シャワーを浴び終え、リビングに戻った俺はなぜかは知らんが体育座りでぽけーっとするレキを目にする。人の家来て何やってるんだろうね、この子。
「レキ。夜も遅いんだしシャワー浴びるならさっさとな。明日に響くぞ」
「はい」
そういうとレキはその場で立ち上がった。何するのか見てると、しゅる、しゅる…
……!!!!何やってんだこいつ!
「おいレキ!なんでここで制服を脱ぐ!?馬鹿かお前は!!?」
「なぜと言われましても、服を脱がなければシャワー浴びられませんので」
「いやいやいや!!頼むから洗面室の中で着替えてくれ!!恥じらいを知ってくれ頼むから」
「……?恥じらいというものははわかりませんが、わかりました」
そう言い、レキは脱ぎかけた制服を着なおし洗面室に行く。恥じらいを知らんって本当に女子高生か、あいつ。ありえんだろ…
………木綿か。っていかんいかん、この脳内画像を削除しますか?イェス!オフコース!
シャワーから出て、寝ようかという時にレキはまた問題行動を重ねた。というのも……
「あのー…レキさん?リビングで片膝立てて、何をしていらっしゃるのでしょう?」
「寝る準備です」
そう、この人なんと座って寝てるそうです。いつも。常日頃から。
……いやありえんだろ、普通。武士か、武士なのか?ご先祖様はどうやらやっていたかもみたいなことをお爺様から聞いたことがあるけど現代でやるのは時代錯誤も甚だしいでしょ…
「俺の安眠のために頼むから寝室で寝てくれ、マジで」
「敵襲に対する備えなのでそれは受けられません」
て、敵襲って…あーもう!めんどくさい!
「俺が寝てる間自動で発動する水分感知仕掛けときゃいいな!いいから!寝室で!寝てくれ!頼む!」
「……わかりました。では寝室を使わせていただきます」
「そうしてくれ」
俺のマジ顔に何か鬼気迫るものがあったのか、それともいつも通りなのか。何はともあれついにレキは折れてくれた。そして同時に俺の1人部屋、言い忘れてたけどサヨナラバイバイ。2人部屋、しかも女子と相部屋とかホントにどうしてこうなった。
ふと時計に目を見やる。0時半。これは明日の朝練はナシだな、睡眠はしっかり取らないとコンディションが上がらん。
俺は2つある2段ベットの右側の下段に入る。レキに後で何か言われるのも面倒なので本当に対人用の水分感知を仕掛けておく。ICカード以外のなんらかの方法で扉が開けられた時にその相手の左肩を遠慮なく吹き飛ばす高めの威力調整。多分脱臼は免れないだろうな。
ちなみにレキは左の下段に入っている。寝つきは早いのか、もう寝てるような感じだが…
そうだな、起きてる奴特有の気配がある。少し話をしたいことがある。
「レキ」
「はい」
「お前の言うところの風は……どうして俺なんかを選んだんだろうな?」
レキは珍しく一呼吸ほど置いて考えて、答えた。
「わかりません」
「そうだろうな。俺なんk「ですが」……?」
「ですが少なくとも風は零司さんのことを選びました。そこにどう意味があるのか、それは私の考えることではありません。私は1発の銃弾なので」
おいおい、1発の銃弾って本気でそう思ってるのかよ。
俺はそれを言おうか迷って…言うのをやめた。その代わりにこう聞く。
「レキ自身は俺のことをどう思ってるんだ?」
「……」
レキは再び思案顔になる。こっちから聞いておいてアレだが、恥ずかしいな。さっさと切って寝よう。俺は恥ずかしさの余り、赤い頬で照れながらこう言う。
「なんてな!今のは忘れてくれ。いいか、忘れろよ?んじゃ俺は寝るから。お前もさっさと寝とけよ、おやすみ」
そう言い、俺はもう何も聞きませんアピールをして寝る。できれば、この一連の出来事が夢であることを願って。
まぁ、予想通りというかなんというか。夢オチなんてものはなく、俺が起きるとレキはまだ左のベッドで寝ていた。
仕方ないので俺は起き、朝食を2人分作る。今日は味噌汁にご飯、焼き鮭の一般的な日本食だ。
時計の針が6時半を指すとほぼ同時にレキが起きてきた。
「おはようさん、レキ。飯できてるから食うぞ」
「はい」
テレビをつけ、天気予報を見る。うん、今日もバカみたいに晴れるようで。洗濯物もよく干せるな。
「……」
ちらりとレキを見やるといつもとは少し違う様子でテレビを見ていた。その表情が…なんというか、幼稚園の頃の千花に似ていたんだよな。
「レキ。飯食うぞ」
「あ…はい、いただきます」
ぼーっとしてたのに気付いたのか、レキは俺の向かいの席に座ってご飯を食べ始める。ひょいぱく、ひょいぱく。早いな、食べるの。
「んで、どうやって学校行くつもりだ?」
「普通に徒歩で行く予定ですが」
「女子生徒が男子寮から出ることに問題を感じないのか、お前は」
「……?つまりどういうことですか?」
あー、本気でわかってない顔してるよこの子。
「遅刻ギリギリに俺の車で出るぞ。それならバレる可能性を抑えられる。早起きして誰も来ないうちに行くというのも考えたけどそれをするには起きる時間が遅すぎたからな」
「わかりました」
わかってるのかね、ホントに?
俺の寮の前を止まるバスで、朝のHRにギリギリ間に合うのは7時58分発。だから俺は8時ちょうどに出れば少なくともバス組にはバレない。うん、そうだろうそれしかないよな。
そうして朝食を終えた俺たちは8時ちょうどに車に乗り込み、HRギリギリにクラスに乗り込んだ。ちなみにレキには俺の部屋で暮らしてることは言わないようにキツく言っておいてある。本人には理由がわかってないっぽいけどな。
俺とレキが入った瞬間、一瞬教室が凍りつく。え、何?思ってたのと違う反応なんだけど。
やがて1人の男子生徒が俺にガッ!と顔を近づけ、聞いてきた。
「おい明智!レキさんと一緒に寝たってマジか!?」
「はい?」
え、なんでもう広まってるの?てかどうするのコレ?冷や汗が俺の背中を流れてるような気がする。
「深夜にお前とレキさんが並んで部屋に入るのを見たやつがいたらしいから聞いてるんだよ!で、明智。答えは!!?」
教室の視線が俺と男子生徒に集まってるのを感じる。イヤホント、どうしたもんか。
……。
………。
…………。仕方ないかぁ…チクショウ、なんで俺がこんな目に…!
頬をかきつつ、しどろもどろになりながら答えることにした。
「一緒に寝たっていうと誤解が生じるんだが…その、なんというか。確かに昨日レキは俺の部屋に来たのは事実だ」
ドォッ!と沸くクラス内。中には「ついにカップル成立だ!」とか「イケメンと美少女のカップルとか…」とか「レキさんはやっぱり明智君だったかぁ」とか「私も零司様の部屋に連れてってほしい…」とか「チッ、イケメンだったらなんでも許されるのかよ」とか色々な奴の怨嗟の声(一部ノイズで聞こえなかった。聞こえなかったぞ!)が聞こえてくる。
盛り上がるクラス内と反比例して俺のテンションは下がっていく。あぁもう、厄日は昨日で終わらなかったのね。
レキは……うん。状況飲み込めてないのか図太いのかは知らんけどいつも通りに席について準備してるね。
…ったく。俺もレキのそういうとこ見習いたいかもな。
噂って怖いですよね
それにしても圧倒的水分感知の安心感…!