ほぼない時間から無理やり絞り出しました。
さて、あんまりに久しぶりなんで前話を簡潔にまとめると
・ローズリリィさん逃げてた
・シャーロックさんキンジと零司に興味持ち過ぎ案件
……こんな感じですかね?
それではどうぞ!
〜〜イ・ウー艦内〜〜
明智零司君との楽しいお喋りを終え、僕ことシャーロック・ホームズは情報を軽くまとめることにした。
まず、僕の推理通り遠山キンジ君はカナ君……いや、遠山金一君を目標にして武偵高で頑張っているようだ。
……まずは一旦その心を変えさせようか。いや、僕が直接関わるわけではないのだけどね。継承者のパートナーとして相応しいかを試すのはそれからでいい。
さて、それでは部屋の外で聞き耳を立てている愉快なゲストを呼ぼうか。
「鍵は開いてるから入ってきたまえ、
「ほらぁ〜、やっぱり気づいてるじゃん
「……そうね」
そう言いながら入ってきたのは明智零司君の妹の千花君、遠山キンジ君の兄……今は姉と言った方がいいのだろうか、カナ君。
2人とも僕がお喋りをしている途中から気配は感じていたんだけどね、いやはや今最も注目すべき2人の兄妹が揃って何の用かな?浮かべている表情はどうやらほぼ真逆のようだけどね。
〜〜カナside〜〜
「……はぁ」
バレてる……か。それもそうよね、わかっててスルーしているような気はしてたし。
相変わらず何もかも見通してるかのような教授に表面上では年頃の女の子みたいなのに、兄譲りの恐ろしいほどまでの頭の回転の速さで何を考えているのか掴みづらい千花ちゃん。イ・ウーの中でも特にわかりづらい2人に挟まれてしまったわ。
……まぁ千花ちゃんに関しては私が引き留めたんだけどね。
「れーじ
「零司君はどうやら元気なようだよ。彼女まで作っているようだし、高校生としては健全な生活を送っているようだよ」
「えぇぇ〜〜!!れーじ兄ちゃんに彼女出来たの!?昔からモテてはいたけど異性に見向きもしなかった兄ちゃんが!?もし結婚したらお姉ちゃんだ!」
そう言ってからからと笑う千花ちゃん。これだけ見ればただの可愛い女の子なんだけどなぁ。
ひとしきり笑った千花ちゃんの目がスッと細くなる。これは
「じゃあ今度会うときにわたしが
言葉の明るさとは裏腹なテストという不穏な響き。その言葉に私は思わず苦い顔をしてしまった。
あれはいつだったかしら、エジプトの
「ぬぅん、妾は世界征服がしたいのぢゃ!」
唐突に始まったパトラの宣言にイ・ウーの一同はまたか、という顔をする。それくらい彼女は常日頃から言い続けていて、それに賛同する人(人外も一部いるのだけれど)を
幸いなことに今のリーダーである教授には世界征服なんて意思はないから第三次世界大戦が起こらずに済んでいるのよね。
普通ならパトラが好きなだけ言い散らかしてそれで終了なはずだったのだが今日は少し違った。
「世界征服!?パトちゃんそんなこと考えてたの〜??」
「なッ…、アケチチカぢゃと……?」
明るい声を発した主、明智千花の唐突な登場にパトラや私、あるいはローズリリィを含むイ・ウー一同は凍りつく。
前からパトラはこの人、明智千花がいる前でだけは決して『世界征服』という言葉を口にしていなかった。あの教授でさえも『千花君のいる前では世界征服という言葉を口にしない方がいい。何が起こるかは分かるだろう?』と言って
すなわち明智千花には、喧嘩を売ってはならない。
普段は天真爛漫で年頃の美少女という言葉が真に似合う彼女だが、何をキーにしてかは分からないがスイッチが一度入るとその恐ろしいまでの実力を発揮してくる。
この空気はマズいわね……。
そんな空気を作った張本人である千花ちゃんは、まるで欲しいものをねだる小学生みたいな明るい調子で続けた。
「世界征服するってことはぁ〜〜、
「……ッ!」
その言葉に畏れをなしたのか、パトラの対応もマズイものだった。
あろうことか
普通なら反応するのも辛い速度で千花ちゃんに向かって飛んだ鳥を千花ちゃんは避けない。避けられないのではなく
本来なら人を粉々にできる程度の威力のそれを咄嗟に打てるパトラの技量もすごいもののはずだけど、その驚きは次に起こった出来事で消されてしまう。
本来なら千花ちゃんをズタズタにするはずの砂の鳥は千花ちゃんの目の前で
私の背中を冷たいものが通った気がした。決して千花ちゃんに畏れをなしたからではない。千花ちゃんが何か超能力を使ったことはわかる。しかし、
結果だけを見ればパトラの攻撃を無効化した、という言葉で済む。けれど、ただ無効化しただけならパトラが射出した砂が残るはず。だけど現実は千花ちゃんが無効化したあと、砂は1つも残っていない。
「この程度なのパトちゃん?これで世界征服できるの!?ねぇねぇ!!」
不可解を生み出した張本人は全く変わらない明るい調子なのが余計に不安を煽る。本人が意識的にやってるのか無意識なのかは分からないけどね。
この後本格的に怒って暴れ始めたパトラの攻撃を千花ちゃんは全て無効化して、パトラは素行不良で退学扱いにされたんだったかしら。千花ちゃんは自分から一切手を出してないから不問。
誤解してはいけないのは、パトラはこのイ・ウー内でも屈指の実力者であるというところよね。それを一切の攻撃を許さずに抑えた千花ちゃんが規格外すぎるのだ。
そしてその千花ちゃんをも御する教授はどのくらいの実力者なのか、私には全く分からない。
「……ちゃーん。カナ姉ちゃーん!どうしたの?」
「ん?なんでもないわ、ごめんね千花ちゃん」
「そろそろ寝る時期なの?だったら寝てる間はわたしが守ってあげる!」
「ふふっ、心強いわね。それはそうと教授、私の弟に何か用があるの?」
物思いにふけっていたらしいわたしを引き戻した千花ちゃんは……いつもの感じに戻ってるわね。そんな私達の様子をパイプをふかしながら見守っていた教授に私は気になっていたことを聞いてみる。
「ふむ、質問を質問で返すのが悪いことだとはわかっているが、君の弟のために死ぬ勇気がカナ君にはあるかい?」
「え?」
疑問の声をあげたのは私ではない、千花ちゃんだ。私は……。
「カナ姉ちゃん弟いたんだ!なんで言ってくれなかったの?」
「お話しする機会がなかったからね、ごめんね千花ちゃん。それで教授それはどういう?」
「いや、正確に言うと実際に死ぬわけじゃない。僕がライヘンバッハとかでやったみたいに死んだ
なるほど、それで
元々いつか死ぬと覚悟しているし、答えを決めるのにそう時間はかからなかった。
「もちろん。色々と手のかかる子だけど、強い子だから。あの子は」
その答えだけ聞くとシャーロックは実に楽しげな笑みを浮かべた。
「あーっ!教授もしかしてカナ姉ちゃんの弟さんにれーじ兄ちゃんにしたことと同じことやろうとしてるの??」
「ほぉ、素晴らしい推理だよ千花君。お兄さんにも負けないくらいの推理力だよ」
千花ちゃんの推測を聞いてなるほどと思う。おそらくキンジを教授の継承者、つまり神崎・H・アリアとくっつけるつもりであることも想像できた。
「千花君の素晴らしい推理へのご褒美だ、1つお話をしてあげよう。カナ君には以前にもお話したかな?明智零司君は僕の
「れーじ兄ちゃん、そんなにすごくなったんだ!続けて続けて!」
教授はこうなるとなかなか止まらないのだが、以前話した時には私に『千花君にも話すな』って言ってなかったかしら?
そう思い教授を見ると目があった。どうやらそのことをしっかり覚えていた上で話しているらしい。
「その理由は『仮想の未来視』とそれを扱いきれる頭の良さ。あのモリアーティにも匹敵するよ」
「えぇ、それは前にも話していたわね。教授でももう彼のことを推理するのが難しいとも」
「その通り。じゃあここで問題だ、一体『仮想の未来視』とはどういった超能力だい?」
「それは……未来にある無限の可能性から1つのルートを選び出す能力?」
「間違ってはいないね。だけど僕はこう考える。『未来の強制選択』と。おそらくだが、『仮想の未来視』はその日の天気や風向きなども予測できる。いや、予測というのも少し違うかもしれない。設定と言った方が正しいのだろうか。彼がそのことに気づいているかどうかはもう分からない。気づいているかもしれないし、気づいていないかもしれない」
教授は自らの考察を面白い漫画を読んだ感想を言うかのような調子で話している。いや、実際に楽しいのだろう。この人が条理予知できないのは私の知る限り色金関連の話題と彼の話題なのだから。知らないことを解き明かすことを至上の喜びだと思っている節がある彼には最大のご馳走と言っても過言じゃないのかもしれないわね。
……にしても、未来の強制選択かぁ。それはつまり……
「教授。もし彼の『未来視』の本質がそうならば……」
「その通り。とても人間1人が持っていい超能力じゃあない。ローズリリィ君や理子君の報告では一度使っただけで戦闘に支障がでて、2週間も入院生活を送ったそうだ。最も入院に関しては彼があえてゆっくりしていたようだけどね」
「え、れーじ兄ちゃん入院したんだ!?兄ちゃんが入院してるところなんかあんまり想像できないなぁ〜」
能天気なことを言ってる千花ちゃんはとりあえずほっておきましょうか。ただ一度の使用でそれだけの代償を強いられるとは……もしこれを続けてしまうと……。
「僕の
「……!!」
世界の修正力。つまり
世界ではシバの女王という存在がそれに近いかしら。旧約聖書でのソロモンとの智慧比べという逸話くらいしか存在が確認されず、シバという国がどこにあったのかや女王の名前すらもマケダなのかビルキスなのかハッキリしないという曖昧な存在。考古学的な証拠もないため、幻の存在ではないかと一般的に言われるその人はしかし一方で、魔術や超能力者の歴史という側面から見てみるとこの世界の修正力に囚われたのではないかという学説がまことしやかに囁かれているそう。
では逆になんで旧約聖書に残っているかと言われるとこれも難しいのだけど智慧比べの相手、つまりソロモン王が原因なのでは?と言われている。
神に智慧を願い、古代イスラエルの最盛期を担った王。それがソロモン。彼が神から授かった指輪の中に世界の修正力に対抗できる代物があったのでは?というのが定説なのよね。
……指輪、ね。
とにかくそのような規格外の存在と交わってもこのくらいしか残されない、ということかな。
「だからこれは千花君、君に僕からのお願いだ。君はもう9ヶ月やそこらもすれば零司君と出会うことになるだろう。その時には彼と彼の周りの皆のことを試して欲しい。やり方は君に任せるけれど、零司君は犯罪になるようなことを望まないだろうとだけは言っておくよ」
「うん、わかった!だけどなんでそれをわたしに伝えるの?カナ姉ちゃんの方が人を守るのは得意じゃないの?」
それは私も気になった。果たして一体どんな答えが出てくるのかしらね。
「……そうだね、こんな身だから僕は戦友や人の死を見慣れている。1番の助手だってあっけなく逝ってしまったんだ。そのことはなんの問題もない」
シャーロックはパイプを置き、滔々と語り出した。そこには別れを惜しむような響きがある。
「だけどね、電話越しとはいえティータイムを共に過ごした好敵手を存在ごと忘れてしまうのは流石の僕も経験がないし、何より悲しい。どこがと言われると、そうだね。彼が消えて悲しいと思えなくなる可能性があるのが悲しいといえばわかってもらえるだろうか。大丈夫、きっと彼の周りのみんなと千花君が力を合わせることができれば消滅することはないはずだから思う存分その時が来たら頑張ってくれたまえ」
「うん!わかった!」
千花ちゃんは相変わらずニコニコと楽しげな笑顔を浮かべている。実の兄が消えるかもしれないのにそのメンタルは中々すごいと言えるのか、はたまた彼が千花ちゃんに与えた影響が少ないのか。私には分からないけれどでも守りたいと思われる程度には大切に思われているのでしょうね。
「カナ君は今度アンベリール号で『死んで』もらうから、そのことを悟られないように」
「ええ。……ってえぇっ!?」
「さっきの質問はそういう意味だったんだがね。気づかなかったかい?そろそろツァオ・ツァオ君がくる頃だ。欲しいものをリサ君に言っておくべきだと思うよ」
……なんだろう、重い話をすごく軽いトーンで言われてしまうとなんだか調子が狂わされてしまうわね。
千花ちゃんもさっきの一言でスキップしながら行ってしまったし、私もそろそろ戻りましょうか。
先に言ってしまったし、今更撤回できないから仕方ないかぁ…。
「分かりました。ではまた、教授」
「うん、それじゃあまたいつでも気になることがあればおいで」
教授の部屋から出て私はなにか貰いたいものがあったかしら、と手持ちのものを確認するために自室に戻ったのであった。
久しぶりの投稿で出番のない&死亡フラグ立つ主人公って新しくないですか…?
そしてついでみたいなカナさん悲しい…