お気に入り200人突破しました、ありがとうございます!
ここまで頑張れたのもひとえに読者の皆様がいたおかげです。そうじゃなかったら多分2.3話書いて終わりだったカモ…?
これからも本作をよろしくお願い申し上げます!
それではどうぞ!
自由履修の強襲科を終え、俺は帰宅の途についていた。
自由履修で思う存分暴れられたのは良いけど蘭豹先生、1対30、しかも1の方はさすがに疲れるので今後は是非とも遠慮させていただきたい。
でも…飛んでくる銃弾を小太刀で弾いたり、相手の太刀筋を読んでかわしてカウンターを叩き込んだりってのを必死にしてたら一時的にでも悩んでることを忘れてスッキリさせてもらったことは感謝だ。
レキは
「とは言え、情報が少ないのもまた事実。対策といってもレキと色々規則を決めたりするしかないんだよなぁ」
物憂げに俺はつぶやく。明日は
自室に戻ると既に灯りがついており、それは俺にレキが既に帰っていることを如実に示していた。
1日じゃ帰ってくれませんよね〜、家財道具まで持ってきてたもんな、あいつ。
そこまで考えた俺は、ある一つの可能性に思い当たる。というのも……
「もしかして、レキが今日晩御飯を作ってくれてる……?」
もしかしたらこれはすごいことかもしれない。(見た目は)完璧な美少女レキの手料理を食べられるなら、これほど良いことはないのでは無かろうか?
俺はわずかにテンションをあげて、自室に戻ることにした。
「………まぁ、そんなことはないですよね。知ってました」
「…?」
部屋の扉を開けて待っていたのは体育座りのレキ。ここまでは良い。いや良くないけどそこからつっこんだら話が進まないから良いことにする。問題はここから。
(レキが料理なんてするわけないよな…知ってたよ、知ってたさ!チクショウ!)
そう、レキは体育座りでぽけーっとしていたのだ。テレビもつけず。俺の部屋で。
それを見た瞬間、俺の中で地味ーーーに期待していた、レキの制服エプロン姿、それも俺が帰ってきたら「お帰りなさい零司さん。ご飯、出来てますよ」と迎えに来るついでのサービスSE付きという像が粉々に砕け散った。
「そうだぞ〜何考えてんだ俺。相手を考えてみろ、それが普通だろ?……レキ、これから飯作るからちょいっと待ってな。あと、緊急時以外は晩御飯にカロリーメイト禁止な」
「……?はい」
レキは俺の顔をわずかに訝しみながら答えた。
…まぁ、料理するくらいなら自室があんなにさっぱりしてるわけねぇしロボットレキなんて言われないよな。俺はレキの異名を思い出しながら、夕飯作りに取り掛かった。
はい、完成。今日は白雪曰く、「実家から送られてきたけど量が多いから食べきれないの。明智くん料理するって聞いたしいつもの相談料代わりと思ってもらって」ともらったタケノコとか人参とかを使って作った筑前煮とこれまた白雪からもらったもんをふんだんに使ったけんちん汁。そんで鰆の西京焼き。あとご飯。
こちらとしては物目当てでやってるわけじゃないし、金にも困ってないから別に相談料とかいらなかったわけなんだが、相手の好意を無駄にするのもよろしくない。というわけでありがたく食料をいただいてるというわけだ。それにあいつの持ってくる食材どれもこれも超一流で美味しいし。
「おーいレキ。ご飯できたからテーブル片付いてないなら片付けて。片付いてるならテーブルにご飯持ってくの手伝って」
「はい」
とことことキッチンに入ってきたレキにお皿を渡す。というかコレ、男子と女子逆じゃね?普通さ。
「「いただきます」」
食器をテーブルに置き食事を始める。と、その前にレキの反応チェックだ。ご飯を作った身としては反応を見たくなるものだ。
「どう?」
「美味しいです」
「そりゃよかった。んじゃ飯食い終わったらちと話あるから覚えといて」
「はい」
嘘をつけないレキのことだから本心で言ってくれてると思うと作った甲斐があるってものだ。俺はまず筑前煮に手をつけてみる。ふむ、短時間の調理の割には味が染みてるな。モノが良いからだな、コレ。
俺はここにいない白雪に感謝しつつ食事を進めていった。
「「ごちそうさまでした」」
食事を終え、食器を軽く水洗いだけ済ませておく。さっき話をするといったからには手早くな。
水洗いを済ませテーブルに座りなおす。ちなみにレキは食後ずっとぽけーっとしていた。
「それでお話とは何でしょうか?」
「あぁ、それな。まずレキに聞きたいこと一つ。なんで俺なんかを選んだのさ?能力だけならキンジとかマサトでも良いだろうに」
マサトはともかくキンジは発狂しそうだけどな、女子と2人きりで生活なんて。
レキはぱちくり。瞬きを一つして答えた。
「零司さんだ、と風に命じられましたので」
「まーた風かい…んじゃもう一つ。そこにお前さんの意思はあるの?」
「………ありません」
その答えを聞いて俺は課題の膨大さに1人溜息をつく。レキの意思でやってるならその意思を変えさせれば良い。ところがレキにはその意思がないときた。言うならば機械の作業の一つ感覚。これはレキの意思云々じゃどうしようもないしそもそも意思というものを持ってるのか怪しいところだ。
……正直な話さ、レキが
そこまで確認した俺は最後にもう一つだけ聞くことにした。
「じゃあさ。レキは夢って持ってるの?極端だけど世界一の武偵になりたいとかさ、そういうなりたい未来の自分って持ってるか?」
「………私はウルスの1人で1発の銃弾。目的に向かって飛ぶだけです」
……。その生き方は周りを見る必要もないもんだろうけどさ。辛くないのか、そんな生き方。
そう内心で苦虫を噛み潰しているとレキは逆に聞いてきた。
「零司さんはその…夢をもっているんですか?」
いやはや、逆に聞かれるとは思ってなかった。けど夢……というか目標は、ある。
「いつか話したかな、怪盗ローズリリィのこと。俺が武偵やってる理由はそこにある、くらいまで言ったか。俺の夢はな、いつか攫われた俺の妹、千花を連れ帰って明智の家に一緒に帰ること、かな。あいつが攫われた後、1人で明智の家の門をくぐるのが寂しかったし悲しかったし、何より周りの人の目が怖かった。やっぱりさ、家族は一緒にいるべきだよ。1人失った時に改めて分かったことだから、遅すぎたのかもな」
「いえ、何かを気づくことに遅すぎるなんてことはないと思います。千花さんもおそらく零司さんのことを待ってると思いますよ」
自嘲気味に笑う俺をレキは見て即座に言った。待ってくれてる、か。そうだったらどんなに良いことか。もしかしたら俺のことなんか忘れてるかもしれないし、覚えててもいつまでも助けに来ないから嫌われてるかもしれないのに。
そして実家から逃げるように消えて1年とか過ぎたあたりか。父親が他界した。親戚から疎まれていた俺は父親の死に目に会えなかった。あー、思い出したらちょっとダメだこれ。
悔しさとか悲しさとか一気に溢れてきそうなのを堪えつつ、俺はレキにこう告げた。
「つーわけで夢をもってる俺からレキに2つアドバイスだ。まず1つめ。なんでも良いから一生でも追いかけたくなる夢を持ちな。なーに、その気になりゃお前のことだ。掴めない夢も見れない夢もねぇよ。そんで2つめ。必要のない人なんていないんだぜ?自分を銃弾だと思うのは勝手だしどういう意図でそんなこと言ってるのか知らんが、自分を軽く見る考え方は禁止だ。これだけは約束な」
「……善処はします」
善処はする、か。
「うーん、まぁ及第点か。俺は少し自室にこもる。繊細な作業だから部屋入ったり聞き耳立てるの禁止だ。風呂は好きに入ってくれ」
「わかりました」
そこまで聞き届けた俺は自室に入り一枚の写真を取り出す。写っているのは2人の大人に囲まれた3人の子供。…というか俺の家族写真なんだけどな。1人は他界し、1人はいなくなり、そして俺自身はあの場所から逃げた。
「……ごめん、な千花、親父…」
そこが限界だった。俺は自室で泣いた。そりゃもうわんわん泣いた。
泣いて泣いて、泣き止んだ時、改めて俺はローズリリィを赦さないと誓った。