リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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プロットはありません。気の向くままに書いています。


3話「美少女トリオ」

あたしに二人の親友が出来た。

 

一人目は“アリサ・バニングス”

金髪で気の強い少女だ。前世の世界では気の強い女性が多かったから懐かしい感じがする。

 

二人目は“月村 すずか”

黒髪で吸血鬼の少女だ。夜の一族とかいうらしい。名前は大層だが能力は大した事はない。そう言ったら少しへこんでた。正直すぎるのは美徳にならないと気付かされた一件だった。

 

兎にも角にもあたし達は親友となり、小学校では美少女トリオとして名を馳せる事になる。

 

「二人とも家がお金持ちなんだ。よほど悪どい事を続けている家系って事ね。うん、気に入ったわ」

 

「今の言葉のどこに気に入ってる要素があったのよ!?」

 

「私の家は悪どい事はしていないわよ。アリサちゃん家は分かんないけど」

 

「あたしん家も悪い事なんかしてないわよっ!!」

 

二人とも随分と謙遜をする。

魑魅魍魎が跋扈すると噂される経済界で、財産を築くとなると並大抵の事ではないだろうに。

 

「大丈夫だよ。この世は勝てば官軍だからね」

 

「何が大丈夫なのよっ!?」

 

「うん、世界の真理ってヤツだね」

 

うんうん、すずかちゃんは分かっているみたいだね。

それに引き換えアリサちゃんは……このまま純粋に生きていってほしいな。

 

うんっ、アリサちゃん純粋培養計画を発動するのっ!!

 

あたしはすずかちゃんと視線を合わせると超高速アイコンタクトで計画を説明して、すずかちゃんの協力を取り付けた。

 

「ねえ、あんた達から不気味なオーラを感じるんだけど、あたしの気のせいよね?」

 

アリサちゃんが心細げに胸に手を当てて、あたし達に問うてくる。

 

その姿に今は亡きあたしの息…ゲフンゲフンが刺激された気がした。

 

「アリサちゃん大丈夫だよ。いつかきっとあたしは生やしてみせるからね」

 

「何をっ!?」

 

「二人は仲がいいよね。何だか妬けちゃうな」

 

あれ、すずかちゃんが疎外感を受けているのかな?

 

廃ビルでの一件で、すずかちゃんが吸血鬼と知ったあたしは、すずかちゃんをペットとして飼おうと思ったんだけど、アリサちゃんがドン引き顔で止めるから諦めたんだよね。

 

「すずかちゃんも生やしたいの?」

 

「だから何を!?」

 

「私はアリサちゃんに生えて欲しいかな?」

 

「あたしが何を生やすのよ!?」

 

うぬぬ、もしやすずかちゃんはライバルかも知れないわね。

 

まあいいわ。あたしは決して敵に背を向けたりはしないもの。

 

「アリサちゃんはあたしが守る!」

 

「あんたが一番危険なのよっ!!」

 

ぐぬぬ、何やら誤解があるみたいね。

 

アリサちゃんのご機嫌取りのために、バニングス家の敵対勢力を地上から物理的に消してこようかしら?

 

「久しぶりにそれも悪くないわね」

 

あたしの体の奥底に眠る強大な魔力が、出口を求めて蠢いているのが分かる。

 

「ククク、闘争本能は抑えられないというわけね」

 

自分の戦士としての本能が、女の子として転生してもなお顕在なことに安堵すると共に、死してなお戦いから逃れられぬ己の宿業に苦笑してしまう。

 

「フハハハハハッ、これが余の逃れられぬ運命というわけか!」

 

あたしは高笑いをするが、この闘争本能が決して満たされることがない事も理解していた。

 

この大魔王に匹敵する敵など、この世界に存在するわけがないからだ。

 

なーんて事を考えておけば、これがフラグってヤツになるんだよね。

えへへー、便利な世界になったよね!

 

「早く来い来い、あたしのライバル〜」

 

「また、なのはの頭の中がお花畑になってるわね」

 

「うん、平和な証拠だね」

 

「まあ、そうね。ところでどうしてあんたは手を繋いでくるのよ?」

 

「ふふ、親友同士が手を繋ぐのは世界の選択なのよ」

 

「…あんたの頭の中もお花畑なのね」

 

 

 

 

あたしの家はケーキ屋さんを営んでいる。

近隣でも有名な美味しいケーキ屋さんだよ。

 

昔は母が一人で切り盛りしていた。アホ父はフラフラと旅行ばかりしては怪我をして帰ってきていた。

 

ある時など生死に関わるような大怪我をして入院してしまい、流石のあたしもその鈍臭さに呆れ果ててしまった記憶がある。

 

その時は母が余りに悲しむものだから、ついホイミを唱えてしまった。

 

つまり大魔王であるあたしがホイミを唱えたという事は…

 

「今のはベホマズンではないわ……ホイミよ」

 

などとなってしまい、アホ父が入院していた病院が大騒動になってしまった。

まだ魔力に目覚めたばかりの頃で、制御が甘すぎたせいだ。本来ならベホマ程度の筈なのに。

 

ちなみに一部のオカルト紙では、奇跡の病院として取り上げられたらしい。

 

まあ、結局はその時の騒動に懲りたあたしは、アホ父に旅行趣味は止めて真面目に働くようにと諭したんだけど、アホ父は可愛い娘の言葉を聞こうとはしなかった。

まったく母のヒモのくせに生意気だ。

 

ムカついたから、何故か家にある道場で二人きりの時にボコボコにして上げた。

 

何だかチョコマカと動いていたけど、特別に大魔王の奥義で一蹴してやったら、次の日には“現役でやっていく自信が無くなった”とか言い出して、家のお店で働き出した。

 

ヒモの現役引退…イン◯になったのかな?

 

母はまだまだ若いのに大丈夫かな?

 

まあ現代は色々(子供用じゃないオモチャとかだね)と発達しているみたいだから大丈夫だよね!

 

などという話を、お店でケーキを食べながら親友二人にしていたら(勿論、魔法部分は二人にしか聞こえないように話した)真っ赤になった両親にこっ酷く叱られた。

 

 

どんな平和な世界でも、理不尽が無くなることは無いのだと思い知った一日だった。

 

 

 

 

「私が“アレ”と、お友達にならなきゃいけないの?」

 

廃ビルから戻ってきたと思った途端、お姉ちゃんから命令された。

 

そう“命令”だった。

 

夜の一族の上位者として私に命令をした。

お姉ちゃんがそんな事をするのは初めてだった。

それほどまでに“アレ”を警戒しているのだと思う。私もそれには同意する。

 

そもそも“アレ”に対する警戒度なら、その力を目の当たりにした私の方が、お姉ちゃんより上だろう。

 

最初に“アレ”が見せた火炎魔術は威力は凄まじかったけど、まだ理解は出来た。

だけど、その後の殺戮劇で見せた身体能力は理解の範疇を超えていたと言える。

 

人間を超える身体能力を誇る夜の一族である私が、その影すら捉えることが出来なかったのだ。

化け物という言葉すら生温いだろう。

 

“アレ”と敵対せずに友好関係を結ぼうとするお姉ちゃんの判断は正しいと思う。

 

私だって、お姉ちゃんの立場ならそうすると思う。

 

だけど、『私の立場ならお姉ちゃんは納得できるの? “アレ”とお友達になれと言われて?』そう、問いかける私の視線をソッと外したお姉ちゃんは、ワザとらしい口調で貧血をおこしたと言いながら、恭也さんに寄りかかりながら自室に戻っていった。

 

くそう、二人ともモゲてしまえ!

 

 

 

 

すずかの一族は“夜の一族”という、人間とは異なる進化を遂げた一族だと聞かされた。

人を超えた身体能力に、幾つかの特殊能力を持つらしい。

 

あたしはその事を秘密にする事を誓うか、それともその記憶を忘れるかを迫られた。

何でも記憶を失わせる術があるらしい。危険はないとの事だ。

 

あたしは迷わず選択した。

 

「うん、分かった。秘密にするね」

 

あたしの返事に『軽っ!?』とか言われたけど仕方ないと思う。

そんな“夜の一族”とかいう細かい話なんかより、あたしの頭の中は“なのは”の事でいっぱいだった。

 

確かに最初は怖かった。

 

いきなり火を放つし、口止めで消されそうになるし。

 

あ、そういえば口止めは“夜の一族”も同じよね。

 

あの子も“消す”とは言ったけど、あたしを“殺す”とは言わなかったわ。

 

それになんだかんだ言っても、あの子は顔も名前も知らないあたし達を助けに来てくれた。

 

あの子が来てくれなかったら(どう考えても時間的に恭也さん達の助けは間に合ってなかった)あたしは、あの下衆共に女の子として死ぬより酷い目に遭わされていただろう。

あの下衆共が消されたことは、自業自得だと思う。

 

助けに来てくれた恭也さんや忍さんには悪いけど、あたしにとっての恩人は“なのは”だけだ。

 

思い返してみても、やっぱり“なのは”は怖いけど、あたしが“夜の一族”に連れて行かれるときには心配してくれていた。

 

掛けてくれた言葉は、やっぱり怖い内容だったけど、そんな怖い世界が、この世には本当にあるんだって知った今のあたしには、“なのは”は凄く優しい女の子だと気付く事ができた。

 

「きっと“なのは”とは友達になれるわ」

 

 

あたしが小さく呟いた言葉に、すずかが今まで見た事もない愉快な顔になって驚いていた。

 

 

 

 

 




気の向くままって言ったもん!
あたしは悪くないもん!

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