第二次SN作戦自体はかなりの大規模作戦で、各鎮守府・基地・泊地から多くの艦娘がラバウル基地へ集結しようとしていた。横須賀からも天龍、龍田、熊野だけでなく最上、三隈、鈴谷、伊勢、日向、加賀、赤城、蒼龍、飛龍などが出発していた。
「結局最上型みんな参加するんじゃねえか」
ラバウル基地へ集結した面々を見ながら、天龍はそうこぼす。他の鎮守府からは一線級の艦娘ばかりが集まっており、自分たち前路哨戒組は場違いな感じすらした。
「天龍、ちょっといいか?」
「手短にしてくれよ、提督」
木村に呼ばれた天龍はそう悪態をつきながら控え室に充てられていた大広間を出て行く。それを見計らったように鈴谷が龍田に近寄った。
「ちーす、龍田」
「あら~、鈴谷さん」
鈴谷の気の抜けた笑顔に、龍田もいつもの笑顔を返す。
「もしかしたら熊野がわけわかんない行動取るかもしんないから、そんときはうまいこと納めてやって」
「あらあら~。天龍ちゃんも訳のわからないこと言い出すかも知れませんよ~?」
二人でそう言って鈴谷と龍田は笑いあう。
「とりあえず聞いておくわ~。天龍ちゃんと熊野さんの間をそれとなく取り持てばいいのね~?」
「そういうこと! じゃあ、よろしく頼むね~、龍田」
鈴谷はそれだけ言うと、手を振りながら自分の待機場所へ駆けていく。相変わらずつむじ風のような艦娘だなと龍田はのんきに思っていた。やがて、天龍は相変わらず少し不機嫌な表情のまま戻ってきた。
「提督、なんて~?」
「前路哨戒は全艦揃ったから、準備でき次第出発してくれってさ。俺たちはいいとして、後は熊野と駆逐たちだな」
天龍はそう言いながら、ざっと周囲を見渡す。同じ横須賀所属の熊野の姿はすぐに見つけたが、早霜たちの姿はよくわからない。
「とりあえず、正面の岸壁は司令艦が一杯停泊してるから、北の岸壁から出発するか」
「そうね~」
天龍は龍田の返事を確認すると、すうっと息を吸った。
「前路哨戒部隊、準備でき次第北岸壁に集合だ!」
天龍の大きな声が大広間に響く。天龍に慣れていない艦娘たちが振り返った。だが、天龍はそんなことお構いなしだ。
「龍田、行くぞ」
「は~い」
踵を返す天龍に、龍田もそう頷いてあとにつく。呆然と見送ったメンツの中には熊野の姿もあった。
「ほらー、熊野、呼んでるじゃん。集合だってさ」
そんな熊野に、鈴谷はそう声をかけて、振り返った熊野にニッと笑い返す。
「行って参りますわ」
「いってらー」
少々むすっとしていた熊野を、鈴谷は笑って送り出した。
天龍と龍田が北岸壁へ移動すると、後を追うように夕雲型の駆逐艦三隻がやってきた。三隻は息を切らして天龍の前に並ぶと、びっと敬礼を決めてくる。
「夕雲型駆逐艦四番艦、長波!」
「夕雲型駆逐艦十七番艦早霜です…」
「夕雲型駆逐艦十九番艦、清霜です!」
夕雲型駆逐艦の三隻はそれぞれそう名乗りを上げる。お互い初顔合わせだ。
「旗艦の天龍型軽巡、天龍だ。しっかり頼むぜ」
「私は天龍ちゃんの妹の龍田よ~。よろしくね~」
天龍と龍田がそう名乗ると、長波と清霜からは元気のいい声が返ってくる。天龍は満足げに頷いた。
「あとは熊野さんだけね~」
「なってねえな…。駆逐どもでさえすぐ来てんのに」
天龍は舌打ちでもしそうな勢いで集合していた建物を眺める。そこから、ようやく熊野が姿を現せた。
「私が最後ですの?」
「おっせえんだよ。駆逐どもに遅れんなよ」
天龍の態度と言葉は、熊野の癇に見事に障る。熊野の眉がきっとつり上がった。
「なんですって!? 準備ができ次第といったのはそちらの方ではなくて!?」
「その準備が遅いッつってんだよ!」
天龍も負けてはいない。腕組みをしたまま、隻眼が熊野を睨めつける。その様子を見ながら、清霜だけがハラハラオロオロしていたが、早霜は静観しているし、長波はニヤニヤしているだけだった。もちろん、龍田はいつも通りこれも眺めるだけだ。まだ仲裁する気はないらしい。
「ともかく出撃するぜ。哨戒海域までは複縦陣で行く。先頭は俺と龍田。二番手に熊野と長波、最後に早霜と清霜だ。いいな」
おっとりしている早霜がテンションの低い返事を返してきた以外、長波と清霜からは元気のいい返事が返ってきた。腕組みをしてむくれている熊野からの返事はない。
「熊野、わかったのか?」
「わかりましてよ」
そう言い合う天龍と熊野の視線が交錯する。フンと熊野は顔を逸らした。天龍の顔は苦虫を噛みつぶしたようだ。それでも、天龍は気持ちを切り替えて熊野に背中を向けた。
「よし、出るぞ!」
天龍はそう宣言すると、先陣切ってスロープに足をかける。着水すると巡航速度で岸壁を離れ始めた。
「熊野さん、行きましょう~」
「わかりましたわ」
龍田に促されて、熊野もスロープから海へ降りた。長波たちもあとに続く。とりあえず、哨戒任務は始まった。