リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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連休が終わり仕事が再開するので連投は終わります。


6話「ジュエルシード」

猫とイタチが意気投合した。

 

何を言ってるのか分からない?

 

うん、あたしも分かんない。

 

「それで僕は、地球に散らばったジュエルシードを集めているんです」

 

「そう、一人で大変だったわね。でも、もう安心してね。これからは私とマスターが手伝って上げるわ」

 

「リニスさん、ありがとうございます!」

 

「ううん、困った時はお互い様よ」

 

妄想癖の持ち主同士を合わせたらダメだって事だね。

ところで動物も厨二病にかかる事を学会とかで発表したら注目されるかも。

 

「なのはっ、これを受け取ってよ!」

 

イタチが、どこかで拾ってきたと思われる赤い宝石を渡してきた。

その輝きから察するに本物の宝石のようだ。

 

あたしはそれをソッと机の引き出しに隠す。

 

「どうして仕舞うの!?」

 

「こんなの持ってるとこ見られたら盗んだと思われちゃうよ」

 

「盗んでなんかいないよ! ちゃんと発掘したんだよ!」

 

「そういうのを盗んだと言うのよ!」

 

まったく盗んだのを発掘だと言い換えるなんて、タチが悪いわね。イ“タチ”なだけに…

 

「ごめんなさい」

 

「なのは、何を謝っているのですか?」

 

「うん、親父ギャグは禁じ手なの」

 

「意味がわかりませんよ」

 

「それでいいの、世界には知らない方が幸せな事があるんだよ」

 

「は、はあ」

 

遠い目をするあたしにリニスは納得してくれたみたいだった。

 

「なのはっ、だからデバイスを…ぐえっ!?」

 

「さっきからイタチの分際で、あたしを呼び捨てにするなんて随分と偉そうね」

 

あたしはイタチの腹を踏み躙りながら教育を施す。

 

グリグリ!

 

「これからは“ご主人様”と呼びなさい」

 

「ぼ、僕はイタチじゃな…ぐえっ!?」

 

グイグイ!

 

「これからは“ご主人様”と呼びなさい」

 

「僕はユーノ・スクラ…ぐうっ!?」

 

グニュグニュ

 

「これからは“ご主人様”と呼びなさい」

 

「ぼ、僕は人間……ハァハァ」

 

プニュプニュ

 

「これからは“ご主人様”と呼びなさい」

 

「ハァハァ…ご、ご主人さまぁ」

 

「…やっぱり気持ち悪いから、なのはでいいの」

 

「そんなぁ…ご主人さまぁ『えいっ』ヒデブッ!?」

 

気持ち悪すぎてぶん殴っちゃった。てへ!

 

 

 

 

「まあ、なのはにデバイスは必要ないと思いますよ。彼女は色々と規格外ですから」

 

「で、でも感じる魔力量はAだよ。確かにすごい事はすごいけど、デバイスは絶対に必要だよ」

 

「なのはは普段は魔力を完全に抑えていますよ。その制御力は完璧に近いわ」

 

「え? でも、なのはは魔力がただ漏れだよ?」

 

「ふふ、貴方が感じているのは、ほぼ完璧に抑えている魔力の残滓の様なものよ。想像できるかしら? なのはの本当の魔力を」

 

「じょ、冗談だよね? この大きな魔力が漏れ出してる一部に過ぎないなんて」

 

「こんな冗談を言っても仕方ないでしょう? なのはの本気を見れば直ぐに分かりますよ」

 

「なのはの…本気」

 

ぶん殴って正気に戻ったイタチとリニスが、何やらボソボソと密談をしている。

 

厨二病同士で気が合うのはいいけど、いきなり部屋で交尾を始められたらイヤだなあ。

注意しとこうかな?

 

 

「はっ!? この気配はジュエルシード!?」

 

あたしが飼育について頭を悩ましていたら、イタチが急に立ち上がった。

 

「オシッコならカゴの中でしてね」

 

あたしは、リニス用のカゴにイタチを掴んで投げ込もうとした。

 

「ちょ、ちょっと待って! オシッコじゃないよ! ジュエルシードの反応が合ったんだよ!」

 

あたしに掴まれたイタチが厨二病発言をしている。

仕方ない。これも飼い主の責任として少しだけ付き合ってあげよう。

 

「それで、その反応はどこからしているの?」

 

「僕が案内するから付いてきて!」

 

あたしが相手をしてあげたのが嬉しかったのか、イタチは張り切って窓から飛び出して行った。

 

「はぁ、付いて行かなきゃいけないよね。 リニスはどうするの?」

 

「そうですね。私もジュエルシードには興味があるので一緒に行きます」

 

「それじゃあ、こっちにおいで」

 

“レムオル”(透明化)

 

“トベルーラ”(飛行)

 

腕の中に飛び込んできたリニスをしっかりと抱きしめたあたしは、呪文を唱えて窓から飛び立つ。

 

「あれ、イタチのくせに足が速いよね」

 

まるで空を飛んでいるかの様な速度で離れていくイタチの魔力を感じて、あたしは少し驚いた。

 

「急いで追わないとイタチの魔力は小さいから見失いそうね」

 

「私が捕捉しているので安心して下さい」

 

「匂いで?」

 

「猫扱いはやめて下さい! 魔力に決まっているでしょう!」

 

猫に猫扱いするなと言われた。

理不尽だよね!

 

 

 

 

なんだろう、あれは?

 

イタチに追いついたあたしの前には巨大な不定型の生き物がいた。生き物だよね? はっ、思い出した!

 

「あれはジュエルシードが活性化し『この世界のスライムはあんな形なんだ!』ス、スライム?」

 

前世では愛玩用として一部では人気を博したスライムだったのに、世界が変わればドロドロチックで可愛さゼロだね。

 

「あれがスライムですか?」

 

リニスが見たこともない生き物をスライムだと断定するあたしに、疑問を感じたみたいだ。

 

「あたしは直接は見たことないけど、お兄ちゃんの部屋のパソコンで、女騎士がスライムに服を融かされて半裸になっているシーンを見たことがあるわ」

 

「……恭也さんの部屋でですか?」

 

「うん、お兄ちゃんはいなかったけど、点きっぱなしのパソコンはそのシーンだったよ」

 

あたしの言葉にリニスは頭が痛そうにしていた。

 

「あのムッツリめ、妹がいるのに不用心すぎるわ。今度お仕置きで“行為中”に乱入してやろうかしら」

 

何かブツブツ言ってるけど、なんだろう?

なんだか不穏な空気を感じるから関わらないようにしよう。

 

「君達は何をノンビリしているんだよ! 早くジュエルシードを封印しなくちゃ被害が大きくなるよ!」

 

イタチが自分の妄想設定にスライムを組み込んだみたいだね。

だけど、スライム相手に被害がどうのとか無理があり過ぎるよ。

 

スライムの方を見てみるとウネウネと蠢いているだけだ。

あそこに女騎士を放り込めば、お兄ちゃんが喜びそうだね。

 

でも、あたしの趣味ではないからあのスライムはいらないや。

あたしはやっぱり、ウネウネよりプルプルのスライム派だからね。

 

「あたしはスライムを倒せばいいんだよね?」

 

「うん、まずは力を削ぐんだ。それから封印すればいい!」

 

飼い主として妄想設定に合わせてあげるのも大事だよね。

あんなに楽しそうにしてるんだから、夢の世界を壊しちゃいけないと思う。

 

もっともペットだから厨二病を許容しているだけだよ。人間だったらぶっ飛ばして現実を教えてあげる所だから勘違いしたらダメだからね。

 

「じゃあ、攻撃呪文は久しぶりだから少しサービスしちゃおうかな」

 

スライムの弱点といえばやっぱり火炎系だよね。

 

あたしは指を一本立てて唱える。

 

“メラゾーマ”

 

あたしの指先に炎で形作られたフェニックスが顕現する。

 

「な、なんなんだ!? あの炎に込められた魔力量だけで、平均的な魔導師の全魔力量に匹敵するよ!!」

 

「なのはの全力にはまだまだ程遠いですよ」

 

あたしは二本目の指を立てる。

 

“メラゾーマ”

 

二匹目のフェニックスが咆哮をあげる。

 

「ば、馬鹿な!? あれだけの魔力を使った直後に同じだけの魔力を放てるのか!?」

 

「まだまだ続きますよ?」

 

そして、あたしが合計5本の指を立てた後には、五匹のフェニックス達があたしを慕うかのようにあたしの身体を覆っていた。

 

つまりあたしは、フェニックスの身体が邪魔で周りが全く見えない。

 

「だぁああああああっ!!!!鬱陶しいのぉおおおおおおっ!!!!さっさと行っちゃぇええええええっ!!!!」

 

あたしの怒声にフェニックス達は、追い立てられるかのようにスライムへと突撃していった。

 

次の瞬間、スライムを中心に荒れ狂う炎の渦が巻き起こる。周囲のアスファルトやコンクリートは一瞬で燃え尽きる。

その勢いは凄まじく、あたし達の方にもその炎の触手が伸びようとしていた。

 

「ひぃっ!? こんな馬鹿な死に方はイヤだぁあああっ!!!!」

 

「大丈夫ですよ」

 

リニスは冷静にイタチを咥えると、あたしの腕の中に飛び込んでくる。

 

“マジックバリア”(呪文防御)

 

「うそぉおおおおっ!?!!??!!!」

 

鋼鉄すら蒸発する程の炎を完全にシャットアウトする防御陣にイタチが再び驚愕する。

 

「あのね、自分の魔法で焼け死ぬほど、おバカじゃないわよ」

 

当たり前のことに驚愕するイタチは、所詮はイタチって事だね。つまり、おバカって事なの。

 

炎が収まった後には青い宝石が落ちていた。

 

「ジュエルシードだ! 早く封印しなきゃ!」

 

都合よく落ちていた宝石をジュエルシードとやらに見立てたみたい。

 

どうしようかな?

 

あたしはそのジュエルシードとかを拾ってみた。

 

「うーん、小さな魔力が篭っているみたいだね」

 

「なのはにとって小さな魔力という事は、相当大きな魔力ですね」

 

「なのは、早く封印したいから僕に渡してよ」

 

イタチが魔力を封印する?

無理だよね?

渡してもいいけど、悲しい結末になりそうだよね?

 

「………」

 

あたしは黙って、ジュエルシードを自分の魔力で包み込んで封印してしまう。

 

「これでいいよね?」

 

「う、うん。完璧にジュエルシードが封印されているよ」

 

「なのは、流石ですね」

 

どうやらイタチの妄想設定を守れたみたいだね。

うふふ、これで飼い主の責任は果たしたわ。

 

帰ろうとしたあたしは、ふと手の中のジュエルシードを見て疑問を持った。

 

この世界に魔力の篭った宝石が都合よく落ちていた?

 

そんな偶然などあるだろうか?

 

もしかして…

 

「知らない間にあたしの魔力が漏れていたのかも?」

 

あたしの強大な魔力はどんなに制御を頑張っても少しは漏れてしまう。

その漏れた魔力が、宝石などの魔力を溜めやすい物に篭るのは不思議じゃないわ。

 

「これって、もしかしてマッチポンプ?」

 

自分で原因を作っておいて、自分で解決する。

 

うわあああ、恥ずかしすぎる。

 

でも、リニス達は妄想設定のお陰で、全く気付いていないみたいだね。

無事に封印できて良かったとか言って喜んでいるんだし、態々本当の事を言って、水を差す必要なんかないよね?

 

うん、この事はあたしの胸の内にだけ留めておこう。

これもペットの夢を守る、飼い主の責任の範囲内だと思うから。

 

さてと、さっきの呪文で大きなクレーターみたいな焼け跡が出来ちゃったから、騒ぎになる前に帰らなきゃね。

 

「もう帰るわよ」

 

「はい、なのは」

 

「僕も帰りは一緒でいいかな?」

 

「いいわよ、おいで」

 

二人を腕の中に抱えながらふと思った。

 

さっきの戦闘を誰かに見られていたら後で騒がれるかも?

 

次からは気をつけよう。

 

「今回はこれでいいわよね」

 

“メダパニーマ”(集団混乱)

 

えへへ、これであたしの事なんか気にする人はいなくなるよね。

 

あたしは姿を消すと空を飛んで自宅に向かった。

 

周囲からは奇声がたくさん聞こえてきてウルサイけど今回は我慢だね。

 

 

 

 

「ところで、リニスさん」

 

「何かしら?」

 

「リニスさんのトイレはカゴなんですか?」

 

「がうっ!」

 

「ぶぎゃあっ!?」

 

 

 

 

イタチがリニスに噛まれてた。

 

リニスがお腹を壊さなかったらいいけど。

 

 

 

 

 

 




次回投稿日は未定。でも続く予定です。体調が良ければ早いかもです。(仕事は夜勤が多いのです)


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