錬鉄の英雄 プリズマ☆シロウ   作:gurenn

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さて、いよいよ士郎が……
そして、あの人の登場です。

それではどうぞ。


アイリママ登場

【美遊視点】

 

「私を、止める? そんな考えなしの薄い剣で、できると思っているの、美遊!」

 

「……」

 

クロの叫びに、私はようやく悟る。そうか。クロの手強さ、そしてやりにくさ。その奇妙な違和感の正体。戦闘本能に従って向かってきていた、いわば現象に近かった黒化英霊との決定的な違い。

 

今まで、何らかの方法でこっちの動きを見切っていたと思っていたけど、そうじゃなかったんだ。思考する敵! ただそれだけで、私達にとってクロは未知の敵だったんだ。心の中で唇を噛む。

 

「今の美遊は、基本性能(スペック)頼りの力任せ。そんなんじゃ、セイバーのカードが泣いてるわよ」

 

そう言いながら、クロは槍を手元で回転させて私の剣を絡め取ろうとしてくる。それを、私は剣を引く事で防ぐ。考えなしの薄い剣。なら、どうすればいいのか。ひとまず、槍の間合いを殺す。

 

「クロ。イリヤと話して。共存する道を探そう」

 

「だから嫌だって言ってるでしょ。私は、あの子が許せないのよ」

 

いきなり考えて戦うのは難しすぎる。そう考えた私はクロを説得しながら心を揺さぶる事にした。クロに冷静さを取り戻させてはいけない。戦闘での読み合いでは、圧倒的にクロの方が上だから。

 

それに、クロに私の気持ちを分かって貰う事も、大切だと思ったから。そんな私の説得に、クロはそう反論してきた。イリヤが許せない。余裕があった時に言っていた事とは微妙に違う物言いだ。

 

「どうしても分けられない物はどうしたの?」

 

「っ……うるさいわね!」

 

やっぱり。こっちがクロの本音なんだ。感情を剥き出しにするクロは、私と正面からぶつかり合いながら叫んだ。冷静に考えて戦う事ができなくなっている証拠だ。感情のままに叫ぶクロ……

 

いい感じだ。クロの本音を引き出さないと、説得もできない。この言葉を聞く限り、共存できないではなくて、共存したくないがクロの本当の気持ちだろう。その道を探ろうとも思ってないんだ。

 

「大体イリヤは、自分がどれだけ恵まれてるかを知りもしないのよ! その裏で、『私が』どんな気持ちでいたかも知らないで! 私がどんなに望んでも手に入らなかった物を、イリヤは……」

 

「それを、ちゃんとイリヤに言ってあげるべきだよ。言わないと分からないでしょう?」

 

「くっ……」

 

そう。クロが何も話さないから、イリヤもどうしたらいいのか分からないんだ。そんな事だから、イリヤは無意識にクロを傷つけるような事を言ってしまう。話す事で喧嘩になるかもしれない。

 

でも、こんな何も分からない状態で殺し合いになるよりは、遥かに良い。今のままでは、お互いに嫌悪して戦いになってしまう。むしろ、本音をぶつけ合って喧嘩をした方が良いように思える。

 

「私にはどうせ先がないのよ! だったら、私は好きなようにやる!」

 

「ルヴィアさん達とも話し合ってみる! 諦めるのは早すぎるでしょう!」

 

ランサーのカードを回収する。そうするとクロは消えてしまうらしい。でも、考えればクロを消さない方法が見つかるかもしれない。確かに確約はできないけど、それで自棄を起こすのは早い。

 

「ねえクロ……お願いだから皆の所に戻ろう? 士郎さんも、きっと協力してくれる筈……」

 

「っ! ……うるさい、うるさい、うるさい! もう遅いのよ!」

 

「くっ……」

 

周囲から、いくつもの岩が降ってくる。ルーン魔術だ。クロの説得に集中していた私は、それらへの対応が遅れた。完全に動きが止まった私に、クロが呪いの朱槍を構えた。背筋がゾッとした。

 

「クロ! 私の話を聞いて!」

 

「……もういい。これで終わりにする」

 

まずい。クロの構える朱槍が、朱い輝きを放つ。間違いない。宝具の真名解放だ。クー・フーリンの代名詞である、【刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)】がくる。それを止める為に、クロに接近しようとした。

 

「うっ!?」

 

でも、それはできなかった。いつの間にか私の足に、無数の植物のツタが絡み付いていたからだ。それは足から這い上がってきて、私の全身を絡め捕る。しまった。これもクロのルーン魔術だ。

 

セイバーの力でも振り解けない所を見ると、どうやら単純に、植物を操るルーンでもないらしい。私は全身から魔力を放出して、そのツタを吹き飛ばしたけれど、もう遅かった。宝具がくる!

 

「……バイバイ、美遊……」

 

「クロっ……!」

 

「【刺し穿つ(ゲイ・)……っ!?」

 

もう駄目だ……そう思った時だった。上空から、光が降ってきた。それは発動寸前のクロの宝具をキャンセルして、後ろに下がらせた。私とクロの間に着弾したそれは、見覚えのある魔力砲……

 

「二人ともやめて!」

 

「この声は……」

 

「イリヤ……!」

 

「間一髪間に合ったみたいだな……」

 

上空から降ってきて私達の間に降り立ったのは、イリヤだった。そして、私の後ろからは士郎さんが現れた。どうしてここに? そんな疑問を抱いた時、私はハッとして持っている剣を見る。

 

「サファイア!」

 

『申し訳ありません、美遊様。誠に勝手ながら、姉さんに通信を送りました』

 

『いや~、ギリギリ間に合ったみたいで、本当に良かったですよ』

 

「さっきから、妙に静かだと思ったら……」

 

どうやらサファイアが、ルビーに現在の状況を伝えていたらしい。道理で、さっきから一言も喋らない筈だ。その連絡を受けたルビーが、イリヤと士郎さんを連れてきたという事らしかった。

 

クロはイリヤが現れた事で、不機嫌そうな顔になってこちらを睨んでくる。これは荒れるかな……これからの展開を予想して、私は心の中でため息をついた。きっと穏便にはいかないんだろうな。

 

…………………………………………………

【士郎視点】

 

「クロ……」

 

「お兄ちゃん……」

 

ルビーから美遊とクロの状況を聞いた俺とイリヤは、すぐに現場に駆け付けた。その途中で、クロが怒った理由(ルビーの推測)を聞いた。それを語るイリヤは、ずっと暗い表情を浮かべていた。

 

自分が言った事がどういう事なのかを理解して、心の底から反省しているようだった。だけど、俺は仕方ないと思っていた。幾ら何でも、小学5年生のイリヤにそこまで配慮をしろってのが酷だ。

 

クロがそう受け取ってしまったというなら、二人を話し合わせなければならないだろう。美遊一人では難しかったみたいだし、俺も手を貸さないとな。そう思って、立ち尽くすクロの顔を見た。

 

「二人とも、剣を収めて」

 

「っ!」

 

「イリヤ!」

 

ところが、イリヤがそう言った瞬間、クロが消えた。それに瞬時に反応したのは、英霊化しているらしい美遊だった。美遊は突然イリヤの後ろに現れたクロの攻撃を、その剣で受け止めてくれた。

 

「クロ、やめて」

 

「邪魔をしないで美遊。今更現れて勝手な事を言うそいつに、いい加減うんざりしてるのよ」

 

「クロ……」

 

「ごめんなさいお兄ちゃん。でもね、そいつだけは許せないのよ」

 

「……」

 

俺が声を掛けると、クロは一瞬悲しそうな顔をしたけど、すぐに鋭い目つきになってそう言った。どうやらルビーの推測が当たっているみたいだ。サファイアもそれを肯定していたし間違いない。

 

「……ふん……『私の為に争わないでー』ってやつかしら? こんな所までしゃしゃり出てきて、お姫様気取り? ほんっと、アンタってムカつくわ。どこまで私をイラつかせれば気が済むの?」

 

「お願い、私の話を聞いて」

 

「ふざけないで! 今更、何を聞けって言うのよ? 貴女の望みは、もう聞いたわ。『元の生活に戻りたい』んでしょう? だったらもう、私達に関わらないで。今すぐ私の前から消えなさい」

 

「……」

 

イリヤが何とかクロを説得しようとするけど、クロは聞く耳を持たない。止めるべきか? でも、なるべく二人で話した方が良いだろうし。イリヤが話したいって言うなら、話させてやるべきだ。

 

「クロ、イリヤの話を聞いてやって欲しい。一回だけでいいから……」

 

「お兄ちゃん……でも……」

 

「クロ、イリヤの話を聞いてあげて」

 

「……何よ?」

 

意固地になっているクロを、俺と美遊で説得する。すると、ようやくクロは構えを解いて、イリヤに向き合った。不機嫌さを微塵も隠さない表情を浮かべているけど、話を聞いてくれるらしい。

 

「……ごめんなさい」

 

「……何ですって?」

 

「私が言った事が、どんな誤解を生んでしまったのかが分かったから」

 

「誤解? 誤解ですって?」

 

「そうだよ。クロ(あなた)なら分かる筈だよ。だって、クロ(あなた)イリヤ(わたし)なんだから!」

 

「っ!?」

 

イリヤが叫んだ言葉に、クロの表情が驚愕に染まった。俺と美遊も驚いた。だって、他の誰よりもそれを認めようとしなかったのはイリヤなのだから。そんなイリヤが、クロは自分だと認めた。

 

「だから、分かっている筈だよ。今の私がどんな想いを抱いているかを。確かに、私は以前、自分の力が怖くて逃げ出した。なにもかもから逃げ出して、自分の殻に閉じ篭っちゃった事がある」

 

イリヤは、そう言って俯く。それは、以前の時のあれの事か。確かに、あの時のイリヤは、そんな感じだった。でも、とイリヤは続けて、俯いていた顔を上げた。そしてクロの顔を真っ直ぐ見る。

 

「でも、目を瞑っても、逃げ出しても、なにも解決しなかった。だから、あの時から私は決めた。私はもう逃げない! 出会った人も、起こってしまった事も、無かった事になんて絶対しない!」

 

「……」

 

クロ(あなた)イリヤ(わたし)なんだから、それは分かっている筈でしょう! だからあなたの解釈は誤解だって言ってるの! 今なら迷いなく言える。あなたに消えて欲しいなんて、絶対に言わないって!」

 

「……」

 

「美遊達との出会いだって、絶対否定しない! 皆に出会えて良かったって言える!」

 

力強くそう宣言するイリヤに、俺は目頭が熱くなる。イリヤも泣いている。クロの目を真っ直ぐに見つめながら、両目から涙の雫が流れている。クロは、そんなイリヤを無言で見つめ返している。

 

「……ご高説ありがとう」

 

やがて、クロは静かにそう言った。イリヤの言葉が届いたのかどうか、まだ分からないが……

 

「それで、これからどうすればいいのかしら? 家に帰って仲直りすればいいの? その後は? ずっと私の正体を隠したまま生活していこうって言うの? そんな生活、長続きする訳がないわ」

 

クロは、そんな事を言い出す。今だってかなり無理が出ている、と付け加えるクロは、沈んだ表情で俯いた。こんなに弱々しい表情のクロは初めて見る。そしてクロは、柔らかい表情で続けた。

 

「ねえイリヤ。日常って何なのかしらね? 家族がいて、家があって、友達がいる。私にはそんな当たり前の物さえ与えられなかったわ。だって、私は『無かった事にされたイリヤ』だから……」

 

「……」

 

どういう意味だろう。クロの正体に繋がる重要な話をしていると分かるのに、俺達にはその言葉の意味が分からない。無かった事にされたイリヤとは何だろうか。クロは、寂しそうな声で語る。

 

クロの言葉を無理にまとめると、クロはイリヤのあり得たかも知れない可能性という事か? そう考えると、確かにクロもイリヤなんだろう。イリヤとクロは、やはり同一人物だったという事か。

 

「けど、何の奇跡か、私は今ここにいる。考える意思がある。動かせる体がある。だから……」

 

弱々しかったクロの声が力強さを増していく。そして、槍の矛先をイリヤに向けた。周りの空気が一気に重苦しくなっていくのを感じる。クロは強い視線でイリヤを射抜き、続きの言葉を告げる。

 

「この手で自分の日常を取り戻したいと、そう思うの」

 

「……」

 

「私達は二人。でも、与えられた日常は一つよ」

 

クロはそう締め括る。決して譲らないという意思を込めた言葉で。そして、槍を構える。

 

「偽りの日常はもうお終い! もう逃げないって言うなら、私と戦いなさい!」

 

「やめろ、クロ!」

 

「クロ、駄目!」

 

クロがイリヤに飛び掛かってくる。俺と美遊は、そんなクロを止めようと、二人の間に割り込む。結局戦いになってしまうのか。その事に憤るが、クロにイリヤを傷付けさせる訳にはいかない。

 

再び激突しようとする俺達。そんな俺達を見て、イリヤが叫んだ。

 

「ああっ、もうっ! いい加減にっ……」

 

その瞬間……俺達の頭上を、何かが横切って行った。全員がそれを目で追うと、それは車だった。どこかで見覚えがある車が、空を飛ぶようにして俺達の頭上を飛び越えて行ったのだ。あれは……

 

「……し……て?」

 

イリヤの言葉が止まると同時に、その車も減速しないまま木にぶつかって停止する。俺達は、全員動く事もできず、辺りは静まり返った。誰もが事態を掴めずに呆然と立ち尽くす中、車から声が。

 

「もー、久々に帰って来たのにいないんだから。勘で探してみたけど、意外と見つかるものね」

 

それは、聞き覚えがありすぎる声だった。ああ、やっぱりな。車の車種を見た時からそんな予感はしていたけど、予想通りだった。ガルウィングドアを蹴破り、中から現れた運転手。その人は……

 

「やっほー、久しぶりイリヤちゃん。シロウも元気にしてた?」

 

「マ、マ、マ……ママ!?」

 

突然現れて場を引っ掻き回し、朗らかな声と笑顔でこちらに手を振ってくるその人は、紛れもなくイリヤの実の母、アイリスフィール・フォン・アインツベルンその人だった。こ、この人は……

 

相変わらず、こっちの空気を読まずにぶち壊してくる人だった。俺達のシリアスな空気は、彼方に吹き飛ばされてしまった。イリヤも俺も、突然の母の登場に頭が回らない。何が起きているんだ?

 

さて、頭が混乱してきてしまったので、一旦整理してみよう。俺達は、もう一人のイリヤことクロが逃げ出したので、説得しようとしていた。その結果、俺達はどういう状態になっているのか。

 

この場にいる全員が、普段とは違う格好で森の中にいる。言ってみれば、全員がコスプレをしているような状態になっているのだ。こんな俺達は、傍から見るとどんな風に見えているだろうか?

 

……うん、恥ずかしさで死ねる! しかも、三人の美少女小学生と、一人の高校生である俺。一気に犯罪くさくなった! まずい、事案発生? いやいや、そうじゃないだろ俺。落ち着くんだ!

 

そんな風に俺が大混乱していると、アイリさんの目がイリヤとクロに向けられた。まずい!

 

「あらあらまあまあ、これは一体どういう事なのかしら。イリヤちゃんったら、いつの間に双子になったの? それに何だか、とっても可愛い恰好ね。それとシロウも。その恰好どうしたの?」

 

状況が掴めていないのか、呑気な反応をするアイリさん。いやいや! この状況を見て、どうしてそんなに呑気でいられるんですか貴女は! 色んな意味で顔を青くする俺とイリヤだったが……

 

「……ママ……」

 

後ろから、そんなか細い声が聞こえてきた。その声に振り向くと、そこにいたのはクロ。クロは、俯いて体を震わせている。そして、突然キッと顔を上げて、アイリさんを睨んだ。おい何を!?

 

クロは、アイリさんに向かって突進した。呪いの朱槍を構えて。それを見た俺とイリヤは、即座に反応して動いた。イリヤと二人で、クロの攻撃を受け止めた。くっ、何て力だ! 腕が痺れる。

 

「?」

 

「な、何て事をするんだクロ!」

 

「そうだよッ!」

 

状況が掴めずに首を傾げるアイリさんを背後に庇って、俺とイリヤはクロに対峙する。クロは顔を下に向けたまま、無言で後ろに下がった。いきなり母親に攻撃をしたクロに、イリヤが叫んだ。

 

「ママだよッ! 私の……私達のママだよ!?」

 

そう、クロがイリヤと同一人物という事は、アイリさんはクロにとっても母親の筈だ。そんな母親を本気で殺すつもりで攻撃してきたように見えたクロに、俺とイリヤは混乱する。どういう事だ?

 

「……会いたかったわ、ママ……」

 

クロは、そんな俺達を無視して、低い声でそう呟く。その声は、どこか悲哀に満ちていて……

 

「10年前に、私を『無かった事』にした素敵なママ!」

 

「!?」

 

クロは激昂してそう叫ぶと、俺を飛び越えて槍を突き出した。くっ、速いっ!

 

「ルビー、物理保護!」

 

「駄目、イリヤ! ランサーの突きは、その程度では……」

 

「【錐形(ピュラミーデ)】!」

 

クロの突きを、イリヤは物理障壁をピラミッド状にして逸らした。上手い! クロが現れてから、低下した魔力を補う為の特訓をしていたイリヤ。これも、その一つだろう。クロは舌打ちする。

 

「どうしてママを攻撃するの!? 攻撃してどうなるっていうの!? こんなの滅茶苦茶だよ! あなた、自分が何をしてるか分かってるの!? お願いだから、もうやめてよッ!」

 

悲鳴のようなイリヤの叫び。自分と同じ顔をした人間が、大好きな母親を殺そうとしている。その光景は心を引き裂くような痛みがあるのだろう。俺だってやめて欲しい。その叫びに、クロは……

 

「……んない」

 

「クロ?」

 

「……分かんないよ……自分(わたし)感情(きもち)が、自分でも分からない……」

 

クロは、定まらない視線で呆然とした声を出す。どうしたんだ、クロ。感情が不安定になっている様子のクロに、俺達は困惑する。こんなクロは初めて見る。怯えたような、寂しいような……

 

「いいわ」

 

そんなクロを見つめて、アイリさんが前に出る。そして、その両手を広げた。迎え入れるように。

 

「正直、何が起きてるのか良く分からないけど、貴女が哀しんでいるのは分かるわ。母親だもの。だから……こっちにおいで、『イリヤちゃん』。ママが優しく抱きしめてあげる。さあ……」

 

「ママ、ダメ!」

 

「アイリさん!」

 

「うああああああああああ!」

 

優しい笑顔でクロを迎え入れるアイリさんに、クロが突撃する。槍を構えて叫ぶその姿は、母親を求める子供のようで……って、そうじゃない! 俺達がそれを止めようと、動こうとした時……

 

「……でも、その前に……」

 

アイリさんの手の平の上に不思議な物体が……糸のような物体が、空中で解けて形を成していく。え、何それ? やがて形が現れると、それは大きなゲンコツだった。ちょっ、マジで何だよ!?

 

「「「……は?」」」

 

俺とイリヤと美遊が、呆然とした声を出す。クロの頭上に現れたゲンコツは、そのまま下に……

 

「みぎゃっ!」

 

ゴチィィィィィィン! という凄まじい音が響いて、クロが地面にめり込んだ。え……?

 

「しつけは必要よね。刃物を振り回しての喧嘩なんて、言語道断よ」

 

今の感動的っぽい慈愛の表情から、誰がこんな展開になると予想できただろう。さすがのクロも、大きなタンコブを作って目を回している。一方、不可思議な現象を見せられた俺達兄妹は……

 

「マ、マママ、い、いいい今の何!?」

 

「アイリさん!? これは一体……!?」

 

大混乱だった。ちょっと変わった所がある人だとは思ってたけど、こんなの予想外すぎる!

 

「そうそう、こういう時は両成敗よね」

 

「へ? いや、ちょっ!?」

 

「待ってくださ……!」

 

そんな混乱する俺達に、アイリさんはニッコリと微笑んで手を翳した。すると、さっきと同じ大きなゲンコツが俺達の頭上に現れる。俺もイリヤも色んな意味で対応できない。ちょっと待って!

 

ガチコォォォォォォォォォォォォン! と、さっきよりも大きな音が響いて、俺達の頭にもそれが落とされたのだった。ちなみに、さっきよりも大きい音は、俺の頭から鳴ったものだった……

 

「……何で、俺には威力が強く……」

 

「男の子だもの♪ そして、イリヤちゃん達を止められなかった分のお仕置きも含めてあるわ」

 

「……さいですか……」

 

ああ、そういえばこんな人だった……久しぶりのアイリさんは、相変わらずな人だった……




アイリさんは書いていて楽しいです。
次回はいよいよ、士郎が主人公らしく活躍してくれると……いいなあ(笑)。

それでは、感想を待ってます。

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