どうもみなさん、alnasです。
気づけばこの作品も60話を超えましたよ。
本編が暗い展開多かったせいか、過去編はできる限り明るく楽しい序盤のノリで書きたいところですね。正直明るくバカやってた頃のクオリディア・コード好きだよ!
というわけでもう少しばかり明るい(多分)過去編を進めてから本編に戻りたいと思います。
ああ、はやく姫様と絡んでいた頃の雰囲気を取り戻したい。
では、どうぞ。
さて、今日も今日とていつもと変わらない朝がやってくる。
人の布団でぐっすり眠る眼目。
健康管理目的なのか、戦闘目的なのか。数ある注文を聞いたうえで作った朝食をゆっくりと食べる姉さん。
俺の近くで動向を監視している月夜。
なぜだろう、全員面識があるはずなのに誰も話そうとしない……というか一人寝てますやん…………。
いやそうじゃないな。
「あの、なんでみんな俺の部屋にいるわけ?」
一応、まだ早朝と言っていい時間なんだけど……おかしくない? この部屋の住人は本来俺一人なわけで決して朝から女子が三人もいていいはずがない。
「私はおまえの姉であり親族だ。別にいても不思議ではないだろ」
「自由さんはすでに後輩を一人部屋に招いています。ですから私がいることにも疑問はないはずですよ」
地味に反論できないんだよなぁ……姉さんは親族だし、眼目のことをわかっていながら放置していたのも事実。下手に反論するよりも受け入れた方が楽か。
決していない方がいい相手ではない。
確かに面倒なところもあるが、むしろそれがない相手は俺にとってはどうでもいい人間ということだ。
喜びも、怒りも。ましてや憎しみさえ抱けない相手なんて、それは最も関係ない。
「つまり、こいつらは違うわけか……」
一緒にいても受け入れられる人たち。
戦場に出れば助け合える仲間。
「仕方ない、好きにしてくれ。望むなら、この部屋にいてくれて構わないからさ」
望んでいた関係は、すでに出来上がっていて。いまさら壊すには、ちょっと遅すぎて……だから、丸ごとぜんぶしまいこむのが一番心地いいんだ。
当の二人は静かに微笑みながら、好き勝手にしているけれど。
その光景も、俺にとっては捨てがたいものなんだろう。
「二人とも、今日の予定は?」
「私は鍛錬の後は暇つぶしがてら服でも見てくるつもりだ」
「予定と言われましても。基本は自由さんの行動を監視すると共に鍛錬です」
おかしいな、鍛えることしか頭にないのかしら?
最近おかしな言動が多すぎて口癖になりそうなぐらいだぞ。
「あのなぁ、もう少し遊ぶことも覚えたらどうだ?」
「服を見に行くのも十分に遊びだ。<アンノウン>が出ればすぐに飛び出すランキング馬鹿に言われる筋合いはないな」
はいはい、ショッピングですね。
「というか、ランキング大事だからな! 見てろよ、いまに姉さんも越えてやるから」
「ああ、全体2位の私を超えるようになれば、あとは一位を取るだけだからな。さっさと上がってこい、第8位」
「あのさ、毎回思うんだけど、2位にいる姉さんも相当ランキング馬鹿だと思います」
「確かにそうですね。一部では女帝と呼ばれる程ですし」
女帝、ね。
強すぎる故に共に並ぶ者が限られすぎている単独最高ランクの生徒。
天羽斬々――姉さんこそ、そのうちの一人。
実際のところ、東京、神奈川の首席を抑えてランキングにいることや、戦場での活躍ぶりを見る限り最高どころか最強に近いのだろう。
それだけ、姉さんの力は強大なんだ。
「なんと呼ばれようと一向に構わん。そこいらの者共がなにを言おうと関係ない」
「じゃあ、俺も畏怖を込めて女帝さまと呼ばせていただきたく」
「却下だ。自由、おまえが私を名前か姉と呼ぶ以外の呼び名は許さん」
「んな理不尽な……」
一瞬前にそこいらの奴がなんて言ってもいいって言ったばかりですやん。私覚えてますよ?
と抗議の目線を送るが、涼しい顔をしてスルーされた。
「ところで、自由さんは今日どうするんですか?」
会話がなくなり始めた頃、月夜がそう問うてきた。
今日か……今日は久々にあの日だな。前回は<アンノウン>の襲撃があったせいでおこなわれなかったんだよなぁ。だったら今回こそは相手をしてもらわないとな。
「前回のぶんもあるし、『天河杯』に行ってくるつもりだ」
ほぼほぼお祭りと化しつつある恒例行事。ただし不定期開催ときた、特別模擬戦。恒例行事には違いないが、果たして不定期開催でいいものなのだろうかと疑問に思ってしまう。
「また天河さんとの戦いですか? 飽きませんね」
「飽きる、飽きないの話じゃないさ。純粋にあいつの思想には付き合いきれないし、理解したくもない。気に入らないから叩き潰す。それだけのシンプルなことだよ」
そうだ。
誰もが笑顔でいられる世界も、平和な生活も、ぜんぶがぜんぶ手に入るわけがない。
理想を語るだけなら誰にでもできる。
それらしい言葉なら、雑兵にだって語ることができる。
「天河舞姫――あいつは危険だ。できもしないことを、できると思わせてしまうあの言葉は、思いは、強さは……すべてなかったことにしないと」
月に一度、その月のどこかで開催される、天河舞姫とその他生徒の間で行われる特別模擬戦。
ルールは簡単で、天河舞姫対参加者全員で戦う。本人は『私を倒せたら都市首席にしてあげる』とのことだ。
首席の座はいらないが、あいつに勝ったという結果は欲しい。
あいつを倒せれば、あいつの考えがすべてじゃないと思えるし、突きつけられる。
「自由も執着のしすぎではあるが、相手があの天河では仕方ないな。そろそろ一度くらい勝ってくるといい」
姉さんが呆れたように肩をすくめながらも、エールをくれる。
「ああ、もちろんさ。いつまでも負けっぱなしじゃ話にならないからな。今度こそ……ッ!」
「ん〜朝ぁ?」
しばらく話していたせいか、ぐっすり眠っていた眼目が目を覚ましたらしい。
「あ〜自由ちゃんおはよぅ……もう少し寝てるねぇ」
と思った矢先にまだ眠たそうな声を発し、そのまま目を閉じてしまった。
その様子を眺めていると、姉さんも、月夜も微笑んでいるのがわかる。
こんな日々が、ずっと続いてくれればそれでいい。
だって、欲しい日々はここにあるんだから。あとはあいつを、倒せば終わりだ。
姉さんたちと別れ、一人で神奈川の中にある施設のひとつである訓練場へと足を運ぶ。
訓練場の外壁には『第二十三回天河杯』と垂れ幕がかけられており、辺りには冷たい飲み物や軽食を売る屋台まで出ていた。
学校も休みだし、娯楽の少ない中じゃこうなるのも必然か。
「今回の参加者はぜんぶで二十六人。男女比は半々と言ったところだな」
みんな思い思いの出力兵装を携え、入場の合図をいまかいまかと待ち構えている。もちろん、俺もそのうちの一人なんだが。
気合を入れるように拳を握る。
周りの「あいつ出力兵装はどうした?」って目線がいくつかあったが、初参加の奴か。たぶん近くにいる人が教えることだろ。
「参加者の方はそろそろ移動をお願いします」
ちょうど時間が来たのか、係員の誘導に従いホールへと入場する。
瞬間、凄まじい歓声が響く。
訓練場とは言っても、形は古代ローマの闘技場のようなものだ。円形のフィールドを囲うように観客席が広がり、目算で千を超える生徒たちがいるだろう。
「――よく来たな、挑戦者たちよ!」
と、次の瞬間、そんな声が響き渡った。
俺たち参加者全員の視線が先の一点に集中する。
傍に出力兵装を携える小さな人影。
長い髪と、肩がけされた外套が風を受けてバサバサとはためく。身の丈はあろう巨大な剣は、主人に振られることをじっと待つかのように輝いている。
どう見ても、神奈川第一位・天河舞姫その人だった。
『わああああああああああああああああああああああああっ!』
『ひーめさま! ひーめーさま! ひーめさまー!!』
ああ、うるさい……不愉快だ。
どうしてそこまで人に好かれる? なぜ惹きつける……おまえはただ強いだけの、現実を見ない妄言者ではないのか?
強いのは認める。
8年もの間神奈川の都市でトップに君臨し続けたことも、その間生徒を率いてきたことも認めている。
なのに、それほどまでに戦ってきて、なぜその願いを口にする!
「さて、始めようか。あんまり待たせるのも悪いしね!」
目の前の敵が、そう口にする。
それに合わせるように、訓練場内のスピーカーからアナウンスが流れ始める。
『それでは、これより第二十三回特別模擬戦を開始いたします。降参、もしくは気絶などの戦闘不能状態に陥った場合、敗北となります。各々、全力を尽くしましょう』
開戦を示すブザーが鳴り響き、第一陣にいた生徒たちが一斉に天河舞姫へと襲い掛かる。
「うおおおおおッ!」
「おりゃぁぁぁぁああああっ!」
自身の得意な戦法で突貫していく生徒たち。
自慢の出力兵装を手に、中には炎や電気を迸らせながら迫る者もいた。
だけど。
「とりゃっ!」
天河舞姫が、携えていた大剣を横薙ぎに一閃した直後。彼女に迫っていたはずの生徒たちは一名の例外もなく、全員が訓練場の端まで吹き飛ばされていた。
ほとんどの者がいまの一撃で昏倒。何名かは意識はあるようだが、立ち上がることすら難しそうだ。
これまで都市防衛を続けてきた屈強な戦士たちが、ものの一瞬で潰される。今日の選手の中には、ランクング上位の奴だっていたはずなのに……こいつの前では、上位陣だろうとなにも変わらない。
「ほら、次! 向かってこないなら、こっちから行くよ!」
「か、かかれ! 姫様をそこから動かすなよ!」
「おおッ!」
一陣として突貫しなかった生徒たちが、次々に駆けていく。
けれど、誰も彼も、為す術などなく吹き飛ばされる。
結局、隣にいた奴らも一斉に打って出てみたが、結果は変わらない。
「ちっ、いつでもこうなるのな」
本当は、彼らに続いて、もしくは紛れて共に仕掛けるべきなのだろう。だが、それじゃあ意味がない。一対一で勝てないのなら、倒す意味がない。
「んー……やっぱりこうなるよね」
他の生徒全員を沈めた天河舞姫が、大剣を引きずりながらこちらにやってくる。
「最後はいつも、キミだよね。天羽自由くん。でもさぁ、なんでいつも最後までじっとしてるの?」
いきなり戦闘に移ることはせず、彼女は静かに疑問を口にする。
「おまえにはわからないだろうさ。俺の意地って奴がな」
「意地? んーごめんね、確かに私にはわからないや。でも、これだけはわかるよ。天羽くんが、どうしても私に勝ちたいってこと!」
「それだけでも、わかっているなら上等だ」
この嫌悪を知らない無垢な少女。
夢を見て、理想を語り続ける純粋な力の権化。
ああ、どうして俺は、彼女にここまで必死になるのだろうか。
決まっているとも。
俺の<世界>がそうであるように。
彼女の思想が、見ている世界が理解できないように。
俺は天河舞姫という存在を壊したいのだ。屈服させたいのだ。自分でもわからない感情に、決着をつけたいのだ。
この、行き場のない怒りを、彼女にぶつけたいのだ。
だから俺は――。
「俺自身のために、おまえに勝つ」