知ってる形とはだいぶ違うな。だが、これで成り立っているのだから、不思議な絆だよなぁ。

 俺も、そういう奴がいたらなにか変わるのかね。

「みゆちん?」

 下から覗き込むようにしてくる姫さん。

 いつも思うが、この子の距離感は近すぎる。なんなの、新手のプレッシャーの与え方なの?

「……どうかした?」

「ううん。なんかみゆちん、つまらなそうだったから、どうかしたのかなって」

「そんな風に見えたのか?」

「あれ? 私の勘違い?」

 二人して首を傾げるが、この場合答えを持っているのは俺なんだろう。しかし困る。姫さんはたまに直感レベルで物事を口にするし、行動を起こす。

 だとしたら、意外とバカにできないのだ。彼女の言葉というのは。

「ヒメ、あまり心配するな。天羽は繊細にはできていない」

 酷いな。俺だって繊細な部分くらいある。

「そう? みゆちんって抱え込みやすいタイプだよ?」

「ヒメが言うのならそうなんだろうな。それで、なにかあったのか?」

「いや、おまえは手のひら返しが早いよ? なんなの、むしろおまえの中でなにがあったのか聞きたいわ」

 俺への意見すら変えさせるとか驚きすぎます。

 いや、むしろこのまま毎回姫さんを通していけば俺に対しての暴言減らないかしら。

 ……やめとこう。変な方向に話が進みそうだし。

「それで、みゆちん?」

「なにかあるでしょって目はやめろ。今回は本当に、なにも心あたりがない」

 いつもとくにないけど、とも付け足したいがそこは自重しよう。

「えー、ないの?」

 ごろん、と人の膝に頭を乗っけてくる。

 でかい猫だな。いや、猫は好きだけどさ。

 またたびでもあれば垂らしてやるんだが……なんも持ってないのよね。

「クッ、操舵手なんてしていなければ私がヒメにいくらでも膝枕してあげれるのに……なぜ、なぜ…………」

 こっちはこっちで通常運転か。

「なあ、姫猫さんや」

「ん〜?」

 ああ、もうさっきの質問は気にしてないのね。

 気の移り変わり具合も相まって、猫にしか見えない。本人も猫の部分否定しなかったしな。

「今回の勝率って、どれくらいだろ」

「十割」

「……そりゃ心強い」

 考える素振りも見せずに口にするとは、恐れ入ったよ。

「みゆちん、心配事?」

「まあな」

 姫さんの頭に手を置きながら、何度か左右に撫でる。

「ふあ〜」

 欠伸すんなよ、こっちにも移るだろうが。

 案の定、姫さんに続いて欠伸をした。わかっていたことだが、疲れが取れてない。当然か、夜から朝まで移動と戦闘を続けて、作戦まで立ててきたんだ。

「疲れてない方がおかしいか。ほれ、姫さんは寝てろ」

「え? でも、それだとほたるちゃんもみゆちんも……」

「平気だ。私は寝れるときにしっかりとし睡眠を取ってるし、準備が終わってから寝ればいい」

 さすがすぎるっていうか、寝溜めでもしてるのか、ほたるは。

「俺はまあ、徹夜とかよくしてるし。それより、明日は姫さんに重要な役割が振られてんだから、一番に休みを取らないといけないのは姫さんだぞ。わかったら寝てろ」

 これで本気が出せませんでした、とか寝過ごしましたなんてことになったら終わりだ。

 押し付けるようで悪いが、世界にはこの子が必要なのだ。それも、もっとも過酷で残酷な、世界の最前線に。

「納得したら寝なさい。納得できないなら、納得できるように努めろ」

「それ、選択肢ひとつしかないよね?」

「元からひとつしか用意する気ないしな」

 とりあえず姫さんの肩を掴み、いまの状態を維持する。

 立つなよ? まじで立つなよ?

 この状況で姫さんに力込められたら、俺の腕が負荷に耐えられん。骨が砕けるまである。

「じゃあ、ごめんね二人とも。なにか起きたら、すぐに起こしてね」

 などとこちらの心配を無視し、すぐに寝息を立て始めた。

「ふう……今日も死線を超えたな」

 超大型とか、いまの一瞬の攻防に比べたらなんともねえな、うん。

「よくやってくれた」

 今後はほたるか。

 姫さんを起こさないようにゆっくり振り向くと、彼女と目が合った。

「ヒメはぜんぶ自分が、という思いが強いから。こういうときに休んでもらわないと、いつか倒れそうだ」

「同感だ。人に好かれやすいのは認めるし、カリスマ性もある。でも、どこか危うい」

 問題が起きれば、強敵が現れれば、一人でなんとかするだろう。これは予想ではなく、断言できる。

 もし、戦えない人たちが周りに残っていたら……きっと、全員が逃げ切るまで戦うはずだ。

 他の仲間にすら、一緒に逃げろとまで言うかもしれない。

「だから、誰かがついててやらないと。特に、理解のある友人兼保護者さまとかな」

「ああ、そうだな。側にいるさ。もう、その手を離すことはないと誓ったのだから。絶対に、絶対に」

 だいじょうぶ。この二人なら、だいじょうぶ。

 しっかし、どうするかね、この猫。

 つい膝で寝かしちまったが、身動き取れないって窮屈だわ。

「でも起こすのもなぁ……」

 どうせもうすぐ神奈川につくだろ。

 その間の、あともう少しだけ、我慢するか。

 

 

 

 神奈川に戻って来れば、予想通り、かなりの準備が整っていた。

 これなら俺一人が手伝ったところで、あまり意味はないだろうか? うん、意味ないだろう。工科の人たちの手伝いとかできないし。一般人レベルでならできるが、ここではそれだと邪魔でしかない。

「明日は詰みまで持ってかないと出番なさそうだよなぁ」

「作戦は聞いただけだけど、そのようだね。でも、僕らなんかさらになさそうだ」

 隣にいる銀呼は、残念そうに呟いた。

「そっか。おまえも柘榴も、明日は操縦室に篭ってんだもんな。そりゃ、戦うの大好きなおまえは暇で仕方ないな」

「そっちも対して変わらないだろ」

 確かに……。

 俺も明日は見てるだけになりそうだ。

「でも、それは何事もなく事が進めばだがな」

「ん? いま、なにか言ったかい?」

「いや、なにも。それよか、明日は早いんだろ? 俺、ちょっと休んでくる」

「了解した。姫殿たちにも伝えておこう」

 もうじき準備も終わるだろう。なら、俺のすることは少しでもいざってときの戦力を増やしておくことだ。

 眼目は気分屋に過ぎる。そもそも、今日会えるかも微妙だ。

「ここは、そうだな」

 ちょいと危険だが、行くか。

 しばし進み、和風の屋敷風寮を訪れる。

「おや、誰かと思えば、これは珍しい奴が」

「おうおう寮母さんよ、ずいぶんなあいさつだな」

 どこか大雑把そうな女性が出迎えてくれたが、彼女がいるということは、十中八九、彼女も今日は寮内にいるな。

「あいつはどうしてる?」

「どこかの誰かが中々来ないもんだから、たまに『がっかりですわ』と言ってますよ。ほんと、オレが面倒なんだからたまには来てもらわないと。お嬢だってそのうちキレますよ」

「それは洒落にならねえな……でも、あんたら全員連絡入れても反応しないじゃねえか」

 俺のチームの一時期の戦闘出席率なんか堂々の0だからな、0。

 かくいう俺も出てないんだが。

「そういえば、最近は代表になっただかで忙しいとか」

「そこそこな。……いや、訂正する。かなりだ、かなり。おかしなくらい忙しい日々になったぞちくしょう」

「ハハッ、そりゃ最高だっつーんですよ!」

「最悪だってーの。はあ……」

 ため息ばかり漏れてるからな、ここ数日は。

 これから会う奴も、「がっかりですわ」とか言われてるようじゃ、出会い頭に斬られそうだ。

「んじゃ、行きますか」

「あいよ」

 とりあえずは、話でもするか。

 明日に向けて、一人でも多く、うちのチームからも人を出さないと。

 たぶん、この神奈川でもっとも早い一撃を放てるだろう少女を――。


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