HERO使いが行くGX世界   作:加藤あきら

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第29話『相手の狙いを阻止せよ!』

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「裏目に出たようだな東條! 俺は苦渋の選択を発動する」

 

 

《苦渋の選択》

通常魔法

自分のデッキからカードを5枚選択して相手に見せる。

相手はその中から1枚を選択する。

相手が選択したカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードを墓地へ捨てる。

 

 

「苦渋の選択! 相手が苦渋することで有名なパワーカード!!」

 

「ふはは、その通りだ。俺が選ぶのはこの5枚! さあ東條、思う存分苦渋しな!」

 

 光雄が見せてきたのは《異次元の女戦士》と《イグザリオン・ユニバース》《魂を削る死霊》《ブレイドナイト》に《キラー・スネーク》の5枚のカード。

 

 何を考えてこの……いや待て……一見、《キラー・スネーク》を選んでしまいそうな5枚のカードだが、光と闇のカードが2枚ずつ選ばれている。

 つまりこれは、このデッキの最強のエースモンスター、《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》の召喚を光雄は狙っている!!

 

 ってことは引いたのか、この《ファイバーポッド》の5枚ドローで苦渋の選択とカオス・ソルジャーを一緒に。

 何という強運の持ち主なんだよアイツは!?

 

「お前の狙いは丸分かりだ! ブレイドナイトを手札に加えてもらう」

 

「さすがに引っかからないか……では、ブレイドナイトを手札に加える。そして、モンスターセットし、カードを1枚伏せて俺の番は終わりだ」

 

 俺の番になったが……実のところ俺も《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》を引き入れている。

 

 しかし俺の墓地にはまだモンスターは存在しない。光雄の墓地には光と闇のモンスターが揃っている。このままでは先にカオス・ソルジャーを召喚されて一気にゲームエンドだ。

 

 だが、俺の手札にはカオス・ソルジャーの対抗札である《霊滅術師 カイクウ》がある。何としてでもこのカイクウの攻撃を通して光雄の墓地のモンスターを除外し、カオス・ソルジャーの召喚を阻止したいが……俺の手札では無理だ。

 

 手札にある《ライトニング・ボルテックス》が破壊できるのは表側表示のモンスターのみ。あいつはモンスターをセットしてるから破壊することができない。

 攻撃を通すには《抹殺の使途》か《心変わり》の2枚のどちらか、もしくは《破壊輪》以外のカオス・ソルジャーの召喚後すぐに除去できる罠を引くしかない!

 

 《抹殺の使途》《心変わり》《激流葬》《奈落の落とし穴》……確率は32分の4……つまり約12パーセント。

 決して低くもない、しかし高くもない。引け、引くしかないんだ。数値的には決して引くのが絶望的なものじゃないんだから!

 

「俺の番! ドロー!!」

 

 引いたカードは……《心変わり》でも《抹殺の使途》でもない。罠カードでもない。そう簡単にキーカードを引けるわけ……いや待てよ。

 たった今引いた《光の護封剣》の効果は敵の攻撃を3ターン止めるだけじゃない。

 普段使わないから忘れていた。すぐに気づけて良かった……。

 

 テキストの最初に書いてあるじゃないか。“相手フィールド上に存在するモンスターを全て表側表示にする”と。

 

 これでカイクウの攻撃を通すことができる!

 

「光雄、お前の狙いは開闢の使者を呼び出すこと。だが、それを許すほど俺は寛容じゃないぜ!」

 

「何を言っている? 俺の墓地には光と闇のモンスターが眠っている。このターンで何とかしなければ次のターン、混沌の戦士がお前を襲うんだぜ?」

 

「だからそれを阻止すると言っているだろう。俺は光の護封剣を発動!」

 

 天から三本の剣状の光の柱が降り注ぎ、地面に刺さった。

 これは光雄の攻撃を止める絶対的な防壁だ。

 だが、今回の真意は攻撃を止めることじゃない。

 

「何をするかと思えば……つまりお前は光の護封剣で時間稼ぎをして、カオス・ソルジャーの攻撃を防ぐつもりだろうが――」

 

「違う!」

 

「なに!?」

 

「言っただろう? 俺は召喚を阻止すると。光の護封剣により、お前の場に伏せられたモンスターの姿が現すぜ」

 

 フィールドに現れたのは金髪の女戦士。

 それは《異次元の女戦士》という攻撃も防御もこなすとても優秀なモンスターだった。

 しかし光属性のモンスターか。このデッキのちょっとした問題点として光属性の比率が闇属性に対してちょっと少ないということだ。

 だから、カイクウで除外しちまえば、カオス・ソルジャーの召喚は少し遠のく。

 

「異次元の女戦士が表側表示になったことで、このカードで破壊することができる」

 

「まさか、お前の手札には!」

 

 この状況を打破するカードその1だ!

 

「そう。魔法カード、ライトニング・ボルテックス。手札の異次元の女戦士をコストに、相手の場の表側表示のモンスターをすべて破壊する。異次元ではなく、セメタリーに消えな、異次元の女戦士!」

 

 

《ライトニング・ボルテックス》

通常魔法

(1):手札を1枚捨てて発動できる。

相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する。

 

 

 フィールドに雷が降り注がれ、異次元の女戦士を爆殺!

 これで光雄のフィールドはがら空き。あとはあの伏せカード……こればっかりは破壊効果を持つ罠でないことを願うしかない。

 

「そして召喚! 霊滅術師 カイクウ!」

 

 これが状況を打破するカードその2だ!

 

 

《霊滅術師 カイクウ》

効果モンスター

星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守 700

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はお互いの墓地のカードを除外できない。

(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の墓地のモンスターを2体まで対象として発動できる。

そのモンスターを除外する。

 

 

 一瞬、光雄の顔が歪んだ。それを俺は見逃さなかった。

 あの表情がブラフじゃなければ、この攻撃は通る!

 

「バトルフェイズに入るぞ! カイクウで光雄にダイレクトアタック!」

 

「クソ……この攻撃は防げない……!!」

 

 

光雄:LP2000→200

 

 

「さらに、お前の墓地から異次元の女戦士を2枚、除外してもらう!」

 

「クソッ……」

 

 これでアイツの墓地から光属性のモンスターがいなくなった。

 光雄は手札の《ブレイドナイト》をどうにかして墓地へ送らなければカオス・ソルジャーを出すことは叶わない。

 

 さらに、カイクウには墓地のカードを除外させなくする効果も持っている。

 

 つまり光雄はカイクウを退かした上で、墓地にブレイドナイトないし光属性モンスターを墓地へ送らなければならない。

 もしくは……別の勝ち筋を用意するか。

 

「俺はカードをセットし、ターン終了だ」

 

 これで俺は開闢の使者以外のカードを使いきった。

 さぁ、どうくる光雄?

 

東條創 LP1800 手札1枚

場 《霊滅術師 カイクウ》

魔法・罠 《光の護封剣(カウント0)》《セットカード1枚》

 

光雄 LP200 手札3枚

場 なし

魔法・罠 《セットカード1枚》

 

 

  9

 

 

 東條のヤツめ……カイクウなんて厄介なモンスターを……!!

 しかし、これで勝負はまだ分からなくなってしまった。

 

 俺の手札には《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》《ブレイドナイト》《心変わり》の3枚。

 

 セットされているカードは《砂塵の大竜巻》のカード。仮にこれで光の護封剣を破壊して、《心変わり》でカイクウのコントロールを奪いダイレクトアタックすればそれで勝負は決まる。だが、東條の場には伏せカードが1枚ある。

 

 あれが《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》だった場合はゲームセット。そのカードの対策にブレイドナイトを召喚したとして、伏せたカードが《激流葬》だった場合はそれでもゲームセット。俺のライフポイントは残り200だからな。《キラー・スネーク》の直接攻撃すら耐えられない。

 

 ここは賭けだ。俺はギャンブラー……数々のギャンブルに勝利してきた。

 

 確率的には《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》はデッキに2枚。《激流葬》はデッキに1枚だ。東條が手札に引き入れている可能性が高いのは《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》の方だが……。

 

「俺のターンだ。ドロー……」

 

 引いたカードは《炸裂装甲(リアクティブアーマー)》。攻撃に反応し、その攻撃モンスターを破壊する罠カード。

 これでは戦況を変えられない。

 

「まずはスタンバイフェイズに墓地のキラー・スネークの効果が発動する。このモンスターを手札に加えるぞ」

 

 どうする。《ブレイドナイト》を召喚するか否か……。

 

 いや……冷静になるんだ。ヤツの手札は1枚。なにも焦る必要はないんだ。危険な賭けは愚か者のギャンブラーが選ぶ道。本当のギャンブラーはギャンブルしない。そこには確率論に基づいた数学的な絶対的勝利が確約されているものだ。

 

 引いたカードと《ブレイドナイト》を伏せるだけにする。

 奴の手札は1枚。そのカード、もしくはデッキトップのカードが貫通効果を持つ《イグザリオン・ユニバース》や《天空騎士パーシアス》でない限りは俺の敗北はない。

 

 その確率はわずか約6パーセント。32枚のカードの内からそのカードを引き当てる確率は低い……!

 

「俺はモンスターをセットし、伏せカード設置してターン終了だ」

 

 目の前の光の柱が一つ消えた。

 さあ東條……お前の運を見せてもらうぞ!

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 さあ、何を引いた?

 

「俺はモンスターをセットする。おい光雄、ここにきてゲームが停滞したな。ま、俺の光の護封剣のせいなんだが……ここまで来て、この盤面の状況……こうなったら状況を打破するカードを引き入れた方が勝つ! そう思わないか?」

 

「何を当然なことを言っている! それに、お前の運もそんなに良いもんじゃないだろう。モンスターをセットするしかできなかったんだから」

 

「さ、それはどうかな?」

 

 相変わらずムカつく態度を取るやつだぜ。小学校の頃から……いや悪化してやがる!

 

「ともかく、これで俺はターンエンドだ」

 

 

東條創 LP1800 手札1枚

場 《霊滅術師 カイクウ》《セットモンスター1体》

魔法・罠 《光の護封剣(カウント1)》《セットカード1枚》

 

光雄 LP200 手札3枚

場 《セットモンスター1体》

魔法・罠 《セットカード2枚》

 

 

 これで6巡目。勝負は佳境に入った。

 このドロー勝負を決めてやる。覚悟しろ東條!!

 

「ドロー……!!」

 

 引いたカード、それは――!!

 

「ふはははは! 俺の勝ちだ東條!! まずはリバースオープン砂塵の大竜巻! お前の光の護封剣を破壊する!」

 

 残り二本の光の剣を吹き飛ばし、攻撃が可能な状態になった。

 

「そして心変わりを発動! お前のセットモンスターは俺のモノになる。さてさて、このモンスターは……魂を削る死霊か。戦闘破壊されない死霊で時間を稼ぐ気だったようだが、残念だったなぁ東條」

 

 そして、見て慄け東條!

 これが勝負を決める切り札だ! カオス・ソルジャーじゃなくとも、お前を葬ることが出来るんだよォ!!

 

「魂を削る死霊を生贄に捧げ、人造人間-サイコ・ショッカーを召喚! これでトラップカードは封じられた。勝負は決まったなぁ東條ゥ!!」

 

 ヤツは顔を歪ませてやがる。

 負けを確信した顔をしていやがる。

 ザマー見やがれ!! 俺は、お前に、勝ったんだッ!!

 

「ブレイドナイトを反転召喚! バトルだ!! サイコ・ショッカーで霊滅術師 カイクウを攻撃!! 電脳(サイバー)エナジーショック!!」

 

 

東條創:LP1800→1200

 

 

 何が状況を打破するカードを引き入れた奴が勝つだ! 何がそれはどうかな、だ! それをやったのは俺だ!

 罠カードを封じた今……お前に逆転など不可能だ!!

 

「これでとどめだ。ブレイドナイトの攻撃!! 東條、俺の勝ちだ!!」

 

 その瞬間――表情を歪ませていたヤツの表情が変わった。


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