緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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第41話

そんなこんなで俺とレキの妙ちきりんな共同生活は早くも2週間を迎えようとしていた。進捗、ダメです。元々自分で銃弾を作ってたからか手先が器用で料理のいろはは教えた先から覚えていって教師冥利につきるといえば聞こえは良いんだけどな。

あと洗濯。洗濯は元からやってたらしく自分で出来るようだ。

 

そんでもって最初の目的であるはずの感情?喜怒哀楽?なにそれ美味しいのって感じのいっそ清々しいまでの無感情。清々しい無感情ってなんだろうな。

 

先の洗濯だって普通なら俺とレキの分をしっかりと分けるのが年代の子というもののはずなのにレキはそれをしない。逆に俺が気にしてしまう始末だ。

 

俺の精神が次第に荒れてきてるのを察してるのか、キンジはもとより、最初は冷やかしたりしてきた武藤や不知火にもガチトーンで心配される始末。まだ射撃とかに影響が出てないだけマシだろうか。はたまた影響は出ていて、それを認知出来ないくらい荒んできているのか。超能力?使う機会ほぼなかったから分からん。最近は日課のハズの黙想すら出来てません。

だが、これだけは言えるので率直に言おう。

 

「俺が何をしたってんだよチクショウ…」

 

思春期男子にとって同年代の女子と一緒に暮らすってのは例え相手が感情が欠落していても、いや逆に貞操観念とか羞恥とかそんな感情がなく俺の前で臆面もなくシャワーを浴びるからと言って下着姿になるような奴だからこそ俺はここまで心労を患っているのだろうか。ともかく1人でのんびりさせて下さい。このままだと俺まで無口無感情無表情になりかねん。

 

これも全て俺が肉食系男子だったら何も感じないのだろうか。いや俺が草食系男子だからいけないのか。

と、かーなーりナーバスな感じで机に突っ伏す俺の思考に追い打ちをかける存在がある。

 

そう、今日は終業式。明日からは夏休みだ。レキとの時間が増えるよ!やったね零司君!

 

高校生で夏休みが来ることを拒む奴って俺くらいなもんじゃないか??

 

多分周りから見ればすぐ分かるくらい俺の周りの雰囲気はどんよりと沈んでいる。お隣の席の方(レキ)は例のごとくぽけーっとしていて気付いてなさそうだけどな。逆にすごいよ、ホントに。

 

「おい明智どうしたんだ〜夏バテかぁー?さすがに早いぞ!」

「この状況をどう見たら夏バテに見えるのか分からんぞアホの小林」

「そうだぞ小林、明智とレキさんは昨日も励んでたからこんなに疲れてるに決まってんだろ」

「うんそんなわけないから首を切られるか首を切るかどっちか選んで死んでくれ東海林(しょうじ)

 

そうかい。このどんよりした空気すらも感じられない鈍感がいたとは信じられないが受け入れるとしよう。ふざけやがって。

 

「ガチで寝不足だからHRまで寝かせろ小林、先生来たら起こしてくれ」

「へいへい、アホの小林が承りましたよ」

「悪かったってアホの小林」

「誠意が感じられねぇ!」

 

小林を適当にいなしつつ本当に仮眠を取ろうと机に体をうっちゃる。3分もしないうちに体が眠りを欲してきていい感じに微睡んできた。

少しくらい、休んでもいいだろ?

 

 

 

「ーー智!明智〜起きろ明智〜」

「はいはい、あんがとさん小林」

 

小林に礼を言い、姿勢を正す。するとほぼ同時に相変わらずどこいるのか分からんチャン・ウー先生が存在感だけで入ってきたことを告げる。

…イヤ本当に今更だけど姿を見せない担任ってどうなのさ?

 

「ハイオハヨウカワイイ生徒タチ。今日ハ一学期終業式ダケド、サボリタイ人ハサボッテイイワヨ!アタシモ生徒ダッタ時ハサボッテタカラネ!」

 

一言目からこんな発言が出てしまうあたりに武偵高のレベルを感じてもらえると嬉しいな。

そしてそれを受け取る生徒も生徒だ。パッと見4割くらいはサボりで帰る雰囲気だぞ…

 

「一応成績表ハ教壇ノ上ニ出席番号順ニ置イテアルカラソレヲ取ッタラ帰ッテモイイワヨ。ソレジャ一学期オ疲レ様!」

 

言われた通り教壇を見るといつからあったのか知らんが確かに成績表がガサツに置いてある。ガバガバすぎない?というか地味に水分感知でも捉えられないのはなんでなの、チャン・ウー先生?

 

「ア、アト明智クンダケハ終業式ノアトニ蘭豹先生カラ話ガアルラシイカラ残ッテネ」

 

その言葉を聞いた瞬間クラスの視線がこちらに向き、『またお前か…』みたいなかわいそうなものを見る目で見てくる。

そしてはいまた来た名指し。そして相手はあろうことか蘭豹先生。今度は何やらされるのさ。

 

華龍組の件で有用と判断されたのか、あれ以来ちょくちょく教師からの直接の依頼が来る。大概が強襲(アサルト)系か探偵科(インケスタ)系でごく稀にその他の雑用が言い渡される。殺人事件の犯人特定の以来が警視庁から来た時はわざとやってんのかってキレそうになった。ちゃんと特定して強襲逮捕までしたけど。

 

今は自分の都合だけで手一杯なのに、ホントに何やらされるんだ……?

 

 

相変わらず特徴のない緑松校長の話とか色々あって終業式が終わり、俺はもう何回目になるのかわからない教務科(マスターズ)棟に来ていた。5回目くらいから数えることをやめた。

 

「失礼します、探偵科の明智です。蘭豹先生に呼ばれたので来ました」

「おお〜来たか、こっちやこっち」

 

探偵科って所を微妙に強調しつつ、俺はしっかり名乗る。

相変わらずガサツそうな蘭豹先生は発言の軽さとは裏腹に妙に渋い顔をしてこちらに手招きする。

 

「ほな単刀直入に……って言いたいところなんやけど簡単に言える話やないから相談室行くで、着いてきいや」

「は、はぁ…」

 

相談室って綴先生が尋問に使う部屋じゃんか。本格的に雲行きが怪しいぞ…?

 

 

 

蘭豹先生に連れられて来た相談室は、その言葉の穏やかさとは裏腹に内実、警察で言うところの取調室だ。部屋の中には机が1つ、椅子が4つ。カツ丼でも出てきそうな雰囲気だけど僕は武偵法は遵守してます。違法改造(イジり)もありません。

 

「ま、とりあえず座り」

「はい、ありがとうございます」

 

言われた通りに俺が椅子に座ると蘭豹先生は対面にドカッと腰掛けた。綴先生じゃなくて蘭豹先生ということで多分取調べの類ではないはず。となると答えはほぼ1つ……。

 

「なんか外に漏れちゃマズいお話ですか?」

「お、流石やな。正解や。この情報の取り扱いは政府もメチャクチャ丁寧に取り扱ってるんや。それを明智に教えてやる理由は…」

「怪人ローズリリィ、ですね?薄々俺が呼ばれた時点で考えてはいましたが、政府が出てきた時点で確信に変わりました」

「なんや、ホンマに聡いのう。完璧な解答や。最近、ローズリリィの動きが活発化しよる。最近やと美術品を何作か抜かれたらしい。手紙の声明付きでな。ホンマに警備員何しよるんって話やけど相手が悪いわな。そんでそろそろ日本人が誰か攫われるんとちゃうかって話や。被害者家族の1人で去年一年間、ヨーロッパでヤツを追っていた明智には言っとかな思てな」

「そういえば人攫い専門じゃなかったですねあいつ。生き血をすするだのなんだのって噂があるから物盗りのイメージ薄いですけど」

「ヨーロッパやとそんな風にも言われてるらしいな。そんでこっからが本題や。今回のこの話、()()()()()()()()()。私怨とか諸々があるのはウチらかて分かっとる。その上の指示やと理解して欲しい」

 

その言葉を告げられた瞬間、俺の胸をよぎったのはローズリリィを追わせてくれない教務科への疑問でも怒りでもなくて。

まだヤツに力が及んでいないと判断され、そして及んでいないと自分で分かっていた自分への失望と悲しさだった。だが、タダでは下がらない。他のヤツならともかく、ローズリリィと聞いて下がれるわけがない。

 

「分かりました。但し1つだけ条件が」

「……なんや、言ってみい」

「俺の周りが攫われるような事態になったら俺は動きます。もうこれ以上、周りの人が奴らに攫われるなんてことは我慢できません。それだけ呑んでいただければ僕は今回動きません」

 

俺のそのほぼ懇願とも取れる条件に蘭豹先生はかなり渋い顔。こりゃダメだなと思って返答を待っていると、取調室になんというか、男としか言えない人が入ってきた。同時に蘭豹先生の雰囲気がガラッと変わる。

その変化でかろうじて部屋に入ってきた人物が緑松校長先生、先ほど終業式で印象に全く残らないお話をしていたらしい人物だということが分かった。

 

部屋の雰囲気がピリッとした所で緑松校長は話し始める。

 

「はい、はい。いきなり取調室にきてすいませんね。校長の緑松です。怪人ローズリリィの話ですね?」

「あ、はい」

「蘭豹先生、明智君の条件を呑んであげてください」

「あ、え…?なぜなのか聞いてもよろしいでしょうか?」

 

緑松校長の言葉に蘭豹先生はともかく、聞き入れてくれるとは思ってなかった俺も驚く。

 

「そうですね、明智君はいずれ武偵業界を背負って立つ者の1人になると私は考えています。実力もさることながらこの年齢にして、Sという限られた者しか許されないランク付け。及び一流の武偵にも勝るとも劣らない実績、特に戦闘力と推理力には目を見張るものがあります。ただしまだその実力は発展途上。ここで失うにはあまりにも惜しい。というわけで『明智君の身近な人が攫われる』という事態になった時のみ、明智君の事件への介入を認めましょう」

 

聞いているとなんかすごく恥ずかしくなるような評価をされた後に条件の承諾を許可された。

 

本当は俺にはキンジや金一さんみたいなカリスマ性、()()()()()()ほどの直感やセンス、()()()()()みたいな医療技術なんか持ってないから買いかぶりも良いところだけどな。

 

「ありがとうございます。あとはプロの方にお任せします」

「はい、はい。そうしてくれると助かります」

 

そこまで言って緑松校長は俺の元に近づいてきた。なんだろう…?

 

「まだ、()()()()使()()()()()()()()()()()()?」

「……!!?」

 

少し素が出た緑松校長の言い方とその内容に寒気がした。この人は一体どこまで……!?

 

「またいけない癖が出てしまいましたね。それでは明智君、お話は終了です。これからの夏休み、有意義に過ごしてください。では」

「……失礼しました」

 

礼をして外に出る。と同時に緑松校長の記憶がどんどん薄れていくが、そのことに気付かないのであった。

 

 

 

「面白い原石があると割りたくなる。その中身からダイヤモンドがでてくるかはたまた砕け散ってしまうか。それを見ることが悪い癖なのはわかっていますがやめられませんねぇ」

 

緑松は歩いている零司を窓から見て、ニヤリとらしくない笑みを浮かべるのであった。


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