緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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第59話

午前の授業も(波乱こそあれど)無事終わり、俺は午後の探偵科(インケスタ)の準備を……したかったんだけどなぁ。

 

生憎今朝の事件関連で高天原先生にお呼びがかかった。どうやら理子の奴、あの事件の捜査主任を俺に押し付けやがったらしい。おかげさまで呼び出しくらった3限から内職で理子たちの捜査レポートをまとめる羽目になった、高ランクほど主任に選ばれやすいのが完璧に仇となったな。というか仮にも理子だってAランクで優秀なんだから主任やってくれよ。と言いたいところだが副主任のところにちゃっかり名前をお書きになられていらっしゃる。この分だと適当に丸め込まれるな。

 

というわけで昼食よりも先に俺は今年もう何度めになるかわからないが、武偵高3大危険地帯の教務科(マスターズ)に踏み込んでいる。

 

「1年、明智です。高天原先生に用事があってきました」

「あ、明智君。こっちこっち」

「ん〜??誰かと思ったら色ボケSランクの片割れか」

「あ、はいどうも」

 

そう言いつつ、クイックイッと手を振る高天原先生の近くには綴先生。不幸指数があがってきたぞ…!というか色ボケって…。しっかり任務こなしてるのになぁ…。あの言い方だともう片方はレキだろうけど、レキにはジョークの類が通じないからもし俺の与り知らぬ所でレキに言ったらイヤーな雰囲気漂いそうで怖いなぁ。

 

俺はいつものように指示された椅子に座り、話を聞く姿勢をとる。

 

「単刀直入に聞くんだけど…現場を見た明智君の目から見て、どう思う?」

「思う、とはどういう意味でしょう。犯人の思惑とかですか?」

「それもそうだけどもっと根本的なお話。あれをやった犯人は武偵殺しだと思いますか?」

「……ふむぅ」

 

朝のレポートにそれとなく書いたんだけど確かめるという意味合いも込めてだろうか。……って熱っ!綴先生、根性焼きとか昭和かッ!

 

「早く答えなよォ。こっちだって暇してるんじゃないんだよ〜?」

「すみません。……ぶっちゃけ、先日のバイクジャックと今日のカージャックの犯人は同一人物と捉えて良いかと。その犯人を武偵殺しと言うのならば、そういうことかと」

「な〜んか含みのある言い方、だなァ?」

「いや、まぁ。そうですね……武偵殺し、という名前がよろしくないかと。現実問題、2件の事件の被害者のうち前回のバイクジャックの被害者は軽傷、今回のカージャックの被害者の澤村鷹展氏に至っては怪我なし。まだ誰も人を殺していない状況で武偵殺し、という仮称を付けてしまうとそういうネタが大好きなマスコミの報道陣に無闇矢鱈に取り上げられ、国民の不安を煽ることになりかねないのでは…と危惧しています」

 

そこまで説明すると高天ヶ原先生はなるほどという顔、綴先生はニタァとなんだか薄ら寒い笑みを浮かべてらっしゃる。こえぇなおい。

 

「おい明智〜、今澤村鷹展って言ったかぁ?」

「え?……あぁはい」

「そっかそっかぁ、まぁたタカは事件に巻き込まれたのかぁ。アイツやっぱり面白いナァ」

 

そしてそのままニタニタ。スッゲェ怖い。というかそういえば澤村氏も綴先生のことを梅子って呼んでたな。仲が良いんだろうけどよくもまぁこんな人と合わせられるって熱っ!!

 

「今失礼なこと考えてただろぉ〜?そんな悪い子はお仕置きだぞ〜?」

「す、すいません!!で、その澤村氏から綴先生によろしくとのことです」

「ふーんタカが私にねぇ……。ま、いっか」

 

まぁいっかって顔じゃないですよね、それ。明らかに弄りがいのある人(オモチャ)を思い出した顔ですよね?

 

「……話を元に戻します。その武偵殺しと呼ばれる犯罪者ですが、性別や身長、あるいは国籍などの情報が一切出てきていません。この点だけを鑑みると、似たような犯罪者は沢山いますね。超偵を攫う魔剣(デュランダル)、或いは存在そのものがあやふやな無限罪のブラドだったり」

「……それで?明智は何が言いたい?」

「いやー、ね?そんな感じの犯罪者を夏に俺が捕まえたなぁ〜、なんて思いまして」

 

ここで俺は一旦区切る。俺の中で最善はコレだと思うんだよな。

 

「怪人ローズリリィに司法取引を持ちかける、アリだとは思いませんか?もしかしたら犯罪者同士、知ってるかもしれませんよ?」

 

その言葉を告げると高天原先生はすごく申し訳なさそうな顔をしだした。え?なんか変なこと言ったかね、俺。

 

「明智君には言ってなかったね。実は怪人ローズリリィなんだけど……」

 

話を聞いた後俺はここがどこだかさえも忘れて叫んだ。

 

「はぁ!!!?ローズリリィが逃げたァ!!?」

「じゃかしぃわ明智ィ!殺したろかおん!!?」

「あっ、イテテ!すいませんでした!!」

 

 

 

半ば追い出される形で教務科を後にした俺は予定通り探偵科棟の自室、通称零司の部屋に向かって歩いているわけだが……蘭豹先生容赦なさ過ぎない?斬馬刀の鞘でぶっ叩かれて軽くたんこぶできてるんだが……。

ともあれ、ローズリリィの野郎が脱獄したのは想定外だ。奴から聴きだすって方法はディスカードするしかないだろう。

 

ならば次だ。正規の方法が無理なら非正規な方法で答えだけ先に埋めて尻尾を出した瞬間に捕らえればいい。というわけで零司の部屋だ。

ん?零司の部屋って何って?いやー、なんかお悩み相談とかあの部屋で色々受けてたらいつの間にかそんな呼ばれ方をされていたね。

なんせ引っ掻き回すのが好きそうなアイツのことだ。十中八九ちょっかいをかけてくるに違いない。

 

零司の部屋に着いた俺はまず『作業中、入室禁止』という立て札をかけてから寮の部屋から持ってきたティーセットを取り出す。立て札掛けてねえと誰が入ってくるかわかったもんじゃない。白雪を筆頭になぜかどうでもいいような与太話をしにくる武藤と不知火、後キンジ。人の備え付けのゲームを取り出して始める理子。後は怪しげな新商品を持ってきて押し売り販売にくる平賀さん。逆にレキが来ないのが不思議なくらいのメンツだ。

 

ティーセットで紅茶を沸かし、作業机で一息つこうとしていたら案の定備え付けの電話のベルが鳴った。やはりそうか。

 

「はい明智です。どちら様でしょうかシャーロックさん?」

『ははは、やっぱり気づいていたね。人のティータイムを邪魔するのは無粋な訳だがそこは流してくれたまえ』

「流すも何もこっちから聞きてえことが山ほどあるんだ、それくらい問題じゃない」

『そう言ってくれるとありがたいよ。で、聞きたいことっていうのは何かね?』

「『武偵殺し。』……やっぱりわかってんじゃねぇか」

『なに、簡単な推理さ。それで、巷で話題になっている武偵殺しの何が知りたいのかね?』

「……ハァ。武偵殺しはお前ら(イ・ウー)の一員だろ?」

『……ほぉ。何故そう思う?』

「それこそ簡単な推理だ。ポッと出の犯罪者にしては証拠や自らの素性を隠すのがうまい。オマケにコレはメインじゃないだろ、奴にとって。本気なら俺たちが救助に出た時点でボカン、ってするはずだろ?あんまり自分のことをこう評価はしたくねぇが、アドシアード優勝の2つ名(ダブ)もちの武偵を殺るチャンスを、ここまで狡猾な犯罪者が逃す訳ないだろ?」

『ふむ、合格点を与えようか。確かに武偵殺しの犯罪をしてる人はウチの誰かだよ。君も知っている人だ』

 

俺も知ってる……?一瞬ローズリリィが思い浮かんだが、それは無いと即座に否定した。あいつは盗人専門だ。

となるとやはり内部犯、なんだろうな。はぁ嫌だ嫌だ。

 

「そうかい。…んじゃあもう1つ、ローズリリィに伝言頼むわ」

『その様だと逃げたのは知ってるようだね。何かな?なんなら今代わってもいい訳だがどうするかな?』

「いらん。また捕まえに行ってやる、とだけ頼むわ」

 

やっぱりイ・ウーに戻ってたか。いずれまた会うことになるのはほぼ確信している。そうなったらまた捕まえるだけだ。

それにしても……そろそろ退くべきか。これ以上話し込んで教唆術にはまっても面倒だし。

 

『そうそう、明智零司君』

「あ?んだよ、イ・ウーに入れって話ならノーだぞ」

『それはわかっているよ。遠山キンジ君は元気にしているかな?』

 

はい?キンジ??どうしてここでアイツの名前が出てくるのかはわからんがこれだけはわかる。キンジは面倒なやつら(イ・ウー)に絡まれるだろうな。アーメン、キンジ。

 

「キンジかぁ、元気かもしれないし元気じゃないかもしれないな」

『ふむ、そうかい。それだけわかれば十分だよ。じゃあ、また』

 

……聞きたいことだけ聞いて切りやがった。なんともまぁこいつといいピンクいのといい、その妹といいどうしてこうもH(ホームズ家)の方々は自分勝手な方々が多いのかね。家柄かね?

 

残った紅茶を啜りつつ、俺は1人ため息を吐いたのであった。


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