素っ裸で、黒マントを羽織っている痴女がいた。
「いやぁああああっ!?」
すずかちゃんだった。
「どうして裸になるのよぉおおおおっ!!」
すずかちゃんが選んだマジックアイテム“ときめきトゥマント”
着用者の潜在能力を圧倒的に引き出した上で、狂気的にまで上昇させる黒マント。
ただし、なんちゃって吸血鬼が着用した場合に限り、着用者は裸になる。(裸のように見えるが、実際には魔力によって編まれたボディスーツ。もちろん、大事な所は見えません)その代わり、噛み付いた相手の姿に変化できる。
「すずかちゃん、裸じゃないから大丈夫だよ」
「え? あ、本当だ。裸みたいだけど違う……けど、体に密着してるから体のラインが丸分かりだよ!?」
「うんうん、あたしの設計通りだよ!」
「どうしてこんなもんを設計してんのよっ!!」
すずかちゃんの言葉に、あたしは少し昔の事を思い出す。
当時のあたしは金髪萌えだった。
日本人にありがちな、西洋コンプレックスの裏返しだったのかもしれない。
でも、あたしは出会ったのだ!
十数年前…いや、すでに数十年前のものになるだろうか。
ネットの海をサーファー気取りで渡っているときに出会った。
アニメのエンディングで、裸に黒マント一枚で踊る、黒髪の女の子の艶姿に!!
衝撃だった。
あたしは黒髪の女の子に魅了されたと言っても過言ではないだろう。
金髪美少女もいいけど、黒髪美少女もね!!という気持ちになった。
そう、裸に黒マント一枚……どう考えても痴女だった!!
即座に調べた。
その女の子は、吸血鬼と狼女のハーフという設定だった。
その能力は、噛み付いた相手の姿になれるというものだった。
「つまり、なんちゃって吸血鬼だったのよっ!!」
「……それで?」
あれ、すずかちゃんの目が冷たい?
あたしが言っている意味が通じていないのかな?
「だからっ、すずかちゃんと同じ、なんちゃって吸血鬼なんだよっ!!」
「……それで?」
あれれ、すずかちゃんの目が絶対零度だよ?
あたしの言葉の真意が伝わっていないのかな?
「あたしの親友もなんちゃって吸血鬼なら、裸に黒マントを再現してあげるのが友情の証だよね!!」
「……それで?」
すずかちゃんの後ろに鬼が見える? 目の錯覚かな?
ここはズバリと言った方がいいのかも?
「裸に黒マント、とっても似合っているよ!!」
「やかましいわぁあああああっ!!!!」
ドカーン!!
すずかちゃんの痛恨の一撃が、あたしに決まった!!
この大魔王の足を、一歩とはいえ下がらせただとっ!?
「恐るべしっ!! “江藤 蘭世”!!」
「誰よ、それは!?」
「ちなみに、黒マントの裏地は女の子っぽく赤色なんだよ。それとも吸血鬼っぽくと言うべきなのかな?」
「このクソアマがっ!! ンなことっ、誰も聞いてないわよ!!」
かつて、お淑やかな美少女と思われていた女の子がいた。
その女の子は、もういない。
「あんたのせいでしょうがぁああああっ!!!!」
*
ふわぁあ、今日もよく寝たなあ。
お腹の音で寝覚めた僕は、モゾモゾとご飯の器の所に移動する。
あれ、ご飯が入っていない?
もうっ、ご飯を入れ忘れるなんて、困ったご主人様だなあ。
僕はバンバンと、ご飯の器を叩いて催促をする。
“ごめんね、すぐにご飯を入れるからね”
忘れん坊のご主人様だけど、僕は心の広いフェレットだから許してあげる。
“はい、ご飯を入れたわよ。たっぷりお食べ、イタチ”
またご主人様が、僕のことをイタチと呼ぶ。
僕は下賤なイタチではなく、高貴なフェレットだというのに!
でも、僕はご主人様を許してあげる。
だってあれは、わざと言っているからだ。
僕の気を引きたくて言っているのだ。
つまり、ご主人様はツンデレなのだ。
ふふ、困ったご主人様だ。
今日は特別にご主人様のお膝に乗ってあげよう。
僕の毛皮も撫でさせてもあげよう。
たまにはサービスするのもいいだろう。
だって、僕の大事なご主人様なのだから。
「あのですね、ユーノ。あなた本物のフェレット化していませんか?」
「うわあっ!? そうだよ! 僕はフェレットじゃない! 僕は人間の魔導師なんだよっ!!」
「イタチ、うるさいわよ!」
「僕はイタチでもないんだぁああああっ!!!!」
やめて!?石を拾うの禁止したよね!ほ、ほら、イタチを撫でて落ち着こうね。いやっ!?ユーノ君ファンまで石を投げないで!!