あたしの家には猫がいる。
数年前に捨てられていたのをあたしが拾ったのだ。
この猫には秘密がある。
たぶん拾ったときに死にかけていたから、当時思い出していた回復呪文をかけまくったせいだと思う。
元気になった猫は喋るようになっていた。
しかも何やら妄想癖まで生じたみたいで、自分は使い魔だとか言い出した。
他にも色々と設定を考えては口にする。
ご主人様には魔力があるから自分を使い魔にして欲しいとか言うから、飼い主として責任をとって相手をしてあげた。
いわゆる『私と契約して魔法少女になってよ!』というヤツである。
今思い出しても中々に恥ずい儀式だった。
名前も自己申告だったりする。
猫は“リニス”だと名乗った。
*
今日はサッカーの試合だった。
女の子で参加しているのはあたしだけだったけど、あたしのライバルになれるヤツなどいなかった。
「くそっ、高町は女だぞ! 力負けしてんじゃねえっ!!」
「あははははっ、ショルダーアタック!」
「ぐわっ!?」
「ぐえっ!!」
「げぼっ!!」
あたしの華麗なショルダーアタックの前に、次々と吹き飛んでいく有象無象共。
ゴールまで一直線のあたしに立ちふさがる愚か者はもういないっ!!
「喰らえっ、タイガーショット!!」
ゴールキーパーを吹き飛ばしてゴールネットをも突き破ったボールに、ゴール後ろの観客達も大はしゃぎで逃げ惑っている。
キャアキャアと楽しそうで何よりだ!
ピィイイイイイイイイッーーーー!!!!
暫くしてからやっとゴールの笛がなった。遅すぎるぞ。いや、あたしが速すぎるのだろう!
「あははははっ!!今日は絶好調だよ!!」
応援してくれているアリサちゃんに大きく手を振るあたしに、何故か審判が寄ってくる。
なんだろう?
サインなら後にして欲しいな。
「ファウルッ!!」
レッドカードだった。
「どうしてボールを持ってる方がファウルになるのよ!?」
その後は、敵味方入り乱れた乱闘になった。
実に楽しい試合だった。
*
「あんたはバカなの?」
試合は没収試合となったが、打ち上げで『翠屋』で来ていた。
翠屋はあたしの実家でやってるケーキ屋さんの名前で、喫茶コーナーもあるから打ち上げにピッタリだった。
「違うよ、今日の審判がおかしかっただけだよ。普通はボールを持ってる方がぶつかってもファウルにならないもん!」
「相手選手を吹き飛ばしながらドリブルしてファウルにならない方がおかしいわよ!」
「そんな事言ったら、日向君は翼君に勝てないよ!?」
「日向君って誰よ!?」
アリサちゃんとはすっかり仲良くなって、こうして休日も付き合ってくれる。
残念ながらすずかちゃんとは少々距離があるみたいで、今日も用事があるからと断られてしまった。
やっぱり、すずかちゃんもアリサちゃんを狙っているのかな?
“ニャー”
あ、リニスがお店の方に来ちゃった。
「あら、あんたの家は猫派なの?」
アリサちゃんがリニスを抱き上げながら聞いてきた。
「ううん、特別に猫派ってわけじゃないよ。その子はたまたま拾っただけで、もし拾ったのが犬だったとしても飼ってたと思うよ」
「ふーん、そうなんだ。あ、この子は女の子なのね」
“フニャー!?”
アリサちゃんは大胆にもリニスの後ろ足を両手で掴むと、リニスの両足を拡げて確認した。
「あ、逃げられちゃったわ」
リニスはアリサちゃんの手から逃れると、大慌てでその場から逃げていった。
今夜はリニスから文句を言われる事を覚悟しながらアリサちゃんに疑問を投げかける。
「アリサちゃんは何派なの?」
わざわざ猫派なのかと聞くって事は、アリサちゃんには拘りがあるとみた。
「あたしは断然、犬派よ。犬はいいわよ、忠実だし、絶対にあたしを裏切らないもの!」
やっぱりアリサちゃんには拘りがあったみたいだね。
アリサちゃんは興奮しながら犬の良い所を捲し立てる。
あたしはそんなアリサちゃんの耳元に口を寄せると呟いた。
「あたしもアリサちゃんを絶対に裏切らないよ。アリサちゃんの為にアレを生やす魔法も研究中だもの」
「だから何を生やす気なのよ!?」
真っ赤になったアリサちゃんは可愛かった。
でも、イヌ耳よりネコ耳が好きです。