いつもの世界を守るために   作:alnas

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どうもみなさんalnasです。
最近またクオリディア熱が戻ってきた作者です。え? だけど投稿スピードが上がるとは言ってないよ!
でも投稿は止めませんので、空いた時間にでもお楽しみください。
では、どうぞ。


後輩も後輩だが、誰か姉の相手をしてくれ

 後輩というのは素晴らしい。

 知り合いの誰かが言っていた言葉だが、正直共感できる出来事はひとつとしてなかった。

 むしろ後輩ができてからというもの、俺の疲労感は確実に増えているまである。

 それもこれも、俺の後輩となった三人の生徒がいたからであり、もれなく問題児だったためである。

 いや、問題児の相手だけで終わるのならまだマシだったかもしれないな。

「自由、今日はどうするのだ? 暇なら私と組手でもするか? それとも、剣と拳で本気の喧嘩でもしてみるか?」

「いや、しないよ。どっちもしないって。姉さんと本気で喧嘩したら俺の体どうなっちゃうのよ……」

「そう言うな。私の相手をできる者は限られている。その一人に数えられているのだから、嬉しそうにするべきだぞ?」

「なんでさ……どうあれ、今日は姉さんの相手はできないよ」

 こうして、暇を持て余した姉さんからの要求を断り続けるのが日課にあるのだから。

 後輩ができるより前から続くこのやり取り。

 実際には週一から三の頻度で姉さんに付き合わされ、組手ないし喧嘩に巻き込まれているのだ。寸止めだからまだいいものの、神経が削られる。

「なんでこう、俺の周りには厄介な人しか集まらないかねぇ……」

「面白いことを言うな、自由も。私との組手は明日に回してやるから、せめて一太刀入れられるように秘密の特訓でもしてくるといい」

「……そうだな、姉さんに捕まる前に逃げ切れるよう、逃げ足の練習でもしてきますよ」

「そこはせめて勝てるようにとくらい言えんのか?」

「へいへい、わかりましたよ。だったら、いまに見とけよ。必ず、姉さんにも勝てるようになるからな」

 本当はそんな気はなかったが、このときはそう言わなくてはならない気がした。

 昔から、人の求めていることはなんとなくわかる体質だったことと、わかっているのに見過ごすことができないのは俺の悪い癖だろう。

「いいことを聞いたな。覚えておくぞ、自由」

 俺の頭をひとなですると、嬉しそうな笑みを浮かべた姉さんはそのままどこかへと行ってしまった。

「はあ……またやっちまった」

 その背中を見送った俺は、自身の発してしまった言葉を思い出し、ため息を吐くことしかできなかった。

 これは、より一層修行しないといけなくなりそうだ。

 後輩たちは頑張るか怪しいが、きっと付き合ってくれるだろう。特に最も幼いはずのあいつは、むしろ張り切って付き合ってくれるかもしれない。

「来週は天河舞姫のよくわからん恒例行事になるつつある模擬戦闘があるし、そこに標準合わせてくか」

 あの場であいつに勝てればそのまま結果となる。

 うちの首席と有志の生徒たちとの多対一の模擬戦。

 一応、前回の模擬戦にも参加はしていたが、あのとき天河舞姫は笑顔で、そして真っ先に俺へと突っ込んできた。まるで、他の生徒の相手をしていられないかのように。

 楽しそうに、無邪気に……。

 ようするに、俺は遊ばれているのだ。自分には敵わない。敵ではないと、そう言外に言われたのだろう。

「姉さんを相手に負けるよりも腹が立つッ!」

 結局他の生徒を全員倒し終えた後のあいつに負けたしな! 時間を稼ごうにも一対一の状況じゃロクな時間は稼げない。剣の打ち合い、蹴り合い、殴り合い――はする前に吹き飛ばされた。

 基礎が足りないし、それ以外も足りない。

 けど、あいつは倒さないとならない。なにがなんでも、俺の手で――。

「ほよ、自由さんですか?」

 つい熱くなりかけていたところに、背後から声をかけられた。

 振り返ってみれば、そこには見知った少女が一人。

「ああ、俺だ。というか、俺だとわかった上で聞いてるだろ?」

「もちろんです。自由さんこそ、わかっていて聞いてくるなんてガッカリです」

 このチビっ子め。かわいくない。

「んで、どうかしたのか?」

 地味に湧き上がってくるイライラを収めつつ、ここにいる理由を問う。というのも、彼女が理由もなく出歩くことが珍しいからなのだが。

 ずば抜けた聴力を持つ、盲目の剣士――因幡月夜。

 思考回路と戦闘技術以外は小学生並なのではと疑っているのだが、本人には聞いていない。

 特に年齢を気にするような間柄でもないし、そもそも一々年齢を気にする相手もいない。うん、きっといない。たぶん将来的にも現れることはないだろう。

「特に用事があったわけではありませんが、近くで自由さんの声と足音が聞こえたもので、つい」

「ついっておまえな……そんな簡単にストーカーまがいのことを口にされても困るぞ?」

「聞こえてしまったものを咎められてもこちらが困ります。聞こえさせる方が悪いんです」

「おう、そうか……そうだな」

 視力が良すぎるのと、聴力が良すぎた程度の差だ。誤差といってしまっても差し支えない。聴力で世界を見ている月夜に強いるのも酷だろう。

 であれば、やはり怒るのは間違っている。

「出歩くのは止めないけど、できるだけ誰か連れて歩けよ。危ないからな」

「一人でも平気ですよ?」

 こちらの想いを知ってか知らずか。なんでもないように言う月夜。たぶん、その通りだ。向こうの言い分にはウソなんてなく、本当に一人でどこを歩いても平然としているに違いない。

「でも、それだと俺が納得いかないからなぁ……」

「納得ですか。変なところに拘るのもガッカリです」

「うるせーよ、ほっとけ」

 小さな子に不自由はさせたくないが、それでも一人というのは落ち着かない。盲目なのは聴力が補ってくれるだろうが、なにを隠そう、こいつは体が弱い。

 ふとした瞬間にそうなられてはたまったものじゃないんだ。だからできるなら、見ていてやりたいとさえ思う。

 態度に出ていたのか、クスッ、と聞き逃してしまいそうなほど小さな笑みが月夜から漏れる。

「ところで自由さん、私、今日はもう随分と歩いているんです。だから、抱っこしてください。もしくはおんぶでも可です」

「はい?」

「聞こえませんでしたか?」

「いや、大丈夫聞こえてる。いたって正常」

 聞き間違えた。おそらくありえない。

 月夜は自分を抱えて歩けと言ったのである。

「あのな、俺が言ったのは決しておまえの乗り物になりたいってわけじゃなく、一人だと危ないってことを……」

「わかっています。ですから、自由さんの手を借りようと」

「――……手繋ぐとかじゃダメ?」

「ダメです」

 バッサリですかい。後輩のわがままにしてはわがまますぎるが、ある意味年相応なのかもな。

 下手に歩かせて翌日発熱は笑えない。

 第一、優しくするべきは誰なのかを間違えちゃダメだよな。

「へいへい。わかりましたよ、お姫さま」

 折れるのはきっと、俺の方だ。

「じゃあ、ちょいと失礼して」

 小柄な月夜を持ち上げ、優しく抱える。

 さて、このまま帰っていいのかしら? それともどこか寄るところでもあったのだろうか? 思えばなにも考えずに承諾してしまった。

「行きたいところはあるか?」

「特には……あ、お団子の美味しいお店があるのならそちらに」

 団子か。

 そもそもの前提として甘いものの店には詳しくないんだが、こいつと会ってから要望があったのは初めてだしなぁ。

「あるかは知らんが、しばらく都市内を歩き回ってやるよ。その間に会った奴らにも聞いてみれば、そのうちたどり着くだろ」

 しっかし、甘いもの関連の話はどうも弱いな。

 先のこともあるし、少しは詳しくなっておくか。もしかしたら、作れって要望も出てくるかもしれない。いや、やめよう。想像すると現実になることが多い。よーし、忘れるぞ!

「でも、意外でした」

 一人悩みの淵に立っていると、月夜が話出す。

「なにがだ?」

「自由さんが私の頼みを聞いてくれたことがですよ」

「別に、俺が納得いくように動いただけだよ。あそこで無視して明日寝込まれてもいい気しないだろ?」

「私はそこまで弱くありません」

「そうですねーっと。なあ、この辺で美味しい団子屋ってないか?」

 月夜の言葉は軽く流し、近くを通る生徒たち片っ端から声をかけていく。

 途中変な目を向けられたが、解せぬ。

 あと一部男子、目が怖い。

 言っておくが、俺は保護者のような者であって、なに? いいから黙ってその位置を変われ? 変わってくれるんなら俺が相手にしている奴ら全員面倒見れるくらい強くなってからにしろ!

「こちとら割と命がけなんだよ……これだからうるさいだけのやっかみは」

「自由さんは味方は多そうですけど、敵も多そうですね」

「あー……まあ、日常生活においてはよくわからんな。でも、<アンノウン>との戦闘時はその限りでもないさ。みんな、力くらい貸してくれる」

 もちろん、借りたくもない奴は例外として。

「ふふっ」

「んだよ。くだらないことなら聞かないぞ」

「聞かなくて結構です。自由さんが――」

 言葉の続きは、よく聞こえなかった。聞かなくてもいいと言われたので特に気にすることもないが、言葉の代わりに聞こえた鈴の音が、やけに耳に残った。

 




過去編では、本編ではあまり触れてこなかった面々とも関わっていきたいなと。
とくにお姉さん。
次に問題児たち。
そしてなにより姫さん。
いまのところ過去編ではまるで出てこない姫さんだが、そろそろヒメニウムの摂取をしないと危険な気がする。

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