・・・――――――散らばった
瞬く星々の隙間、煌びやかを語るには些か物足りなさを拭いきれず、半端な光合性は周囲をただ光で埋めた。
「
瞬間。空を奔る稲妻が地を這う。否、所詮それは比喩に過ぎぬ。
舞い降る光のその全ては少女の一身に纏うのだから。
「
代行者フウヤの考えは正しいと言える。先程の現象は、真実“魔術”と呼ばれる神秘の模倣に他ならない。―――しかし、そうであるなら新たな疑問が生まれてしまう。
「協会の人間が、何故我々の邪魔をするのだ。これは、協定違反ですよ」
―――――協定。とは、魔術協会と聖堂教会における不可侵の協定の事だ。
言うまでもなく、魔術とは神秘の模倣である。魔術師は神秘の秘匿を第一主義とし、根源を目指す。一方、聖堂教会では神の業、秘蹟や奇蹟の正しい管理を目的としている。その為、双方は互いに仲が悪く、幾度となく殺し合いを続けてきた間柄である。しかし、彼ら教会の最大の敵は死徒であり、魔術師の根源を目指す志について深く干渉するつもりは無い。故に、双方の間には形だけの
だが、互いの存在が相容れないのは現在も同じこと。
「は?私は魔術師なんかじゃねぇよ」
そう。柴月麗華は魔術師では無い。魔術師とは神秘を模したソレを用いて、未知なる道を研究し、“根源”と呼ばれる最終目標を目指す、ケミストでアカデミックなのだ。
少女は魔術使いと呼ばれる人種だ。魔術使いは根源などに興味は無く、己の目的の為手段の一つとして魔術を用いる。
両者は似ているようで、根本が大きく違う。故に、魔術師は先述の内前者以外を魔術師とは決して認めない。
―――しかし、ソレは本来逆効果。無意味に神秘を振りまく彼らは、教会の人間から見れば魔術師以上にタチが悪い
「なるほど。では確かに、貴女には私の邪魔をする権利がある。ですが、それなら私も容赦はしません。殺してでも退いて貰います。私には、その義務がありますから」
女は真っ当な信徒ではない。故に、教会の教義などは大凡どうでもよかった。だが、フウヤは忠犬。上司の命令は絶対。上司の邪魔はさせない。彼女は今までそんな風に生きてきた。事任務に関して、あの男の指示以上に的確な行動は存在しないと。その生き方になんの疑いもなく。むしろ、コレが正しいものなのだと。
故に、ここで少女を殺すこととなっても、一向に構わなかった。テオルバス・レムドールの邪魔は絶対にさせない。それが、女の意思であり。現在における唯一の感情なのであった。
「ふーん。あっそ、知るか。私だって同じだ。香桜の邪魔は死んでもさせねぇよ」
少女が拳を握りしる。場が張り詰め、殺気が混じり合う。もはや雰囲気は、殺気のスクランブルエッグ。次の一言で、戦闘は開始される。それは明白であり必然だった。
時間にして大凡十数秒。1分にも到底満たない短い刻の中。2人は何を思い、何を感じたのか。そして、その時は不意に訪れる。
「行くぞシスター!そのコスプレ、2度と人前で着られねぇようにしてやる!!」
少女が走る。それに伴い、女は両手に剣を構える。
「コスプレではありまん。これは、正装です!」
無人の公園に、確固たる意志が2つ。乱暴な軌道を描き、力任せに、ぶつかり合う。
◆ ◇
火花が散る。カキン、カキン、と。
交差する閃光。混じり合い生じる小火。黒い、夜に溶け込みそうな得物。白い、闇を弾く反対色のソレ。
均衡したこの状態。埒が明かないと、戦況を変えようとしたのはブラハムだった。
―――
ブラハムの愛用する概念武装。
懐に忍ばせた本体から、魔力を介して術式を起動し、複製物を作ると言う、簡易的な投影魔術の一端である。
仕組みは簡単。親機である本体に投影術式を書き込み、魔力を注ぐ。詠唱はほとんど無しのシングルアクション。魔力こそがトリガーであり、親機に仕込まれた術式が起動すると、親機の複製物、子機が投影される。
ブラハムはこの本体、親機を4本所持している。それぞれ上着の袖の奥に忍ばせており、各本、投影術式に加え別の術式が書き加えられている。
生前、代行者であったブラハムが、黒鍵を使用する際に使っていた術式を、この概念武装にも用いているだけ。
4つの内1つ、火葬式典。内1つ、土葬式典を施している。残りの2本は式典付与無し。これを、状況において使い分けている。そして、代行者時代のブラハムの役職は“埋葬機関補佐”と言う特殊な役回りだった事から、埋葬機関の代行者のみに伝わる投擲技法、“鉄甲作用”なる物も会得している。
「くらえ―――」
飛び上がっていた状態から火葬式典付与の針杭をテオの足元に三連。土煙が上がる。ソレに紛れるかの如く滑らかな接近で、テオに針を直接刺し穿つ。が、テオは身体を後転。後退しながら投擲を一二三。いつの間にか、追撃を試みたブラハムに、計3本の黒鍵が襲う。尚もソレを弾き落とし、2人は向き合う形になる。
「お前との撃ち合いは久しぶりだ!実に、400年ぶりかね!」
「あぁ、そうだ。この再開は実に400年ぶり。お互い、成長しない身体には嫌気が差すね。もっとも、僕はこの身体になって初めて君の思いを知ったが」
「当たり前だ。こんなクソみたいな身体。けど、お前のとはまた違うぜ。俺のはもっとタチが悪い。お前のソレは生き血と言う“養分”が無いと死んじまう身体だ。俺の場合は違うだろ?だって、
テオは続けて語る。
「食事も要らねぇ。睡眠も要らねぇ。休息も必要ねぇ。けど、休みは必要以上に取ってるから最後のは無しで。―――俺の身体は、もうなんて言うか、人じゃねえもんな?」
ブラハムは知っている。この男の特異性を。そして、この男を最も理解している人間の内の1人であった。男の身体は、一つの
「人間ってのは変化があるから生を謳歌出来るんだ。今日と明日は必ずどこかが違うだろ?だから
そう、男の時間は止まったまま。テオルバス・レムドールは、400年間姿形を変えずに生きているのだ。
「枢機卿のクソじじいは主様が下さった試練だと抜かしやがった。主様の御業を俺の身体に授けて下さったのだと。―――ハッ、冗談じゃねぇ。誰が好きでテメェの兵隊になるかっての。こんなクソみたいな身体にしやがって。明日を生きようにも希望がねえんだ。死のうにも死ねねぇ。俺から何もかも奪いやがって。ふざけんな」
男―――いや、少年は泣いている。生きた時間はおろか、肉体の年齢ですらも男は少年と言える年ではない。だが、その涙する姿が、あまりにもそう見えてしまう。ただ、それだけ。
ブラハムには、その涙の意図がわからない。ブラハムの知っている男は、誰よりも孤高であり、誰よりも強かった。そんな男が涙するのだ、生半可な悲しみや理由ではなかろう。
「―――一応聞くけど。その涙は、僕を殺すことへの悲しみではないよね?」
服の袖で涙を拭い、男はぶっきらぼうに答える。
「ばぁか。ちげぇよ。ちょっと思い出し泣きだ。アイツの故郷も、ここだったからな―――」
誰のことを言っているのかはわからない。けど、男の顔が、自分の知っている男のどの感情とも違う。その表情は、哀愁に満ちていた。―――よくはわからないが、なんとなく察した。もう、こんな話に意味は無い。だから、あまり深く言及するのはやめた。
「―――そうか。じゃあ、君との撃ち合いも、もう飽きた。見逃してくれないなら、
固有結界。アレを発動し、コピーした能力を2つ。対象の動きを止める魔眼と、血操の魔術特性。テオルバスの行動を静止し、血液の海に沈め、血液結晶を作り上げる。これで、ヤツは身動き一つ取れなくなる。
僕の異能採取は固有結界内のみで、複数の同時発動を可能とする。その為、通常の状態での能力行使は使い勝手がたいへん悪い。
「じゃあ、サヨナラだ。
―――
「へぇ。それが、噂に聞くお前の固有結界か?」
テオは静かに微笑む。何が楽しいのか口元はこれ以上無いくらいに引きつっている。
懐に忍ばしていた一つの
―――
「いいぜ。見せてみろよ。ただし、それがお前の最後となる」
ほざけ。結界を展開したその瞬間こそ。テオルバス・レムドール、お前の最後だよ。
「―――
「
その瞬間。固有結界「