緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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どうも乃亞です。
やっぱり更新頻度が上げられないと悩んでいる今日この頃。
ちょっと長めですがお付き合い下さい。


第64話

いや、うーん。困った。

どう考えてもあの三つ編みってカナ(金一)さんだよな。この前会ったのは…いつだったかな。確かフランスかなんかで依頼受けてた時か。その時みたくきっちりと装備してるし怖いね。

金一さんとはアドシアード前にボコボコにされたけどな。

 

金一さんはHSSのトリガーとして女装を使うようで、女装で()()()後は『カナ』として中味も女性として行動するのだ。これにより長時間のHSSを実現しているのだが、HSSが切れた後は糸が切れたように眠ってしまう。

キンジ曰く『HSSは大脳に大きな負担がかかる』らしいので、金一さんのそれは至極当然な結果といえる。

 

後は…金一さん→カナさんの記憶の引き継ぎが出来てないのか、カナさんに金一さんと呼びかけても反応を返さない。ところが、カナさん→金一さんの記憶の引き継ぎは為されているらしく寝起きの金一さんに『カナさん』と呼んだ時は顔を真っ赤にして殴られた。よっぽど恥ずかしいらしいな。

 

…話が逸れたな。何が言いたいかというと、『金一さんがカナさんの格好でいるということはすなわちHSSを使っている』ということ。

そしてこの状況を鑑みるにカナ(金一)さんは今、何の理由かは知らないが俺をターゲットにしているということ。

距離を詰めてこないことから人目のあるところでは行動を起こしてこないだろうことも想像がつく。

 

はぁ…。仕方ないから俺に有利な場所まで誘導するしかないな。

 

 

 

選ばれたのはレインボーブリッジでした。俺は橋の中心部まで歩み、後ろに呼びかけながら振り返った。

 

「……ここら辺ならいいか。カナさん、俺に何の用ですか?そんなガッチガチの強襲用装備で来たんですし、穏やかなことじゃないですよね?」

「やっぱり気づいていたのね。お久しぶり、零司くん」

「あはは……」

 

敵対してるのにそんなニコニコされると調子狂うなぁ。敵に回したくないタイプだよ、ホント。

 

「それでなんだけど……零司くん、貴方が今首を突っ込んでいる件から手を引きなさい。貴方じゃまだイ・ウーに対抗するには早いわ。もし手を引かないって言うのなら…」

「カナさん自ら俺を退場させる。そういうことですよね?」

 

俺の問いかけにカナさんは微笑みながら首肯。まぁそんな所だろうとは思ったよ。

関わった現場では敵味方の死傷者を共に0人にし、戦略上捨て石になった武偵さえも助け、生還させる奇跡的な人物。それでいて報酬をそれほど取らないという弱者の味方の体現者。キンジが神みたいに崇めるのも不思議じゃない。

だけど…な。答えはハナっから決まっている。

 

「お断りします。俺には俺の理由があって関わっていますんで」

「そう…」

 

当たり前だろう?俺とイ・ウー間の約束の関係も相まってシャーロックに挑むほぼ最初で最後のチャンスだ。千花のこともあるしな。

それともう1つ。これは俺の身勝手だが、今のカナ(金一)さんのスタンスって気に入らないんだよね。

 

「カナさん、やっぱり貴女変わりましたよ」

「そうかしら?」

「えぇ。だってカナさん昔は『大義のための犠牲』って嫌ってたじゃないですか。それを回避するために医師免許を取ったりしていたのにね」

 

確かこんな感じのことを金一さんの時にも言ったな。あの時、俺はそのことに対しての善悪は何も言わなかったはずだ。一人前の特命武偵が考えて得た結論の1つだ。まだ未熟な学生武偵が口出す権利も理由もないって考えたからな。

俺の問いかけにカナさんは長く……とても長く瞳を閉じ、そして開いて答えた。

 

「そうね。……でもそれじゃあ巨悪(イ・ウー)は討てないの。あれを倒し得る方法はどう転がろうと2つきり。でもそのうち1つは茨の道。うまく行く可能性は万に1つあるかないか。しかも成功の鍵の1つはあの子(キンジ)がHSSを使いこなせるか。今のあの子じゃ土台無理ね。もう1つは少し犠牲が出るけれどほぼ確実にうまく行く道。それなら私は多少の犠牲を払う方を選ぶわ」

「義のため……ですか?」

「ええ。それが私の果たすべき天命、義よ」

 

…義ときたか。どうしてこの人たちはこんなに不器用なのかね?

 

「ごめんなさいカナさん。ますます貴女を止めなくちゃならない理由ができました」

「……何かしら?そこまでする理由なんて零司くんには無いはずだけれど。それとも千花ちゃんのことがそんなに気になるのかしら?大丈夫よ、全て終われば……」

「違うだろ!なんで人様の妹のことを気にかける頭はあるのに自分の弟を気にかけないんだよ!あんたのことを尊敬してるキンジが今のあんたを見たらどう思うか、分からないのか?」

「あの子ももう高校生だし、理想と現実の違いには気付くはずよ」

 

全く……キンジにも言えることだが、どうして身近にいる人の感情の機微

に疎いんだ?いい加減ブチギレても文句は言われまい。

 

「いいですか?カナさんが分かってないなら俺が教えてやる。キンジの目標はカナさん、あんただよ!それも敵味方問わず犠牲者を出さない聖人のような貴女だ。馬鹿馬鹿しいですか?現実が見えていないと思いますか?えぇ、俺もそう思いますとも。周りの環境の変化は見えて気づいているのにそれがどうして起こったのか考えようとしない。HSSだっておそらくちゃんと制御して使えばそれこそカナさんみたいに強大な武器になるはずなのに仕方ない部分こそあれ封印している。そんな奴が敵味方救う?馬鹿かっ!人事尽くして天命を待つって言葉を知らんのかあいつは!」

 

だけどさ。それだけじゃねぇんだよ。ここで俺は一旦言葉を区切る。ここからが大切なんだってことをカナさんに知らせるために。

 

「あいつは確かに貴女に憧れたんですよ。『あの人は他人を守れる俺の理想の人なんだ』なんて嬉しそうに言って。理想なんてのは諸刃の剣なんですよ?うまく使えば呪い(まじない)になるけど下手な使い方をすればたちまち自分を苦しめる呪い(のろい)になるんだから。ならその理想を守って正しい方向に導いてやるのが兄と姉(としうえ)の役目でしょうが!その思いをあんたが裏切るって言うなら俺がそれを断罪してやる。あんたがその理想を捨てるって言うなら俺がその理想を守る。なにせあいつはまだ卵だからな。殻を破ってすらいない。破った後はあいつが勝手に歩いて行くだろうが、破る前なら守ってやるのが元パートナーの務めって奴なはずだ。」

 

俺はカナさんにただ向きなおる。手には小太刀のみ。必要なのはカナさんに俺が何を企図しているのか見抜かれないこと。一応小太刀に水のエンチャントを付加して射程を伸ばしてはいるけどな。

 

「さぁかかって来いよ、今のあんたには負けねぇし負けられねぇ。俺が勝って守ってみせるよ、キンジの理想もカナさん自身の理想も!!」

「……いいわ、見せてみなさい。あの子の可能性を貴方が見たというなら。それを守り、芽吹かせるだけの力を証明しなさい!」

 

 

 

「……良いの?見た所小太刀一本だけのようだけど」

「見せたらどうせ貴女のことです。武器の長所短所見抜くでしょ?なら単純なもので勝負ですよ」

「それもそう、ね」

 

パァン!

言うが早いか、カナさんの周りでマズルフラッシュが煌めく。だが…俺には当たらない。俺の超能力による自動の水壁に阻まれ、俺自身には届かない。

 

「……?」

 

カナさんは俺が攻めてこないことにかこつけ、首を傾げて今の出来事を不思議がっている。って前も近いの見せなかったっけこれ。今日は超能力の調子がすこぶる良い上に戦う場所をレインボーブリッジ、つまり水源のすぐ近くにしたから以前のように和らげるのではなくシャットアウトしているんだが。ってあぁそうか、金一さん→カナさんへの記憶の伝達がうまくいってないからあの時のことを覚えていないのか。HSSってのも難儀なもんだな。

しかし例え伝わってなくても流石はカナさん。合点がいったのか、ポン、と手を打ちニコニコ顔。

 

「零司くんの超能力は本当に強力なのね。ならどこまで対応できるか見せてごらんなさい?」

「いやいやいや……キツいですよこんなん!」

 

タネがわかるとカナさんはすぐに6連射。まだ持っていたらしいもう片方でさらに6連射。合計12発の弾が寸分たがわず俺の体を的に襲いかかる。まだ攻勢にかかれない俺は水の盾の厚さを少し増して防御に徹する。

セッティング……あと1分かからない。あとはノゾキ(監視衛星)対策の水の壁が必要か。その範囲指定……完了。これでノゾキの連中からは突然レインボーブリッジに濃霧がかかったように見えるだろう。

 

ただしその環境の変化にカナさんが気づかないわけもなく、銃撃を一度止めこちらの様子を伺ってくる。

 

もうここまでいってしまえば分かるだろう。現役の武偵庁の特命武偵に銃の技術で上回ることは難しく、髪の暗器を隠し持っている可能性があることを分かっている今、近接戦闘に頼るのも良い選択肢とは言えない。ここまで近づいている以上狙撃銃なんて選択肢もない。と言うことで俺は今回の戦闘は超能力を最大限まで活用することを選んだ。とはいえ、補助として使うならまだしもメインとして使うとなると流石に精神疲労が激しい上に、カナさんの実力的にも長期戦はただただ不利になるだけ。

結論。最大火力ないしそれに類する一撃で沈めるのが吉。逆に言うとこの一撃で沈められないとその時点で俺の敗北の決定だ。

 

「カナさん、俺の小太刀から目を離すと……死ぬかも」

「!!」

 

セット……完了。

俺は瞬時にカナさんの背後から超能力で海水製の散弾を射出すると同時に水の人形を作り出し突貫させる。そしてあえて小太刀を抜きつつ自分も水の人形とは逆に走りこむ。

 

ほぼ不意打ちなのにも関わらず海水を完璧に弾き、水の人形を振り向いただけで霧散させたカナさんは流石の一言だがそれだけの時間があれば十分。

カナさんの左に回り込んだ俺はそのまま右腕で小太刀を振りかぶり、斬りつけ……と見せかけてそのまま投棄。

 

「……!?」

「こう見えて、多芸なんでねッ!」

 

カナさんの視線が小太刀から切れるより早く俺は左腕……正確にいうと左手の親指をカナさんの右耳の耳珠(じじゅ)と呼ばれる場所に当てる。そしてそのまま軽く押してやるとカナさんは()()()()()()()()()()

念のために超能力で水の鎖を作り雁字搦めに拘束しておくことも忘れない。

 

「な、何をしたの……?」

「単純な話ですよ。カナさんの三半規管内部のリンパ液に超能力で干渉して回転性めまいを誘発させたんです。俺は湖の妖精(ミニュエ)なんて呼んでます。あ、あと15分くらいは動かない方がいいですよ」

 

口ではこう言うがそんな簡単には出来ないものなんだよなぁこれ。威力が高すぎると相手の脳を損傷させ、最悪9条破り(脳死)の可能性があり、弱すぎると効果自体がない。その繊細な条件ゆえ直接触れないといけない。人の体格によってある程度調整(セット)をしないといけない。その調整に時間がかかる。多対一対応の型は一応作ってあるけど使ったことは今まで一回しかないな。

 

とまぁ欠点をあげつらえばわんさか出てくるわけなんだが、いかんせんメリットがデカすぎるから切り札中の切り札として使っているわけで。食らった相手は問答無用で一定時間無力化(スタン)。戦闘においてこれほど有効な手はないってくらいに強力なものだ。

その無力化作用をかの有名な魔術師マーリンを塔に幽閉し無力化した妖精になぞらえた名前付けをしている。強引?知らんな。

 

「ま、これもいい機会ですよ。あのアホは俺が来たるべき時まで護ってやりますから。こういう言い方はあんまり良いものじゃないですけど、表舞台から消えるなら今ですよ。あなたが今来たことでイ・ウーとキンジが対決するのは俺の中で確定になりましたから。戦力の急騰(パワーインフレ)はそれで引き起こす、と言うことでしょうね」

「……本当にキンジと同じ高校生か分からないくらいの視野の広さね。零司くんが犯罪者(あく)じゃなくて本当に良かったわ」

「……そうですか。くれぐれも守るものと倒すものを間違えないで下さいね?」

 

それだけを告げると俺はカナさんの拘束が解けるまでたわいの無い与太話をしたのであった。

にしても拘束が解けるの待たなきゃいけないとか湖の妖精(ミニュエ)の使い勝手はやっぱり悪いと思う。改良を考えたい所だ。




切り札中の切り札ってなんだろうね?
絶○零度ス○クンは使ってて楽しかったです

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