リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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仕事の休憩時間にポチポチ書きました。


7話「わんこ」

今日はアリサちゃんと山の神社でお散歩中だよ。

人気のない神社だから、アリサちゃんとの間で何かが起こるかも? ドキドキだね!

 

すずかちゃんは残念ながら習い事の日なの。何でも“にゃんこトレーナー”とかいう怪しげな資格に向けて勉強中らしい。

 

「へぇ、こんな所に神社があったのね」

 

「えへへー、あんまり人が来ないからお散歩に丁度いいよね」

 

あたしは繋いでいるアリサちゃんの手をニギニギしてみる。

 

「同性の友達といるのに、身の危険を感じるのはどうしてかしら?」

 

「ただの友達じゃないよ、親友だよ」

 

「身の危険の方を否定しなさいよ!」

 

「親友に嘘は吐きたくないよね?」

 

「……これ以上は言わないでおくわ。やぶ蛇になる気がするもの」

 

くそう、察知されてしまった。

 

“嘘を吐きたくないって何をするつもりだったのよ!”

 

と、アリサちゃんが返してきたら

 

“じゃあ、教えてあげる”

 

と、あたしが返して大人の階段を一歩登る予定だったのに。

 

「チッ……それで今日はこれからどこに行こっか?」

 

「(舌打ちしたわ、この子。やっぱり何か企んでたわね)そうね、いつものパターンになるけど、海沿いのお店を見に行きましょう」

 

「お昼は『翠屋』でいいよね」

 

「ふふ、そうね。あんたん家の売り上げに協力してあげるわ」

 

「うんうん、リニスとイタチの餌代を稼がなきゃいけないから、アリサちゃん沢山食べてね」

 

「イタチってあんた、あれはフェレットよ。それに名前で呼んであげなさいよ」

 

「フェレット…イタチだよね? 名前は確か、UMA(ユーマ)だよね」

 

「それは未確認生物のことでしょう。あんたのペットの名前はユーノでしょうが、なんで飼い主が間違えるのよ」

 

「ユーノ、ユーノ、ユーマじゃなくてユーノ」

 

「その覚え方は絶対に間違えるわよ」

 

「そんな事ないよ、あたしはちゃんと飼い主の責任を果たせる人間だよ」

 

「さっきまで間違えて覚えてた癖に、よくそんな偉そうに言えるわね、あんたは」

 

「失敗した過去を乗り越えてこそ、人は成長できるんだよ。今のあたしみたいにね」

 

「成長するのが早すぎるわよ!」

 

「それは、あたしが成長期だから!」

 

「成長期の意味が違くない!?」

 

そんな人生についての哲学的な話し合いをしていた時に“ソレ”は現れた。

 

「グルルルル…」

 

牛並みの大きさのそれは、身体中に攻撃的な角のようなものを生やした黒色の犬だった。目は四つあるね。

 

「暴力的な雰囲気の犬……これが噂に聞く“闘犬”ってヤツなのかな?」

 

たしか人間の手によって戦う事を目的にして、長い時間と手間をかけて改良をされ続けた品種だったはず。

 

「うわあ、闘犬なんて初めて見たよ!」

 

あたしはよく見てみようと近付いていく。

 

「あんなのが闘犬なわけないでしょう!?こらっ、近付いたら危ないわよ!!」

 

「えぇっ!? わんこじゃないの!?」

 

“わんこソムリエ”の資格を持つアリサちゃんの鼻は確かだ。

彼女がわんこじゃないと言えば間違いないだろう。

 

ちなみに“わんこソムリエ”とは、犬の臭いで犬種を当てるという超難関の資格らしい。日本全体でもまだ数名しか資格者がいないとアリサちゃんが資格者証を見せて自慢していた。

 

「ガアアアアアアッ!!」

 

闘犬モドキが突然、襲いかかってきた。

 

だけどそのスピードは遅く、あたしから見れば止まっているも同然の速度でしかなかった。

 

「ガウッ!!」

 

闘犬モドキはスローモーな動きのまま、あたしにのし掛かるように飛びついてきた。

その動きは、リニスが抱っこを求めて飛びついてくる姿と似ていた。

 

「あはははっ、お前も抱っこして欲しいの? おっきな体をして甘えん坊なんだね」

 

あたしは両手を広げて闘犬モドキを抱きしめようとした。

ククク、闘犬モドキとはいえ、犬っぽい生き物に愛情を注ぐ可愛い女の子! アリサちゃんの好感度もアップだね!

 

「このバカッ!? 早く逃げなさいよっ!!」

 

アリサちゃんの切羽詰まった声が聞こえてきた。

振り向くとアリサちゃんが必死の形相で、あたしに向かって駆けてくる姿があった。

 

「ウエルカムだよっ、アリサちゃん!」

 

あたしはもちろんアリサちゃんの方に振り向いて、さっきより大きく両手を広げて彼女を迎え入れる!!

 

「このバカァアアアアッ!!逃げろって言ってんでしょぉおおおおっ!!」

 

アリサちゃんは感極まったように、涙目になりながらあたしの胸に飛び込んでくる。

 

「ガアアアアアアッ!!」

 

「うるさい」

 

“ベタン”(重力魔法)

 

「グゥゥ…!?」

 

闘犬モドキは飛びかかった体勢のまま地面に押し付けられる。

そして高重力のせいで、少しずつ身体中の骨を砕かれていく。

 

ボキ!

 

「グゥゥゥ…」

 

「えっと、なにこれ?」

 

アリサちゃんはあたしの腕の中で幸せそうな顔でウットリとしている。

 

ボキボキ!

 

「クゥゥ…ゥン」

 

「ちょ、ちょっと、いくらなんでも残酷だよ!?」

 

アリサちゃんはいい匂いがするなぁ。くんかくんか。

 

ボキボキボキ!

 

「ゥ…ゥゥ……」

 

「も、もう死んじゃったんじゃない?」

 

「抱いた時のボリュームは全然足らないけどね」

 

バキバキバキィイイイイッ!!

 

「……………」

 

「ボリュームが足らなくて悪かったわね! !小学生なんだから仕方ないでしょう!!」

 

「しまった!? 口に出ちゃってた!?」

 

あたしの失言に怒ったアリサちゃんが腕の中から逃げていくーーー!!

 

「くそう、これも闘犬モドキのせいだっ、あたしが成敗してやる!」

 

あたしは大きくヘコんだ地面を覗き込む。

そこには仔犬がうずくまっていた。

 

「あれ、小さくなってる? 目の錯覚かな?」

 

「ちょっと! 近付いたら危ないわよ!」

 

心配してくれるアリサちゃんに大丈夫だよと手を振りながら、あたしは仔犬に近付いていく。

 

近付いてみると、仔犬の隣に見覚えのある青い宝石が落ちている事に気付いた。

 

ま、まさかさっきの闘犬モドキは、あたしの漏れ出た魔力の影響で、この仔犬が変化してたわけ!?

 

ムムム。

 

無意識に漏れ出た魔力とはいえ、このあたしが生み出したと言える魔物が、スライムに続き闘犬モドキとは。

 

こんな低級の魔物があたしの眷属だなんて知られたら困るわね。

 

今は可愛い女の子に過ぎないとはいえ、かつては大魔王として名を馳せたあたしの誇りに傷が付くわ。

 

あたしの魔力を吸った青い宝石が、後いくつあるのか分からないけど全て回収すべきね。

 

「ねえ、大丈夫なの?」

 

おっと、アリサちゃんが心配してくれてるんだった。

 

あたしはアリサちゃんに気付かれないように宝石を拾うと手早く封印してしまう。

 

仔犬は……死にかけてるわね。

 

そうだっ、閃いた!!

 

 

「アリサちゃん、この子…」

 

「この子、酷いケガだ…」

 

大怪我を負い、今にも死にそうな仔犬を見たアリサちゃんは言葉を失う。

 

「アリサちゃんはどうしたい?」

 

「もちろん…助けたいわ」

 

「元気になったら、また闘犬モドキになって襲われるかもしれないよ?」

 

「っ!?……それでもあたしはこの子を救いたい。だって、この子の目が生きたいって言ってるもの」

 

仔犬はいつの間にか閉じていた目を開いて、アリサちゃんをジッと見つめていた。

 

アリサちゃんも涙をためた目で仔犬を見つめていた。

 

あたしは仔犬の股間を見つめていた。

 

うんうん、メスだね。種族を超えた美しい友情だよ!

 

「……アリサちゃんがどうしてもこの子を助けたいのなら助けてあげれるよ」

 

「本当なのっ!?」

 

「うん、あたしの命の欠片をこの子に分けてあげればこの子は助かるわ」

 

「い、命の欠片!? そ、そんなのを分けてあんたは大丈夫なの!?」

 

その言葉にあたしは何も答えない。

ただ、優しい目でアリサちゃんを見つめるだけだ。

 

「な、なんとか言いなさいよ…」

 

「あたしの事は気にしないで、あたしはアリサちゃんの望むことなら何でもして上げたいだけだから」

 

「ど、どうしてよ。そんな事をしても、あんたには何の得もないじゃない」

 

戸惑うようにアリサちゃんはあたしに問う。

 

あたしは、アリサちゃんの固く握り締められた両手を優しく解すと胸に抱いた。

 

「ふふ、それならアリサちゃんは、自分が得をしたいからその仔犬を助けたいの? 違うよね。あたしも今のアリサちゃんと同じ気持ちなんだよ。アリサちゃんの心がその仔犬を助けたいって叫ぶように、あたしの心はアリサちゃんを助けたいって叫ぶんだよ」

 

「な、なによそれ。そんなこと言われて…あたしは…どうすればいいのよ…」

 

アリサちゃんの頬に涙が伝っていた。

 

あたしはその涙を指で拭いてあげる。

 

そして、あたしは能天気に笑う。

 

「にゃははっ、アリサちゃんは自分の願いを素直に口にすれば良いんだよ。あたしはアリサちゃんの為なら何だってするし、何だって出来るんだよ」

 

「なのは、あんた…」

 

「ほらほら、笑ってよ。あたしはアリサちゃんの怒った顔も、泣いた顔も、ぜーんぶ好きだけど、やっぱり一番大好きなのは笑った顔なんだよ」

 

「っ!?……うん、そっか。分かったよ、なのは。あたしもあんたの笑顔が大好きよ。あたしの一番の親友のあんたの事が大好きだよ」

 

アリサちゃんは、目が潤んだままだったけど、最高の笑顔を見せてくれた。

 

「お願い、なのはっ、この子を助けてあげて!!」

 

あたしは思いっきり能天気に笑いながらアリサちゃんの想いに応える。

 

「にゃはは〜っ、なのはにお任せだよ!」

 

 

そして、あたしは命の欠片を仔犬に分け与える。

 

 

“ホイミ”

 

 

 

 

 

「というわけで、今日は“ホイミ”でアリサちゃんの好感度が激烈大アップしたんだよ!」

 

「なのは、親友に嘘はいけませんよ」

 

リニスに今日の事を報告をしていると酷いことを言われた。

 

「あたしは親友に嘘なんか吐かないもん!」

 

「いえ、ただの回復呪文を命の欠片とか言ったんですよね?」

 

「命があるから魔力は生み出されるんだよ。つまり魔力は命の欠片と言えるものなの。魔法はその魔力を消費する。つまり、命の欠片も同然だよ」

 

「そう言われると正しい気がしないでもないのが、ちょっと悔しいですね」

 

「どうして悔しいのよ!?」

 

「ですが命の欠片を分けると、なのはの命が削られるというのは明らかな虚言ですよね」

 

「あたしは一言もそんな事を言ってないよ?」

 

「は?」

 

「アリサちゃんに命の欠片を渡して大丈夫なのかって聞かれた時に、ちゃんとあたしは大丈夫だよって、意味を込めてアリサちゃんの目を見つめ返したもん」

 

「ハァ…バニングス様もタチの悪い方に目をつけられたものですね」

 

「タチが悪いって、リニスはだんだんと口が悪くなってる気がするよ」

 

「いえ、正直なだけです」

 

「正直すぎるのは美徳じゃないよ?」

 

「わざと勘違いさせる言動をするマスターに言われたくありません」

 

「それは仕方ないよ。あたしはどんな手を使ってでも欲しいものは手に入れるって決めたんだからね」

 

「まったく、邪悪なマスターですね」

 

「ふふ、だってあたしはこの世の全ての魔を統べる“大魔王”だからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フェイトを早く出したいけど、フェイトが出るとアリサちゃんの出番が減ってしまうかな?



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