緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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第50話

「おい、レキ」

「はい」

 

俺は眼前にいる怪人ローズリリィを睨みつつ、レキに話しかける。正直なところ、『仮想の未来視』の使用による疲労を薬の効果でムリヤリ誤魔化してる上に『暴走薬(ランワイルダー)』の副作用がいつ来るかわからないため有り体に言えばいつ倒れてもおかしくない状態。だから短期決戦にしなければならないのだが、その前にこれだけは伝えなければならない。これは譲れない。

 

「お前には説教しなきゃいけないことがたくさんあるからな。終わったらきっちり話をさせてもらう」

「はい」

「あとは……そうだな。伝えたいこともたくさんある。だから今はこれだけ。二度と俺の前からいなくなるな」

「……!!」

 

後ろのレキの表情は見えない。今は見る必要はない。伝えたいことを言いきってからでいいんだ。

そのまま意識を怪人ローズリリィに向けようとすると、意外にもレキから返事が来た。

 

「……私も、後で零司さんに伝えたい言葉があります。だから今はこれだけ。武偵として、『水君(オーロワ)』として頑張ってください」

「………あぁ」

 

レキにはお見通し、か。本当だったらこの力を使ってコイツを殺すつもりだったんだけどな。武偵として、ってのは殺すなってことなんだろ、レキ?あとは……武偵として、ね…。そういうことね。

俺は今度こそ臨戦態勢に入り水感知を発動させる。

 

「さて、と。一応礼を言っとく。待ってくれたんだろ?」

「ええ。でもいいものを見せてもらったよ。男女の愛ほど美しく、そして醜くなるモノはないからね」

「ほざけ、クソが」

 

その言葉を最後に俺はローズリリィに小太刀を抜きつつ、水の超能力で3本目の小太刀を握り、これまた水で推進力を加えて突っ込む。中学の時、ヨーロッパでよくこのスタイルを使っていて三頭剣(ケルベロス)なんて名前で呼ばれるようになった由来だ。

 

「ロォォォォズリリィィィィィィィッ!」

「あら、熱烈」

 

そう言いながらローズリリィは俺の両腕から太刀の動きの予測をしつつありえないスピードで避ける。俺はそのまま両腕での剣戟を続けつつ、水でできた3本目の腕を振るう。水の腕は関節も何もないので太刀筋を見切るのはかなり難しい。急激なルート変更も可能だしな。

 

「ラァッ!」

 

これは当たる!と思うのもつかの間、ローズリリィの姿が()()()()()。そしてそのまま平然と立っている。

 

「あらら、怖いねぇ」

 

怖がってねぇだろお前。というか今のは……?水感知も切ってなかったのにブレた……?まさか、そういうことか。だがそれだけでは説明がつかない。俺の推理が正しければあの時、千花の時が説明がつかない。いや、そうか。これなら確かに説明はつく。

 

「お前、超能力者だったんだな」

「あら、どうしてそう思うの?」

「今の動きで確信した。お前、転移系の超能力持ってるんだろ?じゃなきゃ今のブレも千花……俺の妹の時の1発KOも説明がつかない。今お前は転移で避けたし、千花の時は恐らく暗器か何かを一瞬で何度も転移させて俺に傷を負わせた。そういうことだろ?」

「へぇ、頭はしっかり切れてるのね。正解だよ」

 

煽るかのように言うローズリリィ。それだけじゃないだろ?

 

「ただし、お前のその能力は制限があるんだろ?あの時もまずお前はヘリで逃げようとしたんだ。能力使って千花ごと転移すればいいのに。今回もそうだ。転移を使えばこんなところにレキを呼ぶ必要もないしな。距離の制限か、連発制限。この2つのどっちかだと思ったが、今の攻防で簡単に使うってところからも連発制限じゃない。距離の制限だな。大方転移できる総合距離に制限があって時間で回復とかそんなところだな。ま、ここまで漂わせてオールブラフで距離制限がないって可能性もあるけどな」

「ふーん、それで?それがわかったところで君はどうするつもりだい?」

「そりゃもちろん、こうするのさ」

 

そういうと俺は軽く地面を足踏みする。すると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『暴走薬』ってホントにとんでもない性能だな。できるとは思わなかったぞ。

 

俺はそのまま海水の一部を手前に持ってきて触る。そして水中感知を発動させる。探し物は……あった!

 

「これ、お前の足だよな。潰させてもらうぜ」

 

そう言いつつ海水の中から新たに腕を作り、空き地島に停めてあったロケットみたいな形の潜水艇らしきものを掴み、そのまま海水で圧し潰す。潜水艇らしきものは跡形もなくひしゃげ、その機能は果たせないものになってしまった。

 

「へぇ、成長してるんだね。感心感心」

 

こんな時でもローズリリィは余裕そうな表情を崩さない。男か女かわからないような口調と声、今すぐにその余裕面を引き剥がしてやる。

 

「そらよッ!」

 

俺は手に持ってる小太刀を両方とも真上に放り投げ、海水から作った腕でキャッチする。そしてそのままベレッタPx4ストームと.44オートマグをホルスターから出しつつ発砲する。さすがにこの2つは水の腕で扱うと壊す危険があるので自分で使う。

 

二刀から二銃に切り替え接近戦を仕掛ける俺にさすがにまずいと思ったのか、ローズリリィは懐からククリナイフだのマニアゴナイフだのを取り出し応戦する。

水の腕の小太刀をククリナイフで斬り結び、銃撃をマニアゴナイフで弾き、どうしようもない攻撃だけは転移を使って回避する。相当慣れた戦い方だな。

 

「チッ!」

「あらら、中々頑張るじゃないか。それじゃこれならどうだい?」

 

ローズリリィは何事か呟くとひょいっと背後に飛んだ。するといきなりどこからともなくナイフや槍、斧が現れ俺に向かって飛んできた。

 

「しゃらくせぇッ!」

 

俺は即座に超能力によって当たりそうなものだけを水で弾きとばしたり掴みとったりして応対する。そしてそのままローズリリィを狙い銃を放ちつつ、ヤツめがけて突っ込む。

 

「ゼァッ!」

「はいはい」

 

ローズリリィは相変わらず面倒くさそうに応対する。うーん、正面突破はかなりキツイな……。

 

正面突破が出来なかったらどうする?もちろんデバフを織り交ぜての攻撃に切り替えるに決まっている。RPGでも鉄板だろうこれは。攻撃の痛いヤツの攻撃力を下げたり、固い敵の防御力を落としたり、毒状態にしたり、あるいは自身の回避率を上げたりなんてものもあるな。

俺が使うのもそんなデバフの1つだ。

 

「はっ!」

 

俺は直ちに細かい水分を超能力でばら撒き、霧を発生させる。俺は水分感知で先ほどよりは精度が劣るものの、居場所はわかる。対するローズリリィは赤外線のセンサーとかも持ち合わせていなかった。つまりこの霧の影響をモロに受ける。

 

俺は素早く再装填(リロード)するとローズリリィの左手側から飛び出し銃をぶっ放す。ローズリリィは予想通り先ほどより回避に入るのが遅れている。そのまま水の腕を振り下ろし小太刀を振るうとぎょっとしつつ、これもなんとか回避して転移をした。

口には出さないが焦ってるな、あの顔。そろそろ制限が近いか?

 

……とは言っても俺もそろそろ限界が近い。戦えて残り3分あるかどうか。奥の手を使うか。これ、高いから本当は嫌なんだけどな。

俺は即座に水の人形を3体作り出し、ローズリリィにそのまま特攻させる。結果を確認することなく、俺はこの状況を打開させる切り札、()()()()()()()()()

 

正面突破できず、デバフを織り交ぜても倒せない奴はどうするか?これも簡単だ。1人で倒せないなら2人で倒しに行けばいい。

俺はローズリリィに気づかれないようにレキに耳打ちをする。

 

「レキ」

「はい」

「今から音響弾(カノン)を使う。レキはローズリリィから見えないから耳を塞いでくれ。俺は耳を塞がずにそのまま戦うから、タイミングを見計らってローズリリィを狙撃してくれ」

「わかりました」

 

さっきレキが『武偵として』と言ったのは恐らく武偵憲章第一条、『仲間を信じ、仲間を助けよ』ってことも意味していたのだろう。いつでも助けますよというレキなりのメッセージだったんだな。

 

俺はレキを信じて戦う。レキも多分俺を信じてくれてる。だから俺はその期待に答えるべきだ。

 

「らぁッ!」

「!!!」

 

再びローズリリィの背後に回って銃を撃ち注意の対象を俺に強く引き寄せる。

 

「よぉ、初めて焦った顔したな」

「ちっ!」

「そんなお前に朗報、だっ!」

 

そう言い、俺は服の中から特別な色をした.44AMP弾、武偵弾(DAL)を投げる。直後、キィーーーンッ!!という音を立て俺の耳は一時的に使い物にならなくなる。やっぱうるせえよ、これ。しかも.44AMP弾のやつなんか世界で5人も作ってない代物だ。売れないしな。

ただその分ローズリリィにも効果は抜群だったようでしっかり耳を潰させてもらった。

俺はそのまま新たに水の腕を作ってローズリリィをぶん殴りにかかる。小太刀よりも速いからな。

 

「!!」

 

思いっきり振るった水の腕は初めてローズリリィにクリティカルヒットし、ヤツが何事か言ってるが生憎聞こえない。読唇術も面倒だから使ってない。

 

そして少し俺とローズリリィとの距離が開いたその瞬間、ローズリリィはビクリ!と痙攣して倒れた。霧を解除しつつ、ローズリリィを拘束しに走りながらちらりとレキの方を見るとどうやら狙撃に成功したらしい。

 

「どうせ聞こえてないだろうけどな。怪人ローズリリィ、未成年略取未遂で逮捕だ。多分余罪で窃盗も入るんじゃないか?」

 

そう言いつつ、俺は純銀製の対超能力者用(アンチステルス)の手錠を両手両足にはめさせる。

 

「レキ!」

「***」

「まだ音響弾の効果が切れてないから会話出来ねぇな……。とりあえず教務科(マスターズ)に連絡を入れてコイツの身柄を確保してもらえ。一応対超能力者用のもんだけどそれだけじゃ不安だから俺の能力でさらに手枷足枷を増やしておく」

 

そう言いながら、俺は超能力を発動、ローズリリィを拘束するように枷を、精製、する。

 

「俺は、少し無理しすぎた。少し、眠ら、せても、らうぜ」

 

あぁ、もう限、界だ。『仮想、の未来視』の疲労と暴走、薬の副作用、が全身、に、回って、きた。俺は、最後にレキに笑いか、けつつ、受身も、取れずに倒れ、、た。

 

れきがあせったようにこっちにきてたきもしなくはないけどわからない。かんぜんにいしきがおちてしまった。


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