アルシェの物語〜In the Beginning was the Word〜 作:Menschsein
<モモン VS ガガーラン>
「本当になかなかやるな。剣の技量は全然だが、熟成されている感が半端ないぜ、お前。本当に
「逆に問おう。お前こそ、本当にアダマンタイトか? 力任せに
「俺の
「ふん。渾身の一撃防がれた状態で、よくそんな事が言えるな……。だが……装備を奪う前提でのPVPというのも悪くはない。もっとも、お前の装備は大したものがないがな」
「へっ。お前の装備は全て剥いてやるがな。こいつでも食らいやがれ!」
ガガーランは、自らの持っている武技をいくつも同時に発動させ、自らが必殺技と位置づけている超級連続攻撃を使う。
盛り上がった筋肉により、モモンガの上半身を後ろに反らし、そしてそれによって生じた隙、胸筋のあたりを
戦鎚の平べったい部分で胸に衝撃を与え、モモンガの体勢を完全に崩した後は、戦鎚の裏面。尖った刃がある部分で、容赦なくモモンの急所を狙う。首元、右肘と左肘の鎧と鎧の可動部分。どのような頑丈な鎧であっても、人間が動くために作られている金属と金属の遊びの部分。人間で言えば関節の部分を狙っての攻撃。流れるように十四発の攻撃がモモンを撃つ。そして、最後のトドメと言わんばかりに、最後は思いっきりモモンガの兜に向かってその鉄槌を振り下ろす。あり得ない硬度の金属で作られていない限り、兜を潰し、そして相手の脳天までも潰しきる威力の一撃。そして万が一、あり得ない硬度の金属によって作られている兜であっても、ガガーランの渾身の一撃の衝撃は、兜を通じてその相手の頭に伝わり、そして首にまで通じる。外を覆う兜が無事であったとしても、首の骨を砕き、頭を兜ごと胴体に沈み込ませることが出来る。このガガーランの必殺技を食らって生きている人間など皆無だ。この必殺技を完全に食らった相手は、まるで甲羅に頭を引っ込めたかのような亀となる。
それが今までであったが……。
「お前は、どれだけ頑丈なんだよ。お前、本当に人間か?」とガガーランは、平然と立っているモモンガを見て呟く。この必殺技が全て綺麗に決まれば、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフにも勝つことができるとガガーランは思っていた。その必殺技が、まるで蚊にでも刺されたかのように、首のストレッチでもするかの如く、この漆黒の全身甲冑の男は首を左右に動かしているだけだ。
「もう終わりか? 王国のアダマンタイト。とんだ期待外れだ。次は、こちらから行くぞ?」
その時、レイナースの悲鳴がカッツェ平野に響き渡った。
「お前等、俺のチームメイトに何をした?」とモモンガが静かな口調でガガーランに問いかける。
ガガーランは、その声を聞いた瞬間、体の筋肉が石にでもなったかのように動かなくなった。
「約束通り、命は奪わないが、そこで芋虫のように寝ていろ」と、モモンガはガガーランの肩を触る。
モモンガは悲鳴の声の主。レイナースの所に全力で疾走し始めたころ、ガガーランは、体のバランスを失い、受け身を取ることさえできず、地面にそのまま倒れたのだった。
・
<アルシェ VS イビルアイ>
「さぁ、先ほどの言葉、撤回しろ。取り消すなら、これ以上は苦しめないぞ?」とイビルアイは
アルシェの左肩と両脚の太ももには、イビルアイが放った
アルシェはフラフラの状態になりながらも、自由の利く右手で
よし。まだ大丈夫。両脚の痛みは残っており走るのにはキツイが、
相手は、自分が子供扱いされたことを撤回するようにと、自分に痛みを与えて、そして回復させ、また痛みを与えて、私の心がへし折れるのを待ってる。捨て身の戦いではあるが、挑発が成功している状況。ポーションに残りはまだある。このまま時間を稼ぐしかない。
この前の
アルシェは再度決意を固め、そして言葉を紡ぐ。選ぶべきは相手を挑発する言葉だ。
「取り消さない。だって、本当にあなたは子供よ。今だって、意味なく空中に浮かんでいるのは、自分がおチビさんだからでしょ!」
「言ったな小娘……」
イビルアイの前に、先端の尖った水晶が無数に現れる。太陽の光を浴びて、その水晶が乱反射していた。
「第四位階魔法、
空中に浮かんでいる水晶がクルクルと空中を回り始め、やがて止まる。無数の水晶の鋭く尖った部分がアルシェに向けられていた。
あれは危険だ、とアルシェも直感的に悟る。だが、アルシェが知らない魔法。
即死の可能性……。アルシェが、自らの死を予感した瞬間、レイナースの悲鳴がカッツェ平野に響き渡った。
・
<レイナース +α VS ラキュース and ティア・ティナ>
ニグンが呼びだした天使。
奇襲という形で“蒼の薔薇”に襲われず、ニグンが
その
レイナースは、ラキュースに向かって一直線に走る。忍者の双子も、天使の対応に追われている。今が、チャンス。
「魔剣を使うわ!」とラキュースは、魔剣キリネイラムに魔力を流し込んでいく。刀身に浮かぶ星のごとき輝きが巨大になり、刀身が膨れ上がている。
「させません」と、レイナースは自らの槍で、ラキュースの剣を払う。そして、地面に突き刺さった剣を自らの靴で押さえつけ、穂先をラキュースの首元に突きつける。
「早く戦闘行動を停止させなさい。命は保障します。五秒だけ待ちます。五、四、三……」「分かりました……」とラキュースは魔剣を手放し、両手を上げる。
一瞬の戦いの中での静寂。聞こえてくるのは、モモンとガガーランが打ち合っている剣の音。そして、遠くの方で「刮目して見よ!
「では、早く戦闘停止を……」とレイナースが言いかけた瞬間、レイナースの背中を冷たいものが走る。この感じ……。まさか……。まさか……。そして……完治したはずの自らの顔の右半分が熱くなるような感覚になる。レイナースは、持っている槍が震えるのを自分では制御できない。
こ、これは……。レイナースは自らの悪寒の原因を探る。そして、自らが踏みつけていた魔剣を見つめる。
魔剣キリネイラム。十三英雄の一人、黒騎士が所持していたとされる四振りの暗黒剣の一つ。
呪いの魔剣? 呪い……。
幻なのか、レイナースは、魔剣キリネイラムから禍々しい邪悪なものが、ユラユラとまるで湯気のように出ているのを見た。
そしてその瞬間、レイナースは走馬燈を見ているかのように、過去の悪夢が甦る。死に際の魔物の呪い。優しかった両親が、手の平を返すように自分を腫れ物のように扱い、自分を実家から追い出したこと。心から愛していた婚約者の自分への態度の豹変……。突きつけられた破門状と、叩きつけられた婚約破棄の手紙。
レイナースは、槍を落とし、両手で頭を抱え、震える。そして叫んだ。
「イヤァァァァァァァァァ!!」
魔剣が本当に呪われているかは知らない。