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サイコ・ショッカーとは……さすがだぜ光雄。お前の引きはギャンブラーとして天性の才能だろう。
だが、しかし、今回に限っては俺に運が味方した!!
「おい光雄……このデッキのあの速攻魔法の存在を忘れていないか?」
「ッ……!?」
「そう。この伏せているカードはトラップじゃない。速攻魔法カードさ。リバースカードオープン、スケープ・ゴート。攻守0の羊トークンを4体、守備表示で特殊召喚する」
俺の場には、黄、桃、青、燈の色をした可愛らしい小さな羊たちが出現した。
光雄はこのターンで勝負を決める気でいた。
だがあの《ファイバーポッド》で引いていたのは《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》《異次元の女戦士》《霊滅術師 カイクウ》《ライトニング・ボルテックス》と……この《スケープ・ゴート》だった。
つまり、アイツが《天空の騎士パーシアス》や《イグザリオン・ユニバース》といった貫通効果を持ったカードを引いていれば俺の負けだったが、光雄が引いたのは罠を封じるサイコ・ショッカーだった。
でも、誰だってあの状況でサイコ・ショッカーを引けば安全に行動に移せると光雄と同じ行動を取っていただろう。
この状況下で伏せカードがあれば、ほとんどの場合は罠カードだと思うだろう。スケープ・ゴートの存在を覚えていたとしても、サイコ・ショッカーであれば安全に攻撃を通せると思うだろう。だが、今回に限り、それは敗因となる!
「なら、羊トークンを一体破壊して、番を終える……」
そして俺の番が回ってくる。
「サイコ・ショッカー……確かにそいつは強力だ。同じデッキ同士のミラーマッチ戦。デッキには強力な7枚の罠カードが存在する。それを全て無力にするんだからな。でもさ、その罠封じの効果……お互いにかかるんだよな?」
光雄はハッとした表情をし、伏せカードを凝視した。
おそらくそれは強力な除去罠カードなんだろう。だが、勝負を急いだがために、それを自ら封じた。
「そして、俺の墓地には光属性の異次元の女戦士と、ご丁寧にお前が墓地に送ってくれた闇属性の霊滅術師 カイクウと魂を削る死霊がいる」
「まさか、お前の手札には……!?」
「そうさ。
《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》
特殊召喚・効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻3000/守2500
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合に特殊召喚できる。
このカードの(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを除外する。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
(2):このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。
このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。
「バトルフェイズ! さあ、これで決着だ! カオス・ソルジャーでお前のサイコ・ショッカーを攻撃! 伝説の一撃だぜ!
「あ、ああ、あああ、あああぁぁぁあああ!!」
「人造人間-サイコ・ショッカー!! 撃破だァ!!」
紺と金の鎧に包まれた伝説の超戦士によって、サイコ・ショッカーが斬られた。
光雄のライフポイントはわずか200ポイント。サイコショッカーの攻撃力2400に対し、カオス・ソルジャーの攻撃力は3000ポイント!
これにて決着!!
光雄:LP200→0
随分苦戦させられたが……お前に明日香を渡すわけにはいかないんだわ。
意地でも勝たせてもらったぜ光雄。
「く、クソォ!! どうしてお前に勝てない!! 小学校の頃からそうだ。俺はお前に何度も勝負を挑んだ。でも一度も勝てなかった。他の奴らには勝てているのに、なぜかお前にだけは勝てなかった!! なにが違う!? どうしてなんだ!!」
「時の運……と言ってしまえばそれまでだが……。でもあの頃のお前は何に対しても詰めが甘かった。だから足元掬われてたんだよ。だがな、今回はヤバかった。何か一手でも違う選択を取っていたら負けていたのは俺かもしれなかった。それくらい追い詰められてたよ」
「東條……」
「落ち込むことはねぇ。次やったら俺が勝つ保証はどこにもないからな。いつでも挑戦待ってるぜ、光雄」
俺は旧型のデュエルディスクを取り外し、デッキごと光雄に返した。
やっぱりバトルシティで使われた初期モデルはカッコイイ。
アカデミア製の最新型も良いが、やっぱり最初期の展開ギミックのないシンプルなデュエルディスクも味があって良かった。
「だからボーイと呼べと言っているだろう……じゃあな、負けた俺はさっさと退場することにするよ」
彼が背を向けた瞬間、このデュエルフィールドに金色が目の前に現れた。
「光雄君!!」
明日香が呼び止めると、光雄の奴は振り向いた。
「あぁそうだ。あの時のこと、謝らないとな。あのスカーフ……無理やり奪ってすまなかった。でもよかったな、東條の奴が取り返してくれてさ」
「ええ……みつ――」
「じゃあな!!」
「え? 光雄君!?」
明日香の静止の声を無視して光雄のヤツは逃げるようにしてこの会場を後にした。
まぁ、何となく察しはつくよ。アイツは明日香のこと好きだったんだよな。アレだ、小学生にありがちな好きな奴ほど構いたくて、構ってほしくてイジメちゃうやつ。
だから明日香を賭けて勝負とか抜かしやがったんだ。
で、今回の勝負に負けちまって、自分の恋路が閉ざされたことに気づいちまって、泣きそうになったから走り去ったんだよな。
しゃーねーよ。そっとしといてやんな、明日香。
「明日香」
「え、あ、創……」
「勝ったぞ、俺」
「うん、その……えっと……ありがと」
「まぁ、その……なんだ……」
俺が言葉に詰まらせていると、後ろからヒュッと風を切る音が聞こえたと思ったら、次の瞬間には後頭部に衝撃が走った。
パァン! といい音を鳴らした犯人は茶髪で勝気な性格な明日香の友達の枕田ジュンコだった。
「アンタ、あんだけカッコつけたんだから最後までちゃんとしなさいよねまったく……」
「ジュ、ジュンコさん……!!」
「邪魔しないでももえ。ここは私が活を入れてやんないといけないのよ!」
「ははは! 助かったよ枕田。俺はもう大丈夫だから、その……ちょーっと離れてもらえると助かるかな」
そう言うと枕田と浜口の二人はおとなしくここを去った。
去り際、枕田はサムズアップをしていったが……どこまで期待してんだよお前は。
てか全校生徒がほぼいる前でこれやるのかよ。
マジかよ枕田……やれってか!? 分かったよ。やってやろうじゃねぇか!!
「じゃ、改めて。明日香」
「は、はい!」
「だから何で敬語……まぁいいや。俺はお前がとても大事だ。何よりも大事な存在だ」
「…………」
「明日香……俺は、お前が好きだ。大好きだ。だから――」
俺がすべてを言い切る前に、心地よい暖かさが俺を包み込む。
ぎゅっと力強く明日香は俺を抱きしめてきた。
あぁ……よかった。嬉しく思ってくれていて。
こんな公開告白した甲斐があったってもんだ。
ひどく恥ずかしいぞ。でも、まぁ、いいか。
「創……私も、あなたが大好きよ」
彼女がこんなにも幸せそうにしてんなら、頭が沸騰しそうなくらい恥ずかしい思いをしたところで大したことはない。
はぁ……一部からはひどく嫉妬されるんだろうが、それも仕方がないって思えるほど、俺も幸せだ。
だからいいよな。今は深く考えなくて。
セブンスターズの一人を退け、そして明日香を幸せにした。
今はそれでいいじゃねーか。