リリカルの大冒険   作:銀の鈴

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平凡な日常です。


最終話「新たな季節へ」

フェイトちゃんのお母さんが、何も言わずに蒸発をしてから数週間が過ぎた。

 

フェイトのお母さんの名前はプレシア・テスタロッサ。

 

その名を聞いた瞬間、アリシアが飲んでいたジュースを吹き出した。

 

「わたしのお母さんもプレシアだよ!」

 

その偶然にフェイトとあたしも驚いたけど、なんだか運命のようなものを感じた。

 

アリシアは、お母さんの職場での事故の影響なのか分からないけど、記憶が所々欠けていた。

 

その中にはファミリーネームも含まれている。

 

「もし良かったら、アリシアもテスタロッサを名乗ってみない?」

 

フェイトちゃんのそんな提案も、同じ名前のお母さんを持つ親近感から発したのだろう。

 

数日後、ただのアリシアは“アリシア・テスタロッサ”になった。

 

自称で勝手に名乗っているだけだけど、あたし達に発表した時の、アリシアの嬉しそうな顔が印象的だった。

 

 

 

 

ある日、フェイトちゃんの使い魔であるアルフを紹介された。

 

最初に会った瞬間は、犬耳と尻尾をつけたコスプレ好きのお姉さんかと思ったが、フェイトちゃんが自分の魔力で作成した使い魔だという。

 

あたしはその言葉に、リニスが自分では使い魔を名乗っていた事を思い出した。

 

「リニス、ちょっといいかな」

 

「なんでしょう?」

 

“モシャス”

 

ドロン!

 

「えっ、人の姿に変化した!?」

 

リニスは猫耳、尻尾付きの綺麗なお姉さんに変化した。

 

「ふっふっふ、流石はあたしの使い魔だね、すごい美人さんだよ!」

 

この世界の使い魔というと、猫やフクロウなどの小動物をイメージしていたが、人型が主流らしいとフェイトちゃんに聞いた。

 

リニスが、使い魔業界で肩身の狭い思いをしないようにと、人型にしてみたら想像以上の美人になった。

 

モンスターばかりのあっちの世界とは、大違いだ。

 

「あの、これからはこの姿でいれば宜しいのですか?」

 

リニスが少し困った様子だった。

 

「何か問題があるの?」

 

にゃんこよりも人の姿の方が、生活しやすいと思うけど、何かあるのかな?

 

「あの、いきなり人の姿になると高町家の方達になんと言えば…」

 

なんだ、そんな事か。

 

「大丈夫だよ! 幻影をみせて、にゃんこのままだと誤魔化してもいいし、両親を説得して住み込みのお手伝いさんとして雇ってもいいよ」

 

「あのですね。それ以上の問題としまして…」

 

リニスは気まずそうに、ソッと指をさす。

 

その指が示す先に、ツーと視線を向けていくと、ブスッとした雰囲気のイタチが睨んでいた。

 

「僕も人の姿になりたいのに!」

 

イタチ耳と尻尾を持つ男の子。

 

うーん、別にいらないや。

 

“マヌーサ”(幻惑呪文)

 

「やったあ! 人間の姿になったぞ!」

 

イタチが幸せそうにしている。

 

とりあえず、カゴに入れて鍵をしておいた。

 

「あの、それでいいのですか?」

 

「じゃあ、リニスは年頃の男の子と一緒に暮らしたいの?」

 

リニスは、ハッと何かに気付いたように目を一瞬だけ見開くと、ニッコリと笑った。

 

「イタチはカゴの中で充分ですね」

 

高町家の女性達がスカート姿だと、イタチがよく近くにいる事を思い出したリニスは、そもそもイタチが少年だった事も思い出して、後でシめてやろうと決意したのだった。

 

 

 

 

今日は図書館に見聞を広めにやってきた。

 

あちらの世界の知識なら誰にも負けないけど、こちらの世界だとまだまだ知らないことが多い。

 

特に戦術関連などは、力押しが多かったあちらよりも、遥かに洗練されている。

 

知識が邪魔になることはないだろうと、暇さえあれば、こうして勉強を重ねている。

 

「も、もうちょっとや」

 

あたしが本を探していると、少し離れた場所で車椅子の少女が、高い位置の本を取ろうと手を伸ばしていた。

 

あたしは、その少女の頑張る姿に思わず言葉を漏らす。

 

「人間が足掻く姿は美しいよね」

 

あたしのように強い力を持たないのに、人は諦めずに足掻く。その姿を尊いと思うようになったのは、いつからだろう?

 

そんな事を思いながら、あたしは彼女の姿が見える位置にある喫茶スペースに移動すると、お茶しながら必死に足掻く彼女の姿を微笑みながら見学する。

 

「頑張れ、女の子。あたしが見ていてあげるよ」

 

10分近くも頑張った少女は、汗を流しながらも達成感で笑顔を見せていた。

 

「うんうん、頑張ったね。あたしがちゃんと見ていたからね」

 

あたしは深い満足感を得て、この日は帰路へとついた。

 

 

 

 

今日は炎天下だけど散歩をしていた。

 

炎天下といっても、魔法で身体の周囲の空気の温度を下げているから過ごしやすい季節と変わらない。

 

よく買い物をする駄菓子屋の近くまで来ると、見慣れない少女がいた。

 

その赤い髪の少女は、駄菓子屋のアイスを物欲しそうに見つめていた。

 

この炎天下でジーと見つめている女の子は、いつからここで立っているのだろう?

 

あたしは彼女が見つめている視線の先にあるアイスを手に取ると、店主に代金を支払う。

 

「店主さん、お釣りはいらないの」

 

「いつも通りピッタリだよ」

 

「うん、だからお釣りはいらないの」

 

店主とのいつものやり取りをした後、あたしは少女の近くに腰を下ろす。

 

少女の視線があたしの手元のアイスに集中する。

 

あたしは袋を破ると、冷たくて甘いアイスを舐める。

 

ぺろぺろ

 

ジーー!

 

ぺろぺろ

 

ジーーーー!!

 

ぺろぺろ

 

ジーーーーーーーー!!!!

 

炎天下のアイスは美味しいね。

 

あたしは食べ終わると、残った木の棒を近くにいた女の子に差し出す。

 

「捨てておいてね」

 

ムッとする女の子だったけど、あたしが差し出した木の棒に、何かが刻まれているのに気付くと一転して笑顔を浮かべる。

 

「もらっていいのか!?」

 

「二度は言わないよ」

 

「あ、ああ! ありがとなっ!!」

 

女の子は嬉しそうに木の棒を受け取ると、駄菓子屋に入っていった。

 

きっと捨てに行ったんだね。

 

あたしはアイスで暑さが和らいだから、そのまま散歩を続けた。

 

 

 

 

ふと見上げると、ギラギラ照りつける太陽が、新たな季節の到来を激しく自己主張していた。

 

 

 

 

 




突然ですが、今回で完結です。
気まぐれで書いていましたが、これ以上続けると気まぐれ以上に迷走しそうな予感がしたので、ジュエルシード編で完結とします。
短い間でしたが、読んでいただきありがとうございました。

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