作戦開始日から3日目、つまり情報が正しければ21時から華龍組が取り引きを始めるその日、俺はあろうことか寝不足に悩まされていた。
というのも…
『明智君、キンちゃんが任務から帰ってきたら何をすれば良いと思う?』から始まり、
『キンちゃんの家の掃除とか、しておいた方が良いよね?帰ってきた時に埃っぽいのは嫌だよね?』
『キンちゃんの役にどうしたら立てると思う?私最近恐山に修行行ってたからキンちゃんのお世話できてないからその分役に立ちたいの。』
などと言った白雪のメール、しかも1つ1つ原稿用紙1.5枚はくだらない長さで10通くらい来たのを1つ1つ対応していたら寝不足になってしまうのも仕方ないよな。というか白雪さん、キンジへの愛重くない?『任務中だから後で』って切ってキンジを変な災難に合わせるのもなんか申し訳ないし。
「あーちくしょう、キンジ早く気付いてやれよ全く!」
だから朝からこんな発言が出てしまうのも仕方ないことなのだ。
昼はレキとの作戦の打ち合わせ兼レキの狙撃ポイント確認をする予定なので、取り引き予定地付近の中華街へ足を運ぶ。なんでレキの狙撃ポイントを決めるために俺がついていくのか、って疑問を持つ人もいるかもしれない。しかしこれはいがーいと重要なことだ。
って言うのも、俺が「狙撃手と組んで拳銃を扱ったこと」と「拳銃手と組んで狙撃銃を扱ったこと」があるから言えることなのかもしれないが、どこから味方の狙撃が来るのかを知るだけでも拳銃使いが動きやすい。それでもって狙撃手も味方の不用意な動きを気にすることなく万全の状態で狙撃ができる。分かりやすく言うと連携が取れるんだよな。
連携って面で言うと拳銃手が狙撃手のために相手を狙撃しやすいところに誘導したり、狙撃手が拳銃手を狙う不意打ちを阻止できるってのも大きいな。
その次に挙げるとすれば万一の事態のための逃走経路の確保とかなんだろうけど純粋にこいつが訓練ではないところでどういった場所でどんな狙撃をするのか。興味が湧いたのだ。
そうそうレキレベルの
待ち合わせ場所に着くとやはりというかなんというか、レキはもう既に来ており俺を待っていた。遅刻じゃないんだぜ、こいつとマサトが早すぎるんだ。
「待たせたな、というかいつも早いなお前ら」
「いえ、問題ありません」
そんなもう恒例になりつつあるやり取りをするとレキはピタリ。進もうとした足を止めこちらに向き合った。なにさ?
「零司さん、もしかして寝不足ではありませんか?」
うげっ、これだけでバレるんかい。流石プロレベルの狙撃手、見るところ見てるな。
「あらら、バレちったか。足音か?それとも歩幅?」
「どちらもです。寝不足はいざという時に影響を及ぼすのでこれが終わったら仮眠した方がよろしいのでは?」
「それも…そうかもな。迷惑かけるな、ごめん」
どうやら足音と歩幅両方見ていたようだ。ホントこいつもマサトも目敏いな。体調も万全っぽい。俺もしっかりしないと綴先生辺りにヤキ入れられそうだし、しっかりしないとな。
「そんでレキよ。どこらへんをポイントにする予定なんだよ?どうせ目星はついてるんでしょ?」
「はい、こちらです」
そう言い、レキはビル街の方へ足を向ける。特に反対する理由も無いので俺もついていくが、ビル街か。合理的といえばそうだが、言うほど狙撃しやすいポイントでも無いんだがな。
ビルの上の方は当然見渡しも良いし遮蔽物も少なめ。そこは良いんだが、問題はビル風。ビルとビルの間を吹く風ってのは結構読み辛いんだ。海辺ってこともあり、風ってだけなら海風もあるから余計複雑だ。俺も絶対半径はこの間の自由履修でこそ1800mを記録したが、ビル風を読んで撃つとなると2.3mmはずれるかもしれない。
そんな立地にも関わらず平然と
「ここにしようと思ってます、どうですか?」
「ほどほどの距離だし、良いと思うぜ。ここから向こうまで…1900mってところか。良い感じなアシスト頼む」
「はい、零司さんもしっかり体調を整えてくださいね?」
「おう、間に合わせるのはまぁまぁできるから任せときな」
レキに連れられて来たのは取り引き現場になるであろう場所と華龍組本拠地のどちらも見えるビルの屋上。距離的にマサトの援護は出来なさそうだが確認できるだけでもありがたいってもんだ。
俺は心配(多分)してくれるレキにニカッと笑い、取り引き現場での立ち回りをシュミレートすることにした。
ここからなら取り引き現場をある程度見渡せるだろうし、バックアップは完璧に近い状態で受け取れる。ならば一番に気にすることは現場への
ここで生きてくるのが小太刀と銃を左右に構えた
「よっし、シュミレートオッケー。改めて、レキ。今回はよろしく頼むぜ?」
「はい、よろしくお願いします」
意思の疎通も出来たし、少し車で寝ますか。
〜〜Sideレキ〜〜
「よっし、シュミレートオッケー。改めて、レキ。今回はよろしく頼むぜ?」
先ほどまで目を瞑って何かを考えてた彼、零司さんはそう言い陽だまりのような笑みを浮かべる。……?陽だまり、ですか。
なんとなく出た言葉に内心首を傾げる。でも、
「はい、よろしくお願いします」
彼の期待には、答えたい。なぜだかはわかりませんが、そんなことを感じました。………?感じた?私は1発の銃弾、心など持っていないはずなのに?
最近、自分がよくわかりません。体調が悪いわけでも無いのに、一体どういうことでしょう?