艦これ その海の向こうに明日を探して   作:忍恭弥

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総力出撃

 朧が目を覚ましたのは、それから二日も経ってからだった。メディカルチェックには異常がなく、本当に眠っていただけで状態は上々らしい。潮はとても喜んでいたようで、隣の第七駆逐隊の部屋も、少し賑やかになった。電の艤装も迅速に修理され、電自身も翌々日の朝には全回復していたので、いつでも全艦出撃できる状態にはなっていた。

「司令官さんから作戦要綱の説明があるのです! みんな、司令室に集まってください!」

 その日の昼、銘々に談話室で休憩を取っていた私たちに、電が慌てた声で声をかけた。ここ二日は船団護衛の任務もなく、交替で近海を哨戒していたくらいなので、何かあるなとはみんな思っていたところだ。

「全員揃ったのです」

 司令室にやってきたのは、またしても私と雷が最後だったようだ。電は一番声をかけやすい私たちを最後しにしている節があるな。見渡すと、今鎮守府にいる全戦闘用艦娘が集まっている。軽巡は天龍、由良、龍田。駆逐艦は、電、雷、白雪、綾波、朧、潮、時雨、若葉、朝潮、それに私。

「みんな、休憩中のところ悪いね」

 司令官は敬礼の手を下ろすと、おもむろに話し出す。

「先日電たちが発見してくれた、敵根拠地を制圧し、近海の制海権を取り戻す作戦に出ることにした」

 司令官の声に、天龍が「おおっ」と声を上げる。後ろから見ていても喜んでいるのがわかるな。

「敵の艦隊は、重巡二、軽巡一、駆逐艦が三隻以上だ。こちらも、二艦隊を組んで作戦に当たる」

 そう言って、司令官は後ろの作戦地図を示した。

「まず、第二艦隊が先行し、敵根拠地付近を威力偵察。敵艦隊を発見すればすぐさま転進し、敵をつり上げる。第一艦隊は、会敵した戦力によって、第二艦隊と共同で敵戦力を撃滅するか、敵根拠地に突入するか判断する。その場合、第二艦隊は敵部隊の足止めを行う」

 喜んでいる天龍とは裏腹に、幾人かが息を飲む音が聞こえた。緊張するなという方が無理だな。

「第一艦隊は、旗艦電。随伴艦は天龍、龍田、由良、雷、響」

「はい!」

 天龍の「おうっ!」と言う声を除けば、全員が声を揃えた。まあ、私もこんな時くらいは少し緊張した声が出る。

「第二艦隊は、旗艦時雨。随伴艦は若葉、綾波、白雪、潮、朧。朝潮は陸戦隊を輸送する第九、第十九輸送艦を護衛して後続。以上だ」

「鎮守府が、がら空きになってしまいます」

 由良が、司令官の話を聞いて重い声を出した。全十三隻、全てが出撃する。後を守る艦娘はいない。

「戦力を逐次投入して勝てる相手ではない。ここを勝たねば、いずれはジリ貧になる」

 司令官の言葉に、由良は頷いて黙る。場の空気が重くなる。

「それでは、作戦開始は本日二一〇〇。明日明朝に攻撃を仕掛ける」

「はいっ!」

 緊張の中、全員が声を上げた。さすがに天龍だけはいつものとおり「おうっ!」と声を上げていたが。

「みんな、生きて戻ってくるんだよ」

「司令官さんに敬礼なのです!」

 電の声で、全員が敬礼を決めて、解散となった。

 

 思い切った作戦だけに、解散した後もみんなの雰囲気は重い。私たちが全滅してしまえば、もうこの国を守る戦力はないのだ。双肩に乗っているものの重さに、身が引き締まる。

「と、とにかく、出撃時刻まではゆっくりと過ごすのです」

「そうね。ずっと緊張してても仕方ないわ」

 電と雷がそう言って部屋の空気を払拭しようと立ち上がる。私も立ち上がって二人についていった。向かう先は自然と談話室になる。みんな同じことを考えていたのか、朧を除く駆逐艦の全員がここにいた。

「潮ちゃん、朧ちゃんはどうしたのです?」

 電が湯飲みを震わせている潮にそう聞いた。潮、相当緊張してるんだな。湯飲みの中のお茶が波立つくらいだ。

「お、朧ちゃんは龍田さんと一緒に夕方まで哨戒に出てるよ…。電ちゃんが指示したのに、忘れたの…?」

 おどおどした表情のまま、潮は電にそう返す。電ははっとしたように目を見開いた。

「そうだったのです! 私が指示したのでした!」

「電ー、あんた旗艦なんだからもう少ししっかりしなさいよ」

 雷が苦笑いを浮かべながら電の肩を叩く。みんな本当にどことなく硬いな。こんなことで本当に大丈夫だろうか。

「僕も初めての旗艦で緊張してくるくらいだから、若葉以外はみんなあんな感じじゃないかな」

 時雨が苦笑いを浮かべながら声をかけてくる。そんなものかな。私も少しは緊張している。重巡二隻とは重すぎる相手だ。

「うまくやって、みんなで帰ってこよう」

「そうだね」

 時雨にはそう返しておいて、電たちの座った席へ向かった。

 とは言ったものの、みんな集まっていても誰もほぼ一言も話さない。談話室の空気は重いままだ。若葉だけが、全く普段と同じ雰囲気を纏っている。ほとんど会話らしい会話もないまま、時間はまんじりと過ぎていき、若葉が夕食を採りだしたのに気づいて、みんな夕食に手を付ける有様だ。既に日も落ちて、時間は出撃時刻に近づいてくる。

「おーい、おまえらー。そろそろ準備しろよー」

 天龍の声が談話室に響いて、みんな驚いたように入り口を振り返る。そこには、全くいつもと変わらない様子の天龍と龍田がいた。天龍は戦いたくて仕方がない…というような高揚感を見せているかと思ったが、意外にも本当にいつも通りだ。龍田も緩やかな中に鋭利な気を纏っている雰囲気のまま。私たちがあまり気にしても仕方ないかな。

「行こう」

 誰に言うでもなく若葉が立ち上がる。若葉が談話室を出て行ったのを見て、他の面子もぞろぞろと談話室を出て行く。

「さあ、私たちも行くわよ!」

 雷の声に促されて、大きく頷いた電が立ち上がる。私も、ゆっくりと立ち上がった。


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