HERO使いが行くGX世界   作:加藤あきら

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【12月14日修正】
デュエルアカデミアは海外の学校と同じく一年が9月スタートとなっているため、「夏休み終了」から「冬休み終了」に訂正しました。


第5話『イカサマ疑惑!?』

  1

 

 

 ついこの前まで普通の中学生だった東條創こと俺は、なんら不自由なく、自然にデュエルアカデミア中等部での生活を送っていた。

 この学校での成績はちょうど真ん中の平凡な男だった。だが、それはこの俺がこの世界に飛んでくる前までだ。この世界に来てからというもの、学科については……明日香のおかげでなんとか中の上まで持ち上げることが出来た。

 

 そんなことよりデュエルの実技の事だ。

 正直、強い人と弱い人の差が酷いものだ。強い人は前の世界での遊戯王の環境に馴れている俺でも勝てないことが結構ある。だが、弱い人はとことん弱い。それはもう、前の世界において、始めたばかりの初心者の方がマシなんじゃないかと思うほどに。

 

 さて、俺のプレイングはおろか、デッキ内容が大幅に変わったことで、明日香が不審に思い始めたのは正直焦った。まさか、俺は違う世界線から来た、だなんて言えない。もし言ったら痛い子認定されてしまうではないか。

 それから、この前行われた実技テストでは、今までではありえないほどの急成長を見せてしまったせいで、イカサマを疑われる事態に至った。が、そういう目を向ける輩は知識と腕を見せつけることで論破してやった。

 

 今では、結構前線に立つ生徒になりつつある。

 そして……もう一人。

 このデュエルアカデミア中等部一年生のトップ――万丈目準とは最近仲良くなった。

 それは、そのイカサマ疑惑事件での出来事で、彼と関わったことが始まりだった。

 

 

  2

 

 

「おいおい……この俺がイカサマだって? ふざけるのもいい加減にしてくれ」

 

 長い長い冬休みも終わり、デュエルアカデミア中等部へ登校を再開した俺なのだが、なんだか急にデュエルが強くなったみたいでイカサマ疑惑が浮上してしまったのである。

 

 どうやら俺はあまり強くなかったらしい。別世界の俺がここにたどり着く前はいったいどんなデュエルをしていたのか。ゲートHEROデッキを作る前の自分のデッキ内容を見た限り、随分と正統派なデッキ構築をしていた。《融合》の魔法カードを使い、手札融合するおなじみの融合召喚方法。まさに正統派。

 

 しかし、それは手札を三枚も使わないと融合召喚できないのである。正直、召喚した直後に一枚のカードで破壊されれば単純に2のディスアドバンテージになってしまうのだ。

 あの遊城十代のような運命力があればそれで戦う事は十分可能だろう。しかし、俺にはそんな特別なスキルは持っておらず、デッキ構築で勝負するしかないのだ。

 前の世界では使っていたカードが使えなくなっている今、ゲートHEROは今まで自分が使っていた内容とは結構異なる。

 

 たとえば、前の世界では《E・HERO ネオス》を墓地に送り、《ヒーロー・ブラスト》で攻撃力2500以下のモンスターを除去しつつ手札のHEROを増やす。という戦法を取っていたのだが、この世界で手に入る通常E・HEROモンスターで最大攻撃力を持つのは《E・HERO スパークマン》なので、《ヒーロー・ブラスト》はそこまで重要な札ではなくなってしまったので一枚に減らした。ネオスが使えるのなら三枚積んでいた札だというのに。

 ほかにも《超融合》の問題など、様々な壁にぶち当たりながらもなんとか形にしたこのGX世界版ゲートHEROは中々やれるデッキだった。

 

 連戦連勝。

 すごくうれしかった。やはり一生懸命考えたデッキで勝つ、ってのは気持ちがいいものだと改めて実感した。

 そのときだ。誰かが噂を流し始めたのだ。

 東條創はイカサマを使って勝っている、と。

 

 根も葉もない噂だし、聞き流していた。いずれそんな噂話すぐ消えるだろう。

 そう思っていた俺は甘かった。すぐにでもそのイカサマは根も葉もない事実であることを伝え、噂を否定するべきだったのだ。だから、今こうやって、俺を囲んでくる奴らに少し遅い弁明をしているわけである。

 

「ありえねーんだよ、底辺デュエリストだったお前が急に勝てるだなんてな!」

 

「ありえねー話じゃねぇよ。色々勉強したんだって」

 

「勉強だぁ? そんなんで強くなれんなら苦労しねぇんだよ!!」

 

 こんな感じで一部の生徒が俺に突っかかってくるのだ。

 デュエルはまず構築から始まるんだ。戦うための剣が糞みたいな鈍なものだったらマトモに戦えないのは当然なことだ。

 

 デュエルモンスターズのデッキ構築は勉強すれば手持ちの一見弱いカードでも最大限に生かせるデッキができる。要は知識の差が強さの差を生み出していると俺は思っているんだ。それは優と友達になってからよく理解している。

 アイツはマニアックなカードを最大限に活用し、それなりに戦えるデッキを作ってしまうのだ。

 

 俺では考え付かないような、面白くて強いデッキを。もちろんガチデッキも強い。

 それに構築だけでなくプレイングもそうだ。いくら切れ味の良い最高峰の剣を手に入れても使う人がド素人では本来の力を発揮できないだろう。宝の持ち腐れとはこの事だ。

 

 構築とプレイング、この二つがデュエルにおいて何よりも大事な土台となる部分だ。それは知識がどれだけあるのか、ということと、経験に基づくプレイングが要求される。俺はそれを多少身に着けているに過ぎないのだ。

 俺なんか、優に比べたらまだまだだ。

 

「なぁ、イカサマしてんだろ? この事は先生に黙っといてやるからよ、分かってんだろうな?」

 

「何が黙ってるって?」

 

「イカサマしてることだっつーの!! お前の頭は空っぽですか? あぁ、イカサマするくらいだもんなぁ、それしか能のないやつだもんな!」

 

『ギャハハハハハハハハ!!』

 

 俺を囲む男たちは汚らしく笑う。それにひどい嫌悪感を抱いた。

 こんな奴らが俺と同じデュエリストだなんて吐き気がする。亮さんや吹雪さん、明日香や翔君と比べたらデュエリストの風上にも置けない奴らだ。

 

「なんだ、何がそんなに面白いんだ?」

 

 そのとき、俺を囲む男たちの後ろから一人の声が聞こえた。

 その声を俺は知っている。

 

「ま、万丈目さん……」

 

「もう一度聞く、何がそんなに面白いんだ?」

 

「い、いや、コイツがイカサマをしてるんじゃないかって……」

 

「何? 確か……東條創、だったな?」

 

「う、うん」

 

 突然の登場に俺は驚くしかできない。

 この世界においてドラゴンデッキ使いの万丈目準は、一年生の中でも最強の一角である。

 ジュニアチャンプの称号は伊達ではないということだろうか。

 

「イカサマをしているのか?」

 

「いや、してない。つか、何を根拠にそんな話になっているかと思ったら、俺が最近たくさん勝ち始めたからだってさ。これでイカサマ認定できると思う?」

 

「さぁな。お前の口からの言葉だけでは判断できん。お前が実力で勝てているのか、ズルして勝てているのか、それはお前がデュエルすることで証明するんだ。さぁ東條、俺とデュエルだ」

 

「ちょ、万丈目さん――」

 

「黙ってろ!! お前らは東條のことをしっかりと監視しているんだな。イカサマをしてるかしていないか」

 

 正直、展開の早さに呆気にとられてしまっているが、デュエルとなればそんな状態になっている場合ではない。俺の実力を証明するチャンスだ。ここで逃げ出す選択肢などあるわけない。

 

「分かった。恩に着るぜ、万丈目」

 

「ふん……場所を変えるぞ」

 

 昼休みはデュエル場が解放されており、ルールさえ守ればだれでも使えるようになっている。俺たちはそこへと向かった。

 みんな万丈目の顔を見るなり慌てた顔で道を開けていく。さすがは一年生最強の一角。 一年生の生徒たちが道を開けていく中、一人だけ道を開けなかった人がいる。

 

「ちょっと、これは何なの!?」

 

 天上院明日香だった。

 彼女も一年生では最強の一角に存在する一人であり、実力としてはジュニアチャンプの称号を持っている万丈目と同等くらいである。さすがはデュエルアカデミアのキング、天上院吹雪の妹だ。

 

「ねぇ、創、これは何?」

 

「いや、俺の疑惑を晴らすための戦い、かな?」

 

「疑惑って、創がイカサマをしているんじゃないか、ってやつ?」

 

「そうそれ。だから明日香は安心しなって。別にケンカ吹っかけられたわけじゃないからさ」

 

「う、うん……」

 

 心配そうな目を向けてくる明日香の横を通り抜け、俺と万丈目はデュエルフィールドの上へと立つ。

 

 もちろん、俺の左右と後ろには、さきほど俺に突っかかってきた奴らがいる。これも俺のイカサマ疑惑を晴らすためのもの。我慢しなくてはならない。

 そんなことよりも重要なのは、この戦いで実力を認めさせなくてはならないことだ。無様な戦いなんてできるわけがない。手札が事故って何もできませんでした、なんて言い訳は通用しないと考えた方が良いだろう。

 

 そもそも、事故はほとんど起きないようにデッキを組んだつもりだ。初手五枚プラス1ドローの最初の計6枚が何パーセントの確率でちゃんと動けるものになるかの検証も行った。

 カードが変に偏ったりしない限り事故はないように作り上げている。

 大丈夫だ。

 俺はいつも通りにデュエルするだけだ。

 

「準備はいいか?」

 

 万丈目が俺に尋ねてくる。

 

「ああ、大丈夫。さて、始めようか」

 

『デュエル!!』

 

 

東條創:LP4000

万丈目準:LP4000

 

 デュエルディスクの機能により、先攻は俺になった。

 早速デッキからカードをドローすると、そのカードは《カードカー・D》だった。

 ゲートHEROは、《フュージョン・ゲート》や《ミラクル・フュージョン》を利用した連続融合召喚により決着を付けるワンショット・キルを狙うデッキでもある。

 だから、必要な札を集めるためにこのカードを採用した。

 

「まずは下準備だ! 俺はカードカー・Dを召喚。リバースカードを一枚セットし、カードカー・Dの効果を発動。カードを二枚ドローし……強制的にエンドフェイズになるから、これで俺はターンエンド」

 

 

《カードカー・D》

効果モンスター

星2/地属性/機械族/攻 800/守 400

このカードは特殊召喚できない。

このカードの効果を発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。

(1):このカードが召喚に成功した自分メインフェイズ1にこのカードをリリースして発動できる。

自分はデッキから2枚ドローする。

その後、このターンのエンドフェイズになる。

 

 

 これで手札は六枚。

 《魔導戦士ブレイカー》

 《E・HERO エアーマン》

 《E・HERO バブルマン》

 《フュージョン・ゲート》

 《融合》

 《ハーピィの羽根箒》

 

 なかなかの内容だ。

 リバースカードは《聖なるバリア -ミラーフォース-》だし、次の万丈目のターンでワンターンキルされることはないとは思うけど……どうなるか。

 

「この俺を相手に、モンスターゾーンを空にしてターンを渡すとはな。リバースカードを伏せていたとしても、この俺には通用しない」

 

「どういう意味だ?」

 

「それを今から説明してやる。ドロー!」

 

 万条目は手札を見るなりニヤリと笑った。あのクールな表情が、一瞬でも崩れたのを俺は見逃さなかった。何か仕掛けてくる……そう思った俺はいつでもリバースカードを使用できるように集中する。

 

「俺は手札の地征竜-リアクタンの効果を発動する。このリアクタンと手札のエクリプス・ワイバーンを墓地に捨てることで――」

 

 二枚のカードがデュエルディスクに吸い込まれていき、次に現れたのは。

 

「デッキから巌征竜-レドックスを守備表示で特殊召喚!」

 

 

《巌征竜-レドックス》

効果モンスター

星7/地属性/ドラゴン族/攻1600/守3000

自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族

または地属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。

このカードを手札・墓地から特殊召喚する。

特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。

また、このカードと地属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、自分の墓地のモンスター1体を選択して特殊召喚する。

このカードが除外された場合、デッキからドラゴン族・地属性モンスター1体を手札に加える事ができる。

「巌征竜-レドックス」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

「そして、墓地に送られたエクリプス・ワイバーンの効果を使い、デッキから光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)を除外する」

 

 

《エクリプス・ワイバーン》

効果モンスター

星4/光属性/ドラゴン族/攻1600/守1000

(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。

デッキから光属性または闇属性のドラゴン族・レベル7以上のモンスター1体を除外する。

(2):墓地のこのカードが除外された場合に発動できる。

このカードの(1)の効果で除外されているモンスターを手札に加える。

 

 

 この戦術は……マズイぞ。このままじゃ確実に召喚されちまう!

 だけど、今の俺にはどうすることもできない。ミラフォじゃなくて、強制脱出装置だったら召喚を防げたってのに、引けなかったものはどうしようもない。

 

「そして、おろかな埋葬でデッキから焔征竜-ブラスターを墓地に送り、墓地のエクリプス・ワイバーンと地征竜-リアクタンを除外することで、ブラスターを墓地から特殊召喚。この瞬間、エクリプス・ワイバーンの効果が発動する」

 

 

《焔征竜-ブラスター》

効果モンスター

星7/炎属性/ドラゴン族/攻2800/守1800

自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族

または炎属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。

このカードを手札・墓地から特殊召喚する。

特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。

また、このカードと炎属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。

このカードが除外された場合、デッキからドラゴン族・炎属性モンスター1体を手札に加える事ができる。

「焔征竜-ブラスター」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

 フィールド上にはモンスターが二体。そして通常召喚を万丈目は行っていない。

 つまり、俺は成す術もなくあのドラゴンの召喚を許してしまうってわけだ。

 厄介だな。厄介すぎる……!

 

「除外されている光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)を手札に加える! そして、場のレドックスとブラスターを生贄に……俺と共に闘ってくれ。現れろ、光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)!!」

 

 

光と闇の竜(ライトアンドダークネス・ドラゴン)

効果モンスター

星8/光属性/ドラゴン族/攻2800/守2400

このカードは特殊召喚できない。

このカードの属性は「闇」としても扱う。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にする。

この効果でカードの発動を無効にする度に、このカードの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。

このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地に存在するモンスター1体を選択して発動する。

自分フィールド上のカードを全て破壊する。

選択したモンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する。


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