「いらっしゃいませー!」
アリシアの元気な声が店内に響き渡る。
あたしが保護した少女は、順調に回復して今では幼稚園に通っている。
彼女を保護した後、あたしは両親を説得して家に住まわせる事にした。
両親の説得には苦労したけど(後遺症を残さないように洗脳するのは大変なの)今ではアリシアは実の妹のように懐いてくれている。
アリシアに事情を聞いてみれば、母親の職場に遊びに行ったときに爆発に巻き込まれてからの記憶はないらしい。
きっと爆発のドサクサに宇宙人に誘拐されたのだろう。
もしかしたらその爆発も宇宙人の仕業かもしれない。
あの宇宙人、やっぱあの時に消しておくべきだったのかもしれないね。
リニスとイタチには、アリシアの前では喋らないように言っておいた。
顔には出さないけど、きっとアリシアの心は傷付いている筈だから、余計なショックを与えたくない。
動物が喋るなんてアニメならともかく、現実なら怖いと感じる筈だ。
「別に働かなくていいんだよ?」
「えへへ、ケーキ屋さんで働くのは楽しいから、好きでやってるだけだよ」
アリシアは笑顔でそう答えるけど、やっぱり気を使っていると思う。
アリシアぐらいの年頃ならもっと遊びたいはずだ。
あたしが遊びに連れて行ってあげなきゃいけないよね!
「アリシア、明日はすずかちゃん家に行くからね」
「すずかさん…確かにゃんこがいっぱいいるお家だよね」
前に話した事を覚えているんだろう。なんて頭がいい子なんだろう。流石はあたしの妹だね!
「そうだよ、想像以上ににゃんこだらけだからきっとビックリするよ」
「ふわー、そんなににゃんこがいるんだ! うちのリニスも連れていけば友達が出来るかな?」
「うーん、どうだろうね。にゃんこは縄張りがある生き物だから、大人のリニスだとケンカになっちゃうかもだよ」
リニスは偶然にも、アリシアが飼っていた猫に瓜二つだそうだ。
しかも名前まで一緒だから、アリシアは物凄くリニスを可愛がっている。
イタチの方はと言うと、なぜかリニスがアリシアに近付けさせない。
一度、アリシアがお風呂に連れて入った時は、嚙み殺す一歩手前まで怒ってた。
っていうか、アレはあたしが回復させてあげなかったら普通に死んでたよね。
それ以来、イタチはアリシアに近付かなくなっちゃった。まあ、気持ちは分かるよね。
「じゃあ、代わりにユーノを連れていってもいい?」
「ユーノ……誰だっけ?」
「もう、何を言ってるの、お姉ちゃんのペットのユーノだよ」
その言葉でやっと思い出す。イタチの事だ。
「うん、いいんじゃないかな(別ににゃんこのオモチャになってもいいしね)」
「えへへ、明日が楽しみだなぁ」
アリシアの楽しそうな笑顔に癒される高町一家。
やっぱり、子供の笑顔が一番だね!
*
「あの、アリシアの事なのですが」
またリニスの妄想癖が始まった。
アリシアを連れて帰ったあと、リニスに状況を説明したら、直ぐにアリシアが目覚めた。
咄嗟にリニスとイタチには暫く黙っていてね。と頼んだまま、色々と忙しくなってしまい数日間も経ってしまった。
気がついた時には、リニスとイタチの妄想癖が爆発していた。
*
何でも、リニスとイタチはナントカという魔法が発達した世界の住人で、リニスはなんとアリシアの母のペットだったらしい。
ある日、アリシアが母親の職場での事故に巻き込まれた時にリニスも命を落としたけど、母親の使い魔になる事で生き返ったという。
でも、母親は愛娘を失った悲しみに耐えられずに禁忌の魔術に手を出して、娘のコピーを作ってしまう。
だけど、その子はアリシアとは姿形はそっくりでも性格はまるで違ったそうだ。
母親はその子を娘とは思えなくて、今度は亡くなった娘を生き返らせる研究を始めた。
リニスはその子の教育係をしていたけど、その子がある程度成長したら、母親から使い魔の契約を破棄されて、地球に捨てられたそうだ。
そして、捨てられた先の地球であたしに運良く拾われて、あたしが偶然生き返らせたアリシアと再会した。
めでたしめでたし。
「ハッピーエンドだね。良かったね。ぱちぱちぱちー」
「信用していませんね。なのは」
「ギクッ!? そ、そんな事ないよ?」
「では、証拠を見せましょう」
リニスは自信満々にそう言うと、イタチに目を向けた。
「ユーノは使い魔ではなく、魔導師です。魔力の消費を抑えるために今の姿になっているのですよ」
「うん、最初は怪我の回復の為に魔力を回していたけど、なのはに治して貰ったからその必要が無くなったんだよ」
「じゃあ、なんでイタチのままなの?」
「うっ!? そ、それは何故かなのはに助けてもらってから元の姿に戻ろうとしても戻れないんだよ!」
しまった。
妄想の矛盾点を突く事は、相手を追い詰めるからしちゃいけないんだった。
はぁ、飼い主は大変だよ。
「うっ、そうでした。申し訳ありません。恐らくユーノは大怪我を負った後遺症で何らかの不具合が発生していると思います。元の世界の病院で診てもらう必要があるでしょうね」
うまい!
リニスが設定を上手く作り出したよ。これでイタチが人間になれなくても矛盾はないよね。
「では、私が人間の姿になりましょう。ですが、今の私はなのはの使い魔なので、なのはの命令がなければ人化は出来ません。命令を頂けますか?」
なにっ!?
人化できる設定をそのままにして、その為にはあたしの命令がいる事にされた!?
ここで、あたしが命令を出したら、リニスが人化出来ない事が分かって話は終われるけど、そんな事になれば重度の厨二病の二匹は精神的にどうなるか分からないよね?
「……その命令は出せないわ」
「何故ですか!? これで私が言っている事が真実だと証明されるのですよ!」
リニスが驚愕の表情でそんな事を言ってくる。
隣でイタチもウンウンと頷いていてムカつく。
「……リ、リニスの過去がどうであれ、あたしはリニスが大好きだし、アリシアの事も大好きだからだよ」
あたしはコッソリと足をつねって涙を浮かべる。
「なのはっ!?」
「リニスとアリシアの過去がどんなものだったとしても、あたしの想いは変わらないよ。あたしは二人の事が大好き。そして、全力で二人の事を守ってみせる」
涙が頬を伝う感覚を感じながら、あたしは必至に考えながら話す。
「あたしは二人の過去を知ろうと思わない。過去はどうであれ、リニスはリニスだし、アリシアはアリシアだよ。もちろん、二人が過去の事であたしの力が必要なら幾らでも力は貸すよ。でも、あたしにとってのリニスは使い魔なんかじゃない。あたしの大切な家族のリニスなんだよ。家族に命令なんか絶対にしないよ」
「なのは…あなたはそこまで私の事を想ってくれていたのですね」
「あの、僕の事は?」
「当たり前だよ。だって、あたし達は家族だよね」
あたしはリニスを優しく抱きしめる。
「はい、ありがとうございます。私はこれで過去を忘れる事が出来そうです」
「えーと、僕は?」
「忘れなくてもいいよ。あたしはリニスの過去なんて気にしないけど、リニスにとっては大事な思い出でしょう? それを忘れる必要はないよ。思い出は胸に留めて置いて、たまに大事だった人の事を思い出してあげてね」
「な、なのはっ!」
リニスはあたしの胸の中で、声を出さずに泣いた。
「だから、僕は?」
「男の子は一人で頑張ってね」
「男女差別だ!?」
「うふふ、差別じゃないよ、区別だよ」
「そんないい笑顔で言う言葉じゃないよね!?」
*
こうしてリニス自身の設定はクリア出来たけど、次はアリシアの設定の番だった。
「アリシアの母親は生きています。なのはが出会ったという、黒衣の魔女がアリシアの母親であるプレシアなのです」
アリシアから母親の事は聞いている。名前は確かにプレシアだけど、その話はリニスも聞いていたから知っていて当然だね。
「私は二人を再会させてあげたい」
うん、本当に親子ならあたしだって、会わせてあげたいよ。
でも、アリシアから聞いた話ではプレシアは、優しくて料理上手で明るくて、冗談も好きな素敵な女性との事だ。
とてもじゃないけど、あの黒衣の魔女とは別人だよ。
「そうだね。もう少しアリシアが落ち着いたら、あたしが話をしに行ってみるね」
「お願いしますね、なのは」
「うん、任せておいて」
よしっ、行ってみたら居なくなってた事にしよう!!
「ところで、リニスはすずかちゃん家に行ってみたい? にゃんこ友達が出来るかもだよ?」
念のため、聞いておこう。
「いえ、遠慮します。猫は気まぐれなので仲良くできるとは思えません」
「そっか、じゃあ明日はイタチだけだね」
「いや、僕も猫の群れの中には入りたくないよ!?」
「リニスは、お留守番をよろしくね」
「はい、なのはとアリシアは楽しんで来て下さいね」
「ねえっ!? 僕の話を聞いてる!?」
さてと、今日は早く寝て明日に備えなくちゃね!
「僕も行きたくないんだけどーっ!!」
本編では説明する機会がないかもだからここで説明するね。
イタチが元の姿に戻れないのは、なのはがモシャスをかけてイタチの姿にしているからだよ。
5話参照だね!
なのはは、そんな瑣末な事は完全に忘れているし、本来なら制限時間のあるモシャスだけど、大魔王の魔力のお陰でイタチの寿命分ぐらい余裕で持つから安心だよ!
イタチライフを満喫できるね!