「はぁ…来てしまった」
ため息とともに辿り着いたのはSSR棟。SSRってのはSupernatural Searching Research の略称で日本語にすると超能力操作研究科って言うところか。まぁ長ったらしいから教師含めみんなSSRって呼んでるな。
さて、このSSRでは名前の通り超自然的なもの、つまり超能力が絡む犯罪の調査とかをやっている。超能力を使う武偵は超偵なんて呼ばれ方をされている。
超能力を使うということで、水を操ったり『仮想の未来視』で未来予知の真似事をしてる俺は完璧に超偵のくくりなんだが、あくまで武偵と名乗っている。超偵って言葉に誇りを持ってる人には失礼な話なのだが、なーんか超能力しか能のないようなネーミングで気に入らない。俺はあくまで武偵であるということに拘りを持ってる。
それで超能力者は大きく4つに分類されてⅠ〜Ⅳ種超能力者なんて呼ばれ方をする。俺が分類されてるのはⅠ種。これは体内の物質を使って超能力を使う人達のことを指す。このタイプの超能力者は基本的には戦闘後に何か経口摂取をしなければ栄養失調で死ぬ。また長期戦には向かないんだよな。まぁ、いつか話したとは思うが俺は幸運なことに使用する物質と超能力が一致してる、つまり水だから超能力を発動させつつ経口摂取を出来るっていうⅠ種の中でもちょっとした例外みたいな感じなんだがな。
Ⅱ種は体外の物を操る超能力者たちを指す。Ⅰ種とは違って体内の物を消費しないから戦闘後に経口摂取の必要はないのが特徴だ。また超能力者の中では継戦能力が高めだという話を聞いたことがある。アフリカとかの祈祷師なんかはこれか次の第Ⅲ種のどちらかだろうな。
Ⅲ種は俗にいう魔法使いとか魔女の類。精神力だけで超能力を行使する人達の事を指す。何も媒介を必要とせずに超能力が行使できる反面、長期戦にはⅠ種以上に向かないらしい。
そして第Ⅳ種超能力者。これが一番きな臭い。まず分類がわけわからん。『前述3種に属さない超能力者』。これだけ。これに属している人に出会ったこともないし完全な憶測で言うのであればⅠ〜Ⅲの
……とと、話が逸れたな。今日このSSR棟に来た目的は1つ。『仮想の未来視』の超能力分類を確かめに来た。俺の見立てではこれもⅠ種だ。使って栄養失調で倒れたわけだし。
ということで来たわけだが…少し待ち合わせの時間より早く着いてしまった。着いてしまったんだが、どうしてもういるんだよ、白雪さん?
「よう白雪、相変わらず早いな。暑いからギリギリまで涼しい所入ればよかったのに」
「あっ、明智くん。明智くんこそ早く来なくてよかったのに」
はい、ということで専科がSSRの白雪に少し手伝ってもらうことにした。俺も以前高天ヶ原先生たちにSSR棟使用の許可をしてもらっていたがほぼ使った事がないからこの人外魔境を案内してくれる人が欲しかったんだよな。
………浮気じゃねぇよ?レキにはキッチリ話を通してあるからな?
キンジのこと以外では完璧な白雪なら信頼も置けるしな。…というかSSRの奴らは独特すぎて話が通じない奴もいるから消去法でも白雪が選ばれるだろうな。
「んでどこで調べられるのさ?」
「うん、ちょっとついてきてね」
そう言いつつ白雪はSSR棟に躊躇いなく入っていく。俺も見失ってはまずいのでさっさとついていくことにしよう。
……何されるのか心配だなぁ。
SSR棟内は色々なわけのわからないものがごった混ぜになって置かれていてある。まず入り口。狛犬の隣にスフィンクスが置いてある。これだけではなくトーテムポールやらお地蔵様、モアイなんかも置いてあるんだからもうわけがわからない。まるでつい最近オカルトにハマっていろんなものを集めてきた好事家みたい……にしては量が多すぎるか。
それで内部。扉を開けたとたんちょっとしたホールになっていてお祈りとかが出来るようになっている。それで錦絵とか西洋画とかごっちゃごっちゃに飾られている。……というかパイプオルガンの上に木魚置いてあるんだけど……。
内装もおかしければそこにいる生徒もおかしい。
「カメルーンに昔から伝わってる探知魔術ってのはね……」
「黒より黒く、闇より暗き漆黒にわが真紅の混交に望み給う……」
「おれは人間をやめるぞ!ジ○ジ○ーッ!」
……おかしいなぁ、誰か1人爆○魔法を撃とうとしてるし、人間をやめようとしてる人もいる。マンガの読みすぎだろと一笑に付す事ができないのがタチ悪い。あ、今爆発した。
ホントになんで白雪はSSRに所属してるんだろうな?少し聞いてみるか。
「なぁ白雪」
「どうしたの明智くん?」
「お前なんでSSRに所属してるのさ?お前だったら衛生科とかでもやっていけそうなものなのに」
「あ、えっとね。星伽からのお達しっていうのでね…」
「あぁ…」
こいつが星伽っていうときは実家の星伽神社のことを指す。なんでも星伽神社は代々護り巫女っていうものらしくて神社を守るために武装してるらしい。それでその実家はとても厳格らしく、白雪は本来ならほとんど外に出ちゃいけないらしいし、また逆に部外者が中に入ることも許されないらしい。
んで、なーんで俺がそんなことを知ってるかっていうと明智家と星伽家は関わりがあるから。
本能寺の変で織田信長を倒した光秀公は山崎の戦いで豊臣秀吉に滅ぼされた。本当ならは明智一族はその時に全滅を迎えていたはずだった。その時に残った明智一族の家族を匿ってもらい、秀吉に便宜を図らせたのが星伽家ってわけ。京都にある分社なんだけどな。
残った明智家の一族に星伽家は京都の自分の領地を与え、そこで生活出来るよう支援をしてくれた。織田信長を倒すことでその役目を終えた明智家は歴史の第一線から退いた……とそんなところらしい。
光秀公が『仮想の未来視』をする際に星伽家の巫女に協力を仰いだ……なーんて話もあるけどこれは本当なのかどうかわからない。
「白雪の実家は厳しいよなぁ、確か遊びに行くのも禁止だろ?」
「うん。……でも感謝してるんだよ?本当なら私が武偵高に来ることも反対してたんだ。それでも許可してくれた。星伽の巫女は、
今時こんなのも古風の極みみたいなものだろう。それに俺は白雪……というよりは星伽の実家がその守ってるものを奪われることを恐れているように感じるな。ボディーガードとかSPみたいなのと少し近い感じというか。
……そこまでして守ろうとするものはなんなんだろうな?
そこまで考えて俺は思考を切り替える。
「少し重い話になっちまったな。忘れてくれ」
「ううん、いいの。明智くんにはキンちゃんのことでお世話になってるし」
「そうかい。……いつも言ってるけどキンジは年上っぽい雰囲気の奴に弱いぞ。でもあんまり押しすぎてやるなよ?」
「うん、わかってるよ」
そう言って少しニコッとする白雪はホントにキンジのこと好きなんだろうな。その大人みたいな対応力をキンジに発揮してやればいいのに。いっつもテンパって失敗するんだよな。ごく稀に成功した時にキンジは顔真っ赤になってるのを俺は知ってるけどな。ちなみにそんなときは白雪本人の意識も飛んでるからなんも進展しない。
キンジにしてもこいつにしても不器用すぎるのだ。見ててもどかしいったらありゃしない。
白雪に連れられて着いたのは入り口とはまた違う感じのホール。白雪曰く、ここで超能力の系統を調べるらしい。
「それで、俺はどうすればいいんだ?」
「えっと、まず3つ質問に答えてもらってもいいかな?」
「モノによるけどいいぞ」
質問をすると言いながらなにやら準備している白雪。こういう巫術とか呪術みたいなのはよくわからないなぁ。
「まず1つ目。その超能力はどういう系統?」
「うーん……未来予知に近いけど、自分で未来を見つけ出す感じといえばいいのかな?そんな感じ。占いとかとは違うな。ご先祖様も似たものを使ったことがあるらしい」
「なるほど……それじゃあ、使った後に何か変わったこととかあった?」
「体調がすこぶる悪くなって栄養失調で入院した」
「そういえば明智くん入院してたね。それかな?」
「そうだな、それで合ってる」
「じゃあ最後の質問。使った後に何か無性に欲しくなったものってある?」
「うーん……ないかなぁ。そのあとすぐ戦闘してぶっ倒れたわけなんだが、その時に何か欲しいとは思わなかったなぁ」
そこまで聞くと白雪はサラサラサラとメモになにやら書き込み、なにやら考えている様子。邪魔するのも悪いので待つことにするのだが、やっぱり居心地が悪い…。
なんて考えていると白雪はなんか腑に落ちないような表情をしつつも切り出してきた。
「うーん、はっきりとはわからないけど明智くんのそれは第Ⅲ種なんじゃないかなぁ」
「え?Ⅲ種?てっきりⅠ種だとばっかり思ってたんだが…。理由を聞かせてもらっても?」
「まずⅠ種じゃない理由から説明するね。Ⅰ種なら超能力を使ったあとに何か欲しくなるはずなんだ。例えば砂糖とかお塩とか。それがないっていうことはⅠ種じゃないってことになるの」
「そういうものか?」
……よく考えたら中学のときは水の超能力を使った後に水ガブ飲みしてたな、周りが引くレベルで。なるほど、それがないってことはⅠ種じゃないって言えるのか。
でもそれだと栄養失調でぶっ倒れたのが説明がつかないな…。
そこを聞くと、そこなんだよね…と白雪は頷いた。白雪もそこでつまづいてたのか。
「第Ⅱ種じゃない理由はいいよね。話を聞く限り、明智くんが何かを媒介に使ったってわけじゃないみたいだし」
「あぁ、そうだな。俺もⅡ種はないと思ってた」
「うん。じゃあ第Ⅲ種なんじゃないかな、と断定した理由を説明するね。多分明智くんが言ったご先祖様っていうのは明智光秀さんのことだよね?こうやって先祖に似た力を持った人がいる場合は先祖返りって認定されてその血筋を魔法使いの家系ってするのが一般的なの。だから第Ⅲ種なんじゃないかなって思ったんだけど、普通の第Ⅲ種だったら能力を使っただけで栄養失調とはならないと思うの。せいぜい息切れして体が動かなくなる程度かな。栄養失調ってことは確実に体内の物質を使ってるってことになるはずだからそこで第Ⅰ種と悩んだんだけど……」
「白雪でもそこの判定は難しいか…。ま、仕方ないか。乱用禁止さえ守っとけば当面問題ないだろうし…」
とはいえ困ったな…。第Ⅰ種と割り切ることが出来たなら体内で消費する物質を補えるような食べ物を携帯しておけばよかったんだが…。
そう思っているとなにやら白雪は先ほど準備していた術みたいなものをちょこっと動かし始めた。
「あの……何をするおつもりで……?」
「第Ⅲ種とは一応言ったけど、明智くんの体内で物質を消費しているのは間違いないと思うの。この術式は第Ⅰ種超能力者が体内で消費する物質を検査するものなんだ。ちょっと髪の毛をもらっていいかな?」
は、はぁ…。占いの一種みたいなものか。キンジ曰く『白雪の占いはよく当たる』らしいから信じてみるか。
俺は髪の毛を一本抜き取って白雪に渡す。なんか恥ずかしいな…これ。
「じゃあ今から術式を起動するね。起動中はちょっと体の中に違和感が出るけど我慢してね」
「はい!!?」
俺の抗議の声をスルーして白雪は術式を起動させたようだ。見た目に派手な変化がないからイマイチ実感はないけど。
そう思った瞬間、体の中からなんとも言えないゾワリとした感覚が駆け抜けた。体の中を蛇が動いているようなどうしようもない不快な感じだ。これ元々相手を呪い殺す術式とかそんな物騒なもんじゃねぇよな!?
「はい、終わりだよ。ごめんね明智くん」
「……マジで気持ちわるい……」
術式が終わった瞬間さっきの不快感が消えるからなおのこと気持ちわるいったらありゃしない。
「で、結果なんだけど…。まず水を消費するみたい」
「あぁ、そりゃ別もんだ。続けてくれ」
「……?うん、じゃあ次ね。チラミンとテオブロミン、あとは鉄分も消費するみたい」
「チラミンと鉄分、あとなんだって?」
「テオブロミンだよ。全部チョコレートに入ってるね」
あ、ああチョコの苦味成分のアレか。鳥とかが食べたら中毒起こすやつだ。
「じゃあチョコレートを持って歩けば良いわけか?」
「うーん、そういうわけにもいかないみたい。消費量がかなり大量だから板チョコ一個じゃ全然足りないみたい…」
「具体的にはどんくらいとか分かるか?」
「うーん、多分2箱分ちょっと足りないくらいかな…?」
めちゃくちゃな量だなオイ。ま、量が分かるだけマシか。
「その辺はまた考えておくよ。ありがとさん」
「ううん、いつもキンちゃんのことで助かってるからこのくらいはおやすい御用だよ」
そう言ってくれるのはありがたいんだけどな。よし、ついでにもう1つ質問でもしてみるか。
「白雪はどんな超能力もってるの?まさか占いだけじゃないんでしょ?」
「あっ、それはね……」
うん……?単に気になって聞いてみたんだが、白雪はもじもじ。聞いちゃまずそうな雰囲気出てるな。
「……聞いちゃまずかった?」
「……できればね。でも明智くんの言ってることはあってるよ。占いだけで私はSSRに来てるわけじゃないんだ」
「そうかい。なら深くは聞かないよ。無粋だった、ごめんな」
「ううん、平気だよ」
そう言って白雪はテーブルの上の術式を解体し始めた。何を消費してるのかわかっただけでも良い情報だ。
……あの体内の感覚は二度と味わいたくないけどな。
「今日はマジで助かった。ありがとさん」
「明智くんの力になれたならよかったよ」
SSR棟を出て俺たちは話しながら帰ってるわけだが、白雪はどうやら生徒会のお仕事があるらしい。本当に超のつく優等生だよ。……自分の感情を出さずってところは評価が分かれる可能性があるかもしれないが。
……おっと、これ渡すの忘れてたな。
「白雪、これやるよ」
「えっ?」
そう言いつつ取り出したのは封筒。中身は開けてのお楽しみ、ってね。
「開けて良いぜ。お前への報酬は金よりもこっちの方が良いかなって思ったからさ。あとそれ、俺が入院してる時にレキに料理の手ほどきしてもらったお礼も兼ねてるからさ。お返しとかいらないよ。じゃあな」
「えっ、あっうん。またね、明智くん」
そう言いつつ俺は背後の白雪の反応を楽しむ。はっ、という声をあげて白雪が顔真っ赤になるのが雰囲気で見て取れた。
うん?何を渡したかって?
……白雪に渡すものといえばキンジの写真だろ?今回は
超能力の分類はあくまでこの小説の中だけの分類になってます。ですので原作とちょっと違う可能性もあります。