緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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お久しぶりです、乃亞です。
長い間投稿空けちゃって申し訳ありませんでした。
今回、ブラックコーヒー手元に置いておくと安心……かもしれないです。
それではどうぞ!


第54話

『打ったー!!××高校2点勝ち越し!ここにきて大きな得点が入りました!』

 

夏休みも中盤になり、日本にいる時は大体見ている高校野球も優勝候補がぼちぼち脱落していっておりますます見所が多くなってきた。

そういえば、武偵高って野球部あるのかね?部活とか依頼が多すぎて入れなかったから入学時の部活パンフレットすら目を通してないから分かんねえな。武偵高生なら守備はともかく打撃はボールなんかより随分と早い銃弾を常日頃から見てる影響で一流になれそうだけどな。

 

あの学校紹介以降は夏休み中は依頼を受けないと武偵高(というか高天原先生と蘭豹先生)に通告しておいたので俺もレキもぐだぁーっとしている。大体武偵高の先生たちは1学期から俺たちをこき使いすぎではないだろうか。達成任務(コンプリートミッション)30。そのうち教師からの依頼24。明らかにおかしい。バグってるような気がする。レキにも聞いたら同じような感じらしい。直接は聞いてないがマサトなんか学校にほぼ来てないから50越してきてるかもしれない。

 

ま、高天原先生の良心によってこのワガママが通っていると言われればそこまでの話だが。

 

そんな感じでぐだぁーっと俺とレキは冷房の当たるソファーに腰掛けながら高校野球を見ている、というわけだ。

なんかレキはパソコン開いてるけど。お前使えたんだな、パソコン。

 

「なぁ〜、レキ」

「はい」

 

ぐだぁーっとしてる俺は心なしか声が伸びてるな。銃声がないのは素晴らしいことだよ、ホントに。こんなにのんびりできるのはいつ以来だろうか。もしかしたら中2の春休み以来かもしれない。中2の夏休みは海外行く手続きとってたし、中2の冬休みにはもう渡欧してたし。中3時はホントにこき使われてたし、許さんぞヨーロッパ武偵局!恩はあるけどそれとこれとは別……ってそうじゃない、本題に入ろうか。

 

「何見てんの〜?」

「……!いえ、何も」

 

……珍しい。日々感情豊かになっているレキだが、キョドったのは初めて見たかもしれん。なんかかわいいし、ちょっといじるか。

 

「気になるなぁ〜。見せてよ」

「い、いえ。見せません」

「あっ、レキの後ろに守護霊が!」

「えっ」

「スキあり!」

「あっ」

 

ぱさっ。やっと取れた。てか守護霊て。レキってぽけーっとしてるようで鋭いから蚊とか虻とかって言っても意味ないのはそうなんだけど俺って嘘下手か!というかレキもそんなことで釣られるなよ……。

パソコンの画面を見てみるか。どれどれ……

映し出されていたのは、浴衣姿のお姉さん。『浴衣』でグルグル検索してあたり、レキらしい。

レキを見るとぷすぅーっ!といった感じで拗ねてらっしゃる。ハハーン。レキ、浴衣着たかったんだな。

 

「レキ、浴衣着たいの?」

「……」

「着たいの?」

「…………はい」

「そうか、じゃ今日着ようか。着てどっかに出かけよう。お祭りとかいいな」

「はい!」

 

そこまでいうと拗ねてたレキさん、途端に嬉しそうな雰囲気を出し始めた。返答も早く、強くなってて可愛すぎか。

 

「と、なると今から動かないとお祭りには間に合わないな。レキの浴衣見繕わなきゃならんしな」

「あれ、零司さんの分はどうするんですか?」

「あぁ、俺の?ほら一応俺って武家の出身な訳でして…俺の分の浴衣一式持ってるから、それでいいかなって」

 

そう言うとレキはもじもじ。何か言いたげにしてらっしゃる。こういうレキさんすごく貴重だよな。

何も言わずにじっとレキを見る。やがてレキは根負けしたのか、消え入るような声で一言。

 

「その……お揃いの、とかどうですか?」

「おっ、おっおっおっおっ!!?」

 

今この子なんと!!?お揃いって言ったのか……?顔が火照るのを感じて思わずレキから顔を背ける。

……正直ヤバい。どうしてこんなに俺の彼女は可愛いのだろう。ちらっと見るとうなじまで真っ赤になってるし。ど、どんな顔をして話せばいいんだっけ??

 

「……レキ」

「はい」

「買いに行くか。浴衣。お揃いの」

「……!はい!」

 

……ま、レキが嬉しいならそれでいいか。お金は余ってるし。

 

 

 

「というわけで新宿伊勢丹に来たわけだが、レキが好きなの選びな。俺はそれに合わせるからさ」

「では、お言葉に甘えて」

 

やっぱり女子ってのは買い物が好きなんだなぁ。特に身につけるものとか。ついこないだまで「私服を持ってません」だったレキがあんな楽しそうな雰囲気を出すなんてね。おっとこうしてる暇はないな。今日どこで花火大会やってるのか調べたりして小物買わなきゃな。

 

 

 

かちゃ、かちゃ、かちゃり。この辺だと少し遠くはなるけど箱根辺りが今日やってるっぽいな。帰りのことも考えて電車で来てよかった。

それで……これとかいいかもな、小物。

 

 

「零司さん」

「おっ決まっ……ゎーお…」

「どうですか?その……似合ってますか?」

 

レキはどうやら選んですでに着付けてもらったらしい。レキの髪色にあったグリーンを基調に黄色の花をあしらった浴衣に俺の髪色に合わせてくれたのか少し濃いめのブルーの帯。下駄もしっかり履いてる。おまけに少し化粧してもらったらしく、女子力5割増しでお届けしていらっしゃる。持ってるカバンの中身はどうやら武偵高の制服と靴のようだ。

なんて言おう。満点っていうのもおこがましいくらいの神の造形とでも表現しようか。

隣でニコニコしてる店員さん、グッジョブ!

 

「その……だな。すごく似合ってる。似合ってるって言葉が正しいのか分からんくらいには似合ってる」

「ありがとうございます」

「じ、じゃあ俺も買おうかな。んでこれおいくら?」

「浴衣、帯、下駄を合わせてお値段8万円でございます」

「はっ!?」

「こちら、すべて防弾繊維でお作りしていますので普通のものよりも割高となっております」

 

予想外のお値段にビビる。手持ちは……20万。俺のと合わせても多分足りるだろう。この間のローズリリィ逮捕でアホみたいにお金もらったし。

 

「わかりました、俺の分と合わせてお願いします」

「承知いたしました。彼氏様はどのようにいたしますか?」

「そうですね、こいつと対になる感じってありますか?」

 

 

 

「おおう…俺の諭吉さん、新天地でも頑張るんだぞ…」

 

俺の諭吉さんが13枚旅立って行かれた。さすがに驚いたわ。防弾の浴衣買ったらこんなにするのかよ。

そんな俺の浴衣は注文通り、ブルー基調にしたもの。レキのグリーンに合わせた帯を使って下駄は自前のもの。

 

「零司さん、さすがに申し訳ないので自分の分は自分で払いますよ…?」

「レキ、それ以上はノーだ。これはお前へのプレゼント。少々値が張ろうと依頼を受ければいいしへこたれ……へこたれないぞ!」

「最後まできっちり言ってくれれば信用できたんですけどね」

「うるせぇ、そんなに高いとは思ってなかったんだよ!!とにかく、これは俺のプレゼント。レキは嬉しそうな顔して貰ってくれればそれでいいの!」

「あ、はい。零司さん」

「なんだよ?」

「ありがとうございます」

 

……!!全くレキという奴は……。

 

「……ほら、行くぞ。箱根だ」

「はい」

 

そんなに嬉しそうにしてくれるなら彼氏冥利に尽きるって奴だよ、全く。

 

 

新宿から小田急の特急ロマンスカーに乗り、箱根湯本まで行く。急行とかで行くと本厚木から新松田まで各駅に停まるから好きじゃないんだよな。箱根湯本から強羅まで箱根登山鉄道。この電車は神奈川の電車にしては珍しくスイッチバックをするんだよな。箱根の山ってやっぱり険しいんだと再確認できる今日この頃。

強羅に着くともう人がわんさかといる。まぁ、有名人もくるもんなこの祭り。

 

「レキ、離すなよ」

 

そういってレキの手を掴む。最初戸惑ったようなレキの手は状況を理解するとしっかりと握り返してくる。その感覚をなくさないように慎重に歩いていると出店の前に着いた。

 

「なんか食べたいものは?」

「なんでもいいですよ」

 

口ではそう言ってるものの、目線は一点からビクともしてない。食べたいなら素直に言ってくれればいいのに。

……なになに、『クイーンたこ焼き』?クイーンってなんだよクイーンって。

ため息を吐きつつ、俺はたこ焼きの列に並ぶ。一応関西の粉もん文化出身といえばそうなので、たこ焼きとかお好み焼きはよく食べてた。そこのレベルまでは要求しないが美味しいものを食べたいなぁ。

 

「いらっしゃい、注文は……ってあれ?明智じゃん」

「うげ、武藤……」

「なになに、お兄ちゃんこのイケメンさんと美人さんの2人と知り合い?」

 

順番が回ってきたので注文をしようとするとそこにはなぜか武藤の姿とそれには似つかわしくないほどシャープな顔つきの美人さんが2人で切り盛りしていた。というかお兄、ちゃんだと……?

 

「武藤、一緒に屋台やってるやつにお兄ちゃん呼びさせるほど女に飢えてたのか……」

「ちっげーよ!こいつは貴希(キキ)って言ってホントに妹だ!来年武偵高に入学予定だよ!キキ、この青髪が前話した明智零司。そんでこの緑髪がレキだ」

「明智先輩にレキ先輩か!お兄ちゃんの世代の有名どころ筆頭さんが2人で来てくれるなんて嬉しいです!ホントに妹なんですよ?」

 

そう言ってキキさんはバチコンとでも音がなりそうな器用なウィンクをする。こんな綺麗な妹さんがいてどうしてこのアホ(武藤)はあんなガサツなのか。

 

「そんなことより明智さん、ご注文は?本場のたこ焼きですよ!」

「へぇ…こいつはともかく俺は一応京都出身だからたこ焼きは食べ慣れてるぞ…?レキ、ネギとマヨネーズ平気か?」

「どちらも平気です」

 

ちらりと見るとレキさんの目がきらりっ!と光ってらっしゃる。こういう時のレキは食べる。かなり大量に。

 

「おっけー、じゃあネギマヨ4人前で。武藤、裏空いてるな?そこでレキと一緒に食うから開けろ」

「へいへい、見せつけやがって。轢いてやる!」

「2人とも太っ腹!まいどありー!」

 

代金を払ってたこ焼きをもらうと営業の邪魔にならないよう屋台の裏に入り込む。

屋台の裏は当然人も少なく花火も見られる位置なので一応武藤に感謝しつつ(武藤の車に積んであった)パイプ椅子に2人で座って食べ始める。

 

「はい、食べ方わかる?」

「大丈夫です」

 

一応レキに確認を取ると知ってたようで器用に竹串で刺して食べ始めた。俺も食べますか。

 

「いただきます」

 

どうやら生地に味付けしてるタイプみたいだな、どれどれ……

おぉ、うまいな!

火を通しすぎず、かといって生なわけではない。いい感じの火加減だ。タコも割と大きいのを使っているようでしっかり弾力で自己主張してくる。

 

「どうだ?俺の自慢の妹のたこ焼きは」

「まだいたのかよ武藤…」

「お前は一体俺をなんだと思ってるんだよ!!」

「悪ぃ悪ぃ。味付けも文句なし。美味しいと伝えてやってくれ。ところでさ、なんで『クイーンたこ焼き』ってネーミングなんだ?」

 

素直に評価を伝えるとどっやぁ……って顔を俺に向けてきてホントにウザかったが喉まで出かかった言葉をしまいつつ、名前の由来を聞く。

 

「あぁあいつ、鈴鹿サーキットとかでレースクイーンもやってるんだよ。だから『クイーンたこ焼き』。あの人気もレースクイーン補正がないといえば嘘になるな」

「へぇ、話を聞けば聞くほどお前の妹らしくねぇな」

「お前いつか轢いてやるからなぁ!!」

「車ごときで轢けるものなら轢いてみろよ」

 

そこまで言うとシッ、シッと手を振って武藤を追い出す。涙目の武藤、哀れなり。というかもし車でこいつがホントに轢きに来ても大質量の水で流せばいいだけだしな、洪水みたく。

 

……しっかしまぁ、レキの浴衣姿が似合う似合う。これを見られるってだけで役得という話だ。今はたこ焼きを食べ終わって持参した水で口をすすいで……ってたこ焼き完食早すぎるだろおい。2人前だぞ?

 

「……零司さん?」

「ん、悪い。気になったか?」

「いえ。それより…ありがとうございます」

 

唐突な感謝。レキには間々あることだけどどういうことだってばよ。

 

「実はこういうお祭りに来るの、初めてなんです。それを零司さん…好きな方と一緒に来れたことが嬉しくて」

 

……どうしてこの天才狙撃手はこういうことをズバズバ言えるのか。ホントに。

 

「……レキは狙撃は天才的だけど常識知らずだからな。色んなことを教えてやらなきゃ見てるこっちが心配になる。今日の浴衣だって俺が金額言われた時の反応見てりゃ分かるだろうけどめちゃくちゃ高いんだぞ?」

「はい、わかりました」

「だからだな……その、さ。俺と色んなことを見て勉強しろよな、常識ってヤツを。俺もそれくらいなら教えられるハズだからさ」

「はい。これからもよろしくお願いしますね?零司さん」

 

そこまでいうとしばらく見つめ合う。互いの距離が0に……はならないけどな。

レキはたこ焼き食べ終わって口をすすいでたけど俺まだ全然食べ終わってないからな。たこ焼き味のキスとか風情もへったくれもない。

だから……今はハグだけする。毎度思うがこんなに華奢なのによく狙撃できるよな。

こんなこと往来だったら恥ずかしくて出来そうにない。なんとなく不服だが、屋台やってた武藤に感謝しとくか。たこ焼きうまいし。

 

どちらからともなく体を離して見つめあっているとなんだか面白くって笑ってしまった。レキもなんとなく嬉しそうにしてる。

 

タァーン!タァーン!!

 

突然の音に咄嗟に体が反応し、レキを守る位置に立つが見えたのは空一面に広がる花火。そんな音に過剰に反応するくらいに周りを気にしてたらしい。あーもう、なんだか馬鹿らしくなってきたな。

 

「いいこと教えてやるよ。花火が打ち上がる時に日本では『たまーやー』って言うんだぜ」

「たまーやー、ですか?」

「そう。たーまやー、だ。かーぎやーなんて言う時もあるな」

「そうなんですか。たーまやー」

「そんな感じ。たまーやー」

「たまーやー……ふふっ」

 

楽しそうに笑うレキの顔を見て、やっぱりこいつが彼女でよかったななんて思う。

 

空により大きな花火が咲く。それをレキは嬉しそうに、それはもう嬉しそうに見ていて、それを見てる俺も自然と笑顔になるのであった。


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