緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

50 / 71
第48話

「俺は……俺はッ!大切な人(レキ)を護る為に使うッ!『仮想の未来視』をッ!!」

 

俺がそう叫んだ直後、不意に意識が反転しフラッと倒れる感覚があった。そしてそのまま俺は暗闇の中に立っていた。いや上下左右が分からないから正しくは立っていないのかもしれない。無理解の感覚ってやつか?

正直長居はしたくない感覚だ。立ってるのか座ってるのか、はたまた寝転がっているのか分からなくなってくる。とりあえず状況を確かめてみるか。

 

「あー、あっあー。声は出る、と」

 

次に胸に手をやり、そのまま手を伸ばす。その感覚はあるな。これで少なくとも前後ろはあることが判明した。

 

その時、俺は後ろから何かの気配を感じた。積極的に動こうとはしていないようだが、背後を取られているのは心象的に良くない。

 

「とりあえず、どちら様?あとこの感覚はどうなってるのさ?」

「へぇ、初めての使用でここまで焦らないのは久しぶりなんじゃないかな。その調子ならもう大丈夫かな」

 

声質からして男なそいつが何事かを呟くと、暗闇が一気に晴れて無理解の感覚から解放される。あたりを見回してみるとまるで海のような青、いやここでは蒼としておこうか。海と違う点を挙げるとするなら魚とかの生き物の気配が全くない。ともかくそんな空間にテーブルが1つ、椅子が俺の前と先ほどの声の主らしき男、どこか俺に似てる……?とりあえずそいつの前に1つずつ。正面に座れるように配置してあった。

 

「ともかく、座って話をしよう。君はこの領域に来るのは初めてだろうしね、状況説明ってのが必要だ。違うかい?」

「……俺の今の状況を理解しての発言とみると、この場で過ごした時間は現実世界に影響を及ぼさないってところか。あんたの口車に乗ってやる」

「正確に言うと、この場所で過ごす1時間が現実世界での2秒程度なんだけどね。ま、その認識で良いんじゃないかな」

 

男が席に腰かけろと手で示すので俺はそれに応じると、男も座った。

するといつ出てきたのか分からないが、紅茶と和菓子がテーブルの上に出てきた。いやバランス悪いなオイ。

 

「さて。初めまして、になるね明智零司君。何が聞きたい?」

「そうだな……。まずお前の名前は?そこからかな」

「変なところから聞くんだね、てっきりこの場所のことを聞くものだとばかり思っていたよ」

「これから話をするのにお前呼ばわりってのはどうなのさ?ってわけ」

「なるほどね、良いだろう。教えてあげるよ」

 

そこで男は一区切りして紅茶を口にする。そしてニコッと微笑みながら言った。

 

「僕は明智光秀。正確に言えば明智光秀の残滓だね。君の祖先で信長様を滅ぼした、その人さ」

 

 

………はい?

 

「光秀公なんですか?」

「そういったんだけど?」

「昔の言葉使いじゃないんですね」

「別にそれでもいいんだろうけど、言葉の伝わり方に齟齬があるかもよ?」

 

 

そういうと男……光秀は小首を傾げた。

何このフランクな光秀公?

いやいやいやいや。流石に意味わかんねぇよ。

 

 

 

「……さっき残滓って言ったな。どういう意味だ?」

「そうだね、そこは説明しないといけないかもね。文献で今でも伝わっているのかもしれないけど僕は『仮想の未来視』を使用していた。ここは『未来視』をするところ……『未来視の間』と言える場所なんだけど、初めてここに来た人はどうすれば良いのか分からないでしょ?だから歴代の『未来視』の使用者が新人に使い方とかを教えるために残らなきゃいけないんだ。今回は僕の血縁ってことで僕が召ばれたんだろうね。残滓ってのはこれで理解できたかな?僕がここを使った証、みたいなものだよ」

 

なるほどな。簡単に言えば取扱説明書ってことだな。分かりやすくて助かるぜ全く。

 

「まぁ、僕以外に使えたのは小五郎君しかいないから実質二択だったんだけどね」

「そこもうちょい早く言おうな。……じゃなくて本題だ。この場所の使い方と得られる成果、副作用を教えてくれ」

「そうだね。あんまり長居をする場所でもないからささっと教えちゃおうか。ここの使い方は簡単、『掴みたい未来を得るために次のアクションをどうすべきなのか』を求める、それだけだ。一度使えばその求めた未来をつかむことはほぼ確実なものとなるね」

 

光秀公の言うことに嘘は無いんだろうが、イマイチ信じきれない。

 

「なぁ、そこだけ聞くとおいしく聞こえるんだが」

「利点はすごく良いからね、この能力。ただし!過信は禁物だよ。遠い未来を得ようとすればするほど正確性は落ちる。僕は本当は『この先500年間、戦乱の無い世界』ってのを望んだんだけどねぇ。結果は200年とちょいでタヌキの徳川の政権は終わったし、徳川の政権下でも細かいいざこざはあった。この先1年っていう比較的短い未来なら命中は100%だからこの点は今の所は心配ないよ」

「へぇ、じゃ次の欠点は?」

「使用者の疲労が一気に蓄積されるところかな。大体一回の使用で5日間水以外の摂取なしで戦い続けるくらいの疲労が溜まっちゃうから連発とかいうバカみたいなことは考えないほうが良いよ。実際僕、それで『未来視』を使った後すぐに秀ちゃんの軍勢に殺されちゃったし」

「はぁ!!?」

 

何それ聞いてない。これから救いに行かなきゃダメだってのにくたばってちゃ話にならない。

 

「だからそれ含めて『未来視』しちゃえば、君の『大切な人を救う』って目的は達成されるんじゃない?」

「おい、人の思考を読むなよ!」

「あれ、気づいてない?これ一応君の頭の中だから隠すも何もないんだよ?」

「ごめん、それ初耳だ」

 

楽しげに笑う光秀公を横目に見つつ、言われたことをしっかり心に刻む。使うときは本当にどうしようもない時のみ。

 

「そう、それで良いんだよ。『大切な人を救う』なんて、実にこの能力とはおあつらえ向きじゃない?応援するよ」

 

そういうとぽぉーーっと、光秀公は少し透けて、奥が見えるようになった。いや何それ?

 

「あらら、限界かな?今回の表出はこれまでみたいだ。頑張るんだよ、僕の子孫」

 

そういうと光秀公はスッと消えていき、俺の分の紅茶と和菓子が残された。

 

「……ありがとうございます、光秀公」

 

俺は和菓子を紅茶でササっと食べてから立ち上がった。するとテーブルと椅子は消えてなくなり、俺だけが残った空間となった。

 

「さて、と。レキを助けるためにはどうしたらいい?」

 

そう口にした瞬間、目の前を映像が流れ始めた。なかなかリアルな出来だなコレ。

 

 

おおよそ20分くらいだっただろうか。映像が終わり、フェードアウトしていくと同時に覚醒の気配なのか意識が鮮明になる感覚がした。

 

さぁ待っててくれ!今助けにいくからな、レキ!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。