緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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第35話

……

 

……。

 

………。負けちまったかぁ……畜生、まだ届かないのか…?

 

レキに降参した俺はへなへなとその場に座り込む。一体どうすればいいんだよ、この状況。

 

そう思っているとレキがなにやらこちらに近づき、なんか知らんが跪いた。いや、なにしてはるの?

 

「では零司さん。今から私は貴方のものです。これから契りの詔を復唱させていただきます。別の言葉から現代日本語に翻訳したのでぎこちないかもしれませんが、そこは目を瞑ってください」

 

そう言ってレキはなにやら文言を言い始めた。

 

軽くまとめると、

・レキは俺のもの、所有物。武力や身体をご自由に使ってよし。

 

・レキは俺の言うことすべてに従う。もし俺に何かあればその元凶を滅ぼす。

 

・ウルスの47人で俺の力になる。永遠に。いつまでも。

 

そこまで言うといつものぽけーっとしたレキに戻って動かなくなった。ごめん、流石に理解できないし承服しがたいな、これは。

 

レキは確かに美少女だ。これは多分武偵高の生徒100人に聞きましたをやっても99人は認める。残りの1人は天邪鬼だろ、そんなん。

 

でも俺はこいつのことをなーんにも知らないし、恋愛をしたくて武偵高に来たわけじゃない。俺の頭はそんなピンク色をしていない。

 

ここには怪盗ローズリリィに復讐するために来た。俺の武偵としての研鑽の大元はそこからだし、俺が武偵を続けてる理由でもある。

 

それが見てみろ。同じクラスの隣の席のSランクの奴に求婚されて敗北するこのザマを。こんなんじゃローズリリィには遠く及ばないだろう。

 

「………それで終わりか?そんじゃ俺は帰るぞ、明日な」

 

危険は去ったと見て俺はレキに背を向けノブが壊れてしまったドアを超能力でウォーターカッターを創り出し、切り落とす。そして強引に開けた扉から帰ろうとする。

 

するとあろうことかレキはとこ、とこと俺の後ろについてきた。試しに俺は立ち止まってみる。レキも立ち止まる。再び歩き出す。レキも歩き出す。

 

……コレアレか?部屋までついてくるやつか?

 

「…なぁ、レキ。このまま俺の部屋に来るつもりか?」

「もちろんそのつもりです」

 

うわぁ、これは言っても聞かなさそうなやつだ。バレるととんでもないことになるが仕方ない。これも我慢だ。

 

「はぁ、学校行くのに必要なもんだけ取って来い。ついて行ってやるから」

 

 

 

当たり前だが、俺はレキの部屋どころか女子寮の部屋になんか入ったことはない。って言いたかったんだけどな…

 

(以前理子の部屋でゲームしたから来たことはあるんだよな…)

ちなみに理子の部屋はなんでか知らんけどコスプレグッズが所狭しと並んでいて結構な規模の服屋みたいな感じになっていた。何か着せようとしてくる理子をあしらうの結構疲れたんだよな。

 

「ここです」

 

そう言ってレキは非接触のICキーを取り出し、部屋に入る。これ、俺も入れってことよな。

 

「お、邪魔しま…す?!」

 

思わず動揺してしまった。というのもレキの部屋には物らしい物がほっとんどなく、カロリーメイトの空箱が何個かとテーブル、その上にある銃の整備用の道具しか見当たらない。

 

なんというか…うすら寒いな、これ。きょうび監獄とかの方が物があるんじゃないか?テレビもないしここ。ていうか床!コンクリなんだけどこの子、今までどんな生活送ってきてたんだよ。

流石にこれは、ない。もっと女子らしくしたら人気も出るのにな、こいつ。

 

レキはテーブルの上の整備道具をひとまとめにし、カバンとなにやら箱を沢山持ってこちらに戻ってきた。

 

「これで十分です」

「あ、そう?そんじゃ行きますか」

 

沢山持ってる箱の一部を持ってやり、俺は自室に戻ろうとする。するとレキはポケットをごそごそして、なんか取り出して俺に渡してきた。

 

「一応、ここのカードキーです。生活の拠点をこちらにすることは少ないでしょうが、渡しておきます」

「あ、はいどうも。…ってなんでやねん」

 

なんでかカードキー貰ってしまった。一応持っとくけどこれ、どうするかね?

 

 

その後俺とレキは俺の自室の前までやってきていた。結局ホントにこいつはついてきた。心労が増えそうで今更ながら泣きそうだ。

 

「…はぁ、この部屋だ。しょうがないからこれ(カードキー)渡しとくぞ」

「はい、ありがとうございます」

 

俺はレキにカードキーを渡し、部屋に入る。レキもそれに続いて入ってくる。

 

幸か不幸か、俺の部屋は元々4人用のを1人で貸切にしてる状態だからレキの部屋くらいなら用意できる。

 

「レキはどの部屋にするんだ?」

「では、この部屋で」

「はいよ、そこは空いてるから好きに使え。あと寝室はこっちな」

「ありがとうございます。あと、零司さん」

「??…なんだ?」

「リビングのテーブルを少し貸していただけませんか?」

「?いいけど」

 

そう言うとレキはテーブルに部屋から持ってきた工具を広げ、ドラグノフの整備を始めた。俺はとりあえずそれを見守ることにする。っていうかもうそろそろ日付が変わっちまうな、早く寝ないと明日に関わる。

 

レキは迷いのない手でかちゃかちゃと整備を進めていく。普段からやってるやつの手つきだ。丁寧だな。そんで整備が終わったのか、壁に向けて仕上がりを確かめている。

 

「どんくらいの頻度でやってるのさ、整備?」

「使った日は毎日行っています」

 

マメだな。こんだけやってりゃミスなんてないんだろうな。

レキは、続いて俺も運ぶのを手伝った箱から中身を取り出す。出てきたのはドラグノフ用の弾、7.62×54mmR弾薬だ。

 

「零司さん。すみませんがいまからしばらくの間、あまり息をしないでください。呼気に含まれる水分が銃弾に付着して狙撃に支障が出る可能性がありますので」

「こだわるやつだな…はぁ」

 

俺はそこまで言うと指を鳴らして超能力を発動させる。そして不思議そうな表情をしているレキに説明してやる。

 

「今俺が超能力使って、その天秤から半径50cm以内の湿度を0.03%まで落とした。なにやるのか知らんけどさっさと終わらせてくれ」

「はい」

 

レキはそれだけ言うと机の上に銃弾を20個、パッと見等間隔に並べる。そして一つだけ取って残りを足元に置いてあったらしいカゴに流し込む。

 

さっきマメだと言ったが、これは少しばかりやり過ぎじゃなかろうか。先ほどの荷物の中に天秤もあったことから銃弾は自作、そこからさらに最優のものを一つだけ選び残りは棄てる。こんなことやってるやつはそうそういないと思う。

 

キンジなんかやっすい米軍横流しの銃弾をさらにセールの時に買うっていう別の意味でやり過ぎな事やってるからこれ見たら驚くだろうな。

 

「時にレキよ、そこまでやるのは大いに結構だが不発の経験、ある?」

「ありません。銃は私を裏切りません」

「だろうな。ま、一応気をつけとけよ」

 

ま、そうだろうな。俺も一応銃弾は自作しないとオートマグなんか使えないから自作するが、こんなに精密にはしないぞ。というか水分の時点で俺はやらん。

 

レキの整備が終わったので俺は超能力を解き、軽くシャワーを浴びるために浴室に行く。寝る寸前に汗かいたからな。軽くヨゴレを落として寝るか。レキにはちゃんとリビングか自室にいるよう指示している。俺のあとに入らせてくださいみたいなこと言ってたな、そういや。

 

「なんかこれからが修羅場になりそうな気がする…」

 

そう言った俺の呟きは誰にも聞こえず、消えていくのであった。


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