テオルバスは確かに唱えた。
死徒ブラハムの死力を尽くした作戦。固有結界展開の完全否定を。そして、それは樹立されてしまった。
刹那の間のみその姿を顕現した向日葵畑。
ブラハムは、死を覚悟して最後の手段に出た。失敗すれば必死。それは必然であり当然である。それを噛み締めるように、
目を見開くとそこは元の空き地。
なんの変哲もない。頭上にあるべき太陽はなく、当然として我々を見下ろすは月星のみ。
「な―――」
絶句、とはこのこと。言葉は出ない。感想は見当たらない。感情と言えば、理解出来ない、のその一つ。
何が起きた。
全くの理解不能だ。僕は確かに固有結界を発動した。
何故だ。何故心象世界が広がっていない。
世界を塗り潰す大禁術が効果を成さない。
異世界風景の侵食。当然のようにそれは拒否された。
拒否、されたのだ。
「な、何故だ・・・・・・有り得ない。固有結界は確かに展開された。―――しかし、瞬く間に結界は消え去り。心象風景の欠片もなくなっている」
ブラハムは理解出来ていなかった。この度し難い現象を。いや、コレを最早現象などと片付ける事すらままならなかった。
こんな芸当可能はずは無いのだが。元凶が居るとするなら決まっている。
「―――何をした?」
テオルバス・レムドール。この場において、こいつの他に人間は居ないのだから。
「あぁ。消した」
消した。か、それはそうだろう。実際に心象世界は跡形もなく消えているのだから。だが、その一言では片付けさせない。
「有り得ない。世界からの修正か、
固有結界とは。世界の確率に繋がり、自然を思うがままに変貌させる“
またの名を“リアリティ・マーブル”。現実を術者の心象風景によって侵食し、世界そのものを塗り潰す大魔術である。
だが、現実世界を塗り潰すと言うことは、世界その物に対する異物を世界に上塗りする事に他ならない。
現実世界から言わせてみれば、術者の心象世界など、自身の身体に出来たただの“染み”。だってそうだろう。本来“A”である場所に“B”の存在を容認するのだ。それは、世界にとっての異物であり、同時に矛盾なのだ。
世界はその矛盾を容認したりはしない。その為、世界そのものからの修正が働く。
これらの事から分かるように、固有結界の維持にはとてつもない魔力量が伴われる。非常に優れた魔術師ですら分単位。祖の吸血鬼ですら、どれだけ贔屓しても数時間単位が限界なのだ。
ブラハムの場合は数10分と言ったところ。だが、先程の消滅は秒単位でのものであった。つまり、世界からの修正では無い何かによる何かであるという事だ。
「だから、消したんだって。上塗りでもなく、修正でもねえ。
「―――は?」
なんと言ったこの男は?僕が展開した?瞬間?馬鹿な。それは時空そのものの消滅を意味しているのか!?有り得ない。そんな事は無理だ。魔法使いでもない奴にそんな能力は無い。だが説明がつかないのも事実。一体どういう事なんだ・・・!?
「訳の分からない事を言うな。正直に何をしたか言えよ」
「だから言っただろう?お前の固有結界が発動された瞬間。つまり、心象世界の侵食と言う
それでも、ブラハムには理解が出来ないでいた。確定された事象の否定とは、言わば過去の改変である。過去を改変するためには、その根源となる現象の改変から行う。その時に、自身以外の観測者が居ては、その事実とは異なる事実への矛盾が発生する。
故に、この状況において理論的にも実力的にも、テオルバスの言う事象の消去などは不可能なのだ。
「その本は―――」
テオルバスの手に携えられたある“聖典”。
ブラハムの気づいた異変はそれであり。実に、的を得ていた。
「それが原因か―――」
テオルバスの口元が緩む。唇が釣り上がり、ニヤけた表情は正に悪魔のよう。
「この聖典の名前は“
死徒二十七祖12位の女の亡骸から造り上げた、俺専用の概念礼装。
ルー=シェシカ・アルナウィンドウの異能。“事象事実結果の抹消”をその聖典に移植した物と考えればいい」
異端葬典ルー。この概念礼装は極めて特殊。最も近いケースを例に挙げるなら、魔剣
この礼装の参考元となり、製造するに当たって聖典自体の本体となったのが今は亡き祖の12位。その亡骸である。
その性能は異常と言える。
事象が確定し、その現象が事実となった後に、事象そのものを消し去る過去の改変。事象事実の抹消である。
例えば、青年Aが大切にしていた車がある。その車に青年Bを乗せてしまうとする。青年Bは交通事故を起こし、青年Aの大事な車に傷をつけた。Aは嘆くだろう。もしも、
だが、このやり方では間違い。このやり方では結局、車には傷がついてしまうのだ。
Bが車に乗らないとしても、傷がつくと言うその事実は確定されているため、変わりにCが乗って傷がついたりする。
だから、この能力を行使する際、事象ではなく結果を抹消する事が最も重要なのだ。
その場所に傷がついたと言う結果。捉え方を変えると、その場所に傷がつくという事象を抹消する事で、術者にとっての最悪を防ぐことが出来る。
だが、それまでの過程は既に確定された要素で満ちている。傷はつかなかったが「事故を起こす」と言う事実の成立は免れない。故に別の場所に傷がついたりする事も然り。その為、使い勝手は非常に悪い。
今回に限っては別。最高のタイミングでの起動と言えるだろう。
固有結界を消し去り、現在までの流れはこうだ。
ブラハムが魔力を支払い固有結界を展開する。
固有結界が展開され、テオルバスが礼装を起動。
「固有結界の展開」と言う事実の抹消。
結果、固有結界は消されてしまう形となる。この時、観測者であり発動者であるブラハム自身がこの抹消事実を理解出来るわけがない。その為、この現象が形をなすのは、観測者が同時にその視界から対象となる物を外さなければならない。ブラハムの行った瞬きが正にそれ。
そして、魔力を支払うと言う事実が成立した後の事実抹消。ブラハムは、固有結界の展開に用いる莫大な量の魔力を、無に帰す形となったのである。
「そんな馬鹿な事があってたまるか!確かに彼女の能力はそれで間違いないが、彼女の真名無しにその能力の行使は世界が容認しない!」
「だからな。アイツは死なないだろ?そう言う能力だ。だから―――アイツは今もこの中で生きてんだよ」
そう。ルー=シェシカ・アルナウィンドウは生きている。異端葬典の中で、今も1人生きている。意識だけとなった彼女の魂のラベルは、今やこの聖典そのものなのだ。
故に、彼女の異能は世界が容認してしまう。
「コレを造るキッカケを作ったのが、前の俺の相棒。まぁ、もうお前に話すことは無いし。これで、お前も万策尽きただろう」
事実だ。現在ブラハム・レコッツに残された魔力残量は残りわずか。固有結界の維持に用いるはずだったものだ。次に展開すれば世界を維持出来るのは数秒程。万策尽きたとは正にこの事であった。―――なんせ、この男は死ぬことがない。動けぬ身体にする以上、倒す手段は無かったのだから。
「・・・・・・!」
そして、7月から8月へと切り替わる。
時計の針は0時丁度を指した。
「あぁ。お前の誕生日だったな。
昔の
ハハ、2分か。そりゃあどうも。自分の誕生日に殺されるなんて、間抜けだな僕も。
2分かぁ〜。短いなぁ。彼女に誓ったばかりなのに。守るって、僕が約束を守れなくなるのか。
俯いたまま、彼女の事を思い出す。
彼女は、悲しんでくれるだろうか・・・?
僕なんかが死んでも悲しまないかな?
いや、彼女は優しいから、きっと泣いてくれるだろうね。カオは、泣き虫だし。
ため息が出る。この身体になってから、ここまで、人間に感情移入したことなんて無かったし。そうなったのも、彼女達が似ていたからだろうね。
容姿の問題でなく、魂の在り方そのものが、かな。―――うん。思い残すことは無いよ。彼女さえ無事なら。
僕は2度も、彼女を失わずに済むんだから。
◇
あぁ、これは幻聴か。
僕の名前を必死に叫ぶ、健気な声が聞こえる。カオの声色に良く似た叫び、
「―――ブラハム!!」
と、―――――――
FGO七章無事クリアしました。いや、実に素晴らしかったですね。
SN時代からのファンである僕は昂りを抑えきれませんでした!章のクリア報酬で泣きそうになりました・・・!まさか、―――あの人をカルデアにお迎え出来るなんて・・・!!嬉しくて悶え死にそうになりましたよぅ!
え?本命のアナちゃん?何のことやら??成長した聖杯貢ぎ済みLv.100でスキルマな彼女にすべてを捧げましたから???(涙目)
大丈夫さぁ・・・みんな、
まぁ、与太話はこの辺で。クリアしていないマスターの皆さんは頑張って下さい。年末に控えている最終決戦に備えて。ストーリーは言わずもがな最高でした。流石きのこ
長くなりましたが、これからも、鬼子を何卒よろしくお願いします!