緋弾のアリア〜蕾姫と水君〜   作:乃亞

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第25話

朝9時に俺とマサト、それにレキは桜木町駅に集合した。

「おはよう、今日から何日か()()を観察する。レキは空に近いところから見ると良いと思う。俺とマサトは予定通り探索だ。次の集合時間は14時にここでいいだろう。そんじゃ各自行動開始としよう。何か妙だと思う点あるいは聞き込みとかで変化したと言われる点は随時報告する方向で」俺がそこまで宣言するとマサトとレキは頷き、行動を開始した。ちなみに空に近いところとはそのままランドマークタワーのことだ。レキのことだからそこからならば山手(やまて)から新子安(しんこやす)、鶴見あたりまで…は少し厳しいか。少なくとも新子安あたりまでなら見えるだろう。マサトは中華街付近を徹底して調査、俺は横浜駅からここ、桜木町駅のレキの目の届かない屋内とかを中心に調べるつもりだ。

 

華龍組は以前から中国系マフィアとの繋がりがあったらしいが最近活発化の傾向にあるようだ。ドンパチやられたりなんかしたらこのみなとみらいの景観とか色々が損なわれてしまうし、横浜のイメージダウンにも繋がるだろうな。俺としてはクスリよりも違法銃器とかの密輸入を警戒している。ランドマークプラザの営業時間前というところから観光客というよりは会社員の方が多いのでとりあえずはどこかで着替えて防弾用の私服に着替えておきたいんだが、制服は目立つからな。

とりあえず駐車場に戻ってカジュアルな防弾仕様の私服に着替えよう。あいつらは当然着替え持ってきてるんだよな?一応聞くか。

「こちら明智、一応の確認だ。2人とも潜入だし、私服を持ってきてるよな?」

するとすぐ2人の答えが返ってきた。

『一石だ。用意はしてある、大丈夫だ』

『レキです。私服は持っていません』…オイオイ、大丈夫なのかこの任務。2人の対照的な答えに頭を悩ます。いやマサトはいい、あれが正しいからなんら問題はない。問題はレキだ。なんで持ってきてないんだよ、足跡ついたらどうすんのさ。

「明智だ。レキ、私服を取りに戻るか?車なら出せるぞ」

『……?いえ、持ってきていないのではなく持っていません。ですのでこのまま来ました』一拍おいて返ってきたレキの答えに俺は思わず惚けた顔になる。私服を持ってない?なんじゃそりゃ、ロボットレキってそりゃ言われるわな。確かに休日でも制服着てる感じはあったが…

俺は即座にマサトだけにメッセージを送る。

『おいおい、マサトどうする?このままだと出るはずの尻尾も出ないぞ』そう送ると即座に返答が返ってきた。

『そうだな、確かにそれは困る…明智、なんとかできないか?』

『いやいやいや…持ってないって言われるとは思ってなかったからどうするか考えてるんだが…買うしかない、か?』

『そうだな、それが一番早い。ランドマークプラザかクイーンズイーストあたりで防弾製のものを見繕ってやれよ』などとマサトは俺に押し付けてくるので仕方なく俺はポチ、ポチ、ポチ。

『仕方ないな、その分働いてくれよな』と返信を送りつけた。

そして通信でレキに

「明智だ。レキは桜木町駅に戻ってこい、私服買うぞ』と言いつけ、レキの返答を待たず制服のまま桜木町駅へと戻り始めた。

 

俺が戻ってくると既にレキは戻ってきていた。

「おい、レキ。行くぞ」そう声をかけるとレキはこくり。頷いてついてきた。最近、こんなことばっかりじゃないか?

「武偵高の制服じゃ何かを監視していますって言ってるようなもんだろ?あぁいうのはそういった機微を見逃さない。チャンスを潰しに行ってるようなもんだぞ」

「すいません、ですが…」

「ん?」

「今は、穏やかな風です。今日は何も動きはないかと」…出たよ、レキの風。ぶっちゃけ俺にゃなんのことだかさっぱりだ。

「そうかい。でも動かれてからじゃ遅いから買いに行くぞ」

「…はい」

 

11時になり、俺とレキはクイーンズイーストでレキの服を見繕うために服屋を彷徨っていた。

「おい、レキ。お前の好みの服ってなんだ?」

「特に好みはありません。零司さんはどう思いますか?」うーん、困った。女子の服なんてよくわからんからな。こういう時はショップの店員に任せるに限る。

防弾仕様の服専門店があったのでそこに立ち寄り店員に頼むことにした。

「すいません、店員さん。こいつに似合いそうな服を上下見繕ってやってくれませんか?」店員さんは何を勘違いしたのか、俺とレキを見やり、ニコッと笑いながらこう告げた。

「はい、彼氏さんが彼女さんについメロメロになるような服でいいですね!少々お待ち下さい」そこまで言うとレキを引き連れ店内の奥の方に連れて行ってしまった。はぁ、どうすればいいもんかね?生憎監視されてる気配も感じないしマサトに話題でも降るか。

「おい、マサト。こちら明智だ。状況は?」

間髪入れずに返答がきた。

『こちら一石。今のところは動きとか一切ないな。そっちはどうだ?』

「うーん、そうだな。レキが服屋の店員さんに服を見繕って貰ってる。こちらを監視してる気配はないから大丈夫だ。そっちも監視対象に監視されないようにな」

『了解、引き続き探ってくるぞ』

「ん、任せた」そこまで言うとマサトとの通信は切れた。あとどんくらい待てばいいのかね?

 

「はーい彼氏さーん!バッチリ彼女さん決まりましたよ!こっちです!」

「あの、そんなんじゃないんで…」待たされた。30分くらい待たされました。正直下手な尾行とかより疲れたな。

「こんな感じでいかがでしょうか!正直自信作です!」

「さて、どうなりましたか……ね!!?」

驚くのも無理はない。制服姿しか見たことのないやつの私服を初めて見たインパクトってこんなに大きなもんなんだな。

レキは白いレース状のワンピースの上に髪の色に寄せたのか、抹茶色(店員さん曰くカーキ)の半袖ミリタリーシャツだったかに袖を通している。靴もいつもは履いているのを見たことがない群青色っぽいバッシュに白のソックス(これはいつも通りなのか?)にしている。控えめに言って、かわいい。表情はいつも通りだけどな。

「どうですか、零司さん?これなら任務に支障をきたさないかと」

「……お、おう。良いと思うぜ」そんなことしか言えない俺を許してください神様。いやでもこれはすごい。ファッション雑誌に乗れるレベルだろ、元が良いからなぁ。

「しゃあない、それは俺のプレゼントだ。店員さん、これおいくら?」

そういって会計をしに行く俺をレキは後からついてきた。元からお金には困ってない上にこの間のアドシアードでたんまりと報酬を貰ったからな、これくらいなら問題ないだろう。

会計を済ませた俺はレキと共にクイーンズイーストを出てランドマークタワーの前でこれからの確認を済ませ、別れたのであった。

 

 

最初こそトラブルのあったものの偵察は割と順調に進み、華龍組の動向を探りつつ、俺は普段あまり来ない横浜をそこそこ楽しんでいた。

すると携帯が鳴り始めた。この番号は……!?

「はい、零司です。どのようなお話でしょうか、()()?」そう、電話の主は俺の実の母、京都に居を構えている明智蘭保(かほ)、その人であった。

『今、零司さんは横浜の華龍組の調査をしているのですね?ならば耳寄りな情報を差し上げます。華龍組のトップは3年前に代替わりし、未だ何の成果も得ていません。そろそろそのトップが何らかの成果を得るために銃器の密輸入を企てているらしいですよ。おそらく1週間以内には行動をおこすかと』

「そうですか、ありがとうございます。その情報は活用させていただきます」

『あとそうですね、夏休み辺りに帰ってこれるのであれば帰ってきなさい。それだけです、では』そう言って電話が切れる。……実家に帰ってこい、か。

 

明智の本家はいつからかはわからないが外国との交易を盛んにしてきた家らしい。そこと俺は千花の件で少し疎遠になっている所がある。両親では無いが、明智家の一部の人は千花が攫われたのは兄である俺の監督不行き届き、だと言っている。確かに俺もそうだと思っていて、事実上の勘当と捉えてた。

実家から遠い神奈川武偵高校付属中に行ったのもそのためだし、さっきの通話のよそよそしさもそれだ。養育費とかも貰っていない。今年の夏行くかも…怪しいな。俺が行きたくないって気持ちが強い。あの時のことを思い出してしまうだろうから。

 

複雑な思いを背に俺は先ほどとは打って変わり、沈んだ気持ちで調査を続けた。




前書きに書くことないから後書きに書く風潮、あると思います。
レキの服を考えるのに一番時間がかかったり。

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