鬼子   作:なんばノア

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file3.誓い

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「ぎゃはははは!!ウケるー!」

深夜の公園、人が立ち入ることのなくなった時間帯のそこは不良少年達の溜まり場と化していた。

「でさー、そいつがよー」

「おい、アレ見ろよ」

少年の1人が何かに気づき、他の仲間達にソレを促す。少年達の視線の先には、髪を膝まで伸ばした黒い髪の外国人女性が居た。

「うっひょー!めちゃくちゃ美人じゃね!?」

「おい、ちょっと声かけよーぜっ」

少年達5人が揃って、公園の外を歩いている女性の下へと走っていった。少年の1人が進行方向を塞ぐ形で女性を呼び止めた。

「おねーさんっ!うおっ、間近で見るとホントにちょー美人じゃん!」

「ちょっとさぁー、俺達と楽しい事しなーい?」

「ーーーはぁ」

女性は軽く溜息を漏らし正面の男へ、

「んんん、!?」

正面の男へ突然、接吻を行った。

「おおお!?めちゃくちゃやる気バッチシじゃん!」

周りの男達は興奮してか女性の熱い接吻を囃し立てた。が、

「ん、んん・・・、・・・・・・」

あまりに長い接吻、次第に相手の男は声すら上げなくなった。否、それどころか体は青白く冷めてゆき、生気と言う物が感じられぬほど弱々しい反応へと変わっていった。

「お、おい。どうした?声も出ないほど気持ちイイのかよっ...!?」

更に時間は経過しようとも女は男を離さず、ただ男の唇にひたすら夢中に貪りつく、みるみる男は頭も体も真っ白になっていった。

「お、おいっ!そろそろ・・・」

仲間のひとりが女を男から無理やり引き剥がす、がそれは既に遅し。

「ーーーひっ、!」

男はピクリとも動かず、全身の力が抜け文字通り地面に崩れ落ちた。

「お、おいっ!コイツに何しやがっ・・・」

女の口元は不気味なまでに歪んでおり、異様なほどの赤一色。まるで、吸血鬼のソレを彷彿とさせた。

「きゅ、吸血・・・鬼?」

「ーーーあなた達もすぐにイかせてあげるわ」

 

 

 

 

 

■■

 

 

 

 

7月 21日

 

 

PM 23:20

 

 

 

 

 

お父さん、お母さん、おじいちゃん、先生、私を教育してきて下さった全ての皆様、ごめんなさい。私は、不良になってしまいました。

「ん、どうしたの?なんで泣いてるのさ」

「アンタのせいでしょう!」

そう、それもこれも全てコイツ、居候吸血鬼ブラハム・レコッツのせいなのです。

私、南香桜は健全な女子高校生のはずだった、少なくとも今までは。ーーー実際私は今でもそうであって欲しいと心の隅で願っている。さっきの話を聞くまでは、そんな事は考えたこともなかった。

 

「君は異能者だ」

その、異能者って言うのがどんなものかは正直ちゃんと理解していないと自分でも自覚してる。話が難しいし、簡単な話超能力者やそんな類の事だろう。

「さーて、どこから見回ろうか?」

「どこでも良いから、とにかく早く終わらせましょう」

「え?最低でも3時までは見回るよ?死徒は昼に活動出来ないんだから、夜念入りに探すに決まってるじゃないか?」

「へ??」

ちょっと待って今なんて言った?コイツ、ふざけてるの?

「カオも夏休みなんだし、別にいいでしょ?」

「言い訳ないわよ!!馬ッ鹿じゃないの!?私は高校生なの!?高校生がこんな時間に彷徨いてていい訳ないでしょう!警察の人に捕まっちゃうっての!だいたいアンタは常識もろくに理解してないで、私を振り回してばかり!もう少し考えて発言と行動しなさい!!!」

と、ブラハムに溜まっていた不満を盛大にぶつけたその瞬間。

「ーーー誰に捕まるって?お嬢ちゃん」

 

後ろを振り向くとお決まりの、巨漢で青い制服を着た二人組のお巡りさんが立っていた。

ーーー最悪、終わった。私の高校生活。

「いや、あのーーー」

「お嬢ちゃん何歳?高校どこ通ってるの?それと、今何時かわかってる?」

「高校生がこんな時間に夜出歩いちゃダメだよね?」

「あ、ハイ・・・。そうです、よね。ハイ、ダメですわかってます。スミマセン」

「じゃあ、ちょっとお嬢ちゃん。最寄りの署まで来てもらうよ?」

私が諦め警察にお縄を頂戴されかかったその瞬間ーーー。

「あの、すみません。お兄さん方」

「「ハイ?」」

ブラハムがお巡りさんの2人を呼び止めた。

そしてそのまま2人の顔を見つめはじめた。

 

「ーーーー」

 

数秒見つめ続けると警官の目つき先程までの恐いものではなくなった。何故か、ボーっとしたやる気も何もかもどうしようもなくない様な目つきになった。

「ーーーはい、結構です」

「それでは我々は見回りに戻りますので」

「はーい、お気をつけて〜」

あろうことか警官は、ブラハムと目を合わせただけで何も無かったかの如く見回りに戻りだした。まるで全てを忘れたかのように。

「な、なによ、今の」

「あぁ、コレだよコレ」

そういいながら人差し指で顳顬付近をトントンとつついた。

「ーーー何よそれ、目?」

「うん、魔眼(マガン)と言ってね。見るだけで対象に魔術をかけれる代物で、僕の能力の一つさ。今使ったのは『魅了』、相手と視線を合わせて自分の思いのままに行動を操作することが出来るさ。もちろん短時間だけだけどね」

「ーーーそう」

それでさっきの警官達は何事も無かったかのように帰っていったのか。

「まぁ、どうでもいいわ」

まぁ、私が言っているのは深夜徘徊という行為そのものが良くないということなのだが、コイツに何を言っても無駄だろうな。ーーーはぁ、どうしようもなく腹が立つ。

「よし、それじゃあ 見回りを続けようか」

 

 

 

 

 

□□

 

 

 

 

 

ブラハムに先導され街のありとあらゆる所を見回ることはや2時間と半、歩き疲れて近くの公園で少し休憩しようと提案をした。

それにしても足がへろへろで呼吸もぎこちなく、どれだけ私が運動不足かというのがわかる。情けない、本当に情けない。ブラハムを見ると彼は全然元気そうで、疲れているのは私だけ。あぁ、本当に情けない。

「ーーーハァ、ハァ・・・」

「ごめんごめん、初日からとばしすぎたかな。カオの体力も少し考慮すべきだったね。これ、飲んで」

そう言い彼はミネラルウォーターの入ったペットボトルを差し出した。

私はそれを無言で受け取って、如何にも不機嫌そうな態度で不躾に封を開けた。

「ほんとにごめんね?」

「ーー何が?」

「カオのことも考えず連れ回したことさ」

私の事はどうでもいい、アンタが考えるべきことじゃない。

「ーーいいわよ、別に」

「キミは普通の女のコとして過ごしてきたんだ、キミのペース配分に合わせるべきだった」

何それ、私の情けない姿を見て同情でもしているの?

「過ぎた事は、もういいわ」

「いや、ーーーでも。ごめん、僕は謝ることしか出来ない、キミの言う通り過ぎた事だ。過去は誰にも変えられない、神様にだって なかった事には出来ない。コレはキミに無理をさせた僕の責任だ、ごめん」

 

やめて、謝らないで。こんな情けない姿、アンタなんかに心配されなくても大丈夫なのよ。だから、そんな目で私を見ないで。

彼が私を見る目は本当に、本当に真っ直ぐで、心の底から私を心配しているような眼差しだった。けど、そんな目で見て欲しくはなかった。

「ーーーいい・・・の、!」

歯を食いしばり、力いっぱい噛み締めてなくちゃ涙がこぼれそうだった。泣く姿なんて絶対に見られたくない。

「でも」

「いいって言ってるでしょ!!うるさい!そんな目で見るな!あっちへ行ってっ!!」

私は思いっきりペットボトルをブラハムに投げつけた。

我慢出来なかった、見られたくない泣き顔を盛大に晒してまで、大粒の涙を流しながらブラハムに訴えかけた。

「ーーー」

「ーーー新しい飲み物買ってくるね?」

彼は笑って、そう言い公園から姿を消した。

わかっている。私が悪い。逆上だって事も、彼が私を心配してくれねただけだという事も。

わかっている。昔から負けず嫌いとはよく言われた。けれどそれは見当違い、負けなら負けと私は潔く認める、けれど、弱い自分を見られ同情されるのだけは絶対にされたくない。

昔、私をいじめから守ってくれた先輩がいたが、その人の事も最初は大嫌いだった。意地っ張りなのは百も承知、しかし、それほどまでに私は情けない私と私を見るその目が嫌いだ。

わかっている。アイツは吸血鬼で私は人間。比べるべき対象ではないということくらいわかっている。けれど、何故かアイツの顔が頭の中をちらつく。アイツが心の内では私のこんな情けない姿を見て笑っているのでは無いかと、そんな不安や恐怖観念に襲われる。馬鹿げた事だというのはわかっている、わかってはいるのに、どうにも出来ない自分とあんな眼差しに心の底から怒りを覚える。

 

自分の弱さを人に見せたくない、そのために、そうならないために私は完璧であろうと心がけた。学校でも、私生活でも、自分の弱さを悟られないように、見せないように過ごしてきた。

「ーーーほんとに、どうしようもなく腹が立つ」

 

ーーーゾロゾロ、ゾロゾロと近くで何かが蠢くとても不快な音が耳を掠めた、正面を向くと先程まで無人だった公園に大勢の人間が入ってきていた。

「ーーー何これ」

彼らは全員揃って男で、機械的な動きを繰り返しながらこちらに近づいて来るだけの奇妙な連中だった。その目にはまるで生気が無く、生きているというよりは人形のようなぎこちなさがあった。

ーーーいや、1人だけ違う人間が混じっていた。機械的な男達の中央、膝下まで長く伸びた黒い髪を風になびかせながら歩く外国人の女性。

明らかだった、この人たちはおかしい。この集団が異様なのは明白、すぐさまここから立ち去ろうと思った・・・が

「ーーー、?」

体が動かなかった。否、体だけではない声すらも出せぬ程に、体が何かに縛られているような感覚に陥った。人形じみた男達は私を取り囲み、座っているベンチに押さえつけた。

「こんばんは、お嬢さん。貴女みたいな可愛い娘に出逢えるなんて今夜はいい夜ね」

一瞬でわかった、この女は人間じゃない。そして、周りの男達も。

「あ、あなた・・・何、者ですか・・・」

ようやく声をあげることができた・・・が、私の問に女はクスクスと微笑をこぼし。

「私はルー=ミネルバ・アルファセリヌ、吸血鬼よ」

・・・吸血鬼、!?ブラハムが追っていた吸血鬼がこの女性、なら後ろの男達は・・・

「えぇ、彼らは私の下僕。死者(グール)よ」

やっぱり、・・・え、ちょっと待って。今、なんでこの人、私の考えている事がわかったの・・・?

「ーーーーふふふ・・・」

女は私の表情を察してか、再び不気味な微笑みをあげ私の顎を手でクイっと引いた。

「これが、私の能力。ーーー私にはね他人の感情や考えが手に取るようにわかるの、あなたのその震えて声も出ないような怯えた心、・・・・・ああっ素敵・・・あなた、とっても素敵よ・・・」

怖かった、女の喋っている内容は的確だった。震えていた、怯えていた、どうしようもない恐怖感と絶望に苛まれていた。それほどまでに目の前の、普通にどこにでも暮らしていそうな美人な女性に対し、全身が泣き叫ぶほど悲鳴を上げていた。

「どうしてしまおうかしら、私のコレクションに加えてあげましょうか・・・それとも、」

「このまま此処で殺してあげましょうか?」

全身の毛穴という毛穴が震え、鳥肌が走った。今の女の言葉には殺意の他には何も感じられなかった。そんな私の怖がる表情を覗いては再び気持ちが良さそうに笑う彼女、本当に性格が悪い。

「ふふっ、決めたわ。一度死者にして、私のコレクションに加えてあげるわ・・・喜びなさいな、可愛いお嬢さん」

 

彼女は更に私の顎を引き、私の口にその唇を重ねようと顔を近づけた。

死ぬのは嫌だった、けど、どうしようもなかった。こうして血を吸われるのは2度目か、そう思いながら潔く死を受け入れかけたその瞬間、

 

―――――――カオ・・・!

 

私の名前を呼ぶ声と共に、アイツの顔が脳表に浮かんだーーー。

 

 

 

ドドドドドドン!!と周囲で大きな音が音色のように縦続きに鳴った、音に反応して周りを見渡すと砂埃が漂い、同時に鉄臭い何かが鼻をかすめた。目の前にはさっきの女性がおらず、遠くは何も見えないため下を見下ろした。すると、私を押さえつけていた男達が全員地面へ何やら長い針の様な物で串刺しにされていたのだ。

「ーーーうっ・・・」

吐き気がした、昨日も同じような光景を見た。この場所で、

そして、ようやく近くはハッキリと視覚できるくらいに砂埃が晴れたその時、何故か途轍もない安心感を身に纏った男が目の前に立っていた。

「ーーーブラ、ハム・・・」

そいつの名前を口にするーーー

振り返る、彼の口元は何故か微笑んでいて、私の名前を呼んでくれた。

「ーーーカオ」

目から自然に涙が零れ落ちた。意識していない、いや、無意識だからこそ自然に零れ落ちたのだ。瞳から頬を伝うそれは地面に落ちて、ようやく私は正気に戻った。

「ブラハム・・・何で・・・」

 

何故、戻ってきてくれたの。と問いかけようとしたが、ブラハムにソレを遮られる。

「ーーー誓ったからね」

「僕は、君の下僕になると、誓ったからね」

そういい、彼は私にいつもの清々しい笑顔を振りかざした。私の先程の傍若無人なまでの振る舞いを彼は忘れたかのように、いや、忘れてはいない絶対に。彼は、忘れたのではない。

彼はーーー。

 

グシャアッ!!ーーーーとなんとも表現し難い不快な音が公園に響く。

 

「やってくれたわねぇ、あなた」

彼女は下僕の男の1人の頭を握り潰したのだ

「私の娯楽の邪魔をするなんて、良い度胸ねぇ」

私の方を向いていたブラハムが、彼女の方へ振り向く。驚いた、あのいつもヘラヘラとしていたブラハムの表情が、これでもかと言う程張り詰め、殺意に満ちていたのだ。

 

「貴様こそ、僕の主にこのような所行を働いて、良い度胸だ」

「あら、何?アナタ、死にたいの?」

「それはコチラの台詞だ、死にたがりが吐くような物ではない。殺されたいのなら、希望通りにしてあげるけど。」

 

ーーーーーーーー・・・・・・。

 

数秒の沈黙が続き女が再び不気味な微笑みをこぼした。

「カオ、物陰まで下がっていて」

「う、うん」

私が後退したと共に、彼らの戦闘は開始した。

ブラハムが物凄い勢いで、女の方へと一直線に地を駆けながら近づく。が、女は余裕な態度で下僕の男を5人を自分の手前に配置させ、それでブラハムを迎え撃つ。

男の1人がブラハムに飛びかかるが、難なく躱しては体制を戻す勢いを利用して手刀のような物で首を両断してみせた。

「ーーーえ!?」

首を切られた男が、未だ動いているのだ。頭と体が分かたれたにも関わらず、その体はまだピンピン動いている、おかしいだろう。なにより気味が悪い

「ちっ」

ブラハムは地を蹴り、空中高くへ跳んだ。

一瞬で懐から長い刃物を取り出し、それで男5人を分け隔てなく串刺しにしてみせた。

「ーーーブラハム、なんであの人首を切られても生きているの・・・?」

「死者は、もう既に死んだ人間なんだ。彼らには痛覚がなければ意思もない。脳髄は既に溶け、魂が体から離れた後、彼らは自由意志のない奴隷になるんだ。それがグール、リビングデッドと呼ばれる死者さ」

女は自分の手下が一瞬で長針の餌食にされた事で、少しばかり焦る表情を浮かべるが、更にさっきの3倍の数の奴隷を前に差し出した。

「数に頼りっきりの戦法はいずれ、自分の身を滅ぼすぞ」

そう吐き捨て、彼女の手下を尽く針のような刃物で串刺しにし、打ち消していった。

「な、何故・・・」

女は目の前の状況に困惑している。自分の選りすぐりの兵隊たちが、一瞬で消されていくのだそれは、当然の反応であろう。

「何故、・・・何故!?アナタ程度の吸血鬼に私の下僕共がぁぁぁあっ!!!」

女は逆上し、ブラハムに向かって猛突進を仕掛けてきた。

「終わりだ」

ブラハムが女を目掛けて針を2本狙い撃つ。が、女はソレをいとも容易く掴みソレを利用してブラハムに斬りかかった。

「ーー何っ!?」

それを防ごうと同じく針で防御の体制をとっる。

「残念ねぇ、私にはあなたの考えが手に取るようにわかるのよ」

「なるほど、魔眼か。おそらく、目が合った状態の相手の心理を理解する能力か」

「そうよ、だからあなたは私に攻撃を当てる事は出来ない!!」

互いに同じ得物をぶつけ合い、火花を散らす。そして、ブラハムは目を閉じた。

「なるほどね、確かに目を瞑れば考えを読む事はできないわ、けれど敵の目の前で視界を塞ぐなんて愚策では無くって?」

「あぁ、その通りだよ。本来ならそんな真似は絶対にしないんだがね、でももう決着がつく」

そう言うとブラハムが手に持っていた得物がスっと消えた。そのため、女の持っていた得物がブラハムに斬りつけられようとしたその時、ブラハムが力いっぱい眼を見開く。

ーーーすると、女は身動き一つ取れず、ブラハムに斬りかかるギリギリの状態で硬着していた。

「あ、アナタ、・・・何を」

「束縛の魔眼、君と同じく対象と視界を合わせて成立する魔術。僕の数ある魔眼の一つ」

その一言を聞いて女は目の色を変えた。

「数ある魔眼!?あなた、その身に幾つもの魔眼を有しているとでも言うの!?」

「あぁ、僕はね血を吸った相手の能力をコピーする事が出来るんだよ。だから、複数の魔眼の持ち主の血を吸えば、複数の魔眼を有する事が可能、function collect(異能採取)。これが僕の能力だ。」

「お、おのれぇぇぇええええっ!!!」

女が雄叫びを上げると共にブラハムは首を切断し、頭部を粉々にを踏み潰した。更には体を塵になるまでバラバラに捌いていった。

 

正直に言ってその時の彼の顔は、とても怖かった。

まるで、まるで本物の殺人鬼のように、簡単に人を殺していく。本当に作業の様に、コイツは私の味方で、人間の味方なんだという事はわかっている。それでも、同じ人の形をした、もう死んでいるとわかっているにせよ、人間をあんなに簡単に殺せるものなのか。

「ブラハム・・・あなた、なんで戻ってきてくれたの・・・・・」

「何でって、僕は飲み物を新しい買いに行ってくるって言ったじゃないか。ほら、新しいミネラルウォーター」

「私はあなたの好意を無下にして、とても酷く当たってしまった。それは、何とも思ってないってこと?」

ブラハムを見上げると、彼は強い表情で私の顔を見下ろしていた。

「それは違う、あの時だって僕は悲しかったさ。なんでカオは怒っているのか、何故泣いているのかが、まるでわからなかった。―――これは、ある人の受け売りなんだけどね

人は喜ぶ時も、怒る時も、哀しむ時も、楽しむ時も、必ず理由が存在する。それを、その人と一緒に理解し合える時が来たなら」

「それは深い絆になるのだーーー。ってね、」

あぁ、やっぱり。彼はやはり、忘れていた訳ではない。彼は、

「だから僕は考えてたんだ、カオがなんで怒ったのかなぁーって。カオが理由もなく怒ったり、泣いたりしないって事はわかってるから。まぁ、結局わからないままなんだけどね。」

彼は、ずっと悩んでいただけなのだ。私の怒った理由、泣いていた理由、それを真剣に悩んでいただけなのだ。それでも、まだわからないなんて・・・

「ーーーなんて、バカ・・・・・」

「えぇ〜・・・」

 

柄にもなく笑ってしまった。自分でも、どうしようもないくらいにおかしな気分だ。

コイツも私を理解しようと努力しているのだ、私もーーー

私のどうしようもないこの性格を、直してみようかと、ーーーそんな事さえ考えてしまえる程に。

 

 

 

 

 

 

□□

 

 

 

 

ーーー先刻、

PM 20:25

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

暗い路地裏に1人の男が息を切らしながら腰を掛けている。

「なんだって、こんな街に・・・しかも、よりによってこんな時に、あんな化け物が・・・」

「ひでぇな、おい。化け物だなんて、自分の面ァ鏡で見た事あんのか?」

 

大通りと路地裏の境、ちょうど光が差し込むその入口に金髪の少年が仁王立ちをしていた。

「ひぃぃぃっ!?!」

差し込む光がバックライトの如く少年を照らし、より男を恐怖させた。

「まぁもっとも、お前ら吸血鬼は鏡に映らねえもんな姿が。なら仕方ねぇよ、自分が正真正銘の化け物だなんて、そりゃ気付かねぇわけだよ」

「ふ、ふざけるなぁっ!!この化け物めっ!!」

少年は男の方へ、コツコツ・・・コツコツと少しずつ歩みを進める。

「残りの兄弟はどこだ?お前みたいな塵等しい屑がよくもここまで生き延びてたものだ。言え、残りの兄弟はどこだ?言えば楽に殺してやるよ」

「やかましい!教会の異端め!!貴様ら如きに我らが悲願を邪魔されてたまるか!!!」

「―――あっそ、」

少年は男の言葉を聞いて、数秒の沈黙を置き、そして構えを解いた。

「フウヤ、あと任す」

「―――承知」

音もなく現れたソレは、腰を付いていた男を反応する間も喋る間も与えず、悲鳴を上げることすらさせず塵芥、木端微塵へと刻み変えていった。

「ルー=バルトルケ・ゴーマン討伐完了。これで、「ルー」の名を持つ子死徒の討伐数は10人目。残りは2つか。」

「はい、幸いながらどちらもこの街に潜伏している模様です。」

「はぁー、めんどくせぇなぁ。こんな仕事早く終わらせて休暇を頂きたいものなんだがねぇ。」

「それは私に書類仕事等諸々を私に押し付けてですか?」

「え?そうだけど、」

「先輩は一度地獄へ落ちて下さい。」

 

 

 

 


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