緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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どうも乃亞です!
ついにレキさんが動きましたね!(ドラグノフ付き)
そして今回は結構長いです!それではどうぞ!


第34話

こんな夜遅くに呼び出しておいて言うことが脈絡のない結婚をしてください、だと……?

もしかしてめちゃくちゃヤバい奴?俺の命的に。

こういうのはまず情報を抜き出すのが先決だろう。

 

「い、いや待ってくれよレキ。な、何言ってんだよ…?」

「ですから、結婚してください。そう言ったのです」

 

全く話が通らない、これはマズいだろ…!!

 

「いやそうじゃなくてさ。なんでそんなことをいきなり言い始めたんだよ?言っちゃ悪いかもしれんが心当たりがないぞ俺は」

「分かりませんか?」

「全く持って完璧に分からん」

「私と零司さんが結ばれれば零司さんもウルスになれますから」

 

ん……?ウルスってなんだ?いやどっかで聞いたことがあるような…

 

…!!あの夢の中で俺のことを見抜いた白人がそんな感じの言葉を言ってなかったか?

 

『それでは、また機会があれば会いましょう。ーーーの族長と次代の姫』

 

ここの聞き取れなかったところに入るのが確かにウルスという発音だった気がする。

恐らくその……結婚すればウルスになるってのはそのウルズ族の一員に俺が入るってこと。

でも……

 

「ごめん、レキ。いきなりすぎて話についていけないけど一つだけはっきり言えることはある。お前と結婚することは今のところ、出来ない。俺がお前のことをしっかり知らないってのも一つだし、逆もそうだろ?そんな相手と俺は結婚することは、出来ない」

「それは違います。互いのことを知るのは結婚してからでもいいはずです。これは指令なので退くことはできません」

 

俺はその言葉にさぁーっと水が引くように冷静になった。レキは今()()と言ったのだ。つまり自分の意思はない。恐らくその指令元は、レキが常に聴いているという風。これに違いない。

 

「なるほど、指令か。その指令元は、風。違いないだろ?」

「はい」

 

その一言で俺の固まりかけていた意識ははっきりと方向性を示した。

 

「悪い、レキ。それは受けられない。お前がどういう意図で俺にそう言ったのかは知る由もないが俺はその期待には答えられない。んじゃ、明日な」

 

そこまで言って俺は帰ろうとする。するとビシッ、という音を立て扉のノブが壊された。

原因は言うまでもない、レキの狙撃銃(ドラグノフ)だ。

レキは一切表情を変えず、俺に無慈悲な宣言をした。

 

「逃がしませんよ」

 

 

 

依然として第2女子寮の屋上で俺はレキと向き合い、レキの雰囲気からして戦闘になりそうな予感を察知する。なので俺はレキとの距離を測りながら一応装備の確認をする。

 

…小太刀2本に.44オートマグ。ベレッタPx4ストームは整備しようと思って置いてきてしまった。これなら二刀流(ダブルエッジ)か超能力を使用した二刀一銃(ダブル・シングル)がいいだろうか。

 

「……零司さん」

「どうした?その雰囲気しまってくれるとありがたいんだが」

 

そんなバリバリな戦意出して言うことがロクな事なはずがない。

 

「私も少し強引にしすぎました」

「そりゃそうだ。言わんでもわかるだろ」

「ですので貴方に時間を与えようかと」

 

時間ねぇ…5年くらいあると嬉しいな。

 

「最大7分間でどうでしょう。私はこれから7回零司さんを襲います。貴方が一度でも1分以上逃げ切れたら求婚は撤回します」

 

は…い?7分間だと?時間って5年くらいはないと思ってたけどひと月くらいくれないのかよ?

 

てかこの子、襲うとか言っちゃったし!!もうなんなんだよ本当に!!あれか、昼に平和っていいなぁって言ったから平和の終焉フラグたったのか!!

 

最悪だ。なんだよこれ。入学試験の時のトキメキ返せよこんちくせう。

 

「もちろんどこに逃げようと、あるいは逃げなくても構いません。ただし、零司さんもご存知の通り、私の『絶対半径(キリングレンジ)は2051mです。拳銃手(サジット)より広範囲で、超能力者(ステルス)よりも長時間の耐久力で、貴方を射抜く」

 

んな事知ってる。アドシアードのチャンピオン相手に逃げ切れるわけねーだろこれ。俺も狙撃銃は扱えるが、俺の狙撃銃のG43を持ってきてない事とその絶対半径の違いのおかげで狙撃戦に持ち込めない。仕方ないだろ?こんな事になるなんて推理をしていなかったんだから。

 

流石に頭を悩ます俺の目の前にはレキが何時でも狙撃できますよとでも言わんばかりに体勢を整えている。

 

今日は月が出てこない新月。街灯のほのかな明かりを背に、レキは俺に立ち塞がる。まるでここから先は行かせないと言わんばかりに。

こうなりゃ意地だ。僅かながらの抵抗をさせてもらう。

 

「待てレキ。ここまでお前の要求ばかり俺に押し付けてきたよな。俺も要求しても構わんよな?」

「………いいでしょう。なんでしょうか」

「時間を要求する。お前が俺を襲う前に8分間寄越せ。その間は俺はここから動かないし、他人に助けを求めたりしない。考える時間を寄越せ」

 

レキの様子から得られるギリギリの時間を要求させてもらう。正直、無策で戦うには荷が重すぎる相手だ。キンジとかならわーって逃げ出すんだろうけどな。そんで逃げ切るの無理と判断してこっちに戻ってきそうだ。本人は否定するだろうが強襲科(アサルト)らしい愚直っぷりを持ってるからな、あいつ。それが良いときもあれば悪いときもある。

 

「……いいでしょう、8分間零司さんに差し上げます。ただし今いる位置から半径50センチ以上離れた場合は猶予を放棄したと捉え、襲撃を開始します。」

「あぁ。それでいいよ、話がわかって助かるぜまったく」

「??」

 

俺は皮肉のつもりでそう言ったんだが、レキの様子だとわかってないっぽい。

さてそんな事よりせっかく猶予を貰ったんだ、有効活用させていただこう。

 

まずレキの7回、という意味。何をするにしてもこの謎の数字の意味を理解しなければ話にならない。

7回という事は最終7回目でレキにとっての結果が生まれるということ。その結果は狙撃銃を使うところから恐らく……

 

(お命頂戴、ってことよな…)

 

それくらいはやりかねないような雰囲気を今のレキは纏ってる。つまり最初の6回までは他の何かを狙う。6回…左右3回ずつか?いや両手両足を狙った後2回分残る、没だ。ならなにか二つ一組になってるもの3対ということか…?

 

そんなもの……あった。ボタンだ。確認はしていないが今レキのドラグノフに積んであるのは装甲貫通弾(アーマーピアス)だ。俺の防弾制服なんざ紙くずのように貫通する。その弾を使ってボタンを破壊ないしその留め具を破壊するのだろう。そんでもって最終7発目で狙うは俺の心臓、自分のものにならないんだったら捨てる、程度のものか。

 

あっれー、レキさんってもしかしてヤンデレ?いや、恐らく仕事の一つ程度にしか捉えてない。そういう目だ、華龍組の件の時の目とそこまで変わらなかった。つまり、そういうこと。?

 

ここまでレキからもらった8分のうちまだ1分も経っていない。あと7分で対策、こちらの準備を整える。

 

まず対策だが…うーんなかなか厳しい。こちらの準備はそこまでいいわけではないのに対し恐らくレキの準備は万端。さっき装甲貫通弾と推理したがそれで安易に水の防壁(シールド)を張っても、対超能力者(アンチステルス)の弾だった場合どうしようもない。さて…どうしようか。

 

以前レキは三重跳弾射撃(トリプル・エル)程度なら簡単にできる、という旨の発言をしていた。ならば対狙撃手の常套手段である、相手の視線の届かないところに逃げるという手は使えないと見よう。逆に考えるんだ、いつでもレキを視認できる位置にいれば来た弾を切り落としたり弾の弾道を.44オートマグで逸らしたりできるハズ。ならば俺のすることは一つ。

 

()()()()()()()()。これだ、というかこれが一番正解の選択肢だ。

 

ドラグノフは銃剣を取り付けることも出来る銃だが流石に狙撃より上手いということはないハズ。なぜなら俺は彼女の徒手格闘を見たことがない。

 

レキの技術なら近距離にすることなく相手を撃つからやる必要がない、あるいはやってもできないから身につけていないのだろう。筋肉のつき方もキンジや不知火、あるいはマサトなどといった強襲科のそれではないしな。

 

そしてレキは一つ重大な思い違いをしている。それは『超能力者は長い時間動けない』

これだ。確かに()()()()()()()ならすぐガス欠になるんだけどな、これは俺には当てはまらない。

 

俺の超能力の分野を仕分け(カテゴライズ)するとI種超能力なんだが、それは体の中の物質を使って超能力を起こすというものだ。

そして俺が使う物質は………H()2()O()()()()()()()

つまり使用するものと使う超能力が同じなんだ俺は、幸運なことに。

 

これでも中3の時まで、つまりヨーロッパに行くまでは使う量が超能力で起こせる量よりも多くて、他の超能力者と同様に短時間しかその力を使えなかったんだが、イタリアの武偵高で消費を抑える使い方ってのを教わって訓練したら消費よりも生産の方が上回らせることに成功したんだよな。

恐らく公式で二つ名を付けるってなった際に提示されたもので『水』や『青』と言った文字が多く使われていたのはこれに起因するんだろうな。

ただし、精神力はガリガリ削られていくので最大でも2時間半ってのが限度なんだけどな。

 

レキは恐らくこのことを知らない。ならばそこに勝利の糸口がある。

 

そこまで考えていると、レキの棒読み口調が時間を告げる。

 

「時間です、零司さん。7回目までに降参することをお勧めしますよ」

「言ってな、俺は負けないぜ」

 

そう言って俺は今俺の出来る最大出力の8割の力で空気中の水を制御下に入れ、足りない分は自分で造り出してそれも制御下に入れる。

その際、常に摂取できるように調整も怠らない。

 

7月の少しジメッとした気候、そして海に近いという学園島の性質のおかげで俺の制御下にある水は10万リットルを超すくらい、つまりプールの水量の4分の1位の大質量になり、俺の後ろを竜巻のように取り巻いている。

これが俺の余りやらない本気の戦闘スタイル。やったあと疲れるからな。

 

そんな大質量にも怯まずレキは銃を構え、そのまま発射する。俺はそれに合わせ水を動かして盾にする。

 

しかし…

 

ビシッ!という音を立て俺の左のカフスのボタンが吹き飛んだ。やはり対超能力者用の弾を使っているか!ならば…ッ!

 

俺は即座に水の操作をやめるために纏っていた水を体が消費した120%分だけ残し、残りを海に射出して制御を終える。

 

そして2本の小太刀を構え、3歩下がる。来るなら来い、そう言わんばかりに。

レキはそのまま第二射に移り、タァーンッ!と撃ってきた。

 

俺は消費分の水を口に流し込みつつ動体視力に任せて小太刀を振るう…!

キィンという音を立て弾を切ることには成功する。

 

しかし…

 

バシュッ!先ほどの再現のように左のもう一つのカフスのボタンが無情にも飛んだ…ッ!!何故だ…?俺は確かに弾を切ったハズなのに結果は俺の敗北。流石に意味が分からない。

 

いや、意味は分かるんだ。本当は認めたくないだけ。レキは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。言葉にするとそれだけなんだが、どれ位の研鑽を積めばできるのか分からないくらいの超人技。そんなことを涼しい顔でやってのけたのだ、目の前の少女(レキ)は。

 

俺の超能力(ステルス)、剣術はレキの狙撃の前にあっけなくも敗れ去った。だがまだ銃の技術が俺には残っている。ベレッタPx4ストームがないから擬似的なものになってしまうが仕方ない。

 

俺は小太刀をしまって右手に.44オートマグ、左手は親指、人差し指、中指を立て銃のように見立てる。そして先ほど程ではないが再び超能力を起動し左手に()()()()()()()水のみを集約させる。

 

対超能力弾によって、超能力で作られた水は完全無力化される。しかし空気中から得た水は超能力の管轄を失っても()()()()()()()()()()()。つまり少しでも壁の役割を担わせることはできるのだ。

さっきのは超能力で造った量が多すぎて壁にしきれなかったけどな。

 

 

タァン、タァーン!

 

 

眉をピクリとも動かさずレキは俺を狙撃する。これで負けたら終わりだ…!そう思った俺は普段以上に集中力を注ぎ込み、弾の起動を読む。一つ目の起動は俺の右のカフスを狙っている。2つ目は右足の外側、当たらない、ならば無視が正しい判断だ。

 

レキの撃つドラグノフの7.62×54mmR(ラシアン)弾の威力は拳銃弾で太刀打ちできるものじゃない。

だけどオートマグの.44AMP弾と即席ではあるが水鉄砲(ウォーターガン)の質量があればなんとか逸らすことができるハズだ!!

 

俺はいつも以上に精密な射撃をする。右手のオートマグ、左手の水。どちらも寸分違わぬところに撃ち込む。すると、なんとかスピードが落ちてきてカフスのボタンの射線からはズレようとしている。ここが正念場だ…ッ!!

 

もう少しで反らせるというその瞬間、俺はあり得ないものを目にする。目に、してしまう…!

ズレてきた弾の斜線にレキの次弾が迫り、初弾を掠める形で動いたのだ。次弾は俺の右足の外側を飛ぶと判断した俺のミスだ…!!

 

後発の弾に押されて軌道を再び変えた初弾をズラすことができず、そのまま初弾は俺の右カフスのボタンを2()()()()()()吹き飛ばしたのであった。

 

「………ッ!!」

 

あんまりな光景に俺は動かない。いや動けない。あの瞬間、俺は出来うる限りのことをやりつくした。しかし結果はこのザマだ。どんなことをしてもこの少女には勝てない、そんな気までしてしまう。全てはレキの手の内、なんだろうか。

 

ちらりとレキを見やるとわずかに驚きをたたえた眼差しでこちらを見ている。なんのつもりだ、敗者に向ける眼差しじゃないだろそれ。

 

ハッとしたかのように呆然と立ち尽くす俺の制服の第二ボタンをそのまま撃ち落とす。当然金属バットで打たれたような衝撃が俺を襲うが俺は未だに動けずにいる。本当の戦場ならば直ぐに撃たれるような棒立ちしか、俺には出来ない。

 

「れ、レキ。こ、降参だ。負けを認める」

「はい」

 

倒れそうになるのを必死に堪え、震える唇でそう告げるとレキはドラグノフの狙撃体勢を取りやめ、元の、いつものレキに戻った。

 

…どうしよう、これ。

ただ、一つだけ分かるのはこれで俺は平穏な日々とサヨナラを告げるんだろう。

こうして俺は月の無い夜、高校に入って初めて、同学年に敗北を喫したのだった。

 

 

 

〜〜レキSide〜〜

 

「………ッ!!」

 

目の前の男性…零司さんが声にならない声をあげる。それと同時に私の放った初弾右カフスのボタンを2個まとめて弾き飛ばす。

 

正直に言うと想定外、でした。私が狙ったのは右カフスのボタンのうち前のボタンだけです。後ろのボタンは次に狙う予定であり、まとめて弾き飛ばすつもりなど毛頭ありませんでした。

 

それをこの人は射線を私の想定よりもずらしたのです。結果としてボタンを2個破壊することにはなりましたが、全くもって私の意図する所ではなかった。

つまり、次は逸らされるかもしれない。

 

そう思うといつもとは違うような感覚に陥ってしまいそうでした。

 

ハッと気づくと前の狙撃から1分経ったので制服の第二ボタンを撃つ。しかし、零司さんは無抵抗でそのまま狙撃を受けました。

 

(…?)

 

ふと零司さんを見ると、こちらを怖い、と感じているのがわかるくらい小刻みに震えていました。

 

「れ、レキ。こ、降参だ。負けを認める」

「はい」

 

零司さんからの降参を受け、私は狙撃体勢をやめる。

 

ーー本当にこれでよかったのでしょうか?

私にはよくわかりません。




はい、零司君初の完封負けです。(金一戦は訓練の一部なので除外)
しかし、零司君は知る由も無いですがこれはレキにとっても初の『負け』だったり。

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