艦これ その海の向こうに明日を探して   作:忍恭弥

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Спасибо

 鎮守府に戻ると、俺たちは早速司令室に足を運んで提督に報告を行った。この辺は旗艦の電の仕事だ。俺たちは横で見ているだけだけどな。

「電、雷、暁、響、天龍、龍田、ご苦労だった。ゆっくり休んでくれ」

 提督はそう言ってたちを下がらせる。

「それでは、失礼するのです」

 電がぱっと敬礼をする。俺たちもそれに倣った。提督の右手がゆっくりと敬礼の位置に挙がる。

「ありがとう」

 提督の口から漏れた言葉に、第六駆逐隊の顔が綻ぶのが見ていなくてもわかった。

「雷はすぐにドックに行きなさいよ」

「こんなの大丈夫なんだからー」

「修理のタイミングを失えば、どんな不死鳥でも死を招く」

「こんなにボロボロになって、強がっても仕方ないのです!」

「わかったわよ! 行けばいいんでしょ!」

 わいのわいのと、第六駆逐隊の面々は話しながら歩く。まずは武器庫へ行って、支給された装備を返却する。俺たちの通常任務に最新式のソナーや爆雷は普段いらないからな。これから潜水艦と当たることもあるんだろうし、五十鈴や由良なんかが有効に使えばいい。

「天龍さんと龍田さんは、どうするのですか?」

 武器庫から出てくると、電は雷に肩を貸しながらそう聞いてくる。俺はちらっと龍田を見た。

「まあ、俺たちもドックには行くわ。痛えとこ抱えたまま仕事ってのもなんかな」

「どうせ今日はお休みなんだし、直してから休むわー」

「じゃあ、雷はお願いする」

 そう言う俺たちに、響は電から雷の肩を預かって、俺たちに渡してくる。俺たちは、いたずら心で雷の両肩を二人で持ち上げる。そうなると、雷は捕らえられた宇宙人のようだ。

「ちょっと、天龍、龍田!」

「天龍さーん、龍田さーん!」

 抗議する雷の声の先で、青葉の明るい声が響く。

「あ、やべ、面倒くさいのが来た。おまえらも捕まる前に行けよ」

 俺は電たちにそう言うと、ひょいっと雷を負う。慌てたように雷が俺にしがみついた。俺は龍田とうなずき合うと、ドックへ駆けていく。青葉は、また次に見つかったときに相手してやるよ。

 

 修理の度合いというのもあるが、特に軽傷の俺の修理など、烏の行水であっという間に終わってしまう。龍田と雷はまだかかりそうだが、俺は遠慮なく置いてけぼりを食らわしてドックを離れた。あそこは辛気くさくていけねえわ。

 比較的に早く戻れたのもあって、外へ出てみるとまだ夕方だ。黄昏れる岸壁の先に、昨日の夜と同じように響がいた。今日は、出撃時と同じいつもの帽子にいつものセーラーだ。

「天龍、もう直ったのか?」

 近づいてきた俺に気づいて、響は顔を上げる。

「あんなのかすり傷だってばよ」

 俺は昨日と同じように響の横に腰を下ろした。

「雷はちょっと怪我したけど、みんなで帰ってこられてよかったな」

「ああ、本当によかった。誰も喪わずにすんだ」

 そう言う響の表情に、ほんのりと笑みが浮かぶ。その表情は、それでも他の第六駆逐隊のメンバーと比べて、格段に達観してるし、大人だ。

「天龍」

「あ?」

「Спасибо」

 未知の言語を話されて、俺は思わずきょとんとしてしまう。俺が返答に困っているのを見て、響ははっと口元を抑えた。

「すまない。ソビエトの生活の方が長かったから、つい気を抜くとロシア語が出る」

 ああ、ロシア語だったのか。そりゃあ俺にはわかんねえわ。そう言った恥じらうかのような表情は、響もまだ若いんだなと素直に思わせてくれるな。

「なんて意味だ?」

 俺が聞くと、響は恥ずかしそうに俯く。二度言うのは辛いのか。

「…ありがとう」

 蚊の鳴くような小さな声で、響は言う。俺は思わず笑った。抗議するように、響きは顔を上げてジト目で見てくる。

「悪い悪い。あんまり響が可愛かったもんだからさ」

「可愛いとか言うな。私は…」

 そう言う響の頭を帽子越しにぽんぽんと叩く。

「いいんじゃねえの? 雷みたいになれとは言わねえけど、おまえだって一隻の艦娘なんだぜ。いい加減重い荷物は降ろして、暁たちとの生活を楽しめばいい」

「天龍…」

「ま、俺みたいにさっさと戦没した奴に言われたかないだろうけどな」

 そう言う俺に、響は小さく首を振る。

「雷や電のようにはなれそうもないが、努力してみる。もう後悔はしたくない」

「そうだな」

 もう一度、俺は響の頭をぽんぽんと叩く。俺たち戦闘艦の一生は長いかも知れないし、短いかも知れない。戦いの中で死んだ俺たちが幸せだったのか、余生を全うした響が幸せだったのかはわからない。それでも、今を生きるという意味じゃ変わらないはずだ。

「雷の修理ももうすぐ終わるだろうから、今日は第二艦隊全員で晩飯食うか。たまにはな」

「それがいい。雷が戻ってきたら、電に呼びに行かせる」

 そう言って、響がほわっと微笑う。

「天龍、ありがとう」

「俺は何もしてねえぜ? 響が自分で頑張っただけだ」

 そう言うと、俺は立ち上がった。その後ろで響も立ち上がるのがわかる。

「じゃあまた飯の時にな」

 俺は響にそう言い残すと、岸壁を離れた。龍田ももうじき修理が終わる。迎えに行ってやらんとな、相棒を。

 


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