いつもの世界を守るために   作:alnas

32 / 72
なにやら核心に迫ってきましたな。
この話はどう展開していくやら……。


その失敗は可能性

 実際に見るとデカイな。

 海ほたるの近くまで来た俺たちは、資料と映像のみでしか見ていなかった敵を、始めて間近で確認した。

「ほぉ……確かにあれはでかいな」

「だねー。じゃあ、まずは一発!」

「はい?」

 後ろで不穏な言葉が聞こえたので振り向けば、姫さんはすでに倒す気満々のようで。

「……今度はアクアラインまで狙うなよ?」

「うん、だいじょうぶだいじょうぶ!」

 いつものように、大剣にヒビが入り、パキパキと音を立てながら分解されていく。それらが濃密な命気で繋ぎ留められ、さらに巨大な刃を形作った。

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 横一線。

 姫さんお得意の力任せの一撃が炸裂するが、雑魚の小型<アンノウン>を消滅させるだけで、肝心の超大型には効いていないようだ。

 だが、効かないまでも、こちらに気づいたようで、球根のような巨体が回転する。

 にしても、固いな……まさか姫さんの攻撃が通らないとは。

 回復しているなら、前例はあった。だが、その回復スピードを上回る威力で消滅させるほどの一撃だぞ? 防御に特化したタイプの個体なのか、それとも――。

「どちらにしろ、この状況はよくないな」

「ああ。まさかヒメの攻撃で崩れない敵がいるとは思わなかった」

 ほたるも現状が飲み込めたらしく、敵の観察を始めた。

「もう一発いく?」

「いや、待て。とりあえずは気を引くだけでいい。繰り返し同じことをしても、敵に効かないのならいずれ興味を失われる。あのデカブツを引きつけるような立ち回りをだな」

「言ってること、全然わからないけどやってみる!」

 ちょっと? 言ってることは簡単でしょ。やるのが難しいだけで……。

「ヒメに間違いはない。危なくなったらこちらでフォローする」

「うん、ありがとう、ほたるちゃん!」

 ったく、好き勝手に動くなよ。

 一歩間違えば俺たちが危険なんだけどなぁ。うちの奴らって誰も自分の危険とか考えないから怖いんだよ。

「死んでからじゃフォローできねえから、無理せずやってくれよ」

 無茶やって潰されましたじゃ割に合わん。

 いや、すでに単独行動が過ぎたせいで迷惑被ってはいるんだけど。

 というか、姫さんやほたるは出力兵装もあるし、空中にいる敵に攻撃届くけど、俺はなにしてろと? 船の上からだと、できるのなんて二人の盾か、船そのものの盾くらいのもんよ?

「俺ってば、なんで連れてこられてんの……」

「ヒメが言ったからだ」

 攻撃を姫さんに任せ、運転を続けるほたるが答える。

「ヒメが、おまえがいると安心すると言うから連れ出しただけだ」

「なにその理由」

「知らん。だが、いざってときは頼りにしている」

 そのときが来ないことを祈るばかりなんだが。

「わかった。そんときは本気だす。だから、いまは寝てていいか? 姫さんがいるなら早々沈まんだろ」

「先ほど言った言葉を忘れたのか? 死んでからでは悔やむことしかできないぞ」

 ――……だな。

 ふざけていると、本当に危ないときになにもできなそうだ。

「にしても、ぐちぐちと、弱気だな」

 耳に届く壱弥の声は、言葉は、普段からは想像できないものだった。

 言葉使いこそ偉そうだが、その言葉には、必死さと、大事なものを守りたいという意思を感じる。

 だが、やけに声が弱々しい。

『俺は、無力だ。あのときからずっと、一人ではなにもできない……なにも、なにも…………』

 これが東京主席かってんだ。こんな姿を、周りにいる生徒に見せているのか?

 それほどにまで、カナリアという存在はでかいのか?

「らしくないよ、朱雀くん!」

 姫さんが励ましの声と共に、周りの<アンノウン>を屠っていく。

「まるで一般人のような泣き言だな。おまえはもっと傲慢で賢しく、不愉快な男だと思っていたのだがな」

「ほたるちゃん、それ褒めてる?」

「褒めてる褒めてる」

 適当なやりとりだな、おい。

「そっか。そうだね! 朱雀くんはぁ、不愉快!」

 姫さーん!?

 ねえ、それ本当に褒めてるの!? ここぞってときに貶してるようにしか見えないんだけど!

「おまえら、絶対わざとだろ……」

 少なくとも、ほたるはわかってやってらっしゃる。

「ん? ああ、やっぱ来たか」

 海ほたるに突っ込んでいく二人組を視界に捉えた。まあ、なんであれ、これで東京の奴らは撤退できるかな。

 問題は、壱弥の精神的状態がどうであるか、か。

「あっれぇ……やっぱり硬いや」

 などと言っている場合でもないな。

「姫さんが何度撃ち込んでも効果なしとは恐れ入る。よっぽど対策してきたのか、はたまた偶然か」

 後者はないよなぁ。

 こんなのが偶然入り込んできましたとか、笑えない。いろいろ疑っちゃうレベルで笑えない。

「だとすれば、あいつらが呼び込んだか……三都市まとめて潰す気かよ」

 いや、その可能性も低いか。

 本気で潰しに来るなら、都市ごとに襲撃した方が遥かに効率的だ。なら、目的はなんだ?

「わっかんねえな」

「なにがだ?」

「敵さんの思惑。こんだけ攻めてきたってことは、なにかあるんだろうと思ってはいるんだが」

「確かに妙ではあるな」

 考え込んでも答えが出るとは思えないが、一度不審に思うと頭から離れないんだよなぁ、これが。

 どうしたもんか。

「天羽、防御」

「あー、はいはい」

 大型の先端部分から赤い光線が飛んでくるので、<世界>を発現させる。

 光の壁とぶつかり合い、互いに相殺した。

「うっはー、これいまの俺の限界だぞ? ちょっとうまくないな、この展開」

「平気だよ、みゆちん! いざとなったら、私たちがいるじゃん!」

「あー……うん、まあ。大いに頼りにしてますよ」

 たぶん二人がいないと撤退すら無理だし。

 ほたるは観察を続けている上に、操縦がある。あまり無茶はさせられないし、こんな敵に囲まれた場所で機動力を失ったら詰みだ。

「なあ、東京勢の撤退は終わったんだろ?」

「だろうな」

 ならもう帰ってもいいんじゃ……いや、言わないでおこう。

 まだ、もう少し時間を稼がなくては。

 千種たちも撤退させる必要がある。

「姫さん、もうちょい頑張ってくれよ」

「うん、わかってるよ!」

 あの超大型、ひとつ試してみるか――。

 実験台には調度いい大きさだ。俺の<世界>は、他の奴らの世界と違い、形が定まっていない。なんというか、いい意味で歪なのだ。

 使用方法が多い、万能型とでも言えばいいのか。

 誰かが、いまだ発展途中とか言ってたっけ。つまり、まだ完全には発現していない可能性が残っているのだ。

「いっけぇ!」

 右手に輝く光を、一直線に伸ばすイメージを強く持ちながら振るう。

 すると、その輝きは一線に伸び、速度をあげながら超大型<アンノウン>へと向かっていく。

「おおっ!」

 前にいる姫さんが感心したように声をあげるが、しかし。

 あと僅かという距離で光が霧散してしまった……。

「チッ、届かないか」

「あれだけ大振りしておいて届かないのか。なぜやった?」

「うるせえな。いけるって思ったんだよ……」

 実際、いい線はいっていた。結果的には失敗に終わったが、可能性が広がったと思えばいい。

 そうだ。失敗したら、次は学べ。

 俺だけじゃない、おまえもだ。壱弥。

「それにしても、やっぱりみゆちんの<世界>ってよくわからないよね。自由すぎるっていうか、捉えどころがないっていうか」

 え、それを姫さんが言うの?

「自由さ加減なら、そっちも負けてないだろ。力の塊ってっだけで、なんに対しても作用するじゃんか」

 便利さで言えば、ほたるの<世界>も相当のものなのだが。

 あれは見えていないといけないからな。あれ? 制限緩くね?

「と、とにかく、次は当てる。さっきのは試運転だし」

「あは、負けず嫌いな性格が出てきたね! じゃあ、前みたく私に勝つまで戦ってみる?」

「…………俺、一度も勝てた覚えないんだよなぁ」

 撃破数、模擬戦、ランキング。

 すべてにおいて、姫さんに勝てたことはない。それこそ、前線に出ていたときでさえその様なのだ。いまなんて、話にならないだろう。

 だが――

「そのうち見てろ」

「――うん! 楽しみにしてるからね!」

 まあ、あれだ。たまには再戦するのも、悪くないかもしれない。

 っと、ここまでだな。

「撤退だ」

 ほたるが先に宣言する。

「千種たちは?」

「とっくに帰り始めている」

「走ってか?」

「だろうな」

 それだと疲労もたまるし、万が一があるじゃんか。

 こちらの顔を覗き込む姫さんが察してくれたのか、

「ほたるちゃん、ごめんね。かすみんたちを拾ってから帰ろうか」

「ヒメがそう言うのなら」

 アクアラインへと向け船を動かし、その間も直線上にいる<アンノウン>を撃破していく姫さん。

 俺も練習とばかりに攻撃をしてみるが、悲しいかな。

「一度も当たらねえ……」

「狙いが雑なんだ。あと、発想も雑だ。ただ伸ばすだけとは何事か」

「ひどい言われようだ」

 心折れるぞ、まったく。

「あれか」

 ほたるが走る千種兄妹を発見する。

「あれ? お姫ちん? どったの?」

「いいから乗って!」 

「おまえらの帰りになにかあったんじゃ困るんだよ! 持ってきたバイクを東京の奴らに渡しちまったら、帰りの足がないだろ。それとも、走って帰りたいか?」

 姫さんの言葉だけではわけがわからないだろうと、補足説明を入れると、汗をかいて走っていた千種が嬉しそうに飛び降りてきた。

「いや、本当にいいタイミングだったわ。おかげで走らなくて済むとか最高」

「おう、お疲れさん」

 まあ、迎撃はしてもらいますけどね? 私もう恥は晒したくないんで。

「お兄……もう、しょうがないな」

 少し遅れて、明日葉も乗ってくる。

「全員乗ったな。よし、行くぞ」

 ほたるの声にみんなが頷き、俺たちも撤退する。

 次に会うときは、倒さないとか。

 俺は俺で、忙しくなりそうではあるが……あとは、ずっとしこりのように残っている、この疑問に答えを得るだけだな。




4話が動いた、だと……? はい、あのシーンも一挙放送で動くようになったんですね。
あのシーンはいいところなだけに、動いていると楽しいです。
さて、次回からいっちゃんの更正が始まる! かもしれない。
では、また次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。