艦これ その海の向こうに明日を探して   作:忍恭弥

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第一章を一話として投稿していましたが、16.07.19に分割して再投稿しています。


リインカネーション-再会-【響と仲間たち】(響着任編)
遠い日の思い出


 声が聞こえた。

 私を呼ぶ声だ。

「まったくもう、響は鈍くさいんだから」

 呆れたように言う、姉妹艦の声。背中から聞こえる。

 振り返ろうにも、頭や首が痛くて、振り返ることはできない。手を伸ばすと、頭にも首にも、包帯がぐるぐると巻かれていた。

「コンソリの爆撃食らうなんてどうかしてるわよ」

 声は怒っているようで、責めているようにも聞こえる。でも。

「それでも、沈まなかったのは僥倖よね。あれだけ大怪我したんだから」

 振り返ることのできない私に、声は優しく言う。

「私が大湊まで曳航するから、ゆっくり寝てなさい、響」

 その言葉を聞いて思い出した。

 キスカ島攻略作戦の最中、私は敵軍の爆撃機の爆弾を艦首に食らって、沈没しかけていた。いわゆる首の皮一枚状態の私は、必死の応急修理でなんとか沈没は免れたけど、もうその後の作戦に参加することはできなくなった。

「響はもう無理ね。大湊まで戻って修理した後、横須賀に戻りなさい」

 旗艦の那智が摩耶や高雄と相談してそう決める。龍驤と隼鷹も、困ったように私を見ていた。

「…でも、響はこんな状態じゃ大湊まで戻れないのです」

 心配顔の電がそう言ってくれた。確かに、艦首をもぎ取られるような形になってしまったから、後退でしか航行できない。今なら数ノットも出ないはず。

「…暁。響を曳航して、大湊に戻って」

「暁が!?」

 那智の言葉に暁が声を上げる。特Ⅲ型駆逐艦の一番艦としてのプライドが、暁にはある。以降の作戦に参加できなくなったのだから、それも当然と言えば当然だ。

「一番艦でしょ? 長姉の責任を果たしなさい」

 同じく高雄型重巡洋艦長姉の高雄に言われてしまうと、さすがの暁も口をつぐんだ。暁は雷と電の方を見る。

「あたしたちは大丈夫よ」

「響を頼むのです」

 雷と電は口々にそう言って、暁の後押しをする。雷と電で構成された第二小隊は、この作戦では本隊預かりだ。第六駆逐隊のまま作戦に参加している私と暁の第一小隊とは別行動。攻略作戦が終われば、MI作戦の加勢に向かうはずだ。

「わかったわよ。響は責任を持って、暁が大湊まで送り届けるわ!」

 そんなやりとりがあって、私は暁に後退で曳航されることになり、その最中に先のやりとりがあった。

 大湊まではかなりの日数がかかったけど、暁は無事に私を曳航してくれた。

「ありがとう、暁」

「ま、暁型の長姉として当然のことをしたまでよ」

 礼を言う私に、暁は照れたようにそっぽを向いてそう応えた。暁型の中で一番おっとりしていると言われている私と違い、暁と妹の雷は元気も良くてハキハキしている。でも、雷の素直さが暁にはない。暁は、いつも自分が私たちの姉でなくてはならないという気持ちに支配されてる。そんな必要はないんだけどな。

「とりあえず前進航行できるようになったら、ちゃんと横須賀へ行って修理してもらうのよ」

 腰に手を当て、指を突きつけんばかりに顔を近づけて、暁はそう言う。

「わかってる」

 私が頷くと、暁は眉を寄せたまま小さく頷き、息を吐いた。そうして、ようやく笑顔を見せてくれる。

「今回本隊預かりだった雷と電は別行動だったしね。響の修理が終わったら、また四隻で第六駆逐隊やりましょう。じゃあ、またね」

 暁は、その笑顔を最後に大湊を去って行った。

 その後南方作戦に投入された暁に会うことはないまま、私はソビエトに行くことになる。

 そんなことを思い出していた。

 


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