緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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第39話

唐突な話だが、武偵高の夏休みは始まるのが早くて期間が長い。

 

7月の頭には一学期の単位不足者の貼り紙がでて、そんなのに引っかかる困った奴らのために緊急任務(クエスト・ブースト)というお助け措置があったりする。……まぁ、卒業までの単位揃っちゃってるから俺にはまぁ関係ない。主にヨーロッパで去年一年間こき使ってくれた方々(イギリス・フランス・ドイツその他)のお陰でな。

 

他にも俺の出身の京都にある武偵高とかは祇園祭に合わせて夏休みを始めたりしてるらしい。そういえば神奈川武偵中の時、平塚の七夕祭りとか江ノ島の花火大会とかの私服警備に駆り出されたっけ。懐かしいなぁ。

 

ここまでグダグダ言ってきたが、つまり何が言いたいかというと……

 

「この長い夏休み期間、1日中レキに付きまとわれる日が増えるのかよ……」

 

聞いたところレキは夏休みに実家に帰ったりなにか依頼を請けてるわけでもないらしい。つまり完全にレキの監視下。どうしてこうなった。

 

ゲンナリしてる俺に同情する顔1つ、ニヤニヤしてる顔1つ、優男スマイル1つ。順にキンジ、武藤、不知火だ。

 

「明智には悪いけど俺じゃレキに対して何も手を打てそうにない。相談なら乗ってやる」

「お前が女嫌いじゃなければ護衛頼んでるよバカヤロウ!なんで女嫌いなんだよっ!」

「まーまーまーまー、良いじゃん良いじゃん!夏は男女の仲が急接近する季節だぜ〜??この際レキをオトシちゃえよ〜!」

「あ”?そんなデリカシーの無さがオマエをモテなくさせてると気づけ無能。これ以上言うなら体の水分全て飛ばして天日干しで干物にしてから塩酸かけて跡形も残さず消すぞオマエ」

 

キンジは近距離と遠距離という単純にレキに対して不利なのと女嫌い、ついでになんだかんだ女に甘々なところを見るに戦力にならんし、武藤は俺を茶化すばかりでどうしようもない。声を低くして『オマエ』のイントネーションを敢えて変えることで震え上がらせるに留める。

 

となると残りの頼むの綱は不知火なんだが……

 

「あはは、他の人ならともかく、レキさんとなるとちょっと僕にも荷が重いかなぁ。一応確認するとこの中での最大戦力は明智君で、その明智君が手も足も出なかったんだよね?なら僕が太刀打ちできるわけがないよ」

「冷静なコメントをなんか嬉しそうな顔でありがとさん。もうこのやりとり何回目だろうな」

「それに…」

「それに?」

 

そこで一旦区切った不知火はうんうんと頷きながら一言。

 

「明智君とレキさんって僕にはお似合いに見えるなぁ」

「期待した俺が馬鹿だったのかしら」

 

そういえばこの子も結構ゴシップ好きだったな。

 

昨日の宣言通り、探偵科(インケスタ)らしくレキの情報収集をしようと情報科(インフォルマ)棟に足を向けているとなんか珍しいことに理子がこちらに向かってきていた。しかも…若干怒ってる?

 

「よぉ理子。どしたそんなに怒って?」

「あっちぃ〜…昨日貸してくれるはずだったゲームは??貸してもらおうと探偵科棟で待ってたのに来ないし!りこりんはぷんぷんがおー、だぞ!」

「……あっ」

 

んあー。。。忘れてたな、すっかり。カバンの中入ってるはず…あったあった。

 

「ほれ、これだろ。わかってるだろうけど傷、付けるなよ?」

「モチのロンであります!はっ!」

 

そう言い理子はカバンに入れ込み敬礼。イヤ、なんでや。

 

「にしてもあっちって意外に積極的だったんだねぇ」

「はい?話が見えん、なんのこった?」

「レキュだよレキュ! りこりんの見立てだと一回エンディング見てから強くてニューゲームしないと攻略できない激マゾキャラだったのに!どうやったのかな?かなかな?」

「恋愛ゲームなのに強くてニューゲームって概念はいかがなものかと思うが……つーか俺はなんもしてないぞ。強いて言えば狙撃拘禁されてる状況だ。俺とレキが戦って恥ずかしいことに俺、負けたからな。そんであいつは俺の言うことをなんでも聞くと言いやがった。つーわけで俺はこの不可思議な状況を打破するために情報科でレキの情報収集をするまでにここにきたってこった」

 

肝心の婚約って所こそ隠したが、それ以外の部分は割と簡単に喋った(ゲロった)俺に理子は同情半分、そして何やら楽しげな目を半分向けた。

 

「なんかあっちも大変なんだねぇ〜くふふ。それならりこりんがお手伝いしましょうか?くふっ」

「おっ、助かる…って言いたい所だが、何を手伝うんだ?そして報酬は?」

「んとね、りこりんもレキュのことは気になってたからりこりんも情報集め、手伝ったげる。いーっぱい手伝わせて?んで報酬は……そか、コレでいいよ!特別だぞ〜??」

 

そう言い理子はカバンをふりふり。中に入ってるゲームで手を打つと言ってくれる。

そういえばこいつ、情報収集かなり上手いんだったっけ。それこそ俺に比肩するくらい。そんな奴がゲームで手を打つって言ってくれるんだ、かなり安い出費じゃね、これ?

 

正直お願いするデメがほぼ見当たらない。

 

「んじゃ頼むわ。よろしくな、理子」

「うっう〜!任されたよ!ところであっち、1つ確認してもいいかな?」

「いいぜ、なんだ」

 

ここで理子は一呼吸おいて俺にこう聞いてきた。

 

「ああ、情報を集めるのはいいがーー別に、アレ(情報)収集(バラ)してしまっても、構わんのだろう?」

「ーーおう、遠慮はいらないぞ。ガツンと遠慮なくやれ、理子……と言いたい所だが俺以外には秘匿で頼むわ。状況が状況だからな、バラしてお前が変に狙われるのも俺は望まぬ展開だ」

「やっぱりあっちは関西人だねぇ〜、ノリツッコミしてくるなんて思ってなかったよ!」

「いやまぁ、大事な所だからな。この際、なんで俺が関西出身なのを知ってんのかはツッコまんでおくわ」

「くふふふ。調べたのです!ですです!」

「ツッコまんって言ったばかりだろ」

 

適当なやり取りをしつつ情報科棟に向かう。レキの情報、暴かせてもらうぞ。

 

数時間後、俺と理子はアホみたいな格好で体を投げ出していた。

いや、意味がわからんぞ…

 

「おい、理子」

「な〜に〜〜?」

 

理子もこの有様。ロクな情報拾えてないな。ダメ元で聞いてみるか。

 

「どうだ?」

「どうだも何も情報隠しすぎじゃない〜〜?今わかったのは請けてる依頼の種類と確認しきれない過去の情報だけだよ〜」

「依頼の種類は確認できてる。教師からの依頼かLDスコア900オーバーだろ、そんでもって成功率100%。めちゃくちゃ異常な数字だ」

「だよね〜。そんで確認しきれてない過去の情報ってのがこれ〜〜」

 

そう言いどうやら自前のPCを渡された俺はそれを見て再び驚く。

 

「おい、なんだよこれ…これじゃまるで」

「『記録に残らないお仕事』をしてた、かな?」

「お、おう…しかも武偵ライセンスの国際化批准前の中国とロシアだろ?怪しさ爆発だろコレ…」

 

俺はそう言い頭を抱える。『記録に残らないお仕事』とは色々あるが代表的なものはーー『殺し屋(スイーパー)』。

理子のPCには無機質な字体でこう綴られていた。

 

14歳頃から中国、ロシアで武偵ライセンスを取得。

達成依頼

 

いや、ホントにやべーんじゃねぇの、コレ?

 


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