みなさん、そろそろ四話は見れましたか?
この作品も、あそこまで持っていけるように書いていきたいと思います。
では、どうぞ。
宿に入ると、やはり内装までは時間が足りなかったのだろう。
「質素だけど、悪くないな」
「うん、今日はみんなでまくら投げだよ!」
姫さんが横で恐ろしいことを言っている……俺も本気でいかないと一発もらっただけであの世行きまである。
「壱弥、千種。俺が姫さんを抑えるから、二人はその隙に近距離、遠距離から彼女を狙ってみてくれ。まだまだこの世に未練があるだろ?」
これは言い合っている場合ではない。
姫さんがやりたいと言えば、やらせるバカがいるし、なにより誰も止められん。
「……そうだな。いいだろう」
「まあ、今回ばかりは天河に好きにやらせる方が危険か」
二人もそれがわかっているのか、いがみ合うことなく頷いてくれた。
「それで、具体的にはどうする?」
「どうするって?」
「あの天河が、天羽が引きつけただけで決定的な隙を見せるとは思えない。より確実な手段を用いるべきだ」
千種と壱弥は真面目に作戦を組み立てていく。
もちろん、<世界>を存分に使ってのものだ。
「あ、あれ? まくら投げってこんな殺伐な雰囲気になるものだっけ?」
「ヒメは悪くないよ」
俺たちの話を聞いていた姫さんは疑問を浮かべ、ほたるは姫さんの味方がごとく、横で笑顔を浮かべている。
「お兄たちきもい」
「いっちゃん、ひーちゃんのこと悪く言っちゃダメだよ!」
千種妹とカナリアが二人を連れて行き、容赦のない言葉を投げつけていく。
ランキングの順位がごとく、女子組が強いのな。
「……はあ。これはあれだな。夜の蹂躙が目に見える」
これ絶対に女子組対男子組になるでしょ?
人数差に加え、姫さんやほたるのような<世界>は物を投げるのに相性もいい。
戦う前から負けているじゃねえか。
最悪、壱弥に全部投げて逃げることくらいは見ておかないとな。
うん、すでに来たことを後悔しつつあるんですけど? おっかしいなぁ……。
ここはなるべく意識をまくら投げから遠ざけていくべきなんじゃないですかね。
「ひとまずまくら投げ戦争は置いといて」
「戦争!?」
「姫さん黙ってようね。で、ずっと言おうと思ってたんだけど――」
ぐるりと館内を見渡す。
「なんで、俺たち以外誰もいないんだ?」
人手が足りないのはわかっているが、建物だけ用意してあとは放置ってないだろ。
誰かしらいるかとも思ってたんだが……。
「人の気配はないな」
目を閉じていた千種が全員に聞こえるように言う。
どうやら、本当に俺たち7人以外は居ないと。
「<アンノウン>の死骸は何十体と発見されているからな。工科の生徒はもちろん、他の科の者も近づきたくはないだろう。本来なら、怖がるべきなんだ」
ほたるの発言に、カナリアと姫さんは頷く。
実際のところ、俺たちの意識が麻痺している部分もあるだろう。ほたるの言う通り、怖がるのが当たり前のはず。
なんなら俺は怖いまである。
あれ? 俺って実は在籍する科間違えてるんじゃないですかね。
などと思っているといずれほたるにばれて怒られるのは目に見えてるので、ここまでにしておこう。
俺は学ぶ男。だからはやく転科したい。
「何日も泊まるわけではないが、これでは些か不便だな」
「自分たちで準備とかメンドーなんですけど」
ほたると千種妹が、揃ってこちらを見る。ははーん、なるほどなぁ。
「よっし、逃げるか!」
「させん。すまないヒメ、あのバカを捕まえてくれ」
「うん、任せてほたるちゃん!」
待て! うちのトップには昨日同じ構図で捕まった記憶が……。
「ってか、捕まえたいなら自分でやれやぁ!」
「ふむ……それもそうか」
視界の端で、ほたるは虚空に手を伸ばす。
瞬間、
「ごぶっ!?」
足をなにかに掴まれた俺は、廊下を盛大に転がった。
「みゆちんつかまーえた!」
ついでに、姫さんに確保される始末。
「自分で捕まえてやったが、文句はあるか?」
離れた位置にいるほたるの手は、すでに刀にかけられている。
次はない、といったところかな。
「ねーよ。逃げられるとも思ってない」
その気になれば、三都市の代表6人対俺になるだろう。なにそれ無理ゲー……。
逃走しようにも、ほたるの<世界>のせいでやられたい放題でもある。
姫さん一人からすら逃げられないのだから、そこに人数が増えれば、結果は当然のものだ。
「で、察するに俺がやれと?」
「そうなる。貴様が適任だろう?」
ほたるが言っているのは、この旅館での役割の話だろう。
要するに、俺に旅館での仕事をやれと。
「はいはい、了解ですよ。料理はするし、掃除もする。もっとも、掃除はしてあるみたいだがな」
「やったー! みゆちんのご飯だぁ!」
姫さんは嬉しそうにしてくれる。
ほたるも笑みを浮かべているし、まあいいだろ。
神奈川にいると、しょっちゅう飯時に襲撃されるし、こいつらが笑顔なら悪くない。もっとも、眼目の襲撃はできれば控えてもらいたい。週四とかで来られても対処できん。
「なに、天羽料理得意なの?」
「得意ってわけじゃないけど、給仕まがいをさせられていた時期もあってな。慣れてるだけだ」
千種は不思議そうにしていたが、キミとあったの厨房の前でしたよね? なに、記憶にないって?
「ちょっと意外かも。なにもしたくなさそうなのに」
「どういう意味だよ……俺は前線に出たくないだけだっつーの」
「ウケる。いまさっき逃げたばっかじゃん」
「それはおまえ、あれだよ。人間、いやらしい視線とかいい笑顔向けられたら逃げるだろ。常識だぞ、常識」
千種妹はなんでそんなことも知らないんだ。
「それな。ほんとそれ」
「見ろ、千種はしっかり常識を弁えている」
「いや、ふたりともほんときもいから」
なんて言われようだ……いいや、とりあえずお茶の準備でもしてくるか。
「あはは……ほ、ほら天羽くん、困ったときは、笑顔だよ!」
「困ってねえよ。あと、そのあざとい笑顔は壱弥にやってこい」
カナリアの横を通り、部屋をひとつひとつ見回っていく。
「誰もいないか。当然だな。さって、厨房はっと」
ふむ。
とりあえず果物ばかりじゃなくて安心する癖を付けた方がいいな。
食材を確認し終えたのはいいが、そこで安堵をつくってどうなんだろう。
我ながら酷い……。
「夏場だし、冷茶がいいよな。時間を置いてから出さないとか」
用意を整え、みんなが寛いでいるだろう居間に戻りながら、窓の外に続く、辺りの景色を眺める。
資料を見た限り、陸地に近づくほど数が増していたとあった。
陸地に逃げてきたのか、海へと向かっていったのか……そもそも、いまだ俺たちはこの世界のことをなにも知らなさすぎる。
「どうしたものかねぇ」
知識不足で、いずれ痛い思いをするのは嫌だ。
領域から出るなって命令は出てるし、なにか裏があるのか否か……。<アンノウン>が出るなんてわかっているが、どうしても、それだけでは収まらない問題が見え隠れしているように思える。
「でも、どうすることもできないか」
どの道、いまは無理だ。
いずれは姫さんたちと協力し合って、進入不可領域に打って出るのも有りかもしれない。そうすれば、なにかわかることもあるだろう。
「こんな世界の毎日は嫌いじゃないが、仕組みは理解できないし、わけわからん。なら、一度壊すのも有りだろ」
もっとも、俺がやる気を出す日が来ればだが。
「戻りましたよ」
障子を開くと、全員がすでに水着に着替えて待っていた。
「よし、みゆちんも戻ってきたし、みんなで行こっか!」
「面倒な……捜査程度、俺ひとりで十分だ。全員で行ってなんになる」
「翻訳しますと、みんな三日前の戦いで疲れているだろうから俺が頑張ると」
翻訳しないと人と話せないのか壱弥は。
ただ、カナリアの翻訳が合っているならいい奴だな壱弥。俺や千種にはだいぶ厳しいけど。
「おまえも疲れてんだろうがアホかよ」
「なんだと? 俺をおまえと一緒にするな。まだまだ動ける」
おーい、アホ二人はそれ以上はやめろよ。
「みんなでやればすぐ終わるよ、ね!」
「そうだな。虫ケラの同士討ちさえなければすぐ終わるだろう」
火に油を注ぐなほたる!
「うん! じゃあみんなでがんばろう! いいよね、いっちゃん」
「はあ……わかった。とりあえず、今日のところはそれでいい」
「じゃあ、俺は中で待ってるよ」
6人もいるなら問題ないでしょ。こっちはこっちで好きに休ませて――。
「全員が泳げるわけじゃないし、陸と水中、両方から調査するから、人手は多いほうがいいな」
おのれ……ほたるにはなんで俺の考えがわかるんですかね。しかも、だから手伝えって感じの視線が怖い。
個人的な調査は夜かな。明るいうちは合わせとこう。
「なら、俺は陸がいい」
海の中とか嫌だ。別に泳げないわけじゃない。嫌なだけだ。
「わかっている。あとはどうする?」
「私もこっちに残ろうかな」
カナリアもか。こっちはかなづちか?
「みゆちんが残るなら、私たちは海だね!」
「ああ、ヒメとならどこまでも」
好きなとこまで行って来いよ。そのうちに帰れるから。マジで。
「まったく。俺は残るよ」
「千葉カスくんが残るなら、俺は海だ」
「もうもう! なんでいっちゃんはいつも協調性がないの!」
カナリアが壱弥を怒りに行くが、難なくかわされる。千種は千種で妹になにか言われてるし。まあ、こっちも慣れてそうだな。
「お兄もそろそろ妹離れしないとね。海の方が範囲広いし、そっち手伝うよ」
千種妹は海グループ、と。
「いい感じに別れたね。じゃあ始めよっか!」
「だな。おまえら、いい感じの魚がいたら取って来い。なに、一匹くらいでかいのがいればいい。いいおかずになるぞ」
「お、いいねそれ! じゃあみんなで誰が一番多く魚を取れるか勝負だね!」
姫さん……調査もしてこいよ、調査も。
抱えていた不安が倍増しながらも、各自別れての調査が始まった。
とりあえず、夜にまくら投げしたいとか再度言い出す前に、寝かせる方法を考えよう。
そうしなければ、本当に危険なのだから……体験者が言うのだから間違いない。
俺たち男子チームは頷き、持ち場に離れていった。
日常シーンで一話終えていくスタイル。
たぶん次も日常。その次も日常。気づくと話が完結している。
はい、嘘ですとも。そんな話にもっていける展開はないですごめんなさい。
次はやっと水着回……のはず。気づいたら浴衣になっているかもしれないとか言えないし、気づいたら主人公帰ってるかもとかもっと言えない。